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こども家庭政策最前線/こども家庭庁設立準備室長 渡辺由美子氏

こども政策の課題

 こども政策全体の体系は、こども家庭庁発足後に、「こども大綱」を策定するプロセスの中で整理していくことになりますので、本日は、私がこれまで携わってきた範囲で課題と考えていることについていくつか触れたいと思います。

 まず、先ほどお話した「1・57ショック」以降のさまざまな国の政策を振り返ってみると、保育所整備をはじめとする仕事と子育ての両立支援については相当の投資が行われ、待機児童の解消も都市部の一部の地域を除いてはかなり進み、成果もあげてきているといえるかと思います。一方で、こどもを取り巻く環境は、児童虐待の通告件数やいじめの認知件数の増加など、大変厳しい状況にあります。

 私が子ども家庭局長をしていた2年間の間にも、痛ましい虐待事案がありましたが、厚生労働省の行っている虐待による死亡事例の検証では死亡事例の76%が3歳未満児、半数は0歳児となっています。また、加害者は実母が約半数と最も多く、予期しない妊娠、妊婦健康診査未受診が3割となっています。

 日本の母子保健は世界に誇れるものだと思いますが、こうした状況をみると、近年、妊娠・出産期から子育てまでの間で、支援の届いていない層がかなり出てきており、これまで国が力を入れてきた「仕事と子育ての両立支援」のフレームから外れた部分に課題が出てきているのではないかと感じています。

 全国的にみても、3歳未満のこどもの約6割にあたる180万人程度は、保育所・認定こども園・幼稚園のどこにも就園していない「未就園児」となっています。

全ての子育て家庭に対する包括的な支援体制の強化

 2022年の通常国会で厚労省が提出した改正児童福祉法により、全ての子育て家庭を包括的に支援するための体制強化ということで新たに「こども家庭センター」を各自治体へ設置することが定められました。これまで市町村では主に母子保健部門を中心に「子育て世代包括支援センター」が、また、主に福祉部門を中心に「子ども家庭総合支援拠点」が整備されてきましたが、これらを統合した機能、すなわち、すべての妊産婦・子育て世帯・こどもへ一体的に相談支援を行う機能を持つのが「こども家庭センター」です。

 令和4年度の第2次補正予算には「出産・子育て応援交付金」の創設が盛り込まれました。これは、妊娠期から出産・子育てまで一貫して身近で相談に応じ、さまざまなニーズに応じて必要な支援につなぐ伴走型の相談支援と経済的支援(合計10万円)を一体的に実施するもので、先に述べたこども家庭センター創設をはじめとする児童福祉法改正の方向性にも沿ったものだと思っています。

 また、こども家庭センターがつないでいくさまざまなサービスも現状ではまだ不足しています。

 図をみてもわかるように、虐待などを受けて保護が必要な要保護児童、さらに、その一歩手前の要支援児童だけでも、現在約25万人います。これに対し、子育て家庭が使える、ショートステイ、訪問サービスなどは圧倒的に足りていないという現状です。

 先駆的な地方自治体の取り組みを見ると、例えば、石川県の「マイ保育園」のように、保育所を身近な子育て支援の拠点として位置付け、保護者が就労していない家庭でも、気軽に保育所に相談できるようにする、という既存の子育て資源を活用した取り組みをしているところもあります。また、浜松市の「はますくヘルパー利用事業」のように、家事支援と組み合わせた訪問型のサービスを実施し、孤立しがちな家庭に入っていってニーズを把握し対応しているところもあります。

 また、学齢期の子ども・家庭への支援として、NPOのLearning for All というところでは、学習支援だけでなく、こどもの発達段階やニーズに応じた多様な支援を提供するとともに、孤立しがちな保護者への相談・伴走支援も行っています。このほか、親子関係形成支援の取り組み、若年妊婦支援の取り組みなど、地域の中ではさまざまな先駆的な取り組みがあり、こういったサービス基盤を拡充するとともに、先に述べた「こども家庭センター」からこういったサービスに紹介できるようなネットワークを形成していくことも重要です。

 改正児童福祉法は令和6年度から施行されます。現在は厚生労働省が担っていますが、こども家庭庁発足後は引き継がれることになりますので、しっかりと対応していきたいと考えています。

こども家庭庁発足までの取り組み

 準備室では、こうした移管されてくる事業以外にも最初に申し上げたこども大綱策定に向けての準備も含め、さまざまな事業を発足前から調査研究事業などにより進めています。

 いくつかご紹介すると、まず、こども大綱と並んで、発足後に閣議決定するものとして、「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」があります。これまでも、保育所保育指針、幼稚園教育要領など、こどもがいる「場所」に応じた指針はありましたが、こうした場所のいかんにかかわらず、就学前の全てのこどもの育ちにとって大切なことをまとめ、共有できる指針をつくろうとしています。すでに有識者や現場の関係者による検討会を立ち上げて議論を進めています。

 同様に、さきほどの児童福祉法のところでも触れましたが、主として学齢期のこどもたちを念頭に、学校、家庭以外の「居場所」をもっと広げていきたい。そのための指針作りにも着手しています。

 さらに、いじめ対策についても文部科学省とも連携しながら、学校以外からのアプローチとして、地方自治体の首長部局が、教育委員会とも連携しながら積極的にいじめ問題に取り組んでいくため、先進自治体の実践事例などの収集も進めつつ、取り組みを検討しています。

 また、これは法律制定につながっていきますが、こども関連業務に従事する場合に、性犯罪歴などを事前にチェックする仕組みをつくるための法制的検討にも着手しています。

予算と組織の確保

 このように、発足前から課題山積のこども家庭庁ですが、しっかりと仕事をしていくためには予算や組織の確保も重要です。

 私が今いる準備室は総勢90人弱ですが、厚生労働省や内閣府などから移管される人員も含め、4月にこども家庭庁がスタートするときには300人を超える規模になる見込みです。現在、組織要求をしていますが、大きく分けると三つの部門、すなわち「企画立案・総合調整部門」、保育政策や子育て支援、母子保健、安全対策などを担う「成育部門」、虐待対策、貧困問題、障害児支援などを担う「支援部門」となる予定です。
 
 予算については、令和4年度ベースでみると4・7兆円程度ですが、概算要求段階では多くの事業が「事項要求」、すなわち、22年末の予算編成過程で具体的に金額も含めて決定するとなっており、22年晩秋現在で追い込みを控えています。また、こども家庭庁設置法案の審議の中で、岸田総理は将来的にはこども関連予算を倍増する、そのための道筋を23年の骨太方針で示していきたいと表明されており、22年末の予算編成後も、23年の骨太に向けて、こども政策予算をどうしていくのか、その前提となるこども政策の体系をどうつくっていくのか、さらには財源をどう確保していくのかなど、さまざまな難題が続いていきますが、こどもや子育て世代をはじめ、さまざまな立場の方々の意見を聞きながら、着地点を見出していきたいと思っています。
                                                (月刊『時評』2023年2月号掲載)