2023/09/06
――では、貴町が掲げておられる「誰もがいきいきと暮らせるまちづくり」についても詳しく教えていただけますか。
森 本町は、2017年に策定した第4次総合計画に「子どもから高齢者まで誰もがいきいきとした暮らしを楽しむまち」を将来コンセプトとして打ち出し、「潤いや喜びを与える学びとスポーツのまちづくり」を提唱し、町内に健康交流エリアを設けて、まずは40~90歳代の町民の皆さんの予防健康づくりを進めていく方針を明示しました。
――具体的に、どのように進められたのでしょうか。
森 新潟県見附市の久住時男市長(当時)が最新の科学技術や根拠に基づく「健幸な」まちづくりを目指す「スマートウエルネスシティ」構想を提唱されていましたので、見附市への町議会研修視察に同行させていただき、われわれもその趣旨に賛同し、「スマートウエルネスシティ」を掲げ、筑波大学大学院久野譜也教授の指導の下、18年度から健幸ポイント事業をスタートすることにしました。
――「時評」でも見附市の事例は取り上げたことがあります。地域住民に対し、クルマでの移動ではなく、できるだけウォーキングの習慣に行動変容してもらうことで医療費をはじめ社会保障費を抑えていくという政策ですね。
森 その通りです。本町も町民にできるだけウォーキングの習慣を呼び掛け、日々の歩数を測定してもらうようにしました。2020年10月から活動量計やスマートフォンアプリといったICT機器を使った「健幸ヘルスケアプロジェクト」にリニューアルし、歩数データが貯まったら、町内公共施設に設置されている専用リーダーやコンビニの店頭端末機に活動量計をかざして歩数データを送信していただけるようになりました。歩数データを1カ月ごとに取得していくことによって、ウォーキングを習慣付けていただき、公共施設にある体組成計で筋肉量やBMI(肥満度)を測定してもらうと、ポイントが獲得できるという仕組みです。
――ポイントは、町内の商店で利用できるのですね。
森 はい。厳密に言いますと、ポイントは町内事業所や道の駅で利用できる「いきいき健幸商品券」と交換できる仕組みにしています。
――町民の皆さんの反応は、いかがでしょうか。
森 健幸ヘルスケアプロジェクトの参加者は、昨年度定員をクリアし、来年度の参加申込も先行予約が入るなど好評です。今後も健康無関心層にも積極的に働きかけ、より多くの町民の皆さんに参加していただけるようにしていきたいと考えています。
――貴町では、さらに他府県の自治体と連携し、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を活用されたと聞きました。SIBとは、「行政などが営む社会的事業に対し、民間の資金とノウハウを活用して社会的課題に向けて取り組んでいく官民連携手法」とされていますが、概要について教えてください。
森 ご指摘の通り、2020年3月に内閣府の認定を受け、大阪府高石市、福岡県飯塚市、鳥取県湯梨浜町とともに「飛び地型自治体連携によるSIBヘルスケアプロジェクト事業」を進めることにしました。サービス事業者は、タニタヘルスリンクが担い、ICTを活用した健幸ポイント事業をさらに推進していくことになりました。国の地方創生交付金も活用し、先述したICTを活用した健康プログラムを整備する環境が構築できたのは非常に大きかったと思います。
――SIB活用のためには、重要業績評価指標(KPI)の設定などが必要かと思いますが、貴町の場合は、どのような目標を設定されたのでしょうか。
森 5年後の24年度に4市町が、医療費・介護給付費の抑制効果として合計12・7億円を目指します。そのうち、本町は、中高齢者から80・90歳代も参加可能な健幸ポイント事業に2000人が参加。最終的に2・7億円の抑制を目指すことを目標にしています。
また、①新規参加者と継続参加者のそれぞれが目標数の90%以上②新規参加者の60%が運動不充分層③参加者のデータアップロード率85%以上④新規参加者の運動不充分層における推奨歩数または1500歩以上増加者が60%以上-などの目標を設定しました。
コロナ禍ではありますが、特に高齢者の場合、家でじっと一人でいるよりも、外に出て人と会って、運動する方が認知機能の低下にも効果があると言われていることから事業をスタートさせました。これから4市町が切磋琢磨しながら実施したいと思います。
――ここまで、森町長のお話を伺って、非常に順調な印象を受けました。
森 本町を含め、磯城郡三町の喫緊の課題として明確に現れているのは、実は、20~30歳代の県外流出がすごく多いという点です。このことが高齢化率を一層加速させています。若者が出て行く理由は、学び働く場所です。何とかこの流出の流れを止めていかなければいけないというのが、われわれ三町の共通課題です。ですから、われわれがスタートアップ企業の育成も含め、「大和平野中央スーパーシティ構想」に最も期待しているのはこの部分かもしれません。
――確かに、深刻な課題ですね。
森 本町では、企業誘致も含め、行政としても懸命に取り組んでいますが、なかなか一朝一夕にはいきません。ただ、いかに人を呼び込んでいくかという視点で①子育て支援の充実、②就学前教育の充実-の施策に注力したところ、今まで社会減だったのが、ここ2年でようやく社会増にまで持って行けたというエビデンスも出てきました。ですから、県立大学新設学部には、ぜひ就学前教育にも力を入れていただきたいと希望しています。
――最後に、「大和平野中央スーパーシティ構想」は、2022年度から奈良県、磯城郡三町など産官学のコンソーシアムを組んで進めていくことになりますが、先ほどの企業誘致も含め、民間企業に対し森町長のメッセージをお聞かせください。
森 磯城郡は、三町合わせても、人口が約4万5000人しかいませんので、あまりスケールメリットを感じていただくことはできないかもしれません。ただ、住民の皆さんと行政の近さとか、まとまりの良さはあるので、まずそこにメリットを感じて、実証実験なども含めてぜひご関心を持っていただきたいと思います。われわれも地域住民のウエルビーイングのために、一生懸命汗をかいて、磯城郡の価値を高めていく施策を積極的に進めていきますので、ぜひよろしくお願いいたします。
――ありがとうございました。
(月刊『時評』2022年2月号掲載)