2024/10/24
本年2月、岸田総理は、デジタル行財政改革会議の場で、国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に向け、「約1800の自治体が個々にシステムを開発・所有するのではなく、国と地方が協力して共通システムを開発し、それを幅広い自治体が利用する仕組みを広げていくことが必要」との方向性を示しました。
これを受けて地方三団体とも議論を重ね、6月、「国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針」(以下、「基本方針」)を取りまとめました。内容について検討を進める過程では、共通基盤を通じて目指す行政の姿はどのようなものか、また整備・運用における国と地方の役割分担はどうすべきか、何を共通化し、業務・システムの基準はどう定めるべきか、国と地方の費用負担やコストの最適化、デジタル人材確保はどうするべきか、等々が主な論点となりました。これらの議論をベースに、国と地方のデジタル環境の整理と共通化に向けた再構築を目指すこととなります。
例えば現在、業務アプリ、認証、データの各階層いずれも、基本的には自治体やサービス内容ごとに個別バラバラですが、これを最適化するため、共通のアプリ(共通SaaS)の共同調達、国・地方共通で利用可能な個人および法人の認証基盤、国が基本情報をマスターデータとして整備し各組織がこれを参照するベースレジストリの構築、等々がシステム共通化・連携によるサービス価値向上とコスト最適化に向けた枠組みとして構想されています。
前述したように、これまでは自治体ごとに個別のシステムを開発・運用・保守してきました。それに対して現在、2025年度を目途に基幹業務の標準化を進めています。標準の仕様書を作成して機能を共通化し、実現されるものもすべて同じ、という仕組み作りを目指します。仕様書が共通化されるので自治体の負担が減り、標準化によってデータ連携も容易に、またベンダーロックインにも陥りにくいという種々のメリットが期待されます。それでもまだ個別開発が進んでいる部分がありますので、早期に多くの自治体が同様の行政機能を同じアプリケーションで利用可能な環境を実現できるようパッケージ化を図ることが重要だと思います。
今後、さまざまな業務で各サービスベンダーがクラウド上でパッケージシステムを提供、そこに数百の自治体が利用契約を結ぶ、というスキームになるでしょう。自治体自らシステムを持たなくても、同じような行政サービスが提供できる、それによってサービス提供の効率化と、職員の負担軽減を実現できると想定されます。今は共通化への移行期で進捗も自治体によりまちまちですが、人口減が進む将来を見越し、システムを〝持たずに使う〟ことを進めるべきであるのは間違いありません。そのためにも国と地方が連携・協議する体制の構築が求められます。
義務ではなく地方の自主的判断として
「基本方針」においては、基本的な問題意識として「急激な人口減少に拠る担い手不足を解消するため、デジタル技術の活用による公共サービスの供給の効率化と利便性の向上が必要」と指摘されています。
これを踏まえた目指す姿として、①システムは共通化、政策は地方公共団体の創意工夫という最適化された行政。②即時的なデータ取得により社会・経済の変化等に柔軟に対応。有事の際に状況把握等の支援を迅速に行うことが出来る強靭な行政。③規模の経済やコストの可視化及び調達の共同化を通じた負担の軽減により、国・地方を通じ、トータルコストが最小化された行政、が掲げられました。
実現に向けては、各府省庁による所管分野の国・地方を通じたBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とデジタル原則の徹底、およびデジタル庁で提供されるDPI(デジタル公共インフラ)の整備・利活用と共通SaaS利用の推進という多角的な改革が必要とされます。そのためには、各府省庁が政策・制度づくりだけではなく、執行部分での業務のやり方、システムのつくり方までコミットする形でデジタル化を進め、共通のベースレジストリやガバメントクラウドを積極的に使っていく、ということが必要になります。
ただ、共通化は国と地方が協議して定める枠組みの下で進め、原則として地方に義務付けを行うものではなく、地方の主体的な判断により行われるものとしています。現実として当初は小規模自治体向けにさまざまな共通システムをつくり、徐々にその利用者を増やしていくというプロセスも考えられるでしょう。その場合、やはり初期段階は国が費用を負担し、利用が進む段階で自治体が利用料を負担する、という枠組みでこれから進めていく予定です。
人材面はどうか。国においてはデジタル庁を中心に専門人材の確保や、各府庁省と地方自治体との調整を行う行政人材の配置を推進することと、地方に関しては令和7年度中に全ての都道府県で市町村と連携した地域DX推進体制を構築して人材プール機能を確保し、必要な時に必要な人材を派遣できる体制を整える、このような仕組みを早期に実現したいと思います。
以上の構想を推進する枠組みとして、国・地方デジタル共通基盤推進連絡協議会と各府庁省DX推進連絡会議という二つの協議体が相互連携しながら、年内を目途に具体的な国と地方のデジタル共通基盤の構築に向けた検討を進めていく予定です。その際には教育DXやライドシェア等の個別テーマも、さらに利用しやすくなるよう掘り下げる一方、それ以外にまだまだアナログな面が残る新たな分野を、デジタルの視点から見直していきたいと考えています。ぜひ今後の展開を注視していただけましたら幸いです。
(月刊『時評』2024年9月号掲載)