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常にこどものために。 時にはこどものように。/こども家庭庁 中村英正氏

子育てとデジタルは高い親和性

――その支援のありように関し、デジタル技術を駆使して、効率化や省力化を図る部分などはいかがでしょうか。

中村 ご指摘の通り、出産以後の育児には多くの労力がかかります。その一つが、各種行政手続きや届け出の類です。親御さんや周囲の負担をできるだけ軽減していくには、まずはこれらの手続き関係を可能な限り省力化できないか。また保育の現場でも報告書類などを逐一紙で作成していると、それに時間を取られてこどもに接する時間が相対的に少なくなる、これでは本末転倒です。

 こうした状況を改善するためにも、各種手続きをデジタル化して、窓口に行かなくても済む、書類ではなくデータを送信しておしまい、という方向に持っていく必要があります。

――この点、高齢者の場合はデジタル・ディバイドが問題視されますが。

中村 それに対し、若年層が太宗を占める出産・育児世代は多くがデジタル・ネイティブで、スマートフォンを日常使いこなしています。それ故、行政サイドからシステムさえ提供できれば、急速に普及と利用が進むと想定されます。また、妊娠・出産の状況や予防接種履歴などは、現在は紙の母子健康手帳で管理・共有されていますが、これらの情報がデジタル技術で共有されるようになれば、その後のステージの変化に合わせて、必要なデータがこどもの成長にひも付くことになります。

 このように、育児は極めて対人的触れ合いが求められつつも、同時にデジタルとの親和性が高い分野でもあると言えるでしょう。従って、こども家庭庁としてもデジタル庁などと連携し、子育てに関するDXを重点的に進めていきたいと思っています。

――今夏の時点でマイナンバーカード保有枚数は9300万枚とか。今後はその効果が期待されますね。

中村 出生後速やかにマイナンバーカードを保有していれば、まさにその後の成長過程のどの段階でも利便性高く使えるようになりますし、こどもさんにとってはマイナンバーカードの活用が、日常生活におけるごく普通の行為となるでしょう。

――親御さんの中には、こどもの情報をデータ化していく点で、やはり個人情報の扱いに懸念を覚える向きもあろうかと思います。

中村 お子さん自身が自分の個人情報取り扱いについてチェックするのは年齢的に困難ですから、情報の保護やセキュリティには、関係各位がより力を入れていかねばなりません。これもまた、公共機関だけでなく、幼稚園・保育園から学校まで、こどもに接する関係者の方々と行政とが密な連携を求められるテーマです。

自治体、経済界ともにパートナー

――こども家庭庁と関係省庁の連携、国と地方の連携についてはいかがでしょうか。

中村 こども家庭庁はこども政策に関する司令塔機能の発揮が求められているところではありますが、「司令塔」という言葉が独り歩きすると、そこから
誤解が生まれてしまう可能性もあります。上意下達の指示系統ではなく、広範で複数省庁にまたがるこども政策において、連携がうまく機能していない場合に国民からの信頼を失わないためにも、まずはこども家庭庁が前面に立って受け止め、その上で所管省庁と連携を取って対応を図るということだと考えています。省庁間連携を図りながら、問題の背景や原因をいち早く分析して現場にフィードバックすることも、こども家庭庁に求められる役割だと言えるでしょう。

 他方、こども家庭庁には地方支分部局などがありません。その意味でも地方自治体がまさしく現場となり、こども家庭庁の施策を適正に機能させていく上で重要なパートナーとなります。また、国による全国一律の施策と地方独自の施策は車の両輪となって、こども施策を前に進めます。こうした観点から、各自治体とは直接、加えて知事会や市長会、町村会とも密に連携を図っており、毎年定期的に協議の場を設けています。東京都とも定期的な協議を行うことも検討しているところです。すでに人的交流は行っており、庁内にも多くの自治体から職員として来てもらっています。

――では一連のこども政策、こどもを育成するという社会的命題に、経済界はどう関わるべきでしょうか。

中村 こどもまんなか社会の実現に向け、自治体が一方のパートナーなら、経済界はもう一方のパートナーだと認識しています。個人、団体・企業、自治体等による〝こどもまんなか応援サポーター〟制度を設け、例えば経済界であれば、サポーターとなった各企業における共働きや育休取得促進など、さまざまな取り組みを各方面に情報発信しているほか、経済団体との定期的な意見交換を構想しています。こども家庭庁は設立して2年目の若い組織であり、官民問わず多方面との継続して機能するようなネットワークを、この1年で構築していきたいと思います。

――こども政策に関しては、それぞれ国情や社会構造の違いもあり、諸外国の事例を参照にすることが難しいように思われますがいかがでしょうか。

中村 経済成長と相反して出生率が下がるのは各国ほぼ同様に見られる傾向ですし、社会構造の違いこそあれ、核家族化、こどもの貧困などの課題も共通しています。こどもに関しては国連が主に人権の側面から扱っていますが、今後はG7やOECDにおいて、マクロの経済社会構造の観点からこどもに関する問題の解決がより大きなアジェンダになるのではないかと推測しています。

 他方、各国と悩みと知見を共有することは可能ですが、国情の違いもあるため、他国の例をそのまま自国に適用できるかというと、難しい面があるでしょう。他国の事例を参照しながら、どう自国に取り入れていくかが大事だと思います。例えば、英国におけるDBS(前歴開示および前歴者就業制限機構)を参照して、日本の社会に適するよう、事前の防止策も包含した独自のアレンジを施した、こどもを性暴力から守る日本版の枠組みを今国会でつくったのは良い事例だと思います。こうした積み重ねを国際的にもPRしていこうと思っています。

こども・若者目線のPDCAサイクル

――各種施策の広報・発信についてはどのようにお考えでしょう。

中村 制度を使っていただくためにも、意見を頂いて制度をブラッシュアップするためにも、そして社会の機運を醸成していくためにも、広報・発信は大変重要だと思っています。ホームページだけでなく、現場に赴くことも大事であり、昨年より「こどもまんなか社会」リレーシンポジウムを各地で開催しており、令和6年度では計15カ所予定しています。現地に庁職員が赴き、こどもが成長しやすい環境づくりを求めて、市町村や企業の取り組みを紹介したり、われわれの施策についてご説明しています。開催地の地元メディアにお声がけし、地域の方々、周囲の自治体に、より施策内容について関心を持っていただこうと取り組んでいます。

 また、こどもや若者がさまざまな方法で自分の意見を表明し、社会に参加していくための「こども若者★いけんぷらす」という仕組みを作りました。小学一年生から20代を対象に、当事者であるこどもや若者の意見を聴いて、その意見を政策や制度に反映し、さらに寄せられた意見の取り扱いをフィードバックするとともに、社会に発信していくこととしています。また、意見を聴いて施策を変えるだけでなく、変えた施策を実施した後、こどもや若者に事後評価を行ってもらおうと考えています。こども・若者視点で単にプランニングだけでなく、PDCAサイクルを回すというフレームを構築していきたいと考えています。

――個々の施策に携わる職員各位のご苦労がしのばれますね。

中村 こども家庭庁は各府省庁からの職員のほか、自治体や企業、NPOなどの団体等から人材を集結して成り立っています。まとまりに欠けるのではと言われることもありますが、むしろ私はそれがあるべき姿だと考えています。私たちが向き合うこどもたちにはさまざまな状況・個性があり、多様を極めている以上、それに向き合うこども家庭庁の人員もまた多様性が必要だと思うのです。さまざまなバックグラウンドを有したスタッフがそれぞれの専門性を持ち寄り、議論しながら政策を進めていく姿が望ましいと私は考えています。

――最後に、誌面を通じて官房長からメッセージなど。

中村 有難うございます。読者の皆さんもそうだったと思いますが、こどもは、色んな人の意見を聴きながら、自分で考え、試行錯誤を繰り返しながら成長していきます。こども家庭庁も未だ出来立てほやほやの役所ですが、それだけに多くの方と意見交換、相談しながら、「時にはこどものように」失敗もするかもしれませんが、トライ&エラー&再トライで成長していきたいと思っています。

 この特集でご一緒させていただいている内閣府・文部科学省・厚生労働省とは二人三脚、三人四脚で進んでいこうと思っておりますし、こども性暴力防止支援システムでは警察庁や法務省などともタッグを組んで進めていきます。

 加えて、繰り返しになりますが、こども家庭庁は地方自治体、経済界とパートナーとなってこども政策を進めていきます。私自身、2020東京オリンピック・パラリンピックの運営に携わり、東京都をはじめ自治体、各企業、経済団体の方々とも協力関係を築いてきました。この経験を、こども政策に再度生かしてみたいと思います。

 そして何よりもこどもまんなかの実現に向けて、こども・若者の意見を積極的に聴いていきたいと思っています。先ほど申し上げたように、聴いて終わり、ということではなく、聴いた結果を政策に反映し、その政策の実行した結果をフィードバックして、また改善点などの意見を聴いてそれをまた反映させるというサイクルにこども家庭庁としてトライしてみたいと思っています。うまく行けば、他の省庁にも輪を広げてみたいと考えています。

 また審議会にもこども・若者の意見を反映させたいと考えています。政府全体で30歳代以下の委員の割合は1・1%に過ぎません。各審議会の特性もあろうかと思いますが、この割合は増やしていく必要があるのではないでしょうか。こども家庭庁も取り組みますし、政府全体の取り組みにもつなげていきます。

 取り組まなくてはいけない課題は多くありますが、「常にこどものために」頑張ります。

――本日はありがとうございました。
                                                (月刊『時評』2024年11月号掲載)