2024/11/15
――緊張感を増す国際情勢や果たすべき役割の高まりに対する海上保安庁の施策、取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか 。
瀬口 海上保安庁では、2016年12月以降、「海上保安体制強化に関する方針」に基づき、海上保安体制の強化を推進してきましたが、わが国周辺海域の情勢を踏まえ、同方針を見直し、22年12月に「海上保安能力強化に関する方針」が決定され、同方針に基づき、海上保安業務の遂行に必要な六つの能力、
・ 新たな脅威に備えた高次的な尖閣領海警備能力
・ 新技術等を活用した隙の無い広域海洋監視能力
・ 大規模・重大事案同時発生に対応できる強靱な事案対処能力
・ 戦略的な国内外の関係機関との連携・支援能力
・ 海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力
・強固な業務基盤能力
――を強化することとしています。
「海上保安体制強化に関する方針」が決定されてから、これまで大型巡視船27隻、航空機32機、測量船2隻などの増強整備に着手しており、予算・定員については、平成28年度と令和6年度を比較して、当初予算が1877億円から2611億円に、定員は13522人から14788人に増加している状況です。
これらの取り組みに加え、「海上保安能力強化に関する方針」では、新技術の活用推進、関係機関との連携強化、人材確保・育成などのソフト面の取り組みも一層進めており、無操縦者航空機3機による24時間365日の運用体制確立といった各種施策にも取り組んでいます。
海上保安庁では、引き続き、海上保安能力強化を一層推進することとし、令和7年度予算概算要求においては、「経済財政運営と改革の基本方針2024」などを踏まえ、
・ 3500トン型の大型巡視船や中型ジェット機の増強
・ 無操縦者航空機や大型ドローンなど新技術の活用
・ 大規模・重大事案対処のための多目的巡視船の増強
・ 国際機関と連携した能力向上支援、自衛隊との秘匿通信の強化
・ 羽田空港航空機衝突事故等を受けた安全対策
――などの項目について、過去最大となる2935億円を要求しています。
無操縦者航空機の運用体制については、令和7年度から北九州空港で運用するため、今年度末に運用拠点を八戸飛行場から移転するとともに、昨年度の補正予算にて措置された新たな2機を増強し、5機体制とすることにより、同時に複数海域の監視業務を行うなど、さらなる広域海洋監視能力の強化を図っていきます。
また、近年頻発している自然災害において、海路およびヘリコプターを利用した空路からの物資・人員輸送が有効な手段となることに加え、南西地域を含む住民の迅速かつ安全な避難を実現するための輸送手段の確保など、国民保護のための体制を強化する必要があると考えています。
このような大規模災害や国民保護などの大規模・重大事案の同時発生に的確に対処するため、指揮能力、輸送能力などを備えた多目的巡視船の建造費を要求しています。
さらに、本年1月に発生した羽田空港航空機衝突事故を受け、海上保安庁では、これまで実践してきた、パイロットを離着陸操作に集中させるための取り組みや、機体の視認性向上などの取り組みといった安全対策を継続するほか、本年6月に公表された「羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会中間とりまとめ」を踏まえ、管制官とパイロットなどの意見交換の実施や滑走路安全チームへの参加などに取り組むこととしています。
これらの取り組みに加え、令和7年度予算概算要求においては、当庁航空機の安全対策の強化を図るため、シミュレーターを使用した緊急操作訓練や航空管制などに関する研修といった安全対策に係る経費を要求しています。
引き続き、これらの取り組みを通じて、航空機の安全対策の強化を図るとともに、今後の事故調査によって判明した事実に基づき、さらなる安全対策を講じていきます。
海洋秩序の維持に向けた国際連携
――主たる業務が海上である以上、国際的な連携は必須になるかと思います。これまでも「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた施策などさまざまな取り組みを進めていますが、それらの進捗についてお聞かせください。
瀬口 海洋をめぐる国際情勢が変化する中、法執行や海難救助を任務とし、海の安全・安心を守る海上保安機関の重要性は、世界的に広く認識されるようになり、その役割はますます重要になるものと考えています。
海上保安庁では、法の支配に基づく海洋秩序の維持が、地域や世界の平和と繁栄に不可欠であるという普遍的な考え方を、バイやマルチのさまざまな枠組を通じて、世界の海上保安機関と共有することに取り組んでいます。
特に、昨年、東京にて開催した第3回世界海上保安機関長官級会合では、過去最大の96の海上保安機関などの代表が参加し、地域を越え、海を通じて繋がり合い、交流を深化させ、課題解決のための力を結集し、それによって、「平和で美しく豊かな海を守り、次世代へと受け継ぐ」という、われわれコーストガードの共通の使命を改めて認識しました。
さらに 「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取り組みとして、海上保安庁では、能力向上支援の専従部門である海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT MobileCooperation Team) をインド太平洋地域へ派遣し、海上法執行、捜索救助、油防除などの海上保安分野における能力向上支援を実施しています。
海に関する問題の多くは、一つの国で解決することはできず、海でつながる諸外国と、連携・協力して対処することが不可欠であり、引き続き、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、外国海上保安機関との連携・協力の取り組みを進めていきます。
――最後に海上保安庁、海上保安官としての誇りについて、そして今後の取り組みの実現に向けた思いや意気込みについてお聞かせください。
瀬口 今、日本の海を取り巻く情勢は依然として厳しい状況にあります。海をめぐる問題が複雑多様化しグローバル化する中で、法とルールにより海の秩序を維持する海上保安機関の役割や重要性が、改めて世界から注目されています。
また、激甚化する自然災害の発生時における、巡視船艇や航空機の機動力を生かしたわれわれの人命救助活動や被災者支援は、これまで以上に、国民から大きな期待と信頼が寄せられています。
私は、新たな観点や長期的な視野に立って、海上保安体制のさらなる強化を図り、現場における業務遂行能力、即ち「現場力」を高めるとともに、「法の支配」の体現者たる海上保安機関の役割をしっかり果たしていく所存です。
一方で、現在、巡視船・航空機などの大幅な増強整備など、能力強化を推進する中で、少子高齢化や仕事観の多様化に伴う人材確保難や離職者の増加などのさまざまな課題にも直面しています。
そのため、強靱で持続可能な、そして人を大事にする組織作りを目指し、人材確保・育成、業務の効率化、やりがいの持てる職場環境への改善などの課題にも、全庁一丸となって取り組んでいきます。
そして今後とも、われわれの活動を積極的に情報発信し、どんな時にも国民に寄り添い、また、海上保安官としての自覚と誇りを片時も忘れることなく、真摯に振舞い、国民に信頼され愛される「力強い海上保安庁」であり続けるよう、全力を尽くしていきたいと思っています。
海上保安庁は、「正義仁愛」の精神を改めて肝に銘じながら、日本の海の安全と秩序を守り抜き、「平和で美しく豊かな海」を次世代に継承していきます。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2024年10月号掲載)