2023/06/20
――三つ目の柱はいかがでしょうか。
若宮 地域の課題を解決するためのデジタル実装です。高齢化や過疎化など、社会課題に直面する地方にこそ、新たなデジタル技術を活用するニーズがあります。従って実装の内容も、自動配送やドローン宅配、遠隔医療、オンライン教育、など多種多様です。例えば養殖魚の育成状況を遠隔カメラやAIで把握・分析できれば、生産者が毎日沖合に出てチェックする労力から解放され、またデータ分析した適量の餌をドローンで撒くこともできるでしょう。機材の扱い方さえマスターすれば、高齢の生産者の方でもスマート農業や漁業に移行することが可能だと思われます。
――デジタル実装に向けた支援内容はどのように。
若宮 令和3年度補正予算において、200億円で新設したデジタル田園都市国家構想推進交付金をはじめ、地方創生関係交付金もフル活用し、実装に取り組む地方公共団体を2024年度末までに1000団体まで増やしていくのが当面の目標です。先行的に取り組んでいる実装例の結果を検証し、好事例を生んでいる地方公共団体の場合はその内容を発信して、他の地域の参考にしてもらえればと思っています。
若宮 逆に、デジタル実装によって社会課題を解決しているなか、デジタルへのアクセスが困難な方々が〝取り残された〟と感じないようにする、この〝誰一人取り残されない〟ための取り組みが四つ目の柱となります。年齢、性別、経済的な状況、地理的な制約等にかかわらず、誰でもデジタルの恩恵を享受できる〝誰一人取り残されない〟デジタル社会の実現を目指します。例えば、高齢者向けの講習会等を行うデジタル推進委員を22年度に全国1万人以上でスタートし、これを拡大していくことでデジタルに不向きな方々へのきめ細かなサポートを行う、等々の取り組みを進めていきます。
三つの先行モデル地域
――デジタル化によって地域の課題を解決する、先行的モデル事例などご紹介をお願いします。
若宮 はい、一つ目のモデルが「徳島県神山町」です。ここでは、企業のサテライトオフィスの誘致や移住促進に、非常に熱心に取り組んでおられます。現在は、閉鎖された元縫製工場を改修し、「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」を整備しているほか、サテライトオフィスに勤務する移住者など関係者が高等専門学校を町内に創設する構想を進めています。交通アクセスの利便性が決して高いとは言い難い地域ながら、この地で新事業創出をするんだ、という関係者の意気込みが強く伝わってきます。まさに、地方活性化においては好循環が生まれていると言えるでしょう。
二つ目のモデルとなるのが「長野県伊那市」です。ここは医療用MaaS(Mobility as a Service)や遠隔医療の推進など「医療の充実」に力を入れており、その進展ぶりは目を見張るものがありました。
――医療用MaaSというとどのようなイメージでしょう。
若宮 具体的には、医療機器を装備した移動診察車に看護師が乗り込み地域を巡回しつつ、車内につないだテレビ電話によって医師が遠隔地から患者を診察するという仕組みです。患者さんからすれば遠方の病院に通う労が無く、医師からすると地域各戸をすべて訪ねて往診する時間が省力化される、まさしく医療提供者と患者の双方にとって利便性が向上するたいへん有意義な取り組みです。
――そのほかのモデル事例はいかがですか。
若宮 「北海道岩見沢市」を三つ目のモデルとして紹介します。ここでは医療に加え、農業にもデジタル技術を応用しています。子育て世帯へのサポートを目的とした家族健康手帳アプリの導入をはじめ、自動走行トラクターやドローンによる農薬散布等を実践しており、実際に水稲代掻きでは完全無人作業により労働時間が実に約7割削減されるなど、人手不足や負担軽減につながっています。スマート農業の先駆的展開をされておられると感じました。
これらのモデル事例は、いずれも独創的発想でデジタル技術を活用している好例ですが、同様に社会課題を抱えている他の地域でも応用展開が可能ではないか、と強く感じました。
現地の熱意を肌で感じる車座対話
――大臣は構想の実現に向け、就任以後何度も地方に足を運び、現地でさまざまな方と車座対話をされてこられたとか。
若宮 車座対話を行ってみると、やはり机上の情報にとどまることなく、現地の状況を見て、課題や解決への方策など、現地の皆さまから直接お話を伺うこ
とがとても重要であると実感します。地方の活性化にかける人々の熱意や意気込みというものは、紙の資料だけでは決して伝わりませんから。
――実際に対話を行った感触、感想をお聞かせください。
若宮 まず、昨年11月24日に前述したモデル地域の一つ、徳島県神山町にて「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」を視察したのち、NPO法人理事やIT企業社員、大学生といった6名の方々と、デジタル田園都市国家構想をテーマに車座対話を実施しました。特に印象に残ったのは、大学生の方の発言です。聞くと、早く地元を出て都会に行きたいと思い、現在は神戸の大学に通っているとのこと。しかしその後、神山での国際プロジェクトに参画して活動しているうちに、いろいろなスキルが身に付き多様な分野の人と話す機会が増えて視野が広がったそうです。現在は、卒業後も都市部に住みたいという意識が希薄になり、むしろ身に付いたスキルを生かして、地元に戻って仕事をしたいと語っておられました。
また神山町のサテライトオフィスでは、皆さん自然豊かな環境下で仕事をされており、なるほど都市生活とは異なる感性や着想が得られるのではないかと私自身が体感してきました。また神山町では移住希望の方に対し、住居のあっせんを直ちにするのではなく、「神山で何をしたいのか」等を最初に問う、ということを伺いました。そのことで同じ価値観を持ちつつも、異なるスキルや得意分野を有する人材が他地域から集まり、新たな相乗が生まれていると感心した次第です。
――他の地域はいかがですか。
若宮 今年1月12日に、三重県多気町の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」にて、リゾート施設運営者、地元高校生、医療関連事業者、一般社団法人代表、観光関連事業者、他地域から来てお米を作っている農家など8名の方々と車座対話を行いました。
地元の高校で特産品の開発やバイオマス栽培をしているという話に始まり、「VISON」自体で「食」「テクノロジー」の両テーマで地域の方々との交流の場所としていきたいこと、さらに各事業者の方々から、まだデジタルに馴染みのない方々にどう伝えていくのか、といった課題についての声を伺いました。特に地元高校生の方は、デジタルの活用をどうやって次世代に引き継ぎ、また高齢者の知見を活用しながらどう横展開を図るかが大事だと熱意をもって語り、大変頼もしく感じました。
この「VISON」では、周辺6町が一つとなり民間企業や地域の人々が協力しあって運営している点が強みであるのですが、それぞれの得意分野で不得意分野を補いながら取り組まれていることや、その間を調整する人材の確保がポイントだと思います。企画や構想について採算も考慮しながら、具体化に向けてコーディネートする人材が必要であると痛感しました。こうした人材は日本ではまだ少ないと思います。
――ここまで対話を終えて、トータルな感想としてはいかがでしょう。
若宮 個々の地域では素晴らしい取り組みに着手し、実際に成功しているという確かな手ごたえを感じています。今後は、これら〝点〟の成功例をつないで〝線〟とし、〝面〟へ広げ、将来的には海外へ発信することも視野に入ってくると思います。いわゆる先進諸国では今後、日本と同じく少子高齢化等の社会課題が顕在化してくると想定されますので、日本における地域開発・活性化の成功事例を日本発インフラパッケージの輸出へと高めていくことも可能かもしれません。まさに時間と距離の制約をデジタルによって乗り越えられる現在、地域・市町村長が直接、海外各国に魅力を発信することもできるようになりました。地域の活性化を国内で有機的に結合させ、ゆくゆくはハード、ソフト両面にそのプロセスも含めて海外輸出を図るという、新たな可能性が開けてくると展望しています。
――若宮大臣は他にも、2025年の大阪・関西万博、クールジャパン戦略や知的財産戦略などの特命担当相などを兼務しておられますが、その所感をお願いできましたら。また、広範な担務を具体化するにあたり、関係省庁間の連携、あるいは国と地方の連携がこれまで以上に求められると思います。
若宮 省庁間連携、国と地方の連携は「デジタル田園都市国家構想」のみならず、私が担務する各分野においていずれも不可欠です。広範な政策分野を担当すること、それはまさしく省庁間に横串を刺し、連携をより円滑化するのに意義あることだと思います。先述した地域における医療用Maa Sの実証にしても、厚生労働省と国土交通省の連携無くしては成り立ちませんし、デジタル基盤の整備は総務省の役割が欠かせません。そして主体となるのは各地方公共団体の現場ですので、地域と議論を深め、個別ニーズに応じた課題解決と活性化策の適用が求められます。
すべての立場の方々からのご意見を集約し、融合しながらコーディネートを行い具体化させていく、それが担務の如何に関わらず、私の役割ではないかと認識しています。そのなかで「デジタル田園都市国家構想」に関しては、かつて大平正芳元総理が掲げた「田園都市国家構想」に、岸田総理がデジタルを付加して現代的構想とし、それを具体化していくことは、必ず地方創生に役立つものと確信すると同時に、その担当相を拝命したことは私自身、大いにやりがいを感じております。
――本日はありがとうございました。 (月刊『時評』2022年4月号掲載)