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こども家庭政策最前線/こども家庭庁設立準備室長 渡辺由美子氏

こども家庭庁創設とこども政策の課題

わたなべ ゆみこ/千葉県出身。東京大学文学部卒業。昭和63年厚生省入省、平成25年内閣官房内閣参事官(内閣総務官室)、26年厚生労働省保険局医療介護連携政策課長(医政局、老健局併任)、27年保険局総務課長、 28年大臣官房会計課長、29年大臣官房審議官(医療保険担当)、令和元年子ども家庭局長、3年大臣官房長、4年6月より現職。
わたなべ ゆみこ/千葉県出身。東京大学文学部卒業。昭和63年厚生省入省、平成25年内閣官房内閣参事官(内閣総務官室)、26年厚生労働省保険局医療介護連携政策課長(医政局、老健局併任)、27年保険局総務課長、 28年大臣官房会計課長、29年大臣官房審議官(医療保険担当)、令和元年子ども家庭局長、3年大臣官房長、4年6月より現職。

 こども家庭庁の発足が目前だ。政府は全世代型社会保障を目指した改革を進めている最中だが、このこども家庭行政が大きな柱となることは確実だ。全国約1200万の子育て世帯を一挙に所掌する。少子化の勢いが止まらない今の日本でこども家庭庁が果たそうとしている役割は何か、これまでと何が変わるのか。
 今回は渡辺室長に、わが国のこども政策の解説と共に今後の展望を語ってもらった。

内閣官房こども家庭庁設立準備室長
渡辺 由美子氏

「こどもまんなか」政策の司令塔

 こども家庭庁の始動がいよいよ2023年の4月1日に迫ってきました。創設までの経緯を政府部内での動きを中心に振り返ってみます。

 まず、2021年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太方針)において、こども政策のさまざまな課題に総合的に対応していくため、年齢による切れ目や省庁間の縦割りを排し、子供の権利を保障し、子供の視点に立って対応していくため、新たな行政組織の創設を早急に検討することが掲げられました。これを受けて内閣官房に「こども政策の推進に係る有識者会議」が設置され、5回にわたる議論を経て、11月末に今後のこども政策の基本理念や取り組むべき政策の柱と具体的政策等についての報告書が取りまとめられました。政府においては、この報告書も踏まえ、年末に「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」を閣議決定し「こども家庭庁を創設する」ことが政府全体の方針として決定されました。

 22年の2月に「こども家庭庁設置法案」と関連法案が国会へ提出され、通常国会の最終日の6月15日に成立。そして、現在私が所属するこども家庭庁設立準備室(以下、準備室)が設置され、23年4月1日の設立を目指して準備を進めているところです。

 こども家庭庁が目指す「こどもまんなか社会」とは、「常にこどもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組・政策を我が国社会の真ん中に据えていく」ということ。言い換えれば、政策の立案にあたりこどもの視点や子育て当事者の視点を大切にしながら取り組んでいくとともに、国を形づくるさまざまな政策の中心に「こども政策」を据えて考えていくということで、こどもへの投資が国全体の未来へつながる重要な政策だという気概が込められています。

画期的なこども基本法

 今回こども家庭庁設置法と同時に、議員立法による「こども基本法」が制定されました。考えてみれば、高齢者対策基本法や障害者対策基本法など、基本法で政策理念を具体化している分野が多い中、こどもについての基本法がまだなかったのは不思議なくらいです。こども基本法の目的は、「全てのこどもが自立した個人として等しく健やかに成長できる権利を守られながら幸せに生活できる社会」の実現であり、基本理念には国際条約の「児童の権利に関する条約」の四原則と言われる、1・差別的扱いの禁止、2・生命・生存権の保障、3・意見表明機会の確保、4・最善の利益の保障が明記され、加えて養育者への適切な支援や社会環境の整備も掲げられています。さらにこども政策の重要事項を審議する場として、政府部内に総理大臣を長とする閣僚会議である「こども政策推進会議」を設置することや、こどもや子育て当事者の意見を政策へ反映するための措置を講じることなども規定されました。政策立案プロセスにこどもの意見を反映していくことは、これまでにない新しい挑戦ですが、非常に画期的なことです。準備室では、その具体化に向けて、有識者のご意見も伺いながら調査研究を進めているところです。

 また、実際にこどもの声を直接聞く取り組みも進めています。来年の秋に策定する「こども大綱」に向けて、小倉將信こども政策担当大臣をはじめ、副大臣や政務官にもご参加いただき、小・中・高校生から20代のユース世代も含めたこどもたちと車座で行う「こどもまんなかフォーラム」を開催しています。私自身も参加して改めて考えさせられることも多く、例えば小学生のこどもたちの意見の中に〝公園からシーソーなどの遊具が消えている〟という指摘がありました。確かに大人の目線からだと、こどもの安全を守るためにけがをしやすい危ないものは取り除いてあげようという考えが最優先になりがちですが、こどもたちは危険度も学びながら使っていきたいという望みを持っていると改めて気付かされました。大人目線で良かれと思ったことが、こどもたちにとって本当に最善なのかを丁寧に考えていかねばなりません。

 これまで政府では少子化大綱やこどもの貧困対策に関する大綱などさまざまなこどもに関する政策文書をつくってきましたが、今後はこども基本法に基づいてこども家庭庁が総合的な「こども大綱」を策定し、毎年「こども白書」をまとめて国会報告を行うことになりました。最初の策定へ向け、本格的に作業を進めるのは4月以降ですが、準備は既に始めています。

社会保障と税の一体改革とこども政策

 私が厚生省へ入省したのは1988年でしたが、その翌年、女性が生涯で産むこどもの数の指標「合計特殊出生率」が1・57まで下がり、戦後最低値となったことで注目を集めました。当時、私が所属していた児童家庭局では、「出生率問題」を国の政策課題として掲げることの是非についてかなり議論しましたが、この「1・57ショック」をきっかけに子育て支援に国が乗り出すことになりました。

 それから国はエンゼルプランや待機児童ゼロなどさまざまな対策を講じてきましたが、当時、もう一つの大きな課題であった高齢者介護問題と比較すると、財源面では苦戦が続いていました。その意味で、2012年に消費税引き上げ分による税収の使途に「子ども・子育て支援」が追加されたことは大きな転換点だったと思います。従来、社会保障経費の中で、消費税が充てられるのは、年金・医療・介護の3経費となっていましたが、社会保障と税の一体改革の中で見直しの議論が進み、最終的にはいわゆる三党合意で子ども・子育て支援を使途に加えることになりました。消費税10%の「社会保障の充実」フレームの中で「子ども・子育て支援」のために0・7兆円程度が充てられています。さらに、これに加えて、17年には「新しい経済政策パッケージ」の中で、消費税増収分の使途変更が行われ、幼児教育・保育の無償化、高等教育の無償化、待機児童の解消に1・5兆円程度が充てられることになりました。