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日本ワクチン復活へ 創薬ベンチャーを支援

ワクチン開発・生産体制強化に向けて

やがみ あつお/昭和38年11月23日生まれ、神奈川県出身。東京大学法学部卒業。62年厚生省入省、平成24年厚生労働省年金局事業企画課長、25年年金局総務課長、27年大臣官房参事官(人事担当)、28年大臣官房人事課長、29年大臣官房審議官(福祉連携、社会、障害保健福祉、児童福祉担当)、30年大臣官房審議官(医療介護連携、データヘルス改革担当)、令和2年内閣官房健康・医療戦略室次長、令和3年4 月より内 閣府健康・医療戦略推進事務局長。
やがみ あつお/昭和38年11月23日生まれ、神奈川県出身。東京大学法学部卒業。62年厚生省入省、平成24年厚生労働省年金局事業企画課長、25年年金局総務課長、27年大臣官房参事官(人事担当)、28年大臣官房人事課長、29年大臣官房審議官(福祉連携、社会、障害保健福祉、児童福祉担当)、30年大臣官房審議官(医療介護連携、データヘルス改革担当)、令和2年内閣官房健康・医療戦略室次長、令和3年4 月より内 閣府健康・医療戦略推進事務局長。

 新型コロナ感染拡大の過程で顕在化した課題の一つに、わが国のワクチン生産体制の後れがある。その遠因はさまざまだが、パンデミックが国際社会の脅威になると改めて認識された現在、長期的視点に立って国産ワクチンを開発することはまさにわが国安全保障上の重要戦略に他ならない。こうした背景を受けて昨年6月に策定された、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」の概要を、八神氏に解説してもらった。


内閣府健康・医療戦略推進事務局長
内閣官房健康・医療戦略室次長
八神 敦雄氏


開発に向けた戦略を策定

――まず、現在のお仕事内容からご解説をお願いします。

八神 わが国の健康・医療分野の研究開発の推進に係る戦略の立案、各省事業の調整が主な業務ですが、直近では新たなパンデミックに備えた国産ワクチンの研究開発推進が業務の大きな部分を占めています。今般のコロナ禍においては、ファイザー社製やモデルナ社製など外国製のワクチンを輸入して接種を行いましたが、基本的にはやはり国産のワクチンを作る必要があるのではないか、というところから出発しています。

 現在、国内企業がいくつか新型コロナのワクチン開発・生産に向けてトライしている状況ですが、現状としては外国の開発状況に比べ後れを取っているのは事実ですので、なぜ後れているのかその理由や背景も含めて検証し、コロナ禍が終息した後も、将来起こりうる次なるパンデミック(世界的大流行)に向け、平時からしっかり準備をしておくことが重要だと認識しています。おおよそ10年単位で新たな感染症が発生する状況が続いておりますので、国産ワクチンを開発・生産できる体制を整えておかないと次の有事に再び同じ困難に直面することになります。その時になって、なぜコロナ禍を踏まえてワクチン開発の準備をしていなかったんだ、ということになってはいけない、そういう問題意識から、2021年6月1日に「ワクチン開発・生産体制強化戦略」が閣議決定されました。

                                                   (資料:内閣官房)
                                                   (資料:内閣官房)

――同戦略の基本的な理念というと。

八神 概要において、「ワクチンを国内で開発・生産出来る力を持つことは、国民の健康保持への寄与はもとより、外交や安全保障の観点からも極めて重要」と明記されています。現政権でも経済安全保障が最重要課題の一つに位置付けられていますが、このテーマに照らしても国産ワクチンの開発・生産体制の強化は欠かせない命題だと言えるでしょう。

 さらに「今回のパンデミックを契機に、我が国においてワクチン開発を滞らせた要因を明らかにし、解決に向けて国を挙げて取り組むため、政府が一体となって必要な体制を再構築し、長期継続的に取り組む国家戦略としてまとめたもの」とされています。逆に言えば、今この段階で本腰を入れないと、日本はワクチン開発から取り残されてしまうという危機感が根底にあります。そういう意味で同戦略は、日本の創薬におけるいわば「最後のチャンス」というくらいの緊張感をもって進めていく必要があります。

――では、国産ワクチンの開発が滞っている主な背景についてはいかがでしょう。複数の課題が複合的に作用し、一つの要因に絞るのは困難とは思われますが。

八神 ワクチンに限らず、そもそも医薬品の開発には長い時間がかかり、多大な開発費を要します。にもかかわらず、新薬開発という形で成功する割合も低い、つまり企業にとって非常にリスクの高い事業です。その中で特にワクチンとなると、いつどのような形でパンデミックが発生するのか事前に予測できません。この点、生活習慣病の薬であれば人口の高齢化が進めば将来的に一定の需要が高まると想定し得るものの、ワクチンははたしていつ需要が発生するのか、そもそも確実に発生するのかどうかさえ予測不能であり、企業としてもおいそれと開発に着手するにはリスクが高いところです。

 また、日本の公衆衛生が向上する一方、感染症に対する研究の優先度は研究分野全般の中で相対的に低下してきました。現在は外国と比べても感染症に関する研究論文は少ない状況です。研究者だけでなくワクチンに対する国民の意識もさまざまな経緯もあり、必要性の認識が乏しくなっていたとも言えるでしょう。こうした諸々の要因のもと、日本の企業では平時からいつ役立つかどうか確証の無いワクチン開発にはなかなか取り組みにくかったと言えるでしょう。

――確かに、日本を含め全世界を巻き込むようなパンデミックは、1920年代のいわゆる〝スペイン風邪〟以来のこと、それ故国民レベルでワクチン開発の重要性をほとんど意識できていなかったと思われます。

八神 そういう面は確かにあると思います。2000年代に入りSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)などが発生したのですが、当時は地域的な感染にとどまり日本には大きな影響は及びませんでした。

 さらに2009年新型インフルエンザが発生した時、ワクチンを国民全般に行き渡らせるための対策も講じられました。一方で、新しい技術の開発や新型インフルエンザ以外の感染症、未知のパンデミックに備えたワクチン開発というところまでは至りませんでした。当時、新型インフルエンザウイルスに対しては不活化ワクチンで対応したのに対し、今回の新型コロナに対してはメッセンジャーRNAという新しい技術が活用されたわけですが、日本はそうした新たな技術によるワクチン開発には後れを取りました。

――そうした背景を踏まえた上で、同戦略ではこれを克服していこうと。

八神 はい、新たなパンデミックが起こった時に、今回と同じようにワクチン開発に後れを取らないように、平時から長期継続的に取り組むことを主眼としています。

 そして次なるパンデミックの際には、日本の技術でワクチンを開発し、いざパンデミック発生時にそれを海外に供給できれば、海外の公衆衛生向上を通じて国際的な貢献だけなく、ひいては日本経済にも寄与するという、二重三重の効果をもたらすこととなります。ワクチンを開発できる力のある国は世界でもそうたくさんあるわけではないので、この点は日本の技術力に大いに期待したいところです。

――要するコストや時間など、一朝一夕には解決し難い課題が多いようですが、どのような観点でこれを克服していくべきでしょうか。

八神 今回ファイザー社やモデルナ社が開発したメッセンジャーRNAワクチンも、もともと感染症のワクチンとして研究開発していたものではなく、がんの治療など他分野で蓄積を重ね実際に使っていた技術をワクチンに応用したものです。そういう意味ではわれわれも、こうした新しい技術、いわゆる〝モダリティ〟を中期的な視点に立ってしっかり身に付けていくことは重要であると考えています。

 前出の戦略では、「ワクチンの迅速な開発・供給を可能にする体制の構築のために必要な政策」を列挙しています。研究の支援、産業界の支援、制度面の支援の、主に三つに大きく分けられると思います。