2024/12/20
2023年4月に発足したこども家庭庁は、文字通りこどもと家庭に関する総合的な政策実施の司令塔として、その機能発揮に高い期待が寄せられている。本年5月31日、幅広いこども政策の取り組みを一元的に示した初のアクションプランである「こどもまんなか実行計画2024」が策定された。関係省庁のみならず、国と地方、官と民などあらゆる連携に基づく着実な施策の実行が求められる。今回、中村官房長に、こども政策の理念と施策のあらましについて大局的な観点から解説してもらった。
こども家庭庁 長官官房長 中村 英正氏
Tweet
各種サポートで安心感の担保を
――発足から1年半、まずは改めてこども家庭庁設置の意義、社会的背景などについてご解説いただけましたら。
中村 かつて橋本政権時代の行革により、霞が関は2001年に現在の1府12省庁体制となり、大括り化されましたが、それでもなお供給サイド、すなわち産業別に個別存立するかたちで多くの省庁が設置される構造に変わりはありませんでした。諸外国でも同様の体制を取っている国は数多く、また経済成長の途上においては産業別体制の方が、効率的な行政運営を実現するのに適していたと言えるでしょう。ただ社会・経済が成熟してくると、こうした供給側の構造による体制では行政の狭間にこぼれ、施策の手当てが及ばない課題が数多く生じることから、ユーザーサイドに立ち、狭間を埋めていく必要が高まりました。
こどもをめぐる各課題への対応もそうしたテーマの一つです。以前の大家族時代はさまざまな問題が家庭内でカバーされてきましたが、核家族化が進む現在、行政がユーザーサイドすなわち、こどもの視点に立って課題に対応していく時代になったのだと思います。その意味でこども家庭庁が昨年春に発足したのは、時代の要請に応えたものでした。
――ことに少子化が深刻化している現在、こどもを大切に育てようという機運が社会全体に求められるところですが、一方でこどもをめぐり複雑かつ深刻な課題も生じていす。
中村 少子化は非常に大きな社会課題です。現状のペースで出生率の低下が進みますと、将来的に国の存立基盤も脆弱になる可能性が懸念されます。他方でご指摘のように、いま成長過程にあるこどもと親御さん、さらに周囲の方が多くの困難に直面しています。各方面からのご意見を取り入れながら、こうした方々をサポートしていく、それがこども家庭庁の仕事の核心になります。そして、各種サポートによって安心感が担保され、出産・育児に対してよりポジティブになれれば少子化対策にも資すると考えています。
より良い変化を促進する制度に
――各種課題の中で、直近の対応事例などはいかがでしょうか。
中村 待機児童はだいぶ改善されてきました。2017年4月時点で全国2万6000人いた待機児童は、24年4月の時点で2567人。7年間で約10分の1に減少したことになり、少なくとも数の面では行政のアジェンダが効果を発揮した例だと言えるでしょう。ただ、地方では少子化が顕著な故に連動して待機児童が減少するという面があるものの、人口流入が進む都市部では改善が進まないなど地域ごとに差異があるため、引き続き地域特性も鑑みたきめ細かい対応が求められます。20年12月に取りまとめた「新子育て安心プラン」に基づき、約14万人分の保育の受け皿を整備するという現行の待機児童対策が2024年度末で区切りを迎えます。状況の変化を踏まえつつ、今後はどういう対策を講じるべきか、次のステップを検討する時期に移行しつつあります。
――この問題は、親御さんの状況も大きく影響していますね。
中村 はい、これまでは共働き家庭を中心に保育施設の活用が促進されてきましたが、社会全体のライフスタイルや価値観の多様化が進む中で、共働きかどうかだけを基準に保育施設の利用可否を決めていては多様なニーズに応えられない、とのご指摘もありました。そこで23年12月に策定された「こども未来戦略」に基づき、親が働いていなくても3歳未満の未就園のこどもを月に一定の時間まで保育所等に預けたりできるようにする「こども誰でも通園制度」を、26年度から本格的に全国展開するべく、段階的に整備を進めているところです。制度のありようと社会的ニーズは常に車の両輪で、ニーズに応えてこうした制度を創設し、制度が整備・具現化されれば、また新たなライフスタイルの長所が生じると想定されるので、社会のより良い変化を促進するような制度にしていきたいと思います。
――また、こどもの貧困も年々深刻化しているとか。成熟経済のわが国ではなかなか実感しにくい問題と思われます。
中村 こどもの貧困率は現在、全国ベースで11・5%。これ自体深刻な数字ですが、さらに分析すると、ひとり親世帯の貧困率は44・5%と半数弱を占め、収入は父子世帯より母子世帯の方がより低いというデータもあります。こうした方々をサポートしていく必要があります。具体的には、教育費の負担軽減、働き方改革による正規雇用化の推進、正規・非正規間の賃金の格差解消等を図ることによって、アンバランスな状態を是正していかねばなりません。
――悲惨な事例が後を絶たない虐待への対応については。
中村 数字の上では児童虐待相談対応件数は確かに増加の一途をたどっており、2000年段階では年間1・8万件だったのが22年では22万件弱へと増加しています。これまでは表面化しなかった事案が、社会的な認識の増加により顕在化し、関係機関からの通告の増加につながったことも理由として考えられますが、地域関係の希薄化などにより孤立した状況の中で子育ての困難に向き合わざるを得ない家庭が多くなっていることなども背景として考えられます。
対策として「こども大綱」に基づき、児童福祉と母子保健の一体的な相談支援等を行う「こども家庭センター」を、各自治体の協力を得ながら、2026年度までに全国すべての市町村で設置されることを目標に、鋭意支援を進めています。
――「こども家庭センター」は、従来の相談窓口とは機能を異にする施設でしょうか。
中村 はい、これまでの市町村の相談支援体制は、母子保健と児童福祉の組織が別であるために、連携・協働を行う職員に負荷がかかったり、情報共有が円滑になされにくいなどさまざまな課題があったことから、本当に困った方は引き続き必要に応じて専門の窓口で対応しつつも、まずは「こども家庭センター」にてワンストップによる一体的な相談支援体制を整備することとしました。同センターを全国に設置し、対応できない地域が生じないよう進めていくつもりです。
――虐待事案が発生するたびに、児童相談所の対応にメディアから批判が寄せられがちですが、表面化しない部分で児相をはじめ関係各位は日々努力されていると思われます。
中村 仰る通りです。児童相談所の職員や保育所等の保育士さん等、さまざまな方々が日々、こどもをはじめ社会的に弱い立場の方々を親身になって支えてくださっています。そうした方々への感謝の意をできるだけ明確な形としていくことを、われわれも率先して実施していくべきではないかと考えています。こどもが育ちやすい社会とは、こどもの育ちに関わる関係者全員がやりがいや誇りを感じられるような社会でもあると思っています。
〝伴走型支援の制度化〟を
――そして昨年12月に「こども大綱」が取りまとめられました。
中村 これまでも各種こども施策が実施され、こども家庭庁が発足した後もそれぞれ従前の各担当省庁で引き続き所管する施策もあります。しかし、こどもや支援を受ける当事者の観点に立つと、やはり担当が分散すると分かりにくくなるため、一覧性のあるものに整理していくことが必要となる、こうした方針の下に「こども大綱」は策定されました。「こども大綱」に基づき具体的に取り組む施策について本年5月に取りまとめた「こどもまんなか実行計画2024」とともに、こどもに関する施策が包括的に一覧できる内容・形式になったと思います。
――中でもやはり、少子化対策は常に注目を集めるところです。
中村 昨年12月に閣議決定された前出の「こども未来戦略」において、総額3・6兆円程度のパッケージ「こども・子育て支援加速化プラン」を取りまとめましたので、まずはその着実な実行が求められます。予算の確保に関しては、このうち2・6兆円は歳出改革の徹底および既定予算の活用等による公費節減によって捻出し、残る1兆円分の予算は2026年度からはじまる「子ども・子育て支援金」を充て、これを28年度まで段階的に構築していきます。
と同時に、前述した貧困や虐待など、こどもの各成長段階における困難にきめ細かく対応し、こどもが産まれる前から、妊娠・出産を経てこどもが育ち、大人になるまでの全過程を通じて支援していく体制を整備していきます。その総覧図として位置付けられるのが「こども大綱」です。
――出産前からその後の成長までトータルなサポートというのは、こども自身はもちろん、母親をはじめ親へのサポートでもありますね。
中村 はい、一連の施策はすなわち〝伴走型支援の制度化〟を意味しています。出産や子育てには当然費用もかかりますので、例えばすべての人を対象に、妊娠の届け出時に5万円、出産の届け出時にこども1人当たり5万円の給付を行っていますが、渡しておしまいではなく、給付のときを各家庭にコンタクトする一つの契機として活用したいと考えています。妊娠中は出産に臨む不安、また出産後の育児期間中も、今後、社会とのつながりが希薄化する可能性に不安を覚える母親も少なくありません。従って、給付のときを相談のタイミングと捉え、こどもの成長過程にあわせた節目々々でサポートしていくことを制度化していこうと思っています。
――こどもの成長は切れ目がありませんが、支援もまた切れ目が無いということですね。
中村 これまで乳幼児期を中心に説明しましたが、切れ目がない支援という点では、児童手当の高校生年代までの延長や多子世帯への高等教育無償化などの施策も新たに行っており、こどもが大人になるまでのトータルサポートに取り組んでいるところです。また、いじめ、不登校といった学齢期の問題も大きな課題であり、こども家庭センターと学校や教育部門との連携強化にも取り組んでいきます。