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内閣府地方創生推進政策最前線/「スーパーシティ」 構想

新たな枠組み、「デジタル田園健康特区」

 スーパーシティの各提案の詳細を分析し、提案された規制改革の議論が進む中で、提案自治体の中には、5分野以上の先端的サービスの提供という観点からすると熟度不足と言わざるを得ないが、特定分野、例えば健康・医療の分野に限れば、十分な事業の熟度があり、先端的サービスの事業計画に即した規制改革の提案にも熟度があり、また実現する意義が高いと思われるものが見られました。こうした提案が5分野以上にわたって熟度が上がるのを待つのはいかがなものか、早急な実現に向けた方法を何らか考えていくべきではないかという問題意識がワーキンググループの民間委員から出てきました。

 こうした背景の下、専門調査会において、八田達夫(アジア成長研究所理事長、大阪大学名誉教授)先生から「今回のスーパーシティに関する規制改革案では、いくつかの自治体からデジタル技術を活用し、健康・医療などをはじめとした地域の課題解決を図ろうとする、優れた規制改革の提案がなされた。これらは、人口減少・少子高齢化、コロナ禍で顕在化した課題に対処した内容で、時代の要請に合致したものであり、また、地方部や過疎地で特にニーズが高いものである。政府においては、これらの取り組みを推進するため、スーパーシティ型国家戦略特区制度の活用に加え、特定課題に重点を置いた革新的事業連携型国家戦略特区制度(いわゆる「バーチャル特区制度」)の活用を検討すべきではないか。」との意見が提出されました。

 この意見を踏まえ、政府として検討した結果、新たに革新的事業連携型国家戦略特区として「デジタル田園健康特区」を設けることとし、「スーパーシティ」とともに国家戦略特区としてデジタル田園都市国家構想を先導する制度と位置付けることとしました。

 今回、デジタル田園健康特区として、岡山県吉備中央町、長野県茅野市、石川県加賀市が3自治体で一つの特区という形で指定されました。今後の具体的な取り組みとして、重要な柱の一つが健康医療分野のタスクシフトです。医療を担当する資格者は資格に応じて行える業務が定められていますが、デジタルのサポートを前提として、行える役割の拡大や必要な指示等の合理化を図れば、地方で進みつつある健康医療分野での担い手不足に対応できる体制整備の道が広がります。

 また、健康医療情報のデータ連携や健康医療情報を患者本人やその家族により一元管理する医療版「情報銀行」制度の構築、AI、チャット機能を活用した遠隔服薬指導、タクシー等を使った医薬品等の配送などの先進的サービスが提案されています。

 離れた3自治体がデジタルによって相互に結ばれ、距離の制約を乗り越え、共同で先駆的な取り組みを進められることを実証できれば、将来的な全国展開に向けて大きな意味があるものと期待されています。

 また、今回活用することとした革新的事業連携型国家戦略特区制度(いわゆる「バーチャル特区制度」)に関しては、国家戦略特区諮問会議の民間委員からも「デジタル関連のバーチャル特区に関して、健康以外の分野でも積極的な提案を募るべき」との意見をいただいており、今後さらに発展させていきたいと考えています。

(資料提供:内閣府)
(資料提供:内閣府)

デジタル田園都市国家構想との関係

 現在、政府が推進を図っているデジタル田園都市国家構想と「スーパーシティ」構想とはどのような関係にあるのか、今回の指定に際し、政府として整理をいたしました。デジタル田園都市国家構想は、地域の社会課題全般をデジタルの力を使って解決していこうというもので、基盤整備、人材育成、デジタル実装など極めて広範にわたる取り組みです。この中で、「スーパーシティ」と「デジタル田園健康特区」は国家戦略特区として、規制改革を中心にデジタル田園国家構想を先導していく役割を担うことになります。そして、「スーパーシティ」は未来社会の実現を目指して幅広い分野のDXの推進を目指し、「デジタル田園健康特区」は健康・医療など地域の社会課題解決に重点を置いています。もちろん、デジタル田園都市国家構想におけるデジタル基盤の整備、デジタル人材の育成、誰一人取り残されないための取り組み等々の基本的な取り組みは、「スーパーシティ」にも「デジタル田園健康特区」にも共通する基礎的な戦略となります。

 一方、「スマートシティ」と「スーパーシティ」の関係性ですが、一般的に「スマートシティ」はデジタルを使って都市に関する課題を解決していく取り組み全般を指しています。それに対し「スーパーシティ」「デジタル田園健康特区」は、デジタル技術による先進的なサービス提供、課題解決に加えて、大胆な規制・制度改革を目指す取り組みということになります。あえて申し上げれば、規制改革は行わず現行のルールの下で、データ連携基盤を整備し、複数分野の先進的サービスの提供を目指すことも、難度が高く、価値もあり、スマートシティの重要な取り組みです。

 最後に、都市のデジタル化を図る取り組みに関して、個人的見解になりますが、3点ほど重要だと考えていることをお話ししたいと思います。1点目は、技術オリエンテッドではなく、ニーズオリエンテッドであるべきということです。技術先行だと、ニーズが伴わず、市場にも受け入れられず実験どまりとなり、次につながらないことにもなりかねません。最終的には、住民のウェルビーイングのために何が必要なのかという視点を大切にしながら、官民でソリューションを見出すということが大切だと考えています。

 2点目は、都市のデジタル化、スマート化の本質はデータの力を活用していくことだということです。デジタル技術の進展でこれまでの静的なデータからリアルタイムの動的なデータになっていくこと、これまでばらばらに保有していたデータをオープンデータとして共有できることの意味は大変大きいです。例えば、プロジェクトのエビデンスベースでの説明が可能になり、多くの主体に共感と支持を生み出します。データ共有は当事者意識を持つ主体を拡大させますし、それが個別最適から全体最適に向かう力にもなると私は考えています。また、データ共有による異分野間の出会いが多様性と共感をもたらし、イノベーションが起きることもデータの持つ力だと考えています。

 3点目は、本質的な変化はサイバー空間で起きる、サイバー空間での爆発的な進化がリアルの意味や価値観を変えていくということです。ややもすると、技術オリエンテッドな発想は、極論ですが鉄腕アトムの世界をイメージして、目に見えるものを求めがちになります。しかし、今後の都市のデジタル化、スマート化では、日常のリアルな変化はおそらく何気なく、目立たないけれども、サイバー空間では猛烈な変化と進化が起こり、画期的にライフスタイルを変え、人口減少克服のソリューションにもつながり、人々の価値観も大きく変えるのではないかと考えています。

 ここ20年ほどの間にネットやスマホが爆発的に普及しましたが、都市や職場、住まいの映像的風景はそんなに変わっていません。しかし、仕事の仕方、人とのコミュニケーションの取り方、つながり方、情報の取り方、ライフスタイルや価値観は激変しました。

 スーパーシティ、スマートシティは、いわば都市にスマホを持たせるとどういうことが起こるか、可能になるかということかと思います。私はいずれ全ての都市に都市OSが標準装備される時代が来ると考えていますが、そのスピードを上げる、その効果をより高め、より人々のウェルビーイングに貢献できるようにするには、「スーパーシティ」構想のようなチャレンジが不可欠だと思います。産学官それぞれの主体が思いを共有し、連携して取り組んでいただければありがたいと思います。もちろん、われわれ関係省庁もしっかり取り組んでいきたいと思います。
                                             (月刊『時評』2022年6月号掲載)