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【森信茂樹・霞が関の核心】 文部科学事務次官 藤原章夫氏

新たな時代に向けて再構築が求められる教師の役割

ふじわら あきお/昭和39年3月21日生まれ、岡山県出身。東京大学法学部卒業。62年文部省入省、平成26年文部科学省大臣官房人事課長、27年大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、28年内閣官房内閣審議官(命)教育再生実行会議担当室長、29年文化庁文化部長、30年内閣審議官(内閣官房副長官補付)(命)内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局総括調整統括官、令和3年同事務局長、文部科学省総合教育政策局長、4年初等中等教育局長、5年8月より現職。
ふじわら あきお/昭和39年3月21日生まれ、岡山県出身。東京大学法学部卒業。62年文部省入省、平成26年文部科学省大臣官房人事課長、27年大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、28年内閣官房内閣審議官(命)教育再生実行会議担当室長、29年文化庁文化部長、30年内閣審議官(内閣官房副長官補付)(命)内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局総括調整統括官、令和3年同事務局長、文部科学省総合教育政策局長、4年初等中等教育局長、5年8月より現職。

 コロナ禍など社会・外部環境の変化を大きく受けやすい分野が教育である。情報化の進展、価値観の多様化は、学校現場のありようにも大きな影響をもたらす。その中で未来を担う子どもの教育という普遍的命題に国はどのように取り組もうとしているのか。今回は広範な文部科学行政のうち、GIGAスクール構想、高等専門学校への支援措置、教師の働き方改革という、世上の注目度も高い3点に絞り、藤原章夫次官に解説してもらった。


一気に普及した1人1台端末

森信 文部科学省は数年前からGIGAスクール構想の推進に取り組んでおられますが、その意義や理念についてお願いします。

藤原 このGIGAスクール構想は、義務教育を受ける児童・生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するとう、学校におけるICT環境の整備を目指す構想で、2021年からは端末の利活用も本格化してまいりました。構想開始直後はまさに新型コロナウイルス感染症拡大の渦中にある時期で、それ故にオンライン授業実施のため大至急、推進を図らねばならないという状況下でのスタートだったのです。とはいえコロナ禍以前から、社会のデジタル化に合わせて学校現場におけるデジタルツール整備の必要性は議論されていました。それが図らずもコロナ禍により一気に進んだという経緯があります。

森信 児童・生徒1人につき端末1台、というのは全国の小中学校に行きわたっていると考えてよいでしょうか。

藤原 はい、行きわたっています。当初、端末を導入したときには学校現場では一定の戸惑いが生じ、この先はどのような展開になるのだろうというやや半信半疑に捉える向きもあったようですが、現在このGIGAスクール構想は、不可逆かつ揺るぎない政策であるとして、地方自治体そして現場の先生方に認識をいただいています。これからの教育の在り方を考えるときに、GIGAスクール構想は欠かせない政策であり、特に文部科学省では「個別最適な学び」と「協働的な学び」を進めることを掲げているのですが、これを実践するにはやはり1人1台端末が無ければ目指す教育の実現は難しいだろうと考えています。そういう意味では、これから次のステップに移行できる状況は整ってきた、と言えるでしょう。

森信 同構想の推進に関し、昨年秋に補正が組まれたとのことですが。

藤原 23年秋の補正予算で2700億円ほど措置し、都道府県に基金を設け、端末機材の更新などを計画的に行う経費等を盛り込みました。自治体の方からは、端末の更新についてはどうなるのかという問い合わせをずいぶんいただいていましたので、今回の補正で措置ができたのは大変良かったと思っています。また、仮に基金という形をとっていなかったら、将来に向けた安定性や見通しが立ちにくくなり、各自治体、各学校とも不安を抱えながら同構想を進めなければならないところでした。

森信 巷間よく指摘されるところかと思われますが、端末があまねく浸透したといっても、やはり地域間格差や私立と公立の差異による学校間格差などは依然して残っているのでは。

藤原 確かに、まだ完全に解消されたとは言い難いところです。特に活用状況は地域や学校によって一定の差が残っており、例えば端末を家庭に持ち帰るにしても、毎日必ず持ち帰ることを実施しているのは全体の3割ほどで、この底上げを進めていく必要があると認識しています。

森信 この点は、予算措置を講じればある程度解消する性質の問題でしょうか。

藤原 大きな懸念となったのは端末そのものの故障リスクです。毎日持ち帰って翌朝また持って登校する、の繰り返しではやはり故障や破損するリスクについて心配する声がかなり寄せられました。この点まさに今回の補正で、端末の予備機につきましても措置されるということになりましたので、今後はこうした懸念を払しょくして、現場で思い切って使っていただきたいと思います。

森信 家庭環境にも格差を生じさせる要因があると考えられますが、格差の状況についての統計や実証などは。

藤原 端末をどの程度授業の中で使用しているのか県別の観点で調査しており、その結果を見ると、状況として格差が開いているのは確かです。その解消に向けてわれわれも指導に力を入れており、家庭への支援も行いつつ端末を徹底的に使うようお願いしています。

ICT支援員を配属

森信 教室でプログラミング教育を実践しているということですが、生成AIが発達してくると、学習したことをAIがたちどころに具現化するという状況でしょうから、学習内容も毎年更新していかねばならない。プログラミングを教える方の人材確保や育成もまたご苦労が多いのではないでしょうか。

藤原 GIGAスクールにおいては、学校現場で技術的な支援を行うスタッフが一定数必要との観点から、ICT支援員の配置を地方交付税で措置しています。また指導する側については、プログラミングの知識を有した指導者をしっかり確保するよう、都道府県および各教育委員会に要請し、具体的な計画を作成してこれに基づき確保を図っています。

森信 地方においてデジタルに詳しい教員の人材確保は大変ではないかと推察します。

藤原 はい、大変です。やはり全国1700超の市町村ごとに確保を図るのは非常に困難ですので、まずは都道府県に音頭を取っていただく必要があると思っています。国の方でも、都道府県に対し可能な支援はしっかりしていきたいと考えています。

森信 岸田総理の新しい資本主義ではないですが、人的資本の向上は経済成長の根幹ですね。

藤原 ご指摘の通りです。特にデジタル人材の厚みは、まだまだ日本社会では不足しており、これを大きく改善していくことが不可欠です。今、大学ももっと理系を増やすという転換政策を進めておりますが、併せて、高等学校以下の教育でもデジタル人材が育つような取り組みを進めていく必要があると思っています。

森信 デジタル分野は売り手市場で給与も高いから、志向する学生も少なくないのでは。

藤原 就職市場においてデジタルスキルを身に付けた学生の人気があるのは十分認識されています。ならば、その流れを一層促進していきたいですね。




もりのぶ・しげき 法学博士。昭和48年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学教授、東京大学客員教授、東京税関長、平成16年プリンストン大学で教鞭をとり、17年財務省財務総合政策研究所長、18年中央大学法科大学院教授。東京財団政策研究所研究主幹。著書に、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)、『日本の税制』(PHP新書)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除日本 型児童税額控除の提言』(中央経済社)等。日本ペンクラブ会員。

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