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【大型座談会】GX実現へ社会インフラシステム整備を

進む地域社会でのカーボンニュートラルの動き

全国行脚する大岡副大臣(右隣は三日月大造滋賀県知事)(出典:環境省)
全国行脚する大岡副大臣(右隣は三日月大造滋賀県知事)(出典:環境省)

大岡 今、三野社長からカーボンニュートラルに向けた目標は、民間においてだいぶ共有化されているという説明がありましたけど、私も感じているのは、地方の熱意です。と言うのも、山口壮大臣(編集部注:取材当時)のリーダーシップで、大臣、副大臣、政務官が環境省を挙げて「地域脱炭素ロードマップ」を掲げて、全国行脚したのですが、今や、地方の首長の皆さんもカーボンニュートラルに向けて「俺たち、何とかしなければいけない」と思ってくれていることが分かりました。
 「地域脱炭素ロードマップ」は、①一人ひとりが主体となって、今ある技術で取り組める②再エネなどの地域資源を最大限に活用することで実現できる③地域の経済活性化、地域課題の解決に貢献できる-などを主眼に、環境大臣が副議長として参加した国・地方脱炭素実現会議でまとめたビジョンなのですが、地方の首長はもちろん、地域の名だたる企業や金融機関の皆さんが、自分ごととして受け入れてくださいました。ですから、地方の皆さんの熱い意識やご期待に、われわれがしっかり応えていけることができるかが、次の課題だと認識しています。
 現在、全国行脚は、2周目に入りましたが、これからも実施していけば、必ず日本中の温度は上がってくると思います。そうなると、例えば、今まで付き合ったことのなかった市町村同士が手を組んだり、地域と大企業の新たな結び付きが生まれるかもしれません。われわれとしては、皆で、チームを組んで脱炭素に向かっていく新たな流れを期待しています。

プラスチック資源循環促進法の概要
プラスチック資源循環促進法の概要(出典:環境省):「3R+Renewable(再生可能性)」の概念が具現化されており、2022年4月から施行されている。
――酒井副所長は、循環型社会部会長も担っておられますが、地方におけるカーボンニュートラルの実現の可能性について、どのようにお考えですか。

酒井 先ほどの大岡副大臣のお話は、地域でのカーボンニュートラル実現という上で大変心強くお聞きしました。地域におけるカーボンニュートラル実現のヒントは、地域の中にあるわけですから、地域の担い手の皆さんが自分ごととしてカーボンニュートラルを捉えていくことが、まず何より重要だと思います。
 ここ4~5年の循環型社会部会においての大テーマが、「プラスチック資源循環促進法」の政策論議でした。プラスチック素材は、ほぼその大半が石油資源で作られていますので、ごみとなって地方自治体で焼却すると、CO2をそのまま発生させてしまいます。そこで、同法の中で打ち出したのが、「3R+Renewable」という概念です。3Rとは、2000年の循環基本法のときに出た「Reduce、Reuse、Recycle」という基本原則ですが、今回はこの基本原則に加えて「化石資源に依存しない、再生可能資源をベースにした中長期的な社会づくり」が必要だいうことで再生可能性(Renewable)という考え方を盛り込みました。22年4月から同法の施行がスタートしていますが、地域社会では、恐らくこれから取り組みが本格化していくでしょう。地域脱炭素ロードマップと併せ、環境省には同法の運用についてもリードしてもらって、ぜひ地域でのカーボンニュートラルを実現してもらいたいと願っています。

――三野社長、地域でのカーボンニュートラル実現という見地で、民間企業としてどのようなことに貢献されているのか、教えてください。

三野 では、地域でのカーボンニュートラル実現という視点で、当社の主力事業でもある「都市ごみ焼却発電施設」について説明します。当社は、国内で「都市ごみ焼却施設」を200施設以上建設(日立造船グループの国内の建設累積は496施設)しており、現在138施設が稼働し、うち81施設で発電を行い、約45万㌔㍗の発電能力があります。また、同施設からの電力を主とした小売電気事業も行っていまして、多くの地方自治体のCO2排出削減に貢献しています。

ごみ処理施設の納入実績
ごみ処理施設の納入実績(2022年4月1日)(出典:日立造船株式会社)

ごみを資源と考える発想で、カーボンニュートラルロードマップの策定を

みの・さだお:昭和32年生まれ、香川県出身。57年京都大学大学院工学研究科衛生工学専攻修了後、日立造船株式会社入社。平成23年執行役員、25年常務執行役員、27年常務取締役、29年代表取締役副社長、令和2年4月代表取締役社長兼COO、令和4 年4 月より現職。
みの・さだお:昭和32年生まれ、香川県出身。57年京都大学大学院工学研究科衛生工学専攻修了後、日立造船株式会社入社。平成23年執行役員、25年常務執行役員、27年常務取締役、29年代表取締役副社長、令和2年4月代表取締役社長兼COO、令和4 年4 月より現職。

――まさに地域に密着したエネルギーの地産地消事業と言えますね。具体的な事例を挙げていただけますか。

三野 例えば、静岡県御殿場市は「ゼロカーボンシティ」を提唱し、「富士山エコパーク 再資源化センター」に当社製のごみ焼却発電施設を納入しています。そこから発電された余剰電力を当社が買い取って、市内の小中学校や公共施設に電気を供給しています。年間約4000㌧のCO2削減に貢献できていると聞いています。都市ごみ以外では、バイオマス発電やバイオガスといった事業も推進しています。バイオマス発電は、茨城県常陸太田市で100%地域の未利用材を活用した発電施設を運営しています。地域の林業者の皆さんと良好な関係を構築し、おかげさまで地域内の未利用材を収集して順調に稼働しています。

大岡 林業者だけですか。公園の剪定(せんてい)木とか、そういうのもあれば面白いのではないでしょうか。

三野 今のところ、林業者や組合だけにとどまっています。一方、バイオガスは秋田県で食品廃棄物をメタン発酵させて、発電する仕組みで、当社のグループ会社の「ナチュラルエナジージャパン」(施設名:秋田バイオガス発電所)が運営していますが、こちらは当社の力不足もあり、原料となる廃棄物を計画通り集めきれていないのが現状で、事業としては残念ながら軌道に乗っていません。

大岡 それは規制の問題でもあったりするのでしょうか。

三野 一部はあるかもしれませんが、やはり食品廃棄物としては、かなりの部分が既にリサイクルされていることも関係しているのかもしれません。当初は、食品の廃棄物を幾らか入れるとか、あるいは地域の産業の残渣(ざんさ)となる食品廃棄物や、スーパーやコンビニなどで廃棄される弁当などを集めて1日50㌧くらいを集める計画でしたが、半分の25㌧くらいしか集まらないのが実情です。

大岡 給食とかも集めていますか。

三野 精一杯努力はしているのですが、(食品廃棄物のみを集める手間が増えるため)なかなか集めきれていません。

大岡 協力者がまだ少ないということでしょうか。集まりそうな気がしますけどね。秋田では唯一でしょう。

三野 そうですね。秋田では唯一だったかと思います。

大岡 今、私が三野社長に少々しつこく伺ったのは、ごみを資源と考える発想が重要ではないかと思いましてね。ひょっとしたら、ごみから燃料や、電気を創り出すという考え方は、非常に重要で、冒頭、岸田総理が掲げた「成長志向型カーボンプライシング構想」の中に盛り込みたいのは、こういう視点なんです。つまり、わが国がごみから燃料なり電気を創り出す技術をきちんと確立して、日本がトップに立つことができれば、世界中のごみが日本に集まるかもしれませんよね。
 同様に、今や世の中から仇(かたき)のように思われている石炭火力発電所の位置付けも変わる可能性があります。と言うのも、石炭火力発電所からは、濃いCO2が出てきますよね。他にも、製鉄所や化学コンビナートからも出てきます。もしかすると、CO2は、人工的な原油と呼ばれる「合成燃料」を作るための原材料になりますから、この濃いCO2が売れる時代が来るかもしれません。
 つまり、私は、それぐらいの発想の転換もあり得るということを視野に入れて、国民全体でカーボンニュートラルを捉えていくロードマップ、グランドデザインを共有すべきだと考えているわけです。

三野 大岡副大臣に説明いただいた「ごみを資源として捉える発想」は、まさにわれわれとしても非常に勇気付けられる思いです。実は、当社は都市ごみからのバイオエタノールの製造ということで、2008年に基礎調査を開始し、11年~12年ごろに、環境省の「環境研究総合推進費」の補助を受けて、1バッチ1トン規模の実証試験を行った経験があります。翌13~14年には、「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」において、1バッチ5トン規模の実証試験を京都で行いました。当時、「都市ごみからのエタノール製造技術」は、「都市油田」発掘プロジェクトとして大いに注目を集め、16年には「グッドデザイン賞」も受賞しました。ただ残念ながら具体的な事業化には至らなかったこともあり、「都市ごみからのエタノール製造技術」については、中断している状況ですが、場合によっては、また復活してくるのかなという期待も抱きました。今後の国の行方を注目していきたいですね。
合成燃料の開発イメージ
合成燃料の開発イメージ(出典:資源エネルギー庁):合成燃料は、水素とCO2 を合成して製造され、「人工的な原油」とも言われる。カーボンニュートラル時代には、航空機、自動車、船舶などの動力エネルギーは、全て合成燃料が用いられるとされ、各国が開発にしのぎを削っている。

「合成燃料」「SAF」の国産化を目標に

さかい・しんいち:昭和30年生まれ、兵庫県出身、59年京都大学大学院工学研究科博士課程修了、平成7年京都大学環境保全センター助教授、13年国立環境研究所循環型社会形成推進・廃棄物研究センター長、17年京都大学環境保全センター教授、22年環境保全センターセンター長、令和2年より現職。3年京都大学名誉教授。この間、環境省中央環境審議会循環型社会部会長などを務める。主な著書に「ゴミと化学物質」(岩波新書)、「循環型社会」(有斐閣)など。
さかい・しんいち:昭和30年生まれ、兵庫県出身、59年京都大学大学院工学研究科博士課程修了、平成7年京都大学環境保全センター助教授、13年国立環境研究所循環型社会形成推進・廃棄物研究センター長、17年京都大学環境保全センター教授、22年環境保全センターセンター長、令和2年より現職。3年京都大学名誉教授。この間、環境省中央環境審議会循環型社会部会長などを務める。主な著書に「ゴミと化学物質」(岩波新書)、「循環型社会」(有斐閣)など。

――改めて大岡副大臣が挙げられた「合成燃料」についても、議論しておきたいのですが・・・

大岡 「合成燃料」とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料と定義され、原料となる水素の製造過程でCO2が排出されることがないよう、再生可能エネルギー由来の電力で水電解を行ってH2を調達することが基本になります。わが国が、本当にカーボンニュートラルを実現しようとした場合、燃料、電力をどう解決していくかに尽きると言っても過言ではありません。なぜならば、電力だけでCO2排出量の半分ですから。プラス燃料となると、「合成燃料」を探し出せるかが最大のキーワードになります。

酒井 世界が目指している潮流は、化石エネルギーという有限の資源から再生可能な資源にシフトされつつあると言ってよいでしょう。そういう意味で、最も端的に表れている事例が、「合成燃料」であることは間違いありません。

大岡 ある意味、世界が最も関心を持ち、シビアな対応をしようとしているのが、「持続可能な航空燃料」(SAF=Sustainable Aviation Fuel)の分野です。と言うのも、航空業界の国際機関であるICAOは、2021年以降のCO2排出量を19年のCO2排出量(基準排出量)に抑えることを目標に据えており、航空会社はその目標を達成するためにCO2削減が急務になっており、SAFの導入が必須になっているからです。ただ、率直に申し上げて、この「SAF」の分野は、世界的な競争で言うと周回遅れ、いや2~3周遅れと言った方が正確かもしれません。

――「グリーンイノベーション基金」でも、合成燃料の創造に向けた研究開発が進められていますね。

大岡 ご指摘の通りです。特に「SAF」の分野ではさまざまなチャレンジが始まっていまして、例えば、コメやその他の穀物からエタノールを作り、燃料に変えるなどのユニークな技術開発が行われています。まずは、航空機の領域、「SAF」についての研究を行ってもらい、国産のバイオ、さらには合成化燃料の研究も同時並行的に進めてもらいたいと思います。そもそもわが国は世界最大・最強の自動車大国ですけれども、残念ながら燃料の国産化というところは十分にできていないので、規制緩和すべきは規制緩和し、政府が資金支援すべきは資金を応援してでも、世界の中でモビリティのあり方、社会の中で人を動かす、モノを動かすというビジョンまで何とか描ききりたいと考えています。

三野 当社も、合成メタン、メタネーションについては、1990年代から研究を進めていまして、現在はまだ実証試験レベルですけれども、その製造プロセスで、CO2を排出される事業者の皆さんや、ガス会社などからお声掛けいただき、実証レベルでの試験を受けて、納入をしている事例が増えてきています。合成メタンは、脱炭素といった価値だけではなく、安定供給できる国産燃料として、エネルギーセキュリティの面でも貢献していくことができるのではないかと思います。

酒井 大岡副大臣が提唱された「合成燃料」「SAF」を「国産化をしっかり視野に入れて展開すべし」というお考えについては、これまでわれわれアカデミアも十分に頭を切り替えることができなかったところです。まさに叱咤激励として謙虚に受け止めたいと思います。
 これまでの合成燃料をめぐる議論は、サトウキビやトウモロコシから製造されたバイオエタノールを日本に持ってきて、「その後、どうするか」という領域にとどまっていた印象があります。これまで進められてきたさまざまな技術、例えばナタネからのバイオディーゼル燃料(BDF)や廃食用油からのBDFなどを、再度、しっかりと力を入れて展開していく覚悟は持たないといけないでしょう。ごみに由来するものを有効に活用すること、加えて、国産化を目指すということが一丁目一番地になっていくのかなという気がしています。

求められる「政策のチカラ(力)」と「国民の理解」

日立造船が神奈川県小田原市で実証している清掃工場から排出されるCO2をメタン化する事業(出典:日立造船株式会社)
日立造船が神奈川県小田原市で実証している清掃工場から排出されるCO2をメタン化する事業(出典:日立造船株式会社)

――大岡副大臣、これまでのご説明を伺っていますと、「成長志向型カーボンプライシング構想」をビジョンとしてどうまとめていくのか、並々ならぬ決意を感じますが、ポイントはどこにあると考えればよいのでしょうか。

大岡 ポイントは、大きく二つあると思っています。一つ目は、「政策のチカラ(力)」ですね。具体的には、税だったり、負担金、規制強化あるいは規制緩和といった政策の力をもっと積極的に発揮していくことですね、もう一つが、「国民の理解」です。政府ですから、私たちが責任を持って、国民にしっかり呼び掛け、理解してもらうことがすごく重要になります。

――なるほど。

大岡 まず一つ目の「政策の力」、あるいはダイナミズムをもっと強化するというのは、例えば、これまで、ごみからエタノールを作ったけれど、思ったようにうまく行かなかったというのは、世の中で普通に売られているエタノールと「同じ値段にしろ」と要求されるから、できないわけですよね。合成燃料も同じなんですよ。穴を掘って出てきた石油と同じ値段で「合成燃料を作れ」と言われるからできないんですよね。これは、まさに政策の力だったり、税などの力によって、同じ値段にしてしまうことは当然できるわけです。穴を掘って出てくる石油に税金をかけて、合成燃料には税金をかけなければよいですし、あるいは、穴を掘って出てくる石油は、全部輸入ですから、輸入に割り当てを決めてしまって、ある一定以上、入って来なくすればよいわけです。つまり、政策の力で幾らでも調整が効くわけですね。

――実際に「政策の力」が発揮できれば素晴らしいと思います。

大岡 そのためには、「政策の力」によって、トップランナーをきちんと育て、トップランナーがイノベーションをもたらせるようにしていくことが肝要だと思います。例えば、こうした思い切ったことを本当に実行しようとすると、「業界の意向」という別の力が働いてくる場合があります。こうした「業界の意向」に忖度している余裕や時間は、今の日本には残されていないのではないでしょうか。

――もう一つ、「国民の理解」についてはいかがでしょうか。

大岡 これは簡単に言うと、場合によっては高いものでは買ってもらわないといけないということなんですよ。例えば、CO2排出ゼロで作った合成ガソリンが300円、アラブの穴を掘って出てきたガソリンが200円だったら、300円の方を買ってもらえるかどうかなんですね、勝負は。もちろん、税でもって300円にそろえるというのも、方法論の一つですけれども、同時に国民が、この負担を受け入れてくれるという理解が得られるかどうかが大きいわけです。
 例えば、合成燃料でSAFを作ると仮定すると、サーチャージが1万円単位になる可能性があります。それでも、やはり飛行機に乗るんだったら、サーチャージを払ってでも合成燃料を使ってもらおうと言えるかどうか。特に企業の出張だったら、カーボンニュートラルの燃料を使っている航空会社が10万円、カーボンニュートラルではない地中から出てきた石油を使っている航空会社が5万円だとしたら、例えばうちの会社としてはどちらを選択するかということなのです。国民の皆さんが、「それだったら10万の飛行機に乗ろう」と言ってくれるような、そういう社会を作れるかどうかが大きなポイントになるでしょう。ただし、国民に呼びかけるのは、政治の仕事なので、私たち国会議員がその責任を十分果たせるかどうかが最大のポイントだと思っています。

三野 私たち、企業としても、当然、事業の方針、経営戦略などの中に脱炭素や、カーボンニュートラルの視点をどんどん組み込んでいき、新たな世の中を創っていくことに積極的に貢献することが求められていると思います。大岡副大臣の力強い説明を伺って、ぜひご協力させていただきたいと思います。

酒井 私も、極めて心強く聞かせていただきました。特に、1点目の「政策の力」が重要になるという考え方は全くその通りだと思います。私もここ1年ほど、環境省の環境再生・資源循環局が策定した「廃棄物・資源循環分野における温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ」の策定に関わったのですが、ごみ分野の焼却などで発生しているCO2の削減については、技術と政策次第でネットゼロで可能であるという結論に至ったわけです。
 去年の8月に、中環審の循環部会で公表していただいていますが、その経験からすると、しっかりとした政策を裏づける解析、あるいはわれわれであれば研究になりますが、そういうサイエンスベースの政策にかじを切っていただいています。科学的裏付けのあるしっかりとした政策サポートがますます重要になるのではないかと思います。

大阪市で実証されている小規模廃棄物処理での発電技術
大阪市で実証されている小規模廃棄物処理での発電技術(出典:日立造船株式会社)

世界のトップランナーを育てるという視点

「廃棄物資源循環学会」が発刊している「廃棄物資源循環学会誌」
「廃棄物資源循環学会」が発刊している「廃棄物資源循環学会誌」

大岡 皆さん、ありがとうございます。私からもよいですか。先ほど三野社長のお話の中にメタネーションに関する説明がありましたが、これは、環境省が進めている「二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環モデル」のことでしょうか。

三野 はい。神奈川県小田原市の協力を得て、市のごみ焼却排ガスからCO2を分離・回収して、水素と反応させて、天然ガスの代替となるメタンを創る実証事業を推進しています。廃棄物を焼却すると、CO2が出ますけれども、新たにメタン製造といったような新しい価値を生み出すと同時に、脱炭素化にも貢献できる世界初の試みとなります。

酒井 まさに、メタネーションやガス化改質技術は、間違いなく将来のわが国の炭素循環の基盤技術になる見込みがある技術と言えるでしょう。一方、ごみは、塩素のような成分を含み、それに由来する塩化水素のような微量成分がメタネーションに関係するなど、相当にチャレンジングで難しい技術であるということも事実です。こうした困難なものにチャレンジされているということが重要なポイントだと思います。

大岡 最終的に、日本国民がどうやって食べている国かと言うと、これはまさに、技術とそれを支える人たちによって成り立っているわけですね。ですからこの技術を磨き続けるということはすごく重要だし、大事なことだと思います。

三野 もう一つ、当社は、環境省からの事業を受託していまして、小規模な処理施設でも発電が可能になる仕組みで、ガス化と改質を一体にした非常にコンパクトな、キルンタイプの熱分解ガス改質炉の技術開発の実証事業を大阪市で実施しています。現在、中規模程度の焼却炉であれば、ほとんど全ての施設で発電できるようにはなってきていますが、例えば、島嶼(しょ)部などにある小規模な廃棄物処理施設では、費用対効果の面もあり、なかなか発電までは実装できなかったわけです。これがうまくいけば、電力の地産地消や、エネルギーの有効利用などにも貢献できると見ています。

酒井 このガス化改質技術については、日本がかつてごみ焼却のダイオキシン問題で苦しんだときに、ごみを溶かして高温でスラグにする技術開発を進められたときに生まれたものなのです。これも、原形の相当多くの部分は、欧州にある技術と言えるわけですが、欧州企業の場合は、途中で断念されたケースがほとんどです。従って、実機で動かして、コマーシャルベースで動かしたという実績という意味では、日本が誇るべき領域と言えるでしょう。今回、日立造船をはじめ、日本のトップ企業がチャレンジされていますので、これはぜひ成功させて、まさに世界のトップランナーとしての地歩を固めてもらいたいと思います。

大岡 国土強靱化という意味でも大きいですよね。

酒井 今回、議論の軸となっている「廃棄物・資源循環分野」とは、日本がモノづくりで発展してきた中で、ライフスタイルからさまざまな技術革新を確立できる領域と言えるでしょう。今後、世界の人々の生活の質を高めていく上では、必須の技術と言え、この領域から、トップランナーを出し続けていくことは、わが国にとっても非常に意義のあることだと思います。今回、私は、「廃棄物資源循環学会」というアカデミアの立場から、この座談会に登壇させていただきましたが、今後もわが国の循環政策や廃棄物管理の政策づくりに貢献したいと考えています。

三野 カーボンニュートラルの実現は、人類共通の課題でもありますので、自分たちに何ができるのか、着実に行動に生かしていくことが何より重要だと思っています。当社は、提供できるサービスや製品を通じ、脱炭素化に貢献していくと同時に、定量的に事業活動におけるCO2排出状況などを把握し、情報発信も行っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

大岡 カーボンニュートラル時代は、わが国の技術の粋を集めて世界に打って出るまたとないチャンスだと言えるでしょう。まさしく「ピンチではなく、チャンスと捉える」発想が、今の日本には何より重要です。そのためにも、われわれがカーボンニュートラル時代に向けてのビジョンを、国民の皆さんにお示しし、民間企業をはじめ、アカデミア、あるいは地域の皆さんに共感していただき、さらに大きなビジョンにしていく必要があります。今回の座談会のテーマとなった「廃棄物・資源循環分野」も必ず、このビジョンの大きな柱になるはずですから、できるだけ早期に策定し、皆さんに提示できるように全力を尽くしたいと思います。

――皆さん、今回はありがとうございました。

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