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2021【浜松ウエルネスフォーラム】レポート

浜松ウエルネスフォーラム総括①

スタンフォード大学  循環器科主任研究員  池野 文昭
スタンフォード大学 循環器科主任研究員 池野 文昭

私は、故郷の浜松を離れ、渡米して約20年になるが、昨年、アメリカは新型コロナウイルス感染がまん延し、緊急事態宣言が出ていたこともあり、ほとんど外出できなかった。今回の「浜松ウエルネスフォーラム2021」をずっと拝見してきたが、素晴らしいプロジェクトが進んでいる。厚生労働省の山下課長、経済産業省の稲邑課長と日本の健康戦略を練っておられるお二人にも参画いただいたことは、浜松が期待されているということだし、大変意義深いと感じている。

日本の潜在的価値は健康である-。私は、アメリカ在住の視点からずっとこのように提唱してきたが、先日、ある県で同様の趣旨を話したところ、「そんなはずはない」「そんなバカな」と失笑された。もちろん、私の考えとは真逆の、「日本人は不健康だ」と考えている人もあるだろう。

健康と不健康の違いは、なかなか定義がはっきりせず、人によって評価が違い、非常に難しい。ただ、はっきり言えるのは、指標として、健康寿命が挙げられるだろう。2019年のデータだが、世界第一位はシンガポール(76・2歳)。第二位が日本(74・8歳)という状況だ。ただし、60歳時から数えて、どれだけ健康でいられるかという平均健康余命という指標もWHOから出されているが、これによると、日本がダントツの1位で20・39歳。第2位のシンガポールが19・95歳なので、日本は60歳をプラスして80・39歳となり、世界トップになる。これらのデータを見る限り、日本が健康であるという事実は、間違いないと言えると思う。

ただし、冷静に見ると、日本の健康寿命が世界でもトップクラスにあるのは、戦前、戦中生まれの皆さんが一生懸命頑張ってくださった結果であって、今後、現在の水準まで健康でいられるかどうかはわれわれ世代が今から努力しないと、駄目なのかなと実感している。   

医療において、ウエルネスとかウエルビーイングは、「何をアウトプットすればよいのか分からない」という声をよく耳にする。まずは、いかに行動変容を起こせるかということがエンドポイントだと言える。行動変容のための仕組みを構築し、行動変容を促すことで、皆の健康が保たれていくわけだが、行動変容させるというのは、正直非常に難しい。

ただし、昨今のセンサー技術やデジタルテクノロジーの進化で、自分の状態が見える化しできるようになっている。それらのデータを基づいて個別化し、予測、予防に結び付け、的確な指導、または行動変容のためのきっかけを作ることも可能になりつつある。

浜松は、大都市の中では健康寿命が全国1位ということなので、世界トップクラスの健康寿命を誇る都市であると言え、浜松は、健康を売りにする資格は十分にあると思う。だが、単に健やかな健康に留まらす、われわれの最終的なゴールである健やかで幸せに暮らしていける都市を目指すためにも、今回発表いただいたような実証実験をどんどん進めていくべきだと思っている。まさしくウエルビーイングをすることで、浜松市民が健康で幸せに暮らせ、「浜松に行けば、健康になれる」「浜松で暮らせば、健康寿命が保証される」というような評判が立って、浜松のプロジェクトが企業横断で広がっていけるようにすれば大成功と言えるだろう。そういう意味でも、浜松のプロジェクトは、日本の将来にとっても非常に重要だと考えている。

浜松ウエルネスフォーラム総括②

国立大学法人 浜松医科大学  理事・副学長  山本 清二
国立大学法人 浜松医科大学 理事・副学長 山本 清二

私からは、「浜松ウエルネスプロジェクト」に一年間関わってきて、感じたことと、これから期待したいことについてお話したい。

最初に、官との関わりについてだが、皆さんもよく産学官連携とか官民一体という言葉を聞かれたことがあると思うが、往々にして、官の立ち位置が良く分からなくなるケースが多い。いつの間にか実態が分からなくなったり、場合によっては、「同じ方向を向いていないな」と感じてしまうことさえある。

だが、浜松市の場合は全くそういうことがない。常に、われわれと同じ方向を向いて、一緒になって汗をかくというスタンスを貫いている。冒頭、お話された鈴木康友市長もこうしたお考えで、この「浜松ウエルネスプロジェクト」に臨んでいただいている。まさに、行政がわれわれと一緒になって、実行部隊としてこの「浜松ウエルネスプロジェクト」を動かしている、私はこの点が、このプロジェクトの非常に素晴らしいところだと思う。

何より、「浜松ウエルネスプロジェクト」の主役は浜松市民だ。市民参加型の実証事業、あるいはプロジェクトが推進されているので、その中にあって、浜松市が全然別の方向を向いていることはあり得ない。ぜひ、今後ともこの姿勢を続けていただきたいと思うし、私がこのプロジェクトに大いに期待するのもこの点だと申し上げたい。

次に、「浜松ウエルネス・ラボ」の実証事業において、私が期待している点についても触れておきたい。ウエルネスラボの実証事業は、まずサイエンティフィックであるべきだ。つまり、実証事業なので、科学的なデザインに基づいて科学的なデータ収集をして、科学的な分析がされなくてはならない。また、人を対象にした研究が大部分なので、臨床研究の対象になる。当然、クリアしなければならない倫理的なハードルが数多くある。参加企業にとっては、これらのハードルを全てクリアしなければならない。

そのため、実証事業に当たっては、池野先生やこの後お話をされる福田先生、それから私を含めて、実証事業のプロトコルあるいは事業スキームの審査をする段階で、当該企業の皆さんに対し、相当厳しいことや無理なことを申し上げている。

この理由は、実証事業をしっかりしたモノにして、世界中の研究者から「浜松のデータは参考になる、浜松から出たデータは、信用できる」と思ってもらいたいからにほかならない。恐らく、これからも相当厳しいことを言うだろうが、こうした思いがベースにあるので、ご容赦願いたい。

私は、専門が脳神経外科なので、「予防に勝る治療はない」と言うことを常に実感してきた。

特に、脳神経外科では血管障害を扱うことが非常に多いのだが、発症してからなかなか難しく残念なことになる場合も多い。だからこそ、予防が大事なのだ。従って、「どうやって予防すればよいのか」という命題に対し、多くの関係者が努力を積み重ね、エビデンスを集積してきたし、さまざまな研究が実行されてきた。

では、これから、「まだまだ足りないことは何か」と聞かれると、私は、「ポイントは、予防の見える化・可視化だ」と答えることにしている。と言うのも、実際に自分の身体のことを考えて、予防しようと取り組んでみても、自分がどれくらい位置にいるのかが分からないと効果が望めるのかがなかなか分からないからだ。

現在、実施されている実証事業やこれから取り組まれる「浜松ウエルネスラボ」の実証事業は、恐らく予防の見える化・可視化を実現するようなモデルが増えていくだろうと見ている。

まさしくそこが、非常に重要なポイントだし、必ずやらなければならないテーマになるだろう。だからこそ、浜松市の役割は非常に大きいと言える。真の意味での、官民一体事業が浜松で具現化されていくことを大いに期待したい。

浜松ウエルネスフォーラム総括③

社会福祉法人 聖隷福祉事業団  専務執行役員・保健事業部長  福田 崇典
社会福祉法人 聖隷福祉事業団 専務執行役員・保健事業部長 福田 崇典

私ども聖隷福祉事業団保健事業部の第一のスローガンは、「予防は治療に勝る」というものだ。予防の効果というのはエビデンスとしては難しいものがある。私も医師として、30年近く予防医療に携わってきたが、振り返ってみれば、本当に手探りのような状態で進んできたように思える。

だが、時が巡り、今や、世の中の方がむしろ予防ということに対し、真摯に向き合おうとしている。そういう中で、浜松市が全国に先駆けて「予防健幸都市」という新しい都市像を提唱し、行政が主体となって、さまざまな民間企業や学術団体などが心を一つにして、「浜松ウエルネスプロジェクト」という素晴らしい取り組みが進んでいるのは大変素晴らしいことだと思っている。

ただ、予防を担ってきた、現場の医師の立場からすると、ややもすると、こうした取り組みは総花的になってしまったり、一過性のブームで終わってしまう可能性もあるということをあえて指摘しておきたい。

一見華やかに見えても、こうした素晴らしいプロジェクトをきちんと実装していくためには、時には泥臭くて、地道で草の根的な検証を積み重ね、市民の皆さんの健康に資するような仕組みを構築していくことが非常に重要なのだ。換言すると、われわれが、今持っている新しい技術と熱い情熱がうまくかみ合ってこそ、継続性があって、意義のあるプロジェクトに昇華されていくと言えるだろう。

手前ごとで恐縮だが、われわれ聖隷福祉事業団保健事業部は、2021年4月からゲノムを用いた健康診断に対応していく。また、AI(人工知能)を用いた画像診断も早晩、実装化されることになっている。

これからの予防医療を見据えると、こうした最先端的な技術を活用していくことは、不可欠と言えるのだが、先ほど申し上げた通り、地道で、フェイス・トゥ・フェイスの、言わば手作り的な健康づくりも非常に大事だと思っている。こうした中で、今回、コロナ禍の中で開催された「浜松ウエルネスフォーラム2021」や「ウエルネスプロジェクト」は、最先端的のテクノロジーを取り入れつつも熱い思いを持って進んでいけばきっといいものになるし、浜松の財産になっていくと確信している。

私も微力ながら、池野先生、山本先生とともに、このプロジェクトに専心していきたいと思っている。皆さん、どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。