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わが国の国際平和協力活動の現状と課題/内閣府 植草泰彦氏

PKOが直面する課題

 国連全体としてのPKOは、近年欧州やアジアの地域で紛争の減少と共にPKOの活動が縮小していることもあって24年現在では全体で11件になっています。傾向として、減少する方向に見えますが、これまで積極的に派遣をしてきた欧州をはじめとする国々が自身の安全保障に多くのリソースを割かざるを得ず、〝自分のところで手いっぱい〟、つまり、PKOへの人的支援を行う余裕がなくなってきていることもあると思います。いわゆる「グローバルサウス」の国々から派遣された隊員が部隊の中心を占め、先進国は主に司令部要員のみを派遣するという傾向がPKO全体に現れてきました。

 現在PKOが集中しているのは不安定な情勢が続くアフリカと中東で、これらの地域にはまだ国際社会からの支援が不可欠ですが、テロ組織や武装勢力の台頭など、従来のPKOの枠組みでは対応が困難な場面が増え、現地住民によるPKOへの不信感も生まれやすくなっています。

 例えばマリ共和国でのPKOは昨年に撤退し、コンゴ民主共和国のPKOも段階的に撤退しています。代わりにアフリカ連合(AU)等の地域機関が中心となって取り組みを進めていく動きも見られますが、財政面や中立性等の課題も問われており、今後の展開は不透明です。

 そのような中で最近注目を浴びているのが、2014年の第一回PKOサミットで日本が支援表明して発足した「国連三角パートナーシップ・プログラム(TPP)」です。TPPは国連・支援国・要員派遣国の三者が協力して国連PKO要員派遣国の能力を向上させるための枠組みで、ナイロビやインドネシアで日本の自衛隊から技術教育を受けた修了生が既に実際のミッションに派遣されており、国連でもPKOを支える柱になると評価されています。

国連を主体としない活動への広がり

 15年に成立したいわゆる平和安全法制のうち、国際平和協力法の改正によって日本の協力対象に「国際連携平和安全活動」が加わりました。いわゆる国連が統括するPKOではない形の、多国籍部隊による停戦監視活動に参加することが可能になったのです。

 これを受け、現在は、シナイ半島においてエジプトとイスラエルの停戦を監視している多国籍部隊・監視団(MFO)に日本から司令部要員として4名を派遣しています。MFOは、主にエジプト、イスラエルの間の停戦監視、信頼醸成、対話の促進を支援する組織ですが、中東戦争終了後に当時のソ連の拒否権の行使により国連決議ができなかったため、米国が主導して設立されたものです。日本はこれまでも資金援助をしてきましたが、平和安全法制の成立に伴い、人的貢献もできることとなりました。現地の平和の安定のために欠くことのできない組織である一方で、組織がコンパクトなので機動的で迅速な対応が可能という側面もあるようです。

人道的な国際救援活動、選挙監視活動での日本の役割

 戦争が終結する前の人道的支援も国際社会にとって重要な活動です。PKO法ではこうした人道救援活動(人道的な国際救援活動)も対象としており、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)等の国際機関からの要請を受け、6件の人的協力と19回の物資協力を実施してきました。

 日本にとって初の人道的な国際救援活動は94年のルワンダ難民に対する支援です。内戦から逃れて周辺国に流出した難民のために自衛隊等を派遣し、医療をはじめ防疫や給水、空輸等の支援を行いました。

 最近ではウクライナ危機における被災民への支援活動を行いました。人道的な国際救援活動を行う場合にも、PKOに準じて5原則が適用されるため、ウクライナとロシアの戦争がまだ続く中では、本国への人的派遣は難しいですが、避難した人々のための物資を隣国まで輸送することは可能です。日本国内の自衛隊基地から出発した航空機を使って、UNHCRがドバイに保有する倉庫から避災民に役立つ毛布やビニールシートをポーランド、ルーマニアまで空輸するという取り組みが複数回行われました。

 一方、物資協力については、テント、毛布等の支援物資をドバイの倉庫に備蓄し、要請に応じて供給しています。

 今年5月にはパレスチナの国連機関(UNRWA)からの要請に応じ、これらの備蓄物資を現地の人々へ提供しました。この物資協力も、日本の人道的救援活動の形態として定着しつつあります。

 また、紛争後の国々における選挙監視活動も日本が担うことのできる重要な役割です。治安情勢が不安定な地域では、選挙の際に対立団体間の衝突や不正行為が横行するリスクが高いため、公正な選挙を実現するための信頼性のある監視が求められています。日本はこれまでにも東ティモールや南スーダンの分離独立の際の選挙を支援し、現地の民主的プロセスの進行を支えてきました。

(資料:国際平和協力本部)
(資料:国際平和協力本部)

国際平和協力活動に参加する意義

 国際平和協力活動に派遣された隊員と直接話して感じるのは、自衛官を志して入隊した方々の中には国際平和に貢献したいという思いが強い方が多くいらっしゃるということです。PKOへ派遣されたことに喜びをにじませる隊員の方も多く見てきました。

 世界全体で見ても、そのような思いを抱く各国の人々の中で、特に優秀な方が選抜されて集まる場がPKO等の国際平和協力活動だと言えるでしょう。現地で隊員たちの活動を目の当たりにすると隊員同士でシンパシーが生まれていることが感じ取れますし、PKOで活動した隊員同士が他国で再会するということもあるようで、国際的な人脈づくりや国家間の相互理解にもつながるという側面も実感します。

 現在は国際情勢が不安定なこともあり、純粋に他国の平和のために活動することは非常に困難な時期ともいえます。PKOが直面する課題は多岐にわたっていますが、平和を求める活動は非常に尊いものであり、決して止めてはならないと思います。国内の世論調査を見ましても、PKO法の制定当時は活動に対する賛同は半分程度しか得られていなかったものが、現在では国民の大半の方から理解が得られています。こうした中で、今後も国際平和のための活動に引き続き貢献していければと思います。世界においてもこうした気運が高まっていくことを期待しています。
                                             (月刊『時評』2024年12月号掲載)

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