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国土強靱化の観点からわが国のエネルギー政策を展望する

世界初の国際的な水素サプライチェーンを構築

二階俊博(にかい・としひろ):昭和14年生まれ、和歌山県出身。中央大学法学部卒業後、50年より和歌山県議会議員(2期)。58年衆議院議員に当選し、以後当選13回。平成2年運輸政務次官(海部内閣)、5年運輸政務次官(細川内閣)、11年運輸大臣・北海道開発庁長官(小渕・森内閣)、17年経済産業大臣(小泉内閣)、18年自民党国会対策委員長、19年自民党総務会長、20年経済産業大臣(福田内閣・麻生内閣)。26年総務会長、28年幹事長(通算在職日数1885日日、歴代最長)。国土強靱化本部長は2016年より務める。
二階俊博(にかい・としひろ):昭和14年生まれ、和歌山県出身。中央大学法学部卒業後、50年より和歌山県議会議員(2期)。58年衆議院議員に当選し、以後当選13回。平成2年運輸政務次官(海部内閣)、5年運輸政務次官(細川内閣)、11年運輸大臣・北海道開発庁長官(小渕・森内閣)、17年経済産業大臣(小泉内閣)、18年自民党国会対策委員長、19年自民党総務会長、20年経済産業大臣(福田内閣・麻生内閣)。26年総務会長、28年幹事長(通算在職日数1885日日、歴代最長)。国土強靱化本部長は2016年より務める。

柏木 では、改めて金花会長に伺いますが、貴社の水素に対する取り組み状況を教えてください。

金花 当社が水素に本格的に取り組んだのは、30年以上前に、種子島宇宙センターのロケット基地で、ロケットの燃料の貯蔵・供給設備に取り組んだのが発端です。ロケットの燃料というのは液化水素なんですね。液化水素は、マイナス253℃になりますので、かなり扱いにくいものなんですが、ロケットに充填する前に貯蔵しておくタンクを当社が製造し、言わばロケットを動かすエネルギーシステムを手掛けていたわけです。

それから15年くらい研究を続け、先ほどから議論に上っている「脱炭素」というキーワードが世の中に出てくる前から「これからは水素の時代だ」ということで、サプライチェーンを構築する計画を作りました。

柏木 日本の神戸とオーストラリア・ビクトリア州ラトローブバレーの褐炭水素製造プラントを結ぶ、世界初の国際的な水素サプライチェーンですね。

金花 はい。前回の鼎談の際は、イメージ図として神戸の受け入れ基地と、水素を船で運ぶイメージ図をお示ししましたが、おかげさまでプラントと液化水素運搬船は無事完成し、昨年6月に二階議員にも神戸の荷揚げ基地を視察いただきました。昨年12月には、液化水素運搬船が神戸港を出港し、今年1月にオーストラリアのヘイスティングスに到着。褐炭から作られた液化水素を船に積み込み、2月25日に神戸港に再度入港して、実際積んできた液化水素を、神戸の基地に揚げ荷したわけです。

柏木 つまり水素を大量に持ってくることができる方法論が確立されたということで、これは単に貴社のみならず、わが国にとっても意義深いことだと思います。いよいよ本格的な水素社会到来と言ってもよいわけですから。

金花 実は、昨年12月に神戸からオーストラリアに行くときにも液化水素を大量に積んでいたんです。航海上、液化水素を船に積んで運ぶのは世界で初めてですから、設計通りに船が機能するかどうかをさまざまな視点からセンサーを付けて、測定しながらオーストラリアに行って、神戸にも帰って来るということをテストしたわけです。帰ってきて液化水素運搬船のデータを見ると、設計通りに仕上がっていることが分かり、安堵しました。

二階 大成功ですね。

金花 ありがとうございます。全くのハプニングなのですが、航海途中でトンガの海底火山爆発にも遭遇したようです。何とか、無事に通過し、性能通りということが確認できました。ただ、今回ご説明した液化水素運搬船は比較的小型のもので、この130倍くらいの規模の船を2026年には完成させて、荷上げ基地も相応の大きな基地を整備していく計画です。

日本にとって、カーボンニュートラルは、チャンス。2兆円グリーンイノベーション基金を活用し、脱炭素社会の実現を

柏木孝夫(かしわぎ・たかお):昭和21年生まれ、東京都出身。45年東京工業大学工学部卒業、54年博士号取得。55年米国商務省NBS招聘研究員。63年東京農工大学教授、平成19年東京工業大学統合研究院教授、23年先進国際研究センター長、24年より現職。25年東京都市大学教授。経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会長ほか政府委員など多数務める。令和4年より東京工業大学ゼロカーボンエネルギー研究所顧問。
柏木孝夫(かしわぎ・たかお):昭和21年生まれ、東京都出身。45年東京工業大学工学部卒業、54年博士号取得。55年米国商務省NBS招聘研究員。63年東京農工大学教授、平成19年東京工業大学統合研究院教授、23年先進国際研究センター長、24年より現職。25年東京都市大学教授。経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会長ほか政府委員など多数務める。令和4年より東京工業大学ゼロカーボンエネルギー研究所顧問。

柏木 今の金花会長のお話を聞いて、2026年が待ち遠しいですね。一方、私は、こうした民間企業の積極的な投資には、政府による積極的な支援策も大きいと思います。先述した菅前総理による「2050年カーボンニュートラル宣言」後、経済産業省が脱炭素社会の実現に向けて民間企業の研究開発を支援する2兆円基金(グリーンイノベーション基金)を発表しました。これは、当然政治レベルでもサポートされているわけでしょう。

二階 はい。2兆円基金に関しては、最終的に成長戦略14分野に支援していくことになりましたが、日本がどれだけ技術を持っていてもエネルギーがなければ対応できないわけですからね。非常に大事だと考えました。

柏木 14分野のうち、エネルギー構造転換の筆頭に水素へ3700億円配分されたというのは非常に大きな成果だと言えるのではないでしょうか。

金花 われわれも非常にありがたいことだと思っています。グリーンイノベーション基金によって、水素関連のさまざまな支援、例えば航空機に使うエンジンなど水素関連のさまざまな研究開発にも支援いただく予定で大変助かっています。

柏木 今、金花会長がおっしゃった航空機用エンジンの需要については、今後の日本にとって非常に重要なテーマだと言えるので、少し議論を掘り下げてみたいと思います。

そもそも、水素には、概念上、色がついた分類がされています。例えば再生可能エネルギーの電力で水電解するような水素は、グリーン水素と呼ばれています。グリーン水素は、CO2を排出させることなく、水素を製造することができます。天然ガスや石炭などの化石燃料を、蒸気メタン改質や自動熱分解によって水素とCO2に分解し、分解されたCO2を大気排出する前に回収する方法をブルー水素と呼びます。先ほど、金花会長が説明された褐炭から取り出した水素の場合、製造時に、CO2が副生されます。これをオーストラリアのプラント内で分離・回収して現地に貯留されると聞いています。これに対して、副生CO2が大気に出されるとグレー水素に分類されます。それからフランスなどでは実際に行われていますが、原子力が余った場合、原子力はCO2フリーですから、それで作られた水素はパープル水素と呼称されています。

つまり、こうしたCO2フリーの水素を2兆円ファンドによって、川崎重工業のような民間企業が国際ループを作る足掛かりに、水素をさらに安いコストで入手し、排出されるCO2を上手く取って、水素と化学反応させれば、e-fuelという合成燃料が製造できる可能性が広がります。今後の航空機燃料は、e-fuelが主流になると考えられるため、e-fuelの開発は、わが国の大きな成長戦略の柱になる可能性があるわけです。これまで日本は、化石燃料については、必然的に輸入に頼らざるを得なかったわけですが、e-fuel開発で先行すれば、ひょっとするとエネルギー輸出国になる可能性もある・・・。

二階 私は、エネルギーの道筋がつけば、日本の将来は開けると考えています。世界を見渡すと、今、ロシアとウクライナの問題もあり、エネルギー源の確保という意味では難しいことになっていますが、逆に言えば、日本としてはチャンスですよね。世界を広く見て、さまざまな国や地域と交流が円滑にいくよう最大限の努力をする。さらに、他の国々がこの日本に期待してくれているものを精査し、技術によって開発していく、ここにわが国の活路があるのではないでしょうか。

柏木 これまで日本は、化石燃料については、必然的に輸入に頼らざるを得なかったわけですが、e-fuel開発で先行すれば、ひょっとするとエネルギー輸出国になる可能性もあるわけですから、夢が膨らむ非常に大きな話ですね。

二階 大変なことですよ。

柏木 金花会長は、こうした考え方についてどのようなお考えをお持ちですか。

金花 まさに当社は、グリーンイノベーション基金でご支援いただいて、液化水素を航空機に積んで、実際に飛ばすという研究を実施していますが、水素の場合、体積当たりの熱量がガソリンに比べると、4分の1しかないわけです。つまり、同じ距離を飛ばそうとすると、今の燃料の4倍水素を積まなければならないという技術課題があります。技術革新によって、どこまで行けるかまだ分かりませんが、現実問題として、100人以下クラスの中型、小型の飛行機であれば「何とか水素で飛ばせるかな」というところまで持っていきたいというのが実感です。ただ、現在のような何百人乗りの大きな飛行機を飛ばすということになりますと、先ほど柏木先生がご指摘されたe-fuelのような合成燃料が必要になってくるでしょう。もし、e-fuelが外からの水素を使って、国内で作ることができれば、日本にとっても非常に大きいと思います。

二階 川崎重工業のような立派な企業には、素晴らしい研究者、技術者の皆さんがたくさんおられるわけですよ。こうした民間企業に対し、しっかり予算や融資などが付くように、政治もしっかりとバックアップしていく。もちろん、川重一社の応援をするということではなく、イノベーションをしっかり進めておられる民間企業を全面バックアップしていきたいと考えています。そもそもわが国は、基礎的な原料や資源はなくても、むしろそうした資源に恵まれなかったからこそ、みんなで知恵を働かせてここまで頑張ってきたわけです。ですから、私から企業の皆様に申し上げたいのは、ぜひ、カーボンニュートラルをチャンスと捉えていただきたいと心から願っていますし、日本の企業の皆さんであれば必ずやり遂げていただけると確信しています。

国土強靱化の観点から水素の利活用を考える

金花芳則(かねはな・よしのり):昭和29年生まれ、兵庫県出身。大阪大学基礎工学部卒業後、51年川崎重工業㈱入社。平成19年車両カンパニープロジェクト本部長、21年執行役員、23年常務執行役員、24年常務取締役マーケティング本部長、25年代表取締役常務車両カンパニープレジデント、28年代表取締役副社長、30年代表取締役社長執行役員CEO、令和2年代表取締役会長、令和3年6月より現職。
金花芳則(かねはな・よしのり):昭和29年生まれ、兵庫県出身。大阪大学基礎工学部卒業後、51年川崎重工業㈱入社。平成19年車両カンパニープロジェクト本部長、21年執行役員、23年常務執行役員、24年常務取締役マーケティング本部長、25年代表取締役常務車両カンパニープレジデント、28年代表取締役副社長、30年代表取締役社長執行役員CEO、令和2年代表取締役会長、令和3年6月より現職。

柏木 では、この辺りで国土強靱化の観点からの水素の利活用について議論を掘り下げたいと思います。カーボンニュートラルが世界的な潮流となった背景の一つに、地球温暖化による異常気象が挙げられます。先ほど、地震の事例を紹介しましたが、台風も毎年のように日本列島を襲い、かなり厳しい状況になっていると言えるでしょう。

よく取り上げられる成功事例が、2019年9月に千葉県域を襲った「令和元年房総半島台風」(房総半島台風)における千葉県睦沢町のコジェネレーション(熱電併給)システムを活用した「むつざわウエルネスタウン」のケースです。当時、房総台風は、中心気圧960ヘクトパスカル、最大風速は40㍍で、大規模な停電被害を千葉県全域にもたらしました。同県では、電気の全面復旧まで、2週間以上を要する非常事態を余儀なくされましたが、完全停電を免れたのが「むつざわウエルネスタウン」でした。建物の中には、地元産出の天然ガスを燃料にしたコージェネレーションシステムが入っており、道の駅や隣接する町営住宅に電気供給を行うことができたそうです。道の駅には、温浴施設が併設され、発災当時お風呂に入れない千人以上の被災者へのシャワー提供や携帯電話の充電なども実施。地域の防災拠点としての役割を立派に果たしました。つまり、睦沢町では、他の地域が停電しても電気とお風呂やシャワーにも入れる、と。また、水素で電気と熱を供給する家庭用燃料電池「エネファーム」も同じように、停電時に自立運転機能で照明や冷蔵庫、お風呂などが利用できた事例もあります。こういったことも強靱化だと思うのです。

二階 その通りです。

柏木 「第6次エネルギー基本計画」においても、大規模型電源と分散型電源が共存することで、強靱なエネルギーの需給構造に結び付くと考えられていまして、ここで水素の利活用が大きくクローズアップされてきます。つまり、再生可能エネルギーは、平時に「Power to Gas」という形で水素に変えておけば、カーボンニュートラルを維持しながら、「いざ」というときには強靱化に資するということになってくるというわけですね。

二階 エネルギーの強靱化に関しては、水素の有効活用が極めて重要視されるべきだと考えています。前述の議論の通り、日本はこれまでのところ、エネルギーに関しては厳しい状況のため、国民の英知を結集してエネルギー新時代を構築していくという考え方は頼もしい限りで、政府が全面的にバックアップしていくという姿勢が必要でしょう。

柏木 金花会長、貴社は、水素を活用して発電する取り組みを神戸市と進めておられますが、ぜひ説明してください。

金花 当社はガスタービン発電機については、以前から製造していたこともあり、その燃料として水素が使えないかという点については、ずっと研究していました。2018年に神戸市のポートアイランドに、世界初の100%水素で回せる1000kWクラスの発電システムが完成し、神戸市と大林組、関西電力との共同事業として、稼働しています。電気と熱が出ますので、近隣のスポーツセンターや病院に供給するプロジェクトも実施中です。

柏木 水素を活用することで、CO2の排出を従来の2割以上削減できますし、地域電源としての役割もきちんと担っている、と。一方、水素は燃焼速度が速いので、ご苦労も多いのではありませんか。

金花 ご指摘の通り、水素の燃焼速度は、一般の都市ガスの7倍になりますので、燃えやすく、燃焼器の部分がすぐに高温になるため、温度を下げるのに、当初は水を噴射していました。ただ、水で冷やすと効率が落ちますので、現在は水を使わず、完全ドライ型の燃焼器を用いています。

二階 発電システムは、ポートアイランドのどの辺りに設置されているのですか。

金花 設置場所はポートアイランドのまち中で、近くには住宅や学校があります。海外からの視察者から「よくこんなまち中に水素発電システムが造れましたね」と質問を受けることも多いですね。

柏木 ポートアイランドの横にある施設ですよね。私も見ました。

金花 実は、神戸市が住民説明会を何回も実施していただき、住民の皆さんのご理解を得ていただいたことが非常に大きかったと感謝しています。神戸の皆さんは、進取の気性に富むこともあって、世界初のこのプロジェクトに対し好意的に見守っていただいているという状況です。

柏木 まち中に発電システムができるというのは、非常に画期的なことです。これまで。私は、都市とエネルギーが一体化した開発をすべきだと提唱してきました。と言いますのも、現在、世界の人口は、78億7500万人(2021年現在)に上り、50年になると97~98億人に達すると予測されています。この勢いで人口が増えると、エネルギーの消費増大につながりますので、都市をスマート化させてエネルギーの消費を抑えていく必要があります。

一方、先ほどご紹介した睦沢町の事例同様、災害にも備えておかねばなりません。例え、停電しても水素発電があるところは大丈夫ということになりますから、神戸市のプロジェクトは、平時は都市のスマート化、災害時には強靱化として活用できるこれからの都市の在り方を具現化していると言えるでしょう。

金花 今後、当社は、ドイツ最大手の電力会社、RWEと一緒になって、ポートアイランドよりも大型の30メガクラスの100%水素発電システムを整備していく計画を進めています。

JR東日本が開発した水素燃料電池車「HYBARI」(ひばり)の水素供給システムを提供

柏木 冒頭、川崎重工業での水素の研究は、種子島のロケット開発が発端だったと説明していただきましたが、水素の利活用という面では、モビリティなどの輸送手段が最もポピュラーかもしれませんね。中でも、水素を利活用した輸送手段としては、燃料電池自動車(FCV)が一般的になっています。

ただ、6年前の鼎談のときに、二階議員は、既にトヨタの「MIRAI」に乗って来られたので、私はびっくりしたんですよ。まだ、ほとんど市中にFCVは走行していないときでしたから。

二階 よく覚えていますよ。あれは、われわれのささやかな激励のつもりで、乗ってきたわけです。

柏木 今は、日本でも「MIRAI」をはじめ、段々と市中でもFCVを見る機会が増えてきました。ただ、バスやトラックなど中大型商用車のFCVの方が水素をより多く使うため、水素需要のけん引役とも言われていますが、この分野は、中国に大きく後れをとっています。

二階 中国も、中国なりに努力していますよね。現在のユーザーの大部分は、地方政府や公営事業者と言われています。つまり、地域の新産業として水素・FCVを振興させたい地方政府が、主に公共サービス用のバスやトラックを購入して、需要を作り出しているわけです。われわれも、常にそういう世界の動きに負けないようにしなければなりません。

柏木 と言うことは、乗用車だけではなくて、バスやトラックにも力を入れていく、と。

二階 そういうことです。国がしっかりと目標を掲げていけば、自ずと民間投資もついてくるのではないでしょうか。

柏木 金花会長、貴社は、輸送に関しては、陸海空とやっておられますから、「何でもあり」でしょう(笑)。ロケット、船、航空機については既にお話を伺いましたが、そのほかの輸送手段についてはいかがでしょうか。

金花 最近のトピックスとしては、鉄道ですね。実際、鉄道会社はディーゼルエンジンを積んだ車両を多数保有しており、CO2フリーを達成するためには、今後ディーゼル車を置き換えていかねばなりません。そこで、JR東日本が「HYBARI」(ひばり)という水素燃料電池車を開発して、実証実験をスタートさせているのですが、実は「HYBARI」の水素供給システムを当社が担当しています。

柏木 特に、地方鉄道の場合、架線は保守が必要なので、幹線以外は電化されず、地力で走行できるディーゼル車が重宝されてきたという事情があります。しかし、皮肉なことに自力で走行しているディーゼル車は、CO2出しまくりの状態になっている、と。今後は「HYBARI」のような燃料電池を積んだ車両が求められるでしょう。

金花 ご指摘の通り、その先駆けとなるのが「HYBARI」なんですね。これから、日本でこのタイプの鉄道車両が増えていくと見ています。

柏木 これは、電線が要らないわけですから、強靱化にも役立ちますね。

金花 はい。

二階 大革命ですね。

柏木 その通りです。電車だと、パンタグラフだけでも、1回でボロボロになってしまいますよね。だから保守にコストが掛かる。

金花 例えば、小型乗用車の場合、電気自動車(EV)が増えていますけれど、やはりバッテリーの場合、走行距離の限界がどうしても出てきます。ですから、先ほど話題に上ったバスやトラックといった中大型商用車や鉄道のディーゼル車などは、将来的に液化水素を積んで、燃料電池で走らせるといったタイプのものが今後増えてくるのではないでしょうか。

柏木 まさに鉄道については、貴社のお家芸という印象ですが、海外でもさまざまなプロジェクトを推進されているのでしょうか。

金花 例えばバングラデシュの首都・ダッカで、地下鉄6号線、144両の車両を受注しています。地下鉄6号線は、今年12月には、部分開業し、23年4月には車両を全て納入、年末には全線開業する予定です。ダッカでは、6号線の次に1号線、5号線というように、地下鉄のプロジェクトが次々と計画されていますので、できればこうしたプロジェクトを受注していきたいと考えています。

柏木 今後、アジアの都市化が進むと、自ずとCO2排出は増えることになります。こうしたアジア各都市の鉄道化にもカーボンニュートラルの視点が欠かせませんね。

金花 東南アジアの場合、現地に行かれたら一目瞭然なのですが、道路が非常に混んで渋滞しています。つまり、車での移動がなかなか大変なので、地下鉄の方が移動しやすくなりますし、車に比べると、10分の1ぐらいのCO2排出量で済むことになります。恐らく将来的には、水素・燃料電池の車両に置き換わり、CO2排出ゼロが実現していくのではないかと思います。

柏木 アジアの都市化のスピードは、ものすごい勢いですし、わが国のインフラ輸出は、

先ほど話題に上がった水素を使った発電システムや鉄道など、インフラ全体、できれば都市輸出ということまで戦略的に考えておく必要があるのではないでしょうか。

二階 パッケージにしてね。

柏木 日本がこれから成長戦略としてアジアの中でどういう考え方で主導権を持っていくかということにも関わると思うのですが、いかがでしょうか。

二階 やはり、世界は今後こうあるべきだというものを、日本の考えに基づいて示すべきでしょうね。水素社会の実現によって、国際的な信頼が培えるわけですから、政治はその実現に向けて全力を注ぐべきだと思っています。

水素社会実現を目指し、国際間の規格や基準の統一が課題に

柏木 最後に、脱炭素化に向けての国際的な動きについても議論しておきましょう。中国やアジアの動きについては、先ほど少し議論に上りましたが、金花会長は、民間企業として対応されていることはありますか。

金花 2017年に、「水素をもっと世界に広げよう」という趣旨で、スイスのダボスで「Hydrogen
Council」(水素協議会)という民間組織が産声を上げ、世界で13社のCEOが集まりました。日本からは、当社とトヨタ自動車と本田技研工業がメンバーとして参加しました。設立当初は、燃料電池車を広げていくという目標があったこともあり、韓国のヒュンダイやドイツのメルセデスなどの自動車メーカーと、ガス関連のエア・リキードなどで構成されていました。ところが、今や世界中の名だたる大企業、金融関係、エネルギー関連、メーカーなど134社に広がりました。

二階 これは、多くのグローバル企業が水素社会の実現を期待している証左と言えますね。

金花 今年から私が「Hydrogen Council」の共同議長を拝命し、各国政府に水素社会の実現を働きかけるなど積極的な活動を行っています。

柏木 現在、「Hydrogen Council」で上がっているテーマはどんなことでしょうか。

金花 例えば、これから世界中で水素が使われだすと、基準とか、規格を統一していかなければならないという新たな課題が浮き彫りになっています。例えば、Aの国からBの国に水素を持っていくのに、そこで受け入れの基準や規格が違うということになると、国際問題になります。

柏木 確かに、日本の場合、携帯電話にしろ、日本発の技術を結構持っていたにも関わらず、国際規格を押さえに行くところでビハインドになってしまって、結局、海外に負けてしまったという事例がよくありますからね。

金花 今回は、政府、経済産業省も含めて、水素に関しては国際規格、標準を押さえにいかなければならないということで、先ほどご説明した水素運搬船の国際海事機関の規格は日本主導で取得することができました。当然ながら、現在、設計している大型の水素運搬船の国際規格も日本発で押さえていきたい、と。今後はこうした視点が非常に重要になってくると考えています。

柏木 規格の重要性というのは、なかなか日本独自だけでは行かないことも多いですよね。例えば、日米の同盟国で組んでいくようなスキームも重要なんでしょうか。

金花 一般的に、こうした規格は全部欧州主導で決められていますから、欧州が強いです。

しかしながら水素に関しては、日本が主導権を持ってやっていきたい、と。

柏木 これはやはり、国として水素社会の実現ということを意識して、産業振興の面や強靭化の観点から多面的に水素をバックアップしていく必要がありますね。

二階 今回、改めてお話を伺い、水素社会の実現がこれからの日本の新しい時代を切り拓く活路だという意識を強く持ちました。そういう意味では、官民一体になって、水素社会を実現していく決意と努力が必要で、われわれ政治も強くサポートしていきたいと思います。

柏木 まだまだお話は尽きませんが、誌面にも限りがありますので、今回の鼎談はこのくらいで終了したいと思います。皆さん、ありがとうございました。

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