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デジタル田園都市国家構想について/新井 孝雄氏

四つの柱実現へ、掲げた目標の数々

 四つの柱の内容を順番に見ていきましょう。前述の通り、国が主導して行うべき柱が、構想実現への前提となります。

 まず「構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」について。これは、総務省が主導する「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」の実行等によって推進します。デジタルインフラの整備をはじめ、マイナンバーカードの普及促進と利活用拡大、データ連携基盤の構築、ICT活用による持続可能性と利便性の高い公共交通ネットワークの整備、エネルギーインフラのデジタル化が主な内容となります。

 このうちデジタルインフラ整備については各分野ごとに細かく目標を設定しています。例えば光ファイバーは2027年度末までに世帯カバー率99・9%を、5G人口カバー率は段階的に設定され30年度末段階で全国・各都道府県99%に、また十数カ所のデータセンター地方拠点を5年程度で整備し、日本周回海底ケーブルを3年程度で完成させ、デジタル安全保障の観点から陸揚局を地方分散させます。

 続いて「デジタル人材の育成・確保」について。デジタル技術によって地域の課題解決をけん引するようなデジタル推進人材を、2026年度末までに230万人育成するという目標を掲げています。デジタル人材は現在、約100万人いると目されますが、日本の就労人口6800万人に対しトータルで330万人必要とされ、残り5年で差し引きあと230万人のデジタル推進人材、例えばビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、エンジニア・オペレーターなどが求められる、ということになります。

 そのために、三つの主要施策を推進します。「デジタル人材育成プラットフォームの構築」、デジタル分野の幅広い教育コンテンツを提供していきます。「高等教育機関等におけるデジタル人材の育成」、大学や高専において理系・文系を問わずデータサイエンスやAIを応用できる人材を育成します。「職業訓練のデジタル分野の重点化」、情報通信技術等に関する職業訓練をより充実させていきます。これらの施策を通じ、年間おおよそ45万人のデジタル推進人材を育成します。

 そして育成されたデジタル人材の地域還流を図ることも重要なポイントです。「デジタル人材地域還流戦略パッケージ」に基づき、地域企業への人材マッチング支援、地方公共団体への人材支援、企業支援・移住支援等の取り組みを進めてまいります。

 次に「誰一人取り残されないための取り組み」について。高齢者にデジタル機器の普及を促す「デジタル推進委員」を2022年度に全国2万人以上でスタートし、今後さらなる拡大を図っていくつもりです。例えばスマートフォンの使い方に詳しい携帯電話ショップのスタッフさんが高齢者に使い方をレクチャーする等々の活動を実施します。今後、デバイス操作に慣れた学生さんなどが高齢者に教えるケースも出てくると思われます。これはデジタルリテラシーだけではなく、高齢者の孤独・孤立解消にも一役買うかもしれません。他にも「地域ICTクラブ」の普及促進、生活困窮者へのデジタル利用等に関する支援策の検討などが考えられます。

 そして基本方針の中核と言うべきが、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」です。社会課題の分野は多岐にわたりますが、基本的に2024年度末までに、デジタル実装に取り組む地方公共団体1000団体の達成を目指します。そのためには、スタートアップ企業の支援やスマート農業の推進など、地方に仕事をつくる取り組みを支援し、「稼ぐ地域作り」を目指します。また、「人の流れをつくる」ために同24年度末までにサテライトオフィス等を整備する地方公共団体の数を1000団体にするなど、転職なき移住の推進や二地域居住といったライフスタイルの定着を目指します。さらに、母子オンライン相談や母子健康手帳アプリを充実させ、「結婚、出産、子育て」といったライフステージごとの不安を解消します。最後に、遠隔教育・遠隔医療の整備など、地方在住者が感じる不便を解消し、「魅力的な地域」を作ります。そして地域の特色を生かした分野横断的な支援として、デジタル田園都市国家構想推進交付金や、地域づくりやまちづくりを推進するハブとなる経営人材を国内100地域に展開させていく等の施策を進めていきます。

交付金と地方創生テレワーク

 これら各柱の施策をどのように具体化していくのか。まずは前章で触れた、デジタル田園都市国家構想推進交付金からご紹介します。デジタルを活用した地域の課題解決や、魅力向上の実現に向けた地方公共団体の取り組みを交付金によって支援するものです。令和3年度補正予算で200億円が措置されました。

(資料:内閣官房)
(資料:内閣官房)

 大きくTYPE1とTYPE2、3に分かれ、1は他の地域等で既に確立されている優良モデルやサービスを活用した迅速な横展開の取り組みを、2、3はデータ連携基盤を活用し、複数のサービス実装を伴う取り組みを対象としています。さらに言えばTYPE1は、優良モデルの迅速なヨコ展開によって、これから本格的にデジタル実装に取り組もうとする地方公共団体や住民の皆さまにデジタル技術の良さや効果を実感していただくことを狙いとしています。一方、TYPE2、3は地方公共団体が標準的なデータ連係基盤を構築することで、各企業が低コストでデータを利用できるようになるなど、稼げる仕組みをつくることを狙いとしております。これにより民間資金が注入され、またいろいろなアイデアが生まれてくるものと想定されます。

 既にTYPE1の採択件数は705件に達しています。オンライン申請など行政サービスのデジタル化や、地域アプリや公共施設のDX化など地域住民の利便性向上に直接裨益するサービスが最も多かったです。他にもオンライン診療やデジタル教材、オンデマンド交通、地域通貨・ポイント、デジタルミュージアムなど多種多様な事業が採択されています。一方、TYPE2、3については、採択件数計27件を数えています。例としては、福島県会津若松市や群馬県前橋市における総合的なスマートシティ、北海道更別村や香川県三豊市のベーシックインフラ・サービス、静岡県浜松市における市の認定ベンチャーキャピタルによるスタートアップ支援などが並んでいます。

 具体化に向けた次の施策が、地方創生テレワークです。コロナ禍以後、多くの方がテレワークを経験した現在、企業としても多様な働き方の実現を図らないと優秀な人材が確保できない社会状況となりました。私どもも、そうした企業の環境整備に対し、企業版ふるさと納税、前述のデジタル田園都市国家構想推進交付金、地方創生拠出整備交付金等の施策を取り揃えています。

 例えばデジタル田園都市国家構想推進交付金では、「転職なき移住」を実現し、地方への新たな人の流れを創出することで、デジタル田園都市国家構想の実現に貢献するため、地方創生テレワークタイプを措置しています。令和2年度補正予算で100億円のテレワーク交付金をつくり、これはその後継施策となるのですが、3年度補正予算では新たに「進出企業定着・地域活性化支援事業」を措置しました。サテライトオフィスの拠点をつくるだけでなく、進出した企業と地元の企業が連携し新しいビジネスを始める、というときに支援するような仕組みです。最大3000万円の事業費に対し、1/2の補助が出ます。地方創生テレワークタイプ全体は、全国で101団体の採択結果となり、レジャー施設や漁具の倉庫など遊休資産をサテライトオフィスに改修する事例等が各地で見られます。

「Digi田甲子園」投票実施中

 具体化の3番目、それが「Digi田甲子園」です。これは地方公共団体を対象とし、デジタル技術の活用により地域の課題を解決し、住民の暮らしの利便性と豊かさの向上や地域の産業振興につながっている取り組みを総理が表彰する、というものです。実際に課題を解決した取り組みの実装部門と、課題の解決につながるアイデア部門の二つに分かれ、医療や防災など計10分野が対象となります。

 まさに甲子園大会同様、まず都道府県において地区予選を行います。6月下旬時点で、計144件の都道府県代表がエントリーいたしました。内閣官房HPの専用サイトには各代表の事例紹介や1分程度の紹介動画も掲載されます。今まさに、各事例に対して国民の皆さまによるインターネット投票を実施しているところです。さらに、その結果について有識者による審査も実施して、最終的に総理による表彰を行うという流れになります。また、他の地域の見本となる優れた取り組みを整理して紹介するメニューブックを作成する予定です。

 最後に、構想実現に向けた今後の進め方について。前述しましたように、デジタル田園都市国家構想総合戦略(仮称)を年末までに策定します。その総合戦略に基づき、地方公共団体は、目指すべき地域像を再構築し、地方版総合戦略を改訂し、具体的な取り組みを推進します。また、既存の「地方創生推進交付金」と「地方創生拠点整備交付金」、そして「デジタル田園都市国家構想推進交付金」を、新たに「デジタル田園都市国家構想交付金」として統合します。年末までには制度を固めていくことになるでしょう。さらに、今後策定される国土形成計画など各種の計画に、デジタル田園都市国家構想の理念を反映させるなど、政府の施策全般に、構想の考え方を浸透させていきます。

 6月下旬には政府広報の動画も作成しました。これを広く発信することで、国民の皆さまにデジタル田園都市国家構想への理解を得ていきたいと考えております。
                                               (月刊『時評』2022年8月号掲載)