2024/02/19
日本での男女間の給与格差はOECD諸国に比べても大きく、しかも年齢層が高まるにつれて拡大しています。今回の女性版骨太の方針を構成する第2の柱は「女性の所得向上・経済的自立に向けた取組の強化」とし、政策パッケージとして、育児期に限らない平時からの多様かつ柔軟な働き方、リスキリング等を盛り込みました。
柔軟な働き方の一つにテレワークがあります。総務省が5年おきに実施する「社会生活基本調査」の結果から、21年の平日にテレワークをした人がテレワークをせずに働いていた人に比べてどれくらい時間の使い方に差が出たかを分析してみると興味深いことがわかりました。
女性の場合、減った通勤時間を育児や家事の他に、仕事時間にも充てていますが、男性は全体的に仕事時間が減って、家事・育児に使う時間が増えていたのです。
リスキリングについても、現在はデジタル分野が最も女性が活躍しやすく、所得向上にも労働環境の改善にもつながると言われています。勤務場所や労働時間において柔軟な対応が可能な上、他分野と比較して経験年数と年収が比例しやすいという傾向があるからです。例えばIT技術者などはまだ女性が全体の20%に満たない状況なので、女性人材を育成さえできれば活躍の場を一気に広げられるでしょう。他分野で就労中の女性も希望すればリスキリングの機会を得られ、所得向上の見通しを持ってデジタル分野へ移動できるように環境整備を進めたいと思います。
われわれは科学技術分野での女性活躍も重視しており、例えば当局と文科省・経団連とで連携して行う「理工チャレンジ(リコチャレと称しています)」という取り組みでは、理工系を選択する女子学生を増やすことを目的として、夏季休暇の時期などに女子中高生等が理工系の仕事を体験できるプログラムを提供しています。学生の時点で女性活躍の可能性を認識してから社会に出てもらうことで、社会人になってからのキャリア形成とライフイベントを両立させやすくする狙いです。
若年層からアンコンシャスバイアスの変化を期待
L字カーブを形づくる構造を解消するためには、女性人材の支援・育成など直接的なアプローチだけでなく、ジェンダー不平等を是正する根本からのアプローチとの両輪が必要だと考えています。当局では性別による無意識の思い込みに気付いてもらうための動画を制作し、誰でも視聴できるように公式YouTubeチャンネルで公開しました。
「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」で実感しましたが、経済界でも多くの経営者が「アンコンシャスバイアス」を解消していく必要性を感じておられます。
性別役割分担の固定化など、無意識の思い込みのことをアンコンシャスバイアスと言っており、とりわけ男女の「時間格差」を改善するには避けられない問題ですが、若い世代ではすでに意識の変革が起きているようです。
若年層を対象に、1982年から国立社会保障・人口問題研究所が30年以上続けている意識調査「出生動向基本調査(独身者調査)」によれば、専業主婦コースや再就職コースを希望する女性が多かった調査開始当時に比べ、現代では未婚女性が希望するライフスタイルの主流は両立コースとなり完全に逆転しています。未婚男性の意識も変化しており、30年前は将来のパートナーに対して専業主婦コースや再就職コースを期待する男性が多かったのに対して直近の調査結果では両立コースを期待するという回答が一番多くなっています。
前述の意識調査「新しいライフスタイル、新しい働き方を踏まえた男女共同参画推進に関する調査」では、20代の方と30代以上の方とにそれぞれ20代の時点で〝いずれは管理職に就きたいと思っているか/いたか〟をたずねました。結果、男性では、世代間で大きな違いが見られなかったのに対し、女性は若い年代ほど昇進意欲をもつ方の割合が高くなっていて、女性の意識が大きく変化していることがうかがえます。
男女どちらもが希望するキャリア形成とライフイベントを両立するためには家事・育児に代表される無償労働時間を男女で分担しなければならないわけですが、同調査で家事スキルに関する自己評価と、配偶者から見た満足度も調べたところ、年齢の高い層では自分に家事スキルが備わっているとする男性は少なく女性視点からの配偶者に対する満足度も低いのですが、若い世代では自分の家事育児を高く評価する男性が増えており、配偶者からの満足度も高く、男女間の差はかなり縮まったようにみえます。
男性がかつて持っていた家事への参加に対する抵抗感も、今では年齢が低いほど少なく、家事・育児参画についての上司や職場の理解を深めることや労働時間の短縮、テレワークをはじめとした多様な働き方への意識が強まるなど、周囲の環境整備を重視しているようです。
女性版骨太の方針における第3の柱は「女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現」としました。例えば女性就業率の上昇を背景として女性のキャリアと健康課題の両立という課題も注目されていますが、事業主検診を充実させて女性特有の病気などを予防し望まない離職を防ぐといった施策も今年の政策パッケージに入れました。性犯罪・性暴力の対策強化はもちろん、ハラスメント防止策も必要です。困難女性支援法や改正DV法を円滑に施行するなど、女性が活躍できる社会に不可欠な、女性が安心して暮らせる環境整備も着実に進めていきたいと思います。
(月刊『時評』2024年1月号掲載)