2023/12/04
わが国における国土強靱化の取り組みは現在、2021 年度から25 年度までの「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の過程にある。大規模自然災害への対応、インフラメンテナンス、そしてデジタル化の推進という今日的な要素を加えた主要項目をもって、激甚化する災害にどう対応しようとしていくのか。吉岡技監に、対策の理念とポイントを語ってもらった。
国土交通省技監
𠮷岡 幹夫氏
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頻度、規模とも増加する自然災害
――2021年度からスタートした「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(以下、「5か年加速化対策」)も前半を過ぎようとしていますが、改めて、わが国になぜ国土強靱化へ向けた取り組みが必要とされるのか、背景・状況についてご解説をいただけましたら。
𠮷岡 もともと日本は、地震多発国であるのに加え台風も頻繁に上陸する世界的にも特殊な状況下にある国です。例えば地震。過去の統計によると、世界でマグニチュード6・0以上の地震が発生した回数のうち、地球の陸地面積の0・25%しかない日本がその1~2割を占めています。また台風も、上陸したケースも含め平均して年間10個ほど日本近海に接近してくるという頻度です。そして台風も地震同様、世界各国であまねく頻発しているわけではなく、これほど立て続けに襲来するのはごく一部の地域にとどまります。
――そうすると日本は、地震と台風どちらか一方だけではなく、両方が頻発する稀有な国、ということになりますね。
𠮷岡 台風に拠らない豪雨も近年、発生回数、激甚度ともに増しています。一カ月間の降水量がわずか1日で降った、というニュースを多くの人がたびたび耳にしているのではないでしょうか。また冬の豪雪も災害級の規模に達することもしばしばで、いわば年間を通じ、国土のあらゆる地域が自然災害の脅威にさらされていると言っても過言ではないと思います。
――ほんのここ5年ほどを振り返っても、水害、台風、地震が各地で相次ぎましたね。
𠮷岡 はい、2018年だけを取り上げても、「平成30年7月豪雨」では岡山県高梁川を中心に大規模な氾濫が発生して甚大な影響を及ぼし、同年9月の台風21号では関西空港の連絡橋にタンカーが激突して人流・物流がストップ、さらに同月の北海道胆振東部地震では大規模電力供給停止(ブラックアウト)を引き起こすなど、人命・人身に対する直接的な被害はもちろん、多様な二次被害をもたらすケースが相次ぎました。
このような事案発生を受けて、従前の国土強靱化の取り組みに対し、もっと具体的な予算措置が必要であろうという考え方が高まり、18~20年度を対象に、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」が策定されました。しかしそれ以後も、2019年の東日本台風、翌20年の「令和2年7月豪雨」などが発生しては浸水被害をもたらすことが続き、3年で対策を終わらせるわけにはいかない、より長期にわたり腰を据えて、しっかりした事業を進めるべきであろう、との認識のもと今般の「5か年加速化対策」策定へと至った次第です。
――「5か年加速化対策」の特長、基本的な考え方としては。
𠮷岡 大きく三つのポイントを掲げています。まず、激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策。これは水害対策のための河道掘削や道路の法面補強など「3か年緊急対策」の時から引き継いだ、人命・財産の被害を防止・最小化するための対策、そして電力などのライフライン、物流を支える交通ネットワークの維持など国民経済・生活を支えるための対策が含まれます。
次に予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策。インフラを維持しながら安全に使い続けるためにメンテナンスは欠かせません。そして三番目に、国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進、つまりDXが主要な柱として位置付けられました。施策のデジタル化だけでなく、各種災害関連情報の予測と、収集・集積・伝達の高度化も同時に推進します。
このように「5か年加速化対策」は、「3か年緊急対策」の事業を拡充しつつ、さらにさまざまな手段を用いることで、より国土強靱化を強化、推進していこうという考え方を打ち出しています。
――デジタル化など、新たな観点が打ち出されていますね。
𠮷岡 IT技術を駆使することで効果的な事前防災や、事後の早期復旧を図る必要があります。特に今年から、線状降水帯による大雨の可能性について呼び掛けを行うようになりました。まだ空振りが多いのも確かですが、いろいろな可能性を呼び掛けることで、一つの備えとして国民の皆さまに定着することを願っています。結果的に〝空振りで良かった〟と捉えてもらえれば何よりです。
――デジタル技術は日進月歩ですので、5か年を通しても毎年何らかの新しい施策や対応が期待されるのでは。
𠮷岡 そういう意味では、空からの情報は非常に大事です。既にドローンは一般的に使いこなすようになりましたし、衛星から地域の状況をピンポイントで把握するという取り組みも始まっています。またメンテナンスにおいても、例えば車両走行しながら路面状況のデータを取得することなども可能になりました。
――こうしたデジタル技術の導入は、ある意味で技術者の高齢化、現場の人手不足という課題への対策でもありますね。
𠮷岡 はい、現場の高齢化対応と担い手の確保は大きな課題です。減災はもちろん物流機能を確保するなど、国民経済・生活の維持のためには、インフラを常に良好な状態に保つことが不可欠ですし、それはやはり基本的には人の手による作業が必要です。どうしても、設備と聞くとハード面を想起しがちなのですが、実際にはそれを支える、動かす、コントロールする人がいて、初めてハードが機能するのですから、分野を問わず今般の人手不足の中で省人化を図りつつ、どのように従前同様、あるいはそれ以上の質の高いサービスを提供していけるか、という命題にチャレンジしていかねばなりません。