2023/04/07
政府が推進を図る「スーパーシティ」構想は、「大胆な規制改革と併せ、データ連携基盤を共同で活用して複数分野の先端的サービスを官民連携により実施する区域を指定」を基本コンセプトとし、この春、第1回目の区域指定が決定した。今後は同指定区域の展開が「スーパーシティ」実現への試金石となる。同時に、審議の過程で新たに「デジタル田園健康特区」構想も浮上した。これら各構想の概要ポイントを、青木事務局長に解説してもらった。
内閣府 地方創生推進事務局長
青木 由行氏
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「スマートシティ」の進化 まずは、「スーパーシティ」 構想を取り巻く国際的な背景からお話しします。デジタル技術の進展により、さまざまな都市の課題をデジタル技術によって解決していこうというスマートシティの動きが、既に2、30年前から始まっていました。当初は個別課題の解決にとどまっていたものの、おそらくは2018年ごろから、AIやビッグデータを駆使して社会の在り方を根本から変えるような都市設計、社会実装の動きが急速に進展してきました。私も国土交通省で都市局長を務めていた2018~2019年にかけて「スマートシティ」構想の立ち上げに関わりましたが、わが国でも従来の環境エネルギーに特化した取り組みから都市の複数の課題を分野横断的に解決する動きが本格化していました。「まるごと未来都市」というのは世界でも未だ実現していませんが、各国の都市で、多様な形の「スマートシティ」の先進事例が登場しています。 例えばエストニアは、電子政府の先進事例です。1994年に取り組みを開始し、2001年にデータ交換基盤であるX-Roadを導入し、まず、行政機関間でデータのやり取りができるようにし、銀行、医療機関などにも広げ、サービス分野を拡大してきました。国民にICチップの入ったIDカードを発行し、今や国民の約99%が所持しています。IDカードまたはモバイルIDにより携帯電話から電子政府ポータルへのログイン、電子署名が可能となっており、市民、行政、企業間のデータのやりとりはX-Road上で行われるようになっています。2015年からはe-Residency(電子居住権)の制度も導入し、海外の外国法人が現地法人を設立し、銀行口座開設、納税手続きもできるようになっています。また、全国の医療機関のICTシステムとの接続がされているほか、インターネット投票や法人登記のオンライン化も実現しています。また、スペインのバルセロナはごみ収集システムから駐車システム、バス、上下水道など都市インフラ中心に分野を広げ、市民が課題解決に参加できるDecidim というプラットフォームもできています。中国の杭州は道路ライブカメラをAI分析して、信号等の都市交通の包括的コントロールや新たなハード整備につなげるなどデータを徹底的に集約してリアルタイムで活用する取り組みをしています。 わが国では個人情報が慎重に取り扱われますし、自由と民主主義を基本原理とする国ですので、個人の自由を確保しつつ適正な手続きを踏んでデータ連携を行い、デジタルによる都市の最適化を図っていく、これが日本における「スマートシティ」の基本的なコンセプトになると考えています。 三つのポイント、7項目の指定基準 日本としても、海外の動きも踏まえながら「スーパーシティ」構想をまとめたのですが、都市のデジタル化、スマートシティを先導できるトップランナーをつくろうということで、「住民が参画し、住民目線で、2030年頃に実現される未来社会を、先行実現すること」をコンセプトとしました。構想には三つのポイントがあります。 一つ目は、生活全般にまたがる複数分野の先端的サービスを提供すること、つまり複数分野の未来社会化を一括して実現するというチャレンジングな姿勢で臨むことです。 二つ目は、そのために必要となる「データ連携基盤」を通じた複数分野間でのデータ連携です。各主体が保有しているデータを相互に利用できる連携体制を確立する必要があります。これは、どこかに巨大なサーバーを設け、そこで企業情報や個人情報等を全部集約してデータベース化してオープンに使ってもらうということではなく、データ自体は分散していろいろな主体で保有しつつ、ベンダーロック等が発生しないよう、あらかじめデータ規格等をルール化し、相互連携し、データ共有できるようなシステムにするのが現在の主流の考え方です。 三つ目は、先端的サービスを実現するための規制改革を同時・一体的・包括的に推進することです。まだまだわが国の法体系にはデジタル化を想定していないルールがあり、これを具体の事業プランに対応して突破して規制改革を行っていくため、これまでも各種規制を突破してきた国家戦略特区の仕組みを活用することになりました。
これらのポイントを踏まえ、7項目にわたるスーパーシティ区域の指定基準を設定しました。すなわち、①データ連携基盤を通じた複数分野の先端的サービスの提供(概ね5分野以上を目安)②広範かつ大胆な規制・制度改革の提案と、先端的サービス等の事業の実現に向けた地方公共団体、民間事業者等の強いコミットメント③構想全体を企画する者である「アーキテクト」の存在④地方公共団体の公募による必要な能力を有する主要な事業者候補の選定⑤地方公共団体による区域指定応募前の住民等の意向の把握⑥データ連携基盤の互換性確保及び安全管理基準適合性⑦住民等の個人情報の適切な取り扱いの7項目です。 スーパーシティの指定 2020年の末に地方公共団体からの提案募集を開始したところ、21年4月の締め切りまでに31の団体から提案がありました。大都市のみならず、地方中小都市から多数の提案があったのですが、わが国が直面し、地方で先行して顕在化している少子高齢化、人口減少に伴う地域課題をデジタル技術により解決していきたいという意欲が、「スーパーシティ」への提案状況にも現れていると感じました。 提案を受けた後、ヒアリングも実施し、国家戦略特区ワーキンググループにおいて集中的に関係省庁を交えて提案された規制改革についても議論を行いました。そして、スーパーシティの区域指定に関する専門調査会で選定基準7項目の適用について議論が行われ、自治体によって提案内容の「熟度」に差異があるため、提案内容の「熟度」(規制改革の「熟度」と先端的サービス(事業)の「熟度」)が一定のレベルに達している自治体から、順次、専門調査会および国家戦略特区諮問会議に付議し、提案の先駆性、先導性等の観点から指定について検討することとなりました。従って、今回の指定から漏れた場合でも、落選ではなく、提案の「熟度」が高まり次第、指定についてあらためて検討することになります。二度にわたる専門調査会の議論を経て、指定案が取りまとめられ、総理、関係大臣、民間委員から成る国家戦略特区諮問会議の議を経て、本年4月12日、スーパーシティに茨城県つくば市と、大阪府・大阪市の2カ所の指定が決定されました。 つくば市は、国の多くの研究機関や大学が立地しており、これらの主体との連携の下で学園都市としての特性を生かし、またこれまで行ってきた社会実験の蓄積を生かして、つくばスーパー「サイエンス」シティ構想を提案されました。新型モビリティの時速10キロ化、ロボット技術、3Dマップによるデジタルツインを活用した移動・物流サービスやまちづくり、インターネット投票などの行政分野のサービス、マイナンバーを活用したデータ連携による健康医療サービス提供や避難所での医療連携、外国人創業支援や大学資産の活用によるオープンハブなど多分野にわたる先進的なサービス提供を行うことが評価されました。 大阪府・大阪市の特徴の一つは、2025年の大阪・関西万博開催の会場となる夢洲と大阪駅北の「うめきた2期」の二つの新規開発エリア、即ちグリーンフィールドを対象としている点です。関経連をはじめとした経済団体や万博協会との連携の下で2025年の万博開催を見据えた提案をされました。先進的なサービス提供としては、日本初の空飛ぶクルマの社会実装があり、管制を含めたルールメイキングを国等と協力して行い、ビジネス化を視野に入れた社会実装を行うことにしています。また、夢洲の万博会場整備は短期間で膨大な建設工事を行うこととなりますが、これを交通渋滞を起こさず実現するため、これまでの建設現場の常識を変えるような新たな人流、物流等のシステム、AI気象予報、BIMデータの活用を図る夢洲コンストラクション、さらに万博のテーマである「データで拡げる健康といのち」を実現する先端的国際医療サービスやヒューマンデータ、AI活用による健康増進プログラム提供も提案されています。 いずれの提案とも事業内容が多分野にわたっており、事業の熟度も規制改革の提案の熟度も一定のレベルに達しており、多様なプレイヤーの事業参画がコミットメントされていることなどが評価されました。 特に専門調査会では、提案内容の先駆性、先導性等の観点からかなり激しい議論と厳しい審議があり、両提案ともに最終段階までそれぞれのコンソーシアムにおいて現時点で可能な限りの詰めを行っていただいた結果、指定する方向でまとまったことも付言しておきたいと思います。