2024/02/19
昨年策定された「女性版骨太の方針2023」では、プライム市場上場企業に対し2030 年までに女性役員の比率を30%以上とする大胆な目標設定が盛り込まれ話題となった。わが国における“女性が輝く社会”づくりはより具体的なステージへ移行したと言える。性別を問わず個人が能力や個性を最大限発揮できる社会の実現は、日本の経済競争力向上にも欠かせない。これからの女性人材育成や環境整備はどう進めるべきか、岡田局長にポイントを解説してもらった。
内閣府男女共同参画局長
岡田 恵子氏
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「L字カーブ」の根本にある男女の「時間格差」
働いている女性の割合(労働力率)を年齢別にしたグラフがいわゆる「M字カーブ」を描く、とはかつてよく言われていました。結婚や出産を期に離職して労働市場から退出し、育児がひと段落するとまた就業する女性が多かったからです。
しかし今ではこの「M」の底がずいぶん浅くなりました。女性の就業者数は過去10年でおよそ370万人増え、2022年時点で3024万人に達して男性就業者数の3699万人に迫っています。
最近は、女性の正規雇用比率に現れる「L字カーブ」が注目されるようになりました。20代後半をピークに世代が上がるほど正規雇用比率が右肩下がりになっていくので、グラフの線が「L」を逆さにしたように見えるのです。
非正規雇用では管理職への昇進が難しく賃金が伸びづらい、育休制度が利用しにくい、教育訓練を受けづらいなど働き続ける上でさまざまな課題が指摘されていますが、そういったことを理解していても、さまざまなライフイベントに際して女性がキャリア形成と二者択一を迫られ、正規雇用から退出していると考えられます。
内閣府政府広報室で数年おきに行っている「男女共同参画社会に関する世論調査」で、2022年11月の実施時に女性活躍が進まない要因について質問したところ、女性回答者の80%以上が〝女性に家事・育児等が集中していること〟が要因だと思うと答えました。なお、男性も7~8割が同様に答えました。
また、われわれ内閣府男女共同参画局が22年12月に行った「新しいライフスタイル、新しい働き方を踏まえた男女共同参画推進に関する調査」の中で、非正規雇用で働く方がどのような条件下でなら正規雇用として働きたいと思うかを調べたのですが、有配偶者の女性の回答では〝働く時間を調整しやすい・融通が利く仕事〟、〝両立に関して理解のある職場〟、あるいは〝家事、育児などの負担が軽くなれば〟といった内容が中心でした。
働く時間を有償労働時間、その他の家事・育児などの時間を無償労働時間と言いますが、21年にOECD(経済協力開発機構)が各国の生活時間を比較したデータによると、わが国では有償労働時間は男性が女性の1・7倍を、無償労働時間については女性が男性のなんと5・5倍をも担っています。とりわけ無償労働時間については諸外国と比べて突出した、驚くべき 男女差です。
男女間に存在するこの「時間格差」こそが、女性の活躍を阻害している主要因だと言えるでしょう。正規雇用の男性による長時間の就業を前提とした労働慣行があり、家事・育児などの無償労働時間は女性が担当せざるを得ないというように、性別による役割分担を固定してきた構造的課題があるため、簡単には埋められません。
女性活躍・経済成長の好循環
女性活躍政策で土台となる「男女共同参画基本計画」は、2000年に初めて定められてから5年ごとに見直されてきました。計画の実行性を担保するために政府が女性活躍の現状を踏まえて毎年つくる政策パッケージが「女性活躍・男女共同参画の重点方針」で、各府省が今後重点的に取り組んでいく具体的施策を盛り込みます「女性版骨太の方針」とも呼んでおり、23年も6月中旬に3本柱で構成した内容を発表しました。
1本目の柱は「女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けた取組の推進」です。
企業にとって女性活躍に取り組むメリットは決して少なくありません。内閣府男女共同参画局で実施した「ジェンダー投資に関する調査研究(22年度)」によれば、投資判断に女性役員比率や管理職比率など女性活躍に関わるデータを活用している機関投資家が全体の3分の2に達しました。
また、経済産業省と東京証券取引所が平成24年度から共同で選定している「なでしこ銘柄」は女性活躍の取り組みが特に優れた企業群ですが、これまでずっとPBR(株価純資産倍率)の平均値が東証一部(現在はプライム市場)の全体平均値よりも高く推移しています。
この第1の柱において、鍵となるのは企業における女性役員の登用です。日本企業全体の女性役員比率は近年改善されてきたとは言えTOPIX100の企業においてもまだ15%程度(23年6月時点)で、OECD諸国の平均約30%に対し半分の水準にすぎません。さらに、執行役員の女性比率は5%弱。23年6月時点では、東証プライム市場に上場している企業のうち20%近くの企業では女性役員が1人もいない状況でした。
そこで今回、東証プライム市場の全ての企業を対象として、女性役員比率を30年までに30%以上とすることを目指す、まずは25年を目途に女性役員を1人以上選任するよう努めるという目標を設定し、この目標を達成するための行動計画策定を推奨することにしたのです。
現実的に、女性登用が進むかどうかは組織のリーダーの意識次第です。当局では数年前から企業の経営者に集まっていただき「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」をつくっています。現在では首都圏に加え全国、経済界だけでなく地方自治体の首長(知事や市長、町長など)や大学の学長なども加わって315名(23年10月4日時点)のネットワ―クに成長しました。
参加者にはジェンダー平等と女性活躍を進めるという趣旨の「行動宣言」に賛同していただきますが、それによって何か義務を負うというよりもむしろ、課題やノウハウなど事例を共有し合って女性活躍へ意識を向けることを目的としています。今後は大企業だけではなく地方中小企業の参加者ももっと増やして、さまざまなアプローチを試みていく予定です。
23年の女性版骨太の方針から、登用されるだけでなく自ら経営者となるロールモデルもつくっていこうと、女性起業家の育成にも力を入れることにしました。具体策としてはネットワークの充実や資金調達支援などを想定しています。政府と民間が集中支援するプログラム「Jスタートアップ」でも、選定企業のうち8・8%に留まっていた女性経営者の割合を、今後は20%以上を目指して増やしていくことにしました。
登用にせよ起業にせよ、象徴的な事例があれば、それを通じて社会全体で女性活躍の機運を醸成し、働く女性達自身のキャリアアップ意識を高める効果が期待できるはずです。