2024/09/11
大岡 今、三野社長からカーボンニュートラルに向けた目標は、民間においてだいぶ共有化されているという説明がありましたけど、私も感じているのは、地方の熱意です。と言うのも、山口壮大臣(編集部注:取材当時)のリーダーシップで、大臣、副大臣、政務官が環境省を挙げて「地域脱炭素ロードマップ」を掲げて、全国行脚したのですが、今や、地方の首長の皆さんもカーボンニュートラルに向けて「俺たち、何とかしなければいけない」と思ってくれていることが分かりました。
「地域脱炭素ロードマップ」は、①一人ひとりが主体となって、今ある技術で取り組める②再エネなどの地域資源を最大限に活用することで実現できる③地域の経済活性化、地域課題の解決に貢献できる-などを主眼に、環境大臣が副議長として参加した国・地方脱炭素実現会議でまとめたビジョンなのですが、地方の首長はもちろん、地域の名だたる企業や金融機関の皆さんが、自分ごととして受け入れてくださいました。ですから、地方の皆さんの熱い意識やご期待に、われわれがしっかり応えていけることができるかが、次の課題だと認識しています。
現在、全国行脚は、2周目に入りましたが、これからも実施していけば、必ず日本中の温度は上がってくると思います。そうなると、例えば、今まで付き合ったことのなかった市町村同士が手を組んだり、地域と大企業の新たな結び付きが生まれるかもしれません。われわれとしては、皆で、チームを組んで脱炭素に向かっていく新たな流れを期待しています。
――改めて大岡副大臣が挙げられた「合成燃料」についても、議論しておきたいのですが・・・。
大岡 「合成燃料」とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料と定義され、原料となる水素の製造過程でCO2が排出されることがないよう、再生可能エネルギー由来の電力で水電解を行ってH2を調達することが基本になります。わが国が、本当にカーボンニュートラルを実現しようとした場合、燃料、電力をどう解決していくかに尽きると言っても過言ではありません。なぜならば、電力だけでCO2排出量の半分ですから。プラス燃料となると、「合成燃料」を探し出せるかが最大のキーワードになります。
酒井 世界が目指している潮流は、化石エネルギーという有限の資源から再生可能な資源にシフトされつつあると言ってよいでしょう。そういう意味で、最も端的に表れている事例が、「合成燃料」であることは間違いありません。
大岡 ある意味、世界が最も関心を持ち、シビアな対応をしようとしているのが、「持続可能な航空燃料」(SAF=Sustainable Aviation Fuel)の分野です。と言うのも、航空業界の国際機関であるICAOは、2021年以降のCO2排出量を19年のCO2排出量(基準排出量)に抑えることを目標に据えており、航空会社はその目標を達成するためにCO2削減が急務になっており、SAFの導入が必須になっているからです。ただ、率直に申し上げて、この「SAF」の分野は、世界的な競争で言うと周回遅れ、いや2~3周遅れと言った方が正確かもしれません。
――「グリーンイノベーション基金」でも、合成燃料の創造に向けた研究開発が進められていますね。
大岡 ご指摘の通りです。特に「SAF」の分野ではさまざまなチャレンジが始まっていまして、例えば、コメやその他の穀物からエタノールを作り、燃料に変えるなどのユニークな技術開発が行われています。まずは、航空機の領域、「SAF」についての研究を行ってもらい、国産のバイオ、さらには合成化燃料の研究も同時並行的に進めてもらいたいと思います。そもそもわが国は世界最大・最強の自動車大国ですけれども、残念ながら燃料の国産化というところは十分にできていないので、規制緩和すべきは規制緩和し、政府が資金支援すべきは資金を応援してでも、世界の中でモビリティのあり方、社会の中で人を動かす、モノを動かすというビジョンまで何とか描ききりたいと考えています。
三野 当社も、合成メタン、メタネーションについては、1990年代から研究を進めていまして、現在はまだ実証試験レベルですけれども、その製造プロセスで、CO2を排出される事業者の皆さんや、ガス会社などからお声掛けいただき、実証レベルでの試験を受けて、納入をしている事例が増えてきています。合成メタンは、脱炭素といった価値だけではなく、安定供給できる国産燃料として、エネルギーセキュリティの面でも貢献していくことができるのではないかと思います。
酒井 大岡副大臣が提唱された「合成燃料」「SAF」を「国産化をしっかり視野に入れて展開すべし」というお考えについては、これまでわれわれアカデミアも十分に頭を切り替えることができなかったところです。まさに叱咤激励として謙虚に受け止めたいと思います。
これまでの合成燃料をめぐる議論は、サトウキビやトウモロコシから製造されたバイオエタノールを日本に持ってきて、「その後、どうするか」という領域にとどまっていた印象があります。これまで進められてきたさまざまな技術、例えばナタネからのバイオディーゼル燃料(BDF)や廃食用油からのBDFなどを、再度、しっかりと力を入れて展開していく覚悟は持たないといけないでしょう。ごみに由来するものを有効に活用すること、加えて、国産化を目指すということが一丁目一番地になっていくのかなという気がしています。
――大岡副大臣、これまでのご説明を伺っていますと、「成長志向型カーボンプライシング構想」をビジョンとしてどうまとめていくのか、並々ならぬ決意を感じますが、ポイントはどこにあると考えればよいのでしょうか。
大岡 ポイントは、大きく二つあると思っています。一つ目は、「政策のチカラ(力)」ですね。具体的には、税だったり、負担金、規制強化あるいは規制緩和といった政策の力をもっと積極的に発揮していくことですね、もう一つが、「国民の理解」です。政府ですから、私たちが責任を持って、国民にしっかり呼び掛け、理解してもらうことがすごく重要になります。
――なるほど。
大岡 まず一つ目の「政策の力」、あるいはダイナミズムをもっと強化するというのは、例えば、これまで、ごみからエタノールを作ったけれど、思ったようにうまく行かなかったというのは、世の中で普通に売られているエタノールと「同じ値段にしろ」と要求されるから、できないわけですよね。合成燃料も同じなんですよ。穴を掘って出てきた石油と同じ値段で「合成燃料を作れ」と言われるからできないんですよね。これは、まさに政策の力だったり、税などの力によって、同じ値段にしてしまうことは当然できるわけです。穴を掘って出てくる石油に税金をかけて、合成燃料には税金をかけなければよいですし、あるいは、穴を掘って出てくる石油は、全部輸入ですから、輸入に割り当てを決めてしまって、ある一定以上、入って来なくすればよいわけです。つまり、政策の力で幾らでも調整が効くわけですね。
――実際に「政策の力」が発揮できれば素晴らしいと思います。
大岡 そのためには、「政策の力」によって、トップランナーをきちんと育て、トップランナーがイノベーションをもたらせるようにしていくことが肝要だと思います。例えば、こうした思い切ったことを本当に実行しようとすると、「業界の意向」という別の力が働いてくる場合があります。こうした「業界の意向」に忖度している余裕や時間は、今の日本には残されていないのではないでしょうか。
大岡 皆さん、ありがとうございます。私からもよいですか。先ほど三野社長のお話の中にメタネーションに関する説明がありましたが、これは、環境省が進めている「二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環モデル」のことでしょうか。
三野 はい。神奈川県小田原市の協力を得て、市のごみ焼却排ガスからCO2を分離・回収して、水素と反応させて、天然ガスの代替となるメタンを創る実証事業を推進しています。廃棄物を焼却すると、CO2が出ますけれども、新たにメタン製造といったような新しい価値を生み出すと同時に、脱炭素化にも貢献できる世界初の試みとなります。
酒井 まさに、メタネーションやガス化改質技術は、間違いなく将来のわが国の炭素循環の基盤技術になる見込みがある技術と言えるでしょう。一方、ごみは、塩素のような成分を含み、それに由来する塩化水素のような微量成分がメタネーションに関係するなど、相当にチャレンジングで難しい技術であるということも事実です。こうした困難なものにチャレンジされているということが重要なポイントだと思います。
大岡 最終的に、日本国民がどうやって食べている国かと言うと、これはまさに、技術とそれを支える人たちによって成り立っているわけですね。ですからこの技術を磨き続けるということはすごく重要だし、大事なことだと思います。
三野 もう一つ、当社は、環境省からの事業を受託していまして、小規模な処理施設でも発電が可能になる仕組みで、ガス化と改質を一体にした非常にコンパクトな、キルンタイプの熱分解ガス改質炉の技術開発の実証事業を大阪市で実施しています。現在、中規模程度の焼却炉であれば、ほとんど全ての施設で発電できるようにはなってきていますが、例えば、島嶼(しょ)部などにある小規模な廃棄物処理施設では、費用対効果の面もあり、なかなか発電までは実装できなかったわけです。これがうまくいけば、電力の地産地消や、エネルギーの有効利用などにも貢献できると見ています。
酒井 このガス化改質技術については、日本がかつてごみ焼却のダイオキシン問題で苦しんだときに、ごみを溶かして高温でスラグにする技術開発を進められたときに生まれたものなのです。これも、原形の相当多くの部分は、欧州にある技術と言えるわけですが、欧州企業の場合は、途中で断念されたケースがほとんどです。従って、実機で動かして、コマーシャルベースで動かしたという実績という意味では、日本が誇るべき領域と言えるでしょう。今回、日立造船をはじめ、日本のトップ企業がチャレンジされていますので、これはぜひ成功させて、まさに世界のトップランナーとしての地歩を固めてもらいたいと思います。
大岡 国土強靱化という意味でも大きいですよね。
酒井 今回、議論の軸となっている「廃棄物・資源循環分野」とは、日本がモノづくりで発展してきた中で、ライフスタイルからさまざまな技術革新を確立できる領域と言えるでしょう。今後、世界の人々の生活の質を高めていく上では、必須の技術と言え、この領域から、トップランナーを出し続けていくことは、わが国にとっても非常に意義のあることだと思います。今回、私は、「廃棄物資源循環学会」というアカデミアの立場から、この座談会に登壇させていただきましたが、今後もわが国の循環政策や廃棄物管理の政策づくりに貢献したいと考えています。
三野 カーボンニュートラルの実現は、人類共通の課題でもありますので、自分たちに何ができるのか、着実に行動に生かしていくことが何より重要だと思っています。当社は、提供できるサービスや製品を通じ、脱炭素化に貢献していくと同時に、定量的に事業活動におけるCO2排出状況などを把握し、情報発信も行っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
大岡 カーボンニュートラル時代は、わが国の技術の粋を集めて世界に打って出るまたとないチャンスだと言えるでしょう。まさしく「ピンチではなく、チャンスと捉える」発想が、今の日本には何より重要です。そのためにも、われわれがカーボンニュートラル時代に向けてのビジョンを、国民の皆さんにお示しし、民間企業をはじめ、アカデミア、あるいは地域の皆さんに共感していただき、さらに大きなビジョンにしていく必要があります。今回の座談会のテーマとなった「廃棄物・資源循環分野」も必ず、このビジョンの大きな柱になるはずですから、できるだけ早期に策定し、皆さんに提示できるように全力を尽くしたいと思います。
――皆さん、今回はありがとうございました。