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【森信茂樹・霞が関の核心】 総務事務次官 内藤 尚志氏

最優先課題は、人口減対応に向けた地方行政のデジタル化推進

ないとう ひさし/昭和36年11月1日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。59年自治省入省、平成27年総務省大臣官房審議官(財政制度・財務担当)、28年内閣官房内閣審議官、29年総務省自治税務局長、令和元年自治財政局長、3年消防庁長官、4年総務審議官(自治行政)、5年7月より現職。
ないとう ひさし/昭和36年11月1日生まれ、長野県出身。東京大学法学部卒業。59年自治省入省、平成27年総務省大臣官房審議官(財政制度・財務担当)、28年内閣官房内閣審議官、29年総務省自治税務局長、令和元年自治財政局長、3年消防庁長官、4年総務審議官(自治行政)、5年7月より現職。


 少子化人口減の進行はわが国、特に地方において影響が懸念される。その課題の一つが、行政サービスの低下だ。これを解決するために国と地方は一丸となり、さまざまな分野においてデジタル化にまい進している。
 デジタル化は税の分野で先行しており、自治行政の税務に精通する内藤次官は、さらなる進展に手応えを感じている。マイナンバーカードの普及と有効活用も引き続き重要なテーマとして位置付けられる。広範な総務行政のうち、今回はこれらのテーマに絞り、解説してもらった。


課題解決の一丁目一番地として

森信 現在わが国が抱える最重要課題として、少子高齢化・人口減への対応があります。自治行政を擁する総務省として、この問題の現状をどのように概括しておられるでしょうか。

内藤 4月下旬に人口戦略会議から消滅可能性都市についての発表がありましたが、それに先立つ昨年12月に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が2050年時点で総人口1億500万人という人口推計を発表し、高い関心を集めました。2050年と聞くと遠い将来のように思えますが、実は総務省で昨年7月に取りまとめた住民基本台帳に基づく都道府県別の人口増減では日本人住民は全ての都道府県でマイナスとなっており、外国人住民を加えても東京都のみがプラスで他はマイナスです。しかも地方部ほど減少幅が大きくなっています。地方では既に直面する課題になっている、と言っても過言ではありません。また、高齢化や核家族化、意識の多様化などにより、ますます自治体に求められる行政需要のニーズは高まっています。

 従って、この人口減という課題解決に向けて今から取り組むと同時に、地方における行政サービスの維持や住民利便性の向上を図るという課題にも対応していく必要があります。この二つの課題を解決する一丁目一番地が、地域のデジタル化です。デジタル化と聞くと、ともすると行政の効率化が主目的と受け止められる向きもありますが、効率化と同時に行政サービスの維持や住民利便性向上の両立にも資する有効な方策だと私たちは認識しています。

森信 行政手続きにおいて、マイナンバーカードを利用した本人確認をLINE上で行うことが可能になり、保育園探しから入園申請、入園後の転園申請や現況届まで、役所に出向くことなくできる自治体が増えてきました。

内藤 地方公務員の確保も年々難しくなっていく中で、職員に十分活躍してもらい行政の質を高めるためには、機械やシステムができることはそれらに委ね、相談や訪問、政策立案など、人でなければできない仕事に十分な時間と労力を投入すべきです。そのためには現在の仕事を検証して自治体DXをどんどん進めていく必要があります。

 とある自治体で調査したところ、市の業務のうち申請受付や確認、書類入力等が全体量の約半分を占めていることが判明、そこで住民からの申請などはネット化して自宅や郵便局からも申請可能とするなど、市役所に出向かねば申請できないという状況を改善しました。住民からは申請のツールが増えて利便性が向上する一方、市にとってもその場で応対する必要がなくなり、送信されたメールを処理できるときに随時対応するという効率的処理が図れるようになりました。また申請はデジタルデータで送られてくるので、そのままシステムに取り込むことが可能です。中途で入力する手間もかからず入力ミスが生じる恐れもほとんど無いなど、非常に効率的です。こうした事例を全国の地方公共団体に対し広く普及を図り、地方における業務効率化の推進を図ることが、私たちが最優先で取り組む命題となっています。

デジタル化が進展した税関連

森信 これまでの効率化対応の中で大きな成功事例はe-Taxだと私は思います。現在はマイナポータルを活用した民間との情報連携による申告も進むなど、霞が関で最もデジタル化が進んでいるのは国税庁ではないかと思っています。

内藤 地方税に関しては地方税共同機構という組織を立ち上げ、事業者の方々からの申告をネットで受け付けるeLTAX(地方税ポータルシステム)を
構築しました。これまで、事業所が各市町村に点在している場合など、関係するすべての市町村に対し事業者の方が逐一地方税の申告をする必要があったのですが、eLTAXによってこれを一括して受け付け、同システム内で各自治体に振り分けることができるようになったのです。また税金の収納についても、QRコードの読み取りによるネット納付を可能としたところ、納税者からの利用率が急増しました。

森信 お話を聞くほどに、税の分野でデジタル化の整備が急速に進んでいることを実感します。

内藤 さらに言えば今国会で提出している地方自治法の一部改正法案では、地方公共団体に各種申請をするときは費用がかかりますが、この費用も税金の収納の仕組みを応用してスマートフォンで払えるような構想も盛り込んでいます。この支払いは電子マネーでも可能です。この方式は銀行など金融機関にとっても手数の大幅な削減につながるとして歓迎されています。今後もこのペースで税関連のデジタル化が進んでいくと想定されますし、もちろん税だけでなく地方行政全般についてデジタル化の進展を図る所存です。

森信 そして省力化されたぶん、人的な行政サービスの向上を図るということですね。

内藤 はい、いろいろなデータがデジタル化されていくと、そのデータ分析を通じて、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)にも取り組んでいけると思います。デジタルを駆使して、さまざまな政策・行政の底上げもしていきたいと考えています。

森信 最近では人口減への対応として、特定の自治体が教育や医療の無償化など育児しやすい市政をアピールする例が増えていますね。住民サービスが競争状態にあるのは概して良いことだと思います。

内藤 その場合には、費用対効果を常に勘案しながら議論を尽くして予算投入の優先度等を決定していただくのがポイントだと思います。

森信 確かに、予算の上限や国庫負担の増加などを検証せず、政治的アピールとして無償化施策が打ち出されるのは、危険な側面を伴います。無償化すれば無駄や過剰なサービスが必ず増えますので。

内藤 自分たちの歳入の使途をどのような優先順序で充てていくのか、それは自治体個々の判断に拠る部分ですが、いずれにしても住民から納めてもらった税金を有効活用するのは自治の基本原則ですので、決定に至るまでに議論を尽くしていただきたいと思います。

森信 自治体が医療の無償化の対象を拡大すると、半分は国の税金や保険料の負担となるなど、自分たちの決定が国や国民にどういう負担を及ぼすのかという点も含めて議論してもらいたいところですね。

内藤 全体の制度にどのような影響を及ぼすのかを意識することも必要でしょうし、自ら決めた財政負担が自治体の範囲内で収まらなくなり、国に支援を要請するような事態にならないよう、慎重な制度設計が求められます。決定した制度のメリット・デメリットどちらもともに、将来まで自分たちがこれを背負っていくことになるという意識が必要ではないでしょうか。

自治体情報システムの標準化が遅れを取る二つの理由

森信 2025年度末の自治体情報システムの標準化の目標時期が近づきつつありますが、一部の地方公共団体では諸般の理由によりシステムの標準化整備に遅れが生じているとの報道が見受けられます。この点は今、どのような状況でしょう。

内藤 はい、25年度末の標準準拠システムへの移行を目指し、全般的にはその目標に向けてスケジュールを組んでいただいていますが、ご指摘の通り、確かに一部の団体で25年度末での移行は難しい、という状況が生じています。

 その要因は大きく二つの理由があると思われます。一つは、自分たちのメインフレームを使いシステムを組んでいるような一定規模以上の都市では、標準システムへの移行を図るには作業量が膨大すぎて、25年度末移行の目途が立ちにくいことです。

森信 むしろ、規模の大きな団体の方が間に合わないと。これは意外な感じですね。

内藤 もう一つは団体の規模によらず、自分たちが使っていたシステムのベンダーが撤退してしまい、新システムへ移行するために新しいベンダーを探さねばならないこと、です。

森信 なるほど、システムの標準化というのは、既存のベンダーはそのままでシステムだけ移行するものだと思っていました。

内藤 ベンダー自体は複数あるのですが、ある自治体がAというベンダーを使っていて、そのベンダーが移行を前に撤退すると、Bという新たなベンダーに頼む必要があります。

森信 既存のベンダーが撤退する主な理由というと。

内藤 やはりコストが合わない点が大きいと想定されます。システム移行の作業が多いにもかかわらず、自分たちが担っていくのは荷が重い、と。仮に新たなベンダーに打診しても、そのベンダーも他の自治体の移行作業で手一杯となると、おいそれと引き受けられませんから、なかなか次の担い手が見つからないのが現状です。

森信 つまるところ自治体情報システムの標準化という大きな変革に対し、ついていけていない自治体が出てきている、ということですね。

内藤 これら大きな二つの要因により、25年度末までに移行準備が間に合う目途が立たないという団体が出てきている、という次第です。

森信 間に合わない団体が発生したとき、準備が間に合った自治体のみでスタートするのでしょうか。

内藤 はい、移行できた団体はその時点からスタートするので、間に合わない団体が生じたとしても、全体が遅れるということにはなりません。

森信 ご指摘された二つの要因を解決するのに有効な手段となると?

内藤 国では全自治体ごとに移行準備の状況を全て可視化しており、進捗がはかどっていない団体には伴走支援を行っています。何が課題なのか聞き取り、国が支援可能な点については総務省やデジタル庁が連携し、可能な限りこれを支援するという方式です。

森信 自治体情報システムの標準化は、大掛かりな難事業ではありますが、行政サービスの効率化という点では絶対必要な事業ですね。

内藤 はい、それ故になるべく早く移行していただくよう、各自治体にできるだけの支援をするという姿勢で臨んでいます。



もりのぶ・しげき 法学博士。昭和48年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学教授、東京大学客員教授、東京税関長、平成16年プリンストン大学で教鞭をとり、17年財務省財務総合政策研究所長、18年中央大学法科大学院教授。東京財団政策研究所研究主幹。著書に、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)、『日本の税制』(PHP新書)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除日本 型児童税額控除の提言』(中央経済社)等。日本ペンクラブ会員。

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