
2025/02/07
宇宙は今や、各国がしのぎを削る国際競争の主要舞台であり、関連ビジネスが次々と市場に登場する成長分野である。日本がこの競争をリードし宇宙産業を育成していくためにも、官民連携による明確な開発戦略は不可欠だ。今回、風木事務局長より現下の宇宙政策の主要ポイントを詳細に解説していただき、宇宙の将来像を展望してみたい。
宇宙開発戦略推進事務局長 風木 淳氏
Tweet
宇宙に関する法制度、相次いで整備
まず、政策全体の範囲をご理解いただくため、宇宙空間についておおよその距離感をご紹介いたします。通常、ジェット旅客機が航行する高度が地上約10キロメートル、これに対し国際宇宙ステーション(ISS)は同約400、GPS衛星で約2万、「みちびき」など準天頂衛星、および「ひまわり」など気象衛星をはじめとした静止衛星は約3万2000~4万キロメートルという超高度に位置しています。さらに月は約38万キロメートル、火星に至っては7000万から2億キロメートルという途方もない距離にありますが、人類は今まさに、この火星への到達を目指している、すなわちここまでが、政府が手掛ける宇宙政策の対象となります。
そして各高度には、これら各衛星に加え弾道ミサイル発射等の早期探知に利用する早期警戒衛星など、それぞれ機能を異にする多様な人工衛星が多数配備されています。またロケットは、主に小型衛星の打ち上げに使用し民間企業による開発が活発な小型ロケット、大型衛星や衛星をまとめて打ち上げる際などに使用し各国が新型を開発中の大型ロケット、そして主に月などへの物資・人の輸送を目的とした超大型ロケットに大別され、日本のイプシロンロケットは小型、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がここ3回連続で打ち上げに成功しているH3ロケットは大型のラインナップに属します。この分野は日米欧に加え、中国、ロシアのほか、インドも参入・開発に注力するなど国際競争が激しさを増しており、日本としても宇宙開発を進める上でロケットの自律性の確保と国際競争力の確保、この両方が必要だと認識しています。
日本では戦後、各国の中でもロケット打ち上げ等を中心に宇宙に関しては先進国グループに属していました。その後、基本的には科学技術の観点で研究が進んできましたが、2008年に宇宙基本法が議員立法で成立、安全保障も含めて宇宙を利活用していく方針が明確化されています。同法に則って現在まで第5次にわたる宇宙基本計画が制定されているほか、近年では宇宙開発に関する各種法制度も相次いで整備されて今日に至ります。
現在、政府の体制として総理をトップとする宇宙開発戦略本部を置き、ここで宇宙基本計画、宇宙安全保障構想を策定し、予算編成と併せ工程表の改訂を毎年行います。この体制によって透明性を確保し、民間事業者や科学者も予見可能性をもって宇宙開発に関与することが可能となります。
そして宇宙政策担当大臣の下に、私が事務局長を拝命した宇宙開発戦略推進事務局が設置され、宇宙政策委員会の事務局を担います。当事務局では宇宙基本法はもちろん、宇宙活動法、衛星リモセン法、宇宙資源法のいわゆる〝宇宙三法〟を実際に執行しており、許認可も担当しているほか、準天頂衛星システムの開発運用、宇宙政策に関する司令塔機能の発揮、関係各省庁の取りまとめを行い、さらに今般では後述する宇宙戦略基金の基本方針・実施方針の策定という新たな役割も担っているところです。こうした宇宙政策の広がりに応じて関係予算も着実に増加しており、令和六年度予算では当初+五年度補正予算で8945億円となりました。
宇宙政策の主要6ポイント
では、現在の宇宙政策について語るべき六つのポイントをご紹介したいと思います。これら6項目で日本はもとより宇宙に関する世界の情勢も語れると言えるでしょう。すなわち、
① 変化する安全保障環境下における宇宙空間の利用の加速。世界的な安全保障の高まりとその対応です。
② 経済・社会の宇宙システムの依存度の高まり。これは端的に申せば通信・測位です。もはや宇宙アセットは空気や水と同等に、人間の暮らしになくてはならないものであり、不具合が生じると日常生活に甚大な影響が生じます。一般的には知られざる、しかし今そこにある危機、と私自身は思っています。それ故、予算も含めて宇宙アセットの強靭性を高めることが極めて重要です。
③ 宇宙産業の構造変革。2040年の宇宙市場は世界で1兆ドル超に成長、衛生の数も将来3万機以上に達すると予測されています。つまり宇宙開発が国から民間主導へ、 国威発揚から商業化へ急激に変容しつつあります。
④ 月以遠の深宇宙を含めた宇宙探査活動の活発化。世界的に一時期雌伏とも言える期間を送った宇宙開発ですが、現在は有人の月面着陸、そこで水を採集して水素を精製し、燃料とし、さらに火星を目指すという米国の月面探査計画(アルテミス計画)をはじめ、主要国が同様の計画を策定し競争が激化しています。宇宙開発は日米首脳会談の重要なアジェンダの一つに位置付けられ、日本人宇宙飛行士2人が2020年代後半には月面着陸を果たす想定で計画が進行しています。
⑤ 宇宙へのアクセスの必要性の増大。自前でロケットを打ち上げることが第一歩ですので、2030年代前半までに官民で年間30機程度のロケット打ち上げ能力の確保を目指します。
⑥ 宇宙の安全で持続的な利用を妨げるリスク・脅威の増大。例えば6~10年と言われる衛星の寿命が尽きた後にデブリ化し、それらが衝突するリスクが顕在化しています。23年の広島サミットでは、宇宙デブリに関する国際的なルール形成を図ることが決定されました。
以下、各項目に関する政策をご説明します。