2023/06/20
岸田政権における成長戦略の重要な柱、デジタル田園都市国家構想。大平正芳政権時代の田園都市国家構想をベースに、デジタル技術を活用して地方が抱える社会課題を解決し、活力ある地域の創生を目指していく。6月に策定された基本方針では四つの柱が明示され、現在は「Digi田(デジデン)甲子園」も開催されるなど具体化へ向けて盛り上がりを見せている。同構想のあらましと意義、そして今後を新井氏に解説してもらった。
前 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局審議官
新井 孝雄氏
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三つの〝不〟解消へデジタルを駆使
岸田内閣では、「新しい資本主義」の実現に向けた成長戦略の重要な柱として、デジタル田園都市国家構想(以下、構想)を掲げています。この構想は、地方の豊かさを維持しつつ、現在抱える社会課題を解決し、利便性と魅力を備えた新しい地方像を提示するものとして期待されています。6月7日には構想の基本方針も閣議決定され、今後は年末を目途に、デジタル田園都市国家構想総合戦略が策定される見通しとなります。
構想の基本的な考え方、それは現在の地方が抱える不便、不安、不利という「三つの不」を、デジタル技術を使って解消し、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指す、というものです。デジタル技術は、人口減少や過疎化、産業空洞化など、地方の社会課題を解決するためのカギであり、新しい価値を生み出す源泉と位置付けられています。このため、デジタルインフラを整備して官民双方による地方でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進し、長らく続く東京圏一極集中の是正と、地方から全国へボトムアップの成長の推進を図る、さらには社会課題解決の過程で生じたソリューションを将来的に海外へ発信していく、これが構想具体化の先にある最終的な目標となります。この構想を実現することで、地方における仕事や暮らしの向上に資する新たなサービスの創出、サステナビリティの向上、そして心豊かな暮らし、すなわち〝Well-being〟、また〝誰一人取り残されない〟多様性を尊重する社会の実現が期待されています。
背景の主因となる東京圏一極集中の状況ですが、基調としてはこれまで一貫して東京圏への転入超過数が増加する傾向が続いており、そのため東京圏一極集中の是正と地方の活性化が政府として長年のミッションとなっていました。2019年には東京への転入超過数が約14万5576万人にも及びました。とくに10代後半から20代の若年層が大部分を占めています。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、2020~21年は東京圏への転入超過数が大きく減少し、時には転出超過となる月も出ています。
また、内閣府の意識調査によると、東京圏在住者のうち、地方移住への関心を持つ層が、特に20代という若い世代で増えつつあります。テレワークによって「地方でも同様に働けると感じた」ためで、回答全体の4分の1を占めていました。コロナ禍に基づくテレワークの定着、またデジタルインフラの整備の進展など、デジタル技術を活用し、東京圏一極集中の是正にアプローチする機運が高まりを見せてきました。
とはいえ、地方から東京圏へ転入超過の背景には、賃金水準の格差や雇用の受け皿不足、教育や子育て、医療に対する不安などの社会課題が深刻化していることも大きな要因となっています。従ってインフラの充実だけでなく、デジタル技術を使ってこれら各課題の解決を図ることが一極集中是正には欠かせない、これが構想の目指す姿であると言えるでしょう。既に各地では、ICTオフィスの整備、遠隔教育の充実、医療系Maasの導入など、社会課題克服に向けた具体的な事例が生じつつあり、これを面的に広げていくことが構想の根幹になると思います。
三つのポイント、四つの柱、七つの前提
2021年11月11日に開かれた第1回「実現会議」(議長:内閣総理大臣)において構想のコンセプトが掲げられましたが、これには三つのポイントがありました。
一つ目は「地方の豊かさをそのままに、利便性と魅力を備えた新たな地方像の提示」。これは大平正芳元総理が当時提唱した「田園都市国家構想」に対し岸田総理がデジタルを付加して、現代的構想として蘇らせた点です。二つ目は、成長戦略の重要な柱であること。地方から国全体へのボトムアップの成長を目指す構想となっています。三つ目は、国が積極的に共通的基盤の整備を行い、地方は、これらの効果的活用を前提に、地方の個性やニーズを積極的に生かした活性化を図るという、国と地方の大きな役割分担を明記している点です。
そして本年6月7日に策定された基本方針では、構想を構成する四つの柱が示されました。すなわち「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決」「デジタル人材の育成・確保」「構想を支えるハード・ソフトのデジタル基盤整備」「誰一人取り残されないための取り組み」です。このうち、人材育成、基盤整備、誰一人残されないための取り組みの各柱は、構想を推進する上での前提あるいは環境整備に当たり、国が主導して行うべきものと言えるでしょう。その上で地方が、自主的・主体的に社会課題解決を図るという構図になっており、これは前述の、国の共通的基盤整備をもとに地方がそれを活用するというコンセプトを体現した形となります。
そして柱の実現を目指すにあたり、地方自治体の取り組みを促すような、六つの地域ビジョン、「スマートシティ・スーパーシティ」「「デジ活」中山間地域」「産学官協創都市」「SDGs 未来都市」「脱炭素先行地域」「Maas 実装地域」を提示しています。こうしたビジョンを地域自ら選択し、活性化を進めていただきたいと期待しています。
また基本方針では、構想の基本的考え方において、七つの前提を示しております。①デジタルの力を活用する意義。②構想の実現に向けた価値観の共有。③共助による取り組みの力強い推進。これは自治体だけでなく企業や大学・研究機関が一体となるべきだと示しています。④各主体の役割分担と連携による取り組みの推進。国が長期的なビジョンを示しつつ地方は目指すべき理想像を描き主体的に実現へ取り組むという、役割分担を意味しています。⑤取り組みの可視化・効果検証。構想実現に向けたKPIを設定し、その達成に向けたロードマップを年末までに策定します。このKPIは詳細に設定されていて、例えば5Gや光ファイバーのカバー率、テレワークを行う地方自治体の数、などが対象項目となっています。⑥国民的な気運の醸成。これは後述する「Digi田甲子園」の開催を指しています。⑦これまでの地方創生に係る取り組みの継承と発展、です。