2023/12/04
――データの利活用について、収集技術は高度化していますが、その解析と効果的な活用が求められるのでは。
𠮷岡 この点、国土交通省でもデータ・プラットフォームの構築を進めており、多種多様なデータと連携しています。これをワンストップ化して、民間や地方自治体等の方々に提供して多面的に活用していただくことを目指しています。例えば、都市部において水位が上昇したらどのような状況が生じるのか、データをもとにシミュレーションができれば事前防災に大いに役立つと想定されます。
データ利活用に向けてはまだまだ改善すべき点もありますが、引き続き改良を重ね、また多方面からのご意見も伺いながら、より〝使ってもらえるデータ〟〝つながるデータ〟となるよう整備に取り組んでいるところです。
――コロナ禍が強靱化推進に与える影響などはいかがでしょう。
𠮷岡 基本的にインフラメンテナンスに関わる方々は、社会機能の維持に不可欠なエッセンシャルワーカーとして位置付けられますので、各社とも現場では細心のコロナ対策を施すことにより、その使命を果たしてくれたと感謝しています。コロナ禍の最中でも自然災害は発生してきましたが、これらの方々はその都度、現場に赴いて減災対応・復旧に当たってくれました。またコロナ禍の間は物流の重要性がクローズアップされましたが、それも輸送路となる道路、橋梁、トンネル等の保全に携わる人々が多くの制約下にも関わらず、絶え間なく頑張ってくれたために可能となるわけです。
またコロナ禍を機に、オンラインの利活用と浸透など、建設・土木分野でも〝働き方改革〟が進んだように思われます。また、前述のとおり担い手不足がこれからさらに深刻化する恐れがある以上、より一層〝働き方改革〟は進めていかねばなりません。
子どもの方が防災情報を認識
――「津波の日」の故事は防災教育継承の意義についても教訓を遺しています。その意味では現在、地域においてだいぶ防災意識、緊急時の避難行動などが定着してきたように思われます。
𠮷岡 一つは予報技術の向上と、マスコミ等のご協力もあり、事前の警報を頻繁に発することができるようになったことが作用していると思います。警報の重要性が地域に浸透し、早め早めの行動につながっていると言えるのではないでしょうか。これは引き続き、多様で詳細な発信を続けていきたいと考えています。
また私が北陸整備局長として赴任していた頃、おそらく学校における防災教育の充実等によるものでしょう、小学生の方がむしろハザードマップに詳しくなっていて、いざという時どこに避難すべきかよく分かっているのに驚いたことがあります。むしろ働く世代の方が、自宅の近隣はともかく勤め先の周囲の避難区域等については、あまりよく認識していないのではないでしょうか。
――非常に実感するとともに、懸念すべき点ですね。
𠮷岡 はい、地震などはいつ発生するか分かりませんから、勤務時間内での避難体制、緊急時対応の再点検も必要かもしれませんね。職場では学校以上の防災教育が為されてはいないでしょうし。ともかくも地域においては、子どもの方が避難体制に詳しい、というのは新鮮な発見でした。
また、共同体の意識やコミュニティの連帯が残る地域では、率先して住民を先導する役割の人材が、非常に重要な存在となります。この夏、豪雨に見舞われた新潟県村上市のとある地域では、やはりいち早く避難を呼び掛ける地域のリーダーのような方がいて、減災につながったと聞いています。
こうした人的つながりを、今後どう維持していくのか、そこにDXが寄与する部分があるのか、予報や警報をもとに集団行動を促す人の存在をどう確保するのか、等々についても検証すべきかと思います。デジタル技術と人的コミュニケーションのベストミックスが、防災をより効果あらしめる基盤になると考えられます。いわゆる〝自助・共助・公助〟、私はこれに〝近所〟ならぬ〝近助〟を加えるべきだと思っています。
世界でさらに防災知見の共有を
――災害大国のわが国は、同時に防災・減災先進国、国土強靱化先進国でもあると思います。いずれはインフラだけでなく、防災に向けたノウハウやオペレーションなどを、トータルに海外展開していくことも視野に入れるべきと思いますが、技監のご所感はいかがでしょう。
𠮷岡 確かに、冒頭で日本は地震や台風、風水害など複数の災害に見舞われる特異な自然環境下にあると申しましたが、近年の動向を見ると世界各国でこれまでなかったような災害が発生するケースが増えています。今年を振り返っても、欧州では熱波、特に英国は深刻な干ばつに見舞われました。一方、パキスタンでは豪雨土砂災害で国土の相当部分が浸水し、アメリカ合衆国南部も巨大ハリケーンの襲来で甚大な被害を出しています。防災対応への需要は各国・地域とも年々高まりを見せていると言えるでしょう。
日本が蓄積してきた防災・減災、国土強靱化の取り組み、知見、技術等々を国際社会で共有していくことは非常に重要で、まさに日本が提唱し国連総会で採択された、11月5日「世界津波の日」も、そうした共有化の一環に位置付けられると思います。また本年4月23、24日に熊本市で開催された第4回アジア・太平洋水サミットにおいても多くの国・地域にご参加いただきました。同サミットで発された「熊本宣言」等の成果が、来年の「国連水会議」へとつながっていくことが期待されます。遡れば2011年の東日本大震災の後も、被災地である仙台市で国連防災世界会議が開催されるなど、経験をもとに防災に向けた国際的な機運がより一層高まりました。このように、日本の経験を世界に発信、共有する取り組みは既に始まっていると言ってよいでしょう。
――水に関しては、それだけでも多面的な論点を持つ重要なテーマですね。
𠮷岡 その通りです。有限の水資源をどう持続的に活用するか、上下水道インフラ整備の在り方、衛生面の確保、逆に多雨の場合は人々の生活にとって脅威となり得ますので、どのように折り合いをつけバランスを保っていくべきか等々、議論は尽きません。
――最後に、産業界、地方自治体に対し、誌面を通じてメッセージなど。
𠮷岡 自治体においては、やはり事前防災が重要ですので、繰り返しになりますがメンテナンス等も含めて継続的に実施していくことが大事だと思います。国も、必要な予算を確保して頑張っていくつもりです。また事業者におかれても、これも持続可能がキーワードになりますが、働き方の改革を進め、担い手を確保していく必要があります。産学官ともに活発に意見交換し、これからもどのようにこの国の国土を守り、支えていくのか、相互協力しながら進めていきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2022年11月号掲載)