基調講演①
厚生労働省 保険局医療介護連携政策課長 山下 護
マイナンバーカードの健康保険証利用について
マイナンバーカードの健康保険証の利用に関して説明したい。現在、厚生労働省では、日本国民全員をカバーする全国3000以上の健康保険の保険者と結んだデータベースを構築している。この一元的に構築されたデータベースは、見方を変えると、国民一人ひとりの健康・医療に関する私書箱とも言える。その私書箱には、番号が振られていて、さらに健康保険証の被保険者番号と1対1で対応している。例えば、年齢が40歳以上であれば、メタボ健診の結果の情報も入っており、身長・体重はもちろん、血糖値や血圧など、の情報が入るとともに、過去、どの医療機関でどんな治療を受けたのかという情報やどんな薬が処方されたのかという健康・医療の履歴情報が蓄積されていくことになる。その健康・医療の履歴情報がマイナンバーカードを通じて、自分の情報として自分で管理するという仕組みだ。
こう説明すると、「健康保険証でもできるのではないか」という疑問を持たれる方もおられるかもしれない。ただ、健康保険証には被保険者番号は書いてあっても、写真が入っていないので、本人確認ができない。一方、マイナンバーカードは、顔の写真もついており、ICチップを通じて電子的に本人確認ができるため、結果として、4桁の番号を通じてマイナンバーカードによる健康保険証の利用ができる。
すると、「自分のカードに、自分の健康状態や治療を受けたのかという履歴情報が入ってしまうとセキュリティ上、恐ろしくて持てない」というような意見も出てくるのではないか。従って、「実はそうではない」ということをきちんとお伝えしたい。
マイナンバーカード健康保険証利用の仕組み
まず、皆さんの財布の中にある、普段一般的に使用しているクレジットカードを例に説明したい。そもそもクレジットカードを使って支払いができるのはなぜだろうか。現在のクレジットカードには、ICチップがついており、利用者が支払いするときに、カードリーダーにクレジットカードを差し込むとカードリーダー側から4桁の暗証番号入力するように指示を受ける。利用者が暗証番号を入力すると、クレジットカード会社に対して本人であることが電子的に伝わり、同時に、利用店舗に対し、購入金額を引き落とすことを承認することが伝わる。
それから、クレジットカード会社は、その信号を受け取ると、期日に利用者の銀行口座の口座から購入金額を引き落とし、支払いを代行するというのがクレジットカードの仕組みだ。つまり、クレジットカード自体には口座残高や口座番号などの情報は入っておらず、唯一入っているのは、カードの保有者を証明する4桁の番号になる。
同様に、マイナンバーカードの場合も、カード自体には、健康情報や年金、税金などの情報は一切入っていない。一方、データベースには、先ほどのクレジットカードの事例と同様、個人の健康・医療の私書箱に情報が入っており、マイナンバーカードで4桁の番号がきちんと入力された情報が信号で伝わり、本人確認ができると、利用者自身の情報がフィードバックされる仕組みなので、心配はない。もちろん万一、落としてしまうと、4桁なので、1万分の1の確率で理論上、アクセスできることになる。従って、落とした場合は、クレジットカード同様、止める必要がある。
なお、クレジットカードとマイナンバーカードによる健康保険証の違いを言うと、病気やケガをした場合に、「いちいち4桁の暗証番号を押すのはどうか」という指摘も受ける。それはもっともな指摘で、4桁の番号を毎回入力しなくても、マイナンバーカードに登録されている顔写真と本人の顔の情報で、本人確認をする仕組みを採っている。そのために顔認証付きカードリーダーを医療機関に設置してもらうように取り組んでいる。
では、顔認証付きカードリーダーというのはどういうものだろうか-。これまでは、医療機関に行くと、健康保険証を窓口に渡す。それに代わり、マイナンバーカードでは、自分でカードリーダーにマイナンバーカードを置くと、マイナンバーカードにある写真の情報を読み取る。そして、ご自身の顔と照合して、照合されれば本人の健康保険の情報が医療機関の窓口に届けられる仕組みだ。待ち時間は短くなるだろう。ちなみに、顔情報は、照合が終わると、すぐに消される仕組みなので安心していただきたい。
さらに、この仕組みを使うと、皆さんの診療内容、診察室での問診の質が高くなる。
これがどういうことかについてもお伝えしておく。マイナンバーカードを置き、患者として自らの情報を医療機関に提供することについて同意すると、データベースに入っている服薬した薬の情報が受診する医師に伝わる。健康診断の内容についても、本人の同意に基づき、伝達されることになる。
例えば、抜歯するときに、歯科医から薬を常用していないか聞かれた経験がある人もあるだろう。普通の人だとその問いに対しあまり意識せず、「大丈夫」と言って歯を抜いたとする。仮にそのときに血液がさらさらになる薬を服薬していた場合、歯を抜いてしまうと出血が止まらないという症状が起こる。そうした場合、歯科医の立場からすると「服薬の情報さえあれば」ということにもなるはずだ。つまり歯科医に通院する場合にも、他の医療機関でどんな薬を飲んでいるのかを歯科医と共有しておけば、歯科医は予め患者の状況に合わせて治療に対応できる。自身の健康のためにも、マイナンバーカードを使って自分の情報を信頼できる医師と共有することによって、より安心して診療を受けることができるというわけだ。
マイナンバーカード健康保険証利用の展望
では、今後、そうした情報は、どのような形で進めていくのだろうか。データベース内には、日本国民一人ひとりの健康保険の被保険者番号や投与された医薬品の情報、1年に1回受ける健康診断などの情報やいつどの医療機関でどんな手術を受けたのかといったレセプト情報が入っている。また、資格情報として、例えば75歳以上の高齢者では現役並みの3割負担なのか1割負担なのかなどの情報も入るし、所得に応じた高額療養費の限度額情報も含まれる。
加えて、処方せんについても、マイナンバーカードを通じて電子処方せんという形で医療機関、薬局と情報共有されることになる。
つまり、利用者のマイナンバーカードという鍵を使って、自分の健康・医療の情報を信頼できる医療機関と共有されることによって、自分の健康・医療の情報が医師や薬剤師などのプロに伝わる仕組みと言い換えることもでき、これが、マイナンバーカードによる健康保険証の利用の今後の発展の可能性とも言えよう。今回は、浜松市の皆さんを中心に健康に関するビジネスをされている事業者の皆さんもおられると聞いているが、将来は、皆さんで構築された情報と私たちが構築している情報と組み合わせて、最終的に市民の皆さんにとって有益な健康のアドバイスができるアプリケーションを提供するという可能性もあるのではと期待している。
基調講演②
経済産業省 商務・サービスグループヘルスケア産業課長 稲邑 拓馬
健康寿命の延伸に向けたヘルスケア産業の創出
政府は、健康・医療戦略本部という組織を、内閣総理大臣が本部長となる体制で作り、関係する省庁が連携して、研究開発や新産業育成を実施している。そこで、今回は、現在、政府が取り組んでいる健康寿命の延伸に向けたヘルスケア産業を創出について説明したい。
三つの背景
まず、背景として3点を挙げてみよう。最初に健康寿命の延伸について説明しておく。わが国の人口は、1900年初頭から急速に上昇し、2010年をピークに急激に人口が下がっている状況にある。現在の高齢化比率は、27~8%くらいだが、これからどんどん上がっていく。こうした中で、経済社会を維持しながら、活力ある国を維持していくためには、国民一人ひとりの健康寿命の延伸が欠かせない。
例えば、一般的な「65歳まで働いて、リタイア」というケースを考えてみよう。現在は、15~64歳の生産年齢人口当たり、二人で一人の高齢者を支えているのだが、このペースで高齢化率が進むと、65年には、1・3人で一人を支えることになる。だが、仮に75歳まで元気で活躍できる社会を実現すれば、65年時点では2・4人で一人を支える構図になり、状況は改善される。実際、今の高齢者の体力は、昔と比べ、ほぼ10歳は若返っており、日本老年学会などは、現在は65歳とされている高齢者の定義を「75歳以上に見直したらどうか」と提言している。もちろん、体力面だけが、健康で長生きできるわけではない。社会的にも健康で長生きして、社会に参画する仕組みを創っていくことが、国に求められる大きな課題と言えよう。
二つ目の背景として、足元のコロナ禍の影響も指摘される。運動不足で肥満になったり、
メンタルヘルスやストレスなどの事例が報告されている。欧米では、都市がロックダウンされた影響で、1日当たり6000歩くらい歩いていた人が、3000歩くらまで下がってしまっているという報告もある。日本はそれほどではないものの、外出を控えるために総じて下がってしまっているというのが実情だ。高齢者では、認知機能の低下などの課題もある。
さらに三つ目の背景として、デジタル化の必要性が高まっていることも挙げられる。数年前にOECDが各国の医療ビッグデータの基盤構築のレベルを示した調査によると、残念ながら日本は、先進国の中で最もデジタル化が遅れているという結果が報告されている。コロナ禍で、各国がデジタル化を加速させている。元々遅れていた領域ではあるが、国として、大きく取り戻していくというのが、現政府の方針だ。
デジタルヘルスについての課題と政策的なアプローチ
では、足元、コロナ禍でデジタルを使って健康長寿を実現するために、論点を三つほど整理し、それぞれどのような政策的な動きをしているのかについて説明してみたい。
まず、最初の課題として、自分の健康情報をどう生かしていけるかという領域において、PHR(Personal Health
Record)を利用する上でどのようなルールを作っていけるかということが挙げられよう。日本では、国民皆保険のおかげで、生まれてから学校生活、職場と生涯にわたって健康のデータが確保できる。ただし、例えば事業主健診データだと企業が持っていたり、メタボ健診だと保険者、学校健診だと、学校が持っているなど主体がバラバラになっているので、マイナポータルという仕組みを使って、個人のアプリに全部入れられるようにしようとしている。これが、実現されると、過去の健康診断のデータと併せて、日々の健康管理や食事、運動などの活動要素と掛け合わせることでアプリから有効なアドバイスを受けることが可能になる。
現在、こういうサービスを提供して受けられるような基盤を国として創り上げているが、幾つかのハードルもある。例えば、自分の健康情報が、悪意のある人たちに利用されてしまわないかという情報セキュリティなどの課題が挙げられる。そこで、経済産業省、厚生労働省、総務省の3省で新たなルールを作り、こうしたルールをクリアした事業者だけが、公的なPHR利活用の仕組みを利用できるようになるという方向で調整している。今、国の指針をパブリックコメントにかけているところだ。例えば、個人情報を第三者に提供する場合には、個人情報保護法に基づいて本人同意をとる必要があるが、利用者がほとんど読まないような長い文書で同意を取ることにならないよう、今回のPHRの利活用のルールにおいては、より丁寧で分かりやすい確認を事業者に求めていこうと考えている。
もう一つ、情報のポータビリテイと呼ばれる視点が挙げられる。例えば私がランニングとかの記録を管理する健康アプリAを使っていたとする。そこに健康診断の情報なども入れていて、別の食事を管理する健康アプリBにデータを移したいと考えた場合に、もともと使っていたA社がデータを抱え込んで、B社に渡せないとなると、利用者にとってすごく不便になるので、それをちゃんと移行できるような仕組みを前提としてルールにしたいと思っている。
二つ目の課題には、予防・健康増進の分野においてしっかりしたエビデンスがないと、それを訴求できないという問題がある。「健康にいい」と訴える商品はいろいろあるが、本当に効くかどうか分からないというものも多い。そこで、今年度から経済産業省と厚生労働省では、11のプロジェクトをスタートさせ、民間のヘルスケアサービス事業者が商品開発に参考になるようなエビデンスを整理する基盤を作り上げていきたいと考えている。
三つ目の課題は、予防・健康分野は、保険適用の外になるので、ここの分野でマネタイズできる仕組みを構築しておく必要がある。われわれが着目しているのは、企業が従業員の健康づくりに力を入れていくという健康経営への取り組みで、それによって、ヘルスケア産業創出の基盤になっていくものと考えている。従業員が健康であれば、企業にとってもいいことだし、生産性が高まり、活力のある職場が生まれる、それによって企業の価値が高まっていけば、企業が経営的視点で健康づくりに励んでもらえる好循環のサイクルが期待できるだろう。
代表的なものは、健康経営に取り組んでいる企業を健康経営優良法人として認定するということを経済産業省で実施している。企業と中小企業に分け、調査票から一定程度のスコアになった企業に対し、「健康経営優良法人」として認定する仕組みだ。大企業で一番スコアの高い企業を健康経営銘柄として業種ごとに選び、比較的スコアの高い500社程度をホワイト500として選定している。中小企業は、上位500社程度をブライト500として指定している。
健康経営の取り組みは、7年前から実施しているが、毎年拡大し、大企業の場合、例えば東証の大型株の「TOPIX100」の約8割の企業が健康経営に参加している。今年度は、コロナ禍の中でも中小企業を中心に増加していて、健康経営がここ数年でかなり浸透してきたのではないかと実感している。
一方、地域を通じても健康経営の視点が加速しつつある。特に地方自治体が、健康経営を行う企業を表彰するような動きが拡大している。今年度は全国94の自治体で表彰・顕彰制度を持っている。ユニークな事例として、例えば長野県松本市など18の自治体は、健康経営を実施している企業が公共工事などの入札を行う場合にポイント加算をするということも行っているということだ。目に見えるインセンティブがあれば、参加する企業の力も入るので、こういった自治体の動きもわれわれの方で把握していきたい。健康経営という視点で、いろいろな企業が参画し、それによってヘルスケア産業が大きく伸びていくということを期待している。
官民連携社会実証事業の紹介①
キリンホールディングス株式会社キリン中央研究所主任研究員 阿野 泰久
聖隷MCIスタディ
私からは、社会福祉法人聖隷福祉事業団と共同で実施している「聖隷MCIスタディ」について説明したい。この研究は、乳由来の「βラクトリン」と呼ばれる認知機能改善につながる食成分を活用した脳の健康サポートに関する実証事業となる。
まず、当社の概要について簡単にご紹介させていただく。キリンホールディングス株式会社は、創業1907年で、東京に本社機能を置いている。グループの中核には、主にビール、酒類を製造・販売するキリンビールやメルシャンや清涼飲料水を扱っているキリンビバレッジ社などがあるが、医薬・ヘルスサイエンス事業にも近年注力している。医薬事業については協和キリンが、ヘルスサイエンス事業についてはファンケルや協和発酵バイオと連携し、さまざまな事業開発を進めている。
当社では、伝統的に発酵・バイオテクノロジーをコア・コンピタンスとして有しており、これらの技術を健康課題の解決に生かし、経済的または社会的な価値を創出していきたいと考えている。このためには、ヘルスサイエンス領域において、発酵・バイオテクノロジーを活用しながら、1、免疫領域、2、脳領域、3、腸内環境領域の三つを重点領域として進めている。今回、「浜松ウエルネス・ラボ」と連携するのは、主に2の脳領域だ。
脳領域に取り組む背景として、日本は平均寿命が伸び続けており、国民の4人に1人が高齢者という超高齢社会を迎えているからにほかならない。2025年には、軽度認知機能障害(MCI)が584万人、認知症患者数が730万人にまで増加するとも言われており、65歳以上の高齢者のうち5人に1人は認知症になるという予測もある。
認知症をもたらす認知機能の低下は、発症してから治療するという方法論が現状では十分に開発されていない中、早い段階から日常生活を通じて予防対策を講じておくことが非常に重要になる。特にMCIやその前の段階から適切な日常生活、特に食習慣を改善させることで、認知機能はサポートできるということが最近の研究から分かってきた。脳の健康が維持されていることは、心も満たされた豊かな生活を送る上でとても重要である。
前述の通り、日本人対象の疫学調査によると牛乳や乳製品の摂取が認知症のリスクを下げるという報告に着目し、東京大学や協和キリンとの連携を通じて「βラクトリン」と呼ばれる乳由来の認知機能改善成分を独自に見出している。「βラクトリン」は、カマンベールチーズなど発酵や熟成の進んだ乳製品に多く含まれる成分だ。これまでの非臨床試験で、「βラクトリン」は脳の老化やアルツハイマー病の予防効果を示すことが確認されており、健康な方を対象とした臨床試験では、記憶力や集中力といった認知機能が改善するというエビデンスが取得されている。
しかしながら、認知症のような脳の健康課題は、とても一企業では解決できない。MCIのエビデンスが不足していることと、日常生活を通じて脳の健康を知る機会や把握できるようなソリューションも期待されていることから、産官学の実証実験が可能な「浜松ウエルネス・ラボ」に参画させていただくことになった。
同ラボのスキームによって、聖隷福祉事業団や浜松医科大学と連携でき、特定臨床研究としての倫理審査を実施。昨年から臨床試験もスタートしている。
「βラクトリン」のMCIの方を対象とした臨床試験だが、聖隷事業団に提供していただくMCIドックは、通常であれば有償になるが、臨床試験に参加いただくことで、無償で受信可能だ。浜松市民の皆さんにも趣旨をご理解いただき、試験に参加いただけそうな方がおられるようであれば、ぜひ参加をお願いしたい。また、今後も当社は、脳の健康サポートに取り組んでいる企業や団体とも積極的に連携していきたいと考えている。
官民連携社会実証事業の紹介②
株式会社ファンケル総合研究所ヘルスサイエンス研究センター長 由井 慶
中高齢者対象の嗅覚機能と気分・ストレスに関する調査研究
「浜松ウエルネス・ラボ」において、健康増進に向けた新たな研究として、嗅覚機能と気分・ストレス状態に関わる実証実験をキリンホールディングス株式会社と一緒に進めている。今回は、その内容を説明したい。
まず、当社について概要を紹介しよう。無添加化粧品および健康食品を中心とした研究開発に力を入れた製販一体型企業で、設立は、1981年。昨年創業40周年を迎えた。世の中の「不」を解消するために、「もっと何かできるはず」という会社理念のもとに事業を進めている。現在は、2015年にスタートした機能性表示制度のもとに機能性表示食品の開発に注力しており、19年8月からキリンホールディングス株式会社との資本業務提携を行っている。われわれの研究開発の拠点として、横浜市の南に位置する戸塚区に総合研究所を設置しており、研究員は約200名となっている。ここでは、化粧品と健康食品の基礎研究から応用研究を中心に、顧客が求める幅広い研究に取り組んでいる。
昨今、心の健康が社会的に大きな課題となっている。一般企業でも特に中高年齢層で病気にかかる人が増えており、厚生労働省から各企業に対し、メンタルヘルスに対するケアが示されている。さらには、新型コロナウイルス感染の影響で、コロナうつやコロナ疲れといった気分状態の悪化に対するケアも必要になっている。
一方で、高ストレスにさらされていながら、本人の自覚が伴わずに悪化してしまうということがよく挙げられる。これは自覚症状と客観指標が乖離するために起きる。従って、今後、客観的に確認できる指標が求められていると言えよう。また、昨今の研究において、嗅覚機能、唾液成分と気分状態の関連性についても研究が進んできている。
そこで、私たちは、気分・ストレス状態を簡便かつ客観的に把握し、日常生活を通じて改善する手段を開発することを目指して研究をスタートさせた。主観・客観的な指標による気分・ストレス、健康状態の把握に向けた研究として、具体的には嗅覚テスト、主観アンケート、唾液成分、自律神経機能などを見ている。研究の規模は、40~75歳の浜松市民から360名が対象になる。なお、本研究は、人を対象とする医薬系研究に関する倫理指針にのっとり、倫理審査を経て実施している。
本研究を通じ、浜松市民の皆さんに対して、嗅覚機能や気分やストレス、健康状態に関する最新の情報を提供し、日常を通じての気付きなどの啓発を行っていきたいと考えている。実際に、研究にご参画いただいた方からは「参考になった」とか「その数値に対して、今後どのように対応すればよいのか」といったご意見も寄せられており、こうした実際のコミュニケーションの中から「健康に対する気付きを持っていただいている」と実感しているところだ。
次の段階では、気分・ストレス、健康状態を改善するためのエビデンスを取得していきたいと考えている。そのエビデンスに基づき、直接的あるいは間接的に、香りを介したソリューション開発につなげていければと考えている。
具体的には、第二弾として、今年から来年に向けて、香りによる介入研究も計画していきたい。香りについては、やはり安全ということ、それから日常という点を考慮して、食品由来の成分を選んで実施していきたいと考えている。
最終的には、気分・ストレス、健康状態のチェックという視点、さらにはそれに対するソリューションを組み合わせることによって、健康改善活動に役立てていただくことを目指している。
官民連携社会実証事業の紹介③
SOMPOひまわり生命保険株式会社事業企画部サービス企画グループ課長代理 鈴木 敦
デジタル技術&ヒューマンタッチによる血糖コントロール
われわれSOMPOひまわり生命は、生命保険の提供だけではなく、お客様や国民の皆様が健康になることを支援、サポートする健康応援企業となることを目指している。そこで、新しいヘルスケアサービスの開発や展開を目指すために、「浜松ウエルネス・ラボ」に参加し、昨年11月から今年2月まで3カ月間にわたって実証実験を実施した。今回は、われわれが実施したデジタル技術&ヒューマンタッチによる血糖コントロール事業について報告したい。
本事業では、糖尿病予備群の意識変容と行動変容に寄与することを目的に、能動的なサイクルと行動継続により、血糖値を改善して、糖尿病発症予防を実現する3カ月間のプログラム、大きく分けて、前半の4週間と後半の8週間の介入を行った。
前半の4週間は、デジタルによる介入で、参加者に「フリースタイルリブレ」という自動で常時血糖測定ができる機器を装着してもらう。自身の血糖の動き、変化、食事記録などをアプリに登録し、記録することによって、血糖との関連をより見える化させ、血糖変動の原因に気付いていただく。さらに、デジタルによる介入プログラムも行い、改善行動を自分で決めていただき、行動に移していただく。
後半の8週間は、行動継続の面で、市内の杏林堂薬局に協力いただき、薬局・管理栄養士による対面フォローを行った。参加いただいた対象者は、30~65歳の市内在住または勤務の糖尿病予備群の人たちを選び、直近2年間の健診結果で、空腹時血糖が126未満、HbA1cが5・6~6・5未満の、まだ糖尿病にかかっていない方々に参加してもらった。また、デジタルによる介入もあるので、スマートフォンを日常的に使用している方も選定基準とした。
実証の結果報告だが、当初われわれは60人を想定していたが、浜松市や医療機関、健保組合の協力もあり、69人が応募。そこから条件の絞り込みを行い、最終的に59人の方に参加いただいた。さらに注目すべき点が途中で実証をやめてしまう離脱者で、3カ月のプログラムを通してわずか1名に抑えることができた。これは、何と言っても、管理栄養士のフォローが、大きく寄与したと見ている。
リブレによる計測データから各項目の結果についても掲載しておいたが、参加者のデータの多くの項目で大きな改善が見られた。特に血糖値の項目の中にある推定HbA1c、平均血糖値が、実証の開始時、平均5・84あった数値が同5・66まで下がる結果になった。参加条件の下限は5・6なので、その下限値に限りなく近付くまで平均HbA1c値を抑える結果が得られた。時期的に年末年始をまたぐ、比較的暴飲暴食がされる厳しい期間といったことも考慮に入れれば、大きな成果が得られたと考えている。
参加者のアンケート結果も紹介しておきたい。実証終了後のアンケートだが、「行動変化を与えたきっかけは、どんなものだったか」といった質問に対し「リブレで測ったことによって血糖が見える化したこともあるが、薬局での管理栄養士との面談が行動変化に大きく影響した」「管理栄養士の方が数値の改善結果を親切に教えてくれて励みになった」といった声も数多く聞かれた。つまり、デジタルによる介入だけではなくて、管理栄養士つまり、ヒューマンタッチによる介入が参加者の意識、行動変化、行動継続に大きく影響を与えていたといったことを見ることができた。
最後にこの実証実験を通じて、来店の予約の調整や通常業務との兼ね合いで、薬局にかかる負担が大きいと改めて実感した。また、糖尿病予備群の皆さんが個人レベルで改善行動を続けることも現実には厳しいので、企業や健保などを通じて、BtoBtoCのサービスモデルを早急に検討する必要があると感じている。
官民連携社会実証事業の紹介④
第一生命保険株式会社イノベーション推進部イノベーション開発課マネジャー 小沼 亮太
健康増進・口腔ケアに関する社会実証報告
当社からは、現在実施中の健康増進アプリを活用した社会実証の経過報告と口腔ケアに関する計画について説明したい。
まず、第一生命グループでは、病気や万が一などに対し、経済的に保証するという従来の生命保険の役割から、疾病の予防や早期発見などの分野へも力を発揮していくことが必要だと考えている。また、当社グループでは、保険ビジネス(Insurance)とテクノロジー(Technology)の両面から生命保険事業独自のイノベーションを創出する取組みを“InsTech”と銘打ち、よりよいサービスの提供や人々のWell-being(幸せ)の実現に向けて、テクノロジーの活用を積極的に推進している。「浜松ウエルネス・ラボ」においては、デジタル技術を活用して、市民の皆さんに疾病の予防や早期発見などに資するサービスを提供することで、健康寿命の延伸に向けた行動変容を起こせるかという観点で、社会実証を進めている。
では、まず「健康増進アプリによる行動変容に関する社会実証」についての経過報告を行いたい。当社では、従来から、健康活動をサポートしたり、自身のリスクを予測したりしながら楽しく健康について意識していただける健康増進アプリ「健康第一アプリ」というサービスを提供しており、同アプリを活用して健康意識にどのぐらい変化が生じるかということを検証していきたいと考えている。
今回の社会実証では、約200名の市民、市内在勤者の皆さんに参加いただき、①国民健康保険に加入していて、特定健診を普段受けていない方を対象に、健康診断を受けるようになるのか②市内の企業、団体の協力のもと、従業員の皆さんが定期的に健康行動を実施するようになるのか-といった行動変容がもたらされていくかを検証している。2月までの経過では、同アプリを登録した約150名のうち、毎月6割ほどの方に、アクティブにアプリを利用いただいている状況だ。今後、参加者の健康意識・行動がどのように変わっていくのかということを、検証し、報告していきたい。
また、2021年度は、「スマート歯ブラシを活用した口腔ケアによる歯周病予防への行動変容に関する社会実証」を進めていく。「歯周病は万病のもと」と言われているが、歯周病は虫歯と合わせて歯を失う二大要因であり、糖尿病をはじめ生活習慣病と相関関係があることが分かっている。生涯十分な数の歯を維持し、カラダ全体の健康維持につなげるためには、歯磨きなどのセルフケアはもちろん、歯周病検診や予防歯科通院で専門家によるケアを定期的に行うことが理想とされている。しかしながら浜松市の歯周病検診の受診率は全国の受診率推計と同等の5%程度にとどまり、歯周病検診や予防歯科の受診率の低さが課題となっている。本社会実証では、口臭を測定できる世界初のスマート歯ブラシ「NOVENINESMASH」(以下、SMASH)を活用し、歯周病を予防するための行動変容を起こせるかについて検証していく。
SMASHは、電動歯ブラシの中に備わった口臭センサーに、息を吹きかけると、口臭レベルが確認できる。また、専用のスマホアプリと連動させると、具体的な口臭数値や歯磨きした時刻、時間を把握できるほか、ガイダンスに合わせて口腔内の写真を撮影する機能が備わっている。さらに、取得される口腔データを活用し、アプリ上で歯科医師にチャット相談をすることもできる。自宅にいながら手軽に専門家からのアドバイスがもらえるメリットは大きく、その中で歯科受診が後押しできれば、行動変容に結びつく可能性は高いと期待している。
本社会実証は、21年6月から3カ月間にわたっての実施を予定している。参加者には、毎日SMASHを使った歯磨きや口臭測定、オンライン歯科相談などを行ってもらい、その後、歯科受診などの行動や意識の変化を検証していく。
官民連携社会実証事業の紹介⑤
住友生命保険相互会社企画部兼営業企画部ウェルエイジング共創ラボ部長代理 阿部 伸彦
<>strong>スミセイ“Vitality Action”
当社は、「浜松ウエルネス・ラボ」において、オンライン版スミセイ“Vitality Action”という親子スポーツイベントを実施した。元サッカー日本代表、福西崇史氏を講師に招き、昨年12月5日に午前・午後の2回開催した。参加対象は、小学生親子で、参加費は無料。福西氏は、ジュビロ磐田でも活躍されたので、浜松の皆さんはよくご存じだと思う。
このイベントは、「日本の健康寿命の延伸」という社会的課題の解決のために、当社設立110周年記念事業として、2017年から開催している。競技は、サッカーだけでなく、野球、卓球、柔道、バドミントン、バレーボールなど幅広い枠で実施している。それぞれの種目のトップアスリートを講師に招き、参加者とスポーツを通じて、触れ合い、運動する楽しさや大切さを感じることで、運動を継続するきっかけとしていただいている。その上でコンセプトを「たいせつな人とカラダ動かそう」とし、大切な人(家族)と一緒に運動することでもっと健康にもっと幸せになってもらいたい、という願いが込められている。
20年度は、新型コロナウイルス感染がまん延したため、開催が危ぶまれたが、自宅でオンラインを通じて参加してもらう「オンライン版スミセイ“Vitality Action”」という形式を採用した。これまでに全国7カ所で開催した。
イベントの所要時間は、約1時間。まず、開会式が行われ、参加者への説明と諸注意などを行い、当社の代表が挨拶して、親子のスポーツイベントがスタート。アスリートが、参加者の出欠確認をし、学校のような和気あいあいとした雰囲気で行われるように工夫した。本イベントは、親子で触れ合える機会ということも重要な要素としており、トップアスリートによる「上手ですね」「頑張っていますね」とか、「もっとこうした方がいいですよ」といったアドバイスのもと、親子で楽しくカラダを動かす仕組みだ。
さらに、運動終了後、15分ほどQ&Aコーナーを設置し、トップアスリートとのコミュニケーションが図れるようにした。浜松開催の際も、福西氏がジュビロ磐田に在籍された当時の思い出などを語っていただき、非常に和やかな雰囲気だった。最後に、閉会式を経て、参加者全員による記念撮影を行い、終了といった流れになっている。
スミセイ“Vitality Action”の、これまで4年間の実績としては、オンライン版、リアル版を含めて、全国111箇所にて、5862組、1万2432名(2021年3月末時点)の親子に参加してもらっている。
今回、浜松で開催したオンライン版スミセイ“Vitality Action”には、私も参加したが、参加された親子の皆さんが、笑顔で楽しそうに触れ合う機会を見ることができ、非常に良い雰囲気で開催できたと思う。ただし、健康増進という意味では、1回きりのイベントだと、十分な効果が得られないため、参加者には継続して運動していただけるように、健康増進のためのカレンダーを配布している。
また、今回のイベント開催にあたり、準備段階から浜松市の皆さまに特にお世話になった。広報誌への募集案内掲載はもちろんだが、教育委員会を通じて小学校でチラシを配付してもらったり、市役所・保健所・市のスポーツ施設や各企業の健康保険組合をはじめ、浜松ウエルネス推進協議会会員の企業などに幅広く協力いただくなど、方法論・チャンネルの広さを実感した。この場を借りて、改めて感謝申し上げたい。
われわれ住友生命は今後もさまざまな事業・取り組みを通じて、浜松市の市民の皆さんの健康増進のため、明るい未来のために貢献したいと考えている。
報告①
SAPジャパン株式会社 (左)トランスフォーメーション・オフィス・トランスフォーメーション・オフィサー 長阪 数馬、(右) ソリューション統括本部エンタープライズ・アーキテクト 佐宗 龍
データプラットフォーム構築
今回、われわれからは「予防・健幸都市浜松」実現に向けたヘルスケア・データ・プラットフォーム構築に向けて」というテーマで、説明したい。
まず、SAPジャパンについて、簡単にお話したい。われわれは、ドイツが本社の、いわゆるソフトウェアの日本法人で、主にビジネスアプリケーションや、業界向けのソフトウェア、今回のように、データ・プラットフォームと言ったデータを蓄積・分析するようなソフトウェアを販売している。
では、なぜヘルスケア・データ・プラットフォームが必要なのだろうか-。これまでさまざまなプロジェクト参画企業の皆さんから説明があったが、こうした参画企業の皆さんが実証事業活動によって蓄積したデータを、「浜松ウエルネス・ラボ」参画企業や浜松市はもとより、今後の可能性として、例えば静岡県や医療機関などにもより付加価値の高いデータとして提供できるようにしていく視点が重要になるのではないか。
また、何より浜松市民の皆さんにとっては、自分自身のヘルスケア・データを網羅的に理解し、ヘルスケアに関する最適な情報をフィードバックしてもらうという機会創出が重要になってくるし、何よりウエルネス・ラボ参画企業の皆さんの立場では、個人情報など十分に注意すべき点はあるものの、自社の実証事業から得られたデータだけではなくて、データプラットフォームを活用することで、新たな商品やサービスにフィードバックしたり、開発していける可能性が広がるのではないか。何より、浜松市の皆さんにとっては、市民の健康寿命を延ばすことに資するというのが大きなメリットになるのではないだろうか。
データの分析の技術は、かなり進んでいて、これまでは、専門家がデータを集めて整理して、いろいろな技術を駆使してやらなければならなかったことが、さまざまな人たちが直感的にデータを投入することで、多角的な分析が可能な世界が現実に起きている。併せて、今までのデータの蓄積をもとにして、機械学習の力を使うことによって、今まで気付かなかったアイディアや将来的にどんなことが起きるのかといった予測モデルを、統計手法を使って現実に反映できることが起きている。われわれは、こうした手法をまさしくヘルスケア・ウエルネスの世界で使わない手はないと考えており、ヘルスケア・データ・プラットフォームを、データを溜めるだけではなく、どのように使っていけるかについて、2021年度から実装したいと思っている。
ヘルスケア・データ・プラットフォームの概念だが、「浜松ウエルネス・ラボ」参画企業、公開されたオープンデータをもとに蓄積する層、そして、利活用しやすいようにデータを蓄積する共通基盤、最後に溜めたデータを、参画企業や浜松市の皆さんがより活用していただけるためのデータを公開する「Openの
Service API」の3層でデータを蓄積、格納、見やすい形にして提供するというイメージで進めている。
実際にわれわれがプラットフォームとして提供する範囲だが、一つは、ヘルスケアのデータを格納するデータ・プラットフォーム自身で、これは、「浜松ウエルネス・ラボ」参画企業の公開可能なデータだけを格納する。さらには、行政が公開しているさまざまなオープンデータや統計データなどを収集して分析をしていくための基盤も構築し、あとは、集められたデータを、「浜松ウエルネス・ラボ」参画企業が実際にデータ分析として使えるような分析基盤も併せて提供していく。さらには、われわれ自身が、サービスの提供者という形で、データを取得していくことも検討中だ。これは、「Active One for Hamamatsu」と呼称しているが、市民参加型の活動支援ソリューションという形でサービスを展開しようと考えている。
報告②
(左)国立大学法人浜松医科大学健康社会医学教授 尾島 俊之、(右)社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷健康診断センター医師・国立大学法人浜松医科大学健康社会医学講座特任研究員 赤松 友梨
健康ビッグデータ分析
今回の「健康ビッグデータによる分析」は、私と浜松医科大学健康社会医学講座の特任研究員で、聖隷福祉事業団の聖隷健康診断センター医師の赤松の共同で報告する。
まず、この分析の背景だが、ビッグデータの活用状況が非常に注目されていて、直近の「骨太の方針2020」を初め、さまざまなところで、ビッグデータの収集・分析による科学的かつ効果的なアプローチによる保健医療施策の推進が求められている。
浜松市でも、既に国民健康保険の保険者として、第2期のデータヘルス計画が策定・公表されていて、国民健康保険のビッグデータの分析などにも着手している。また、静岡県は、35市町の国保における特定健診データを網羅した報告書なども作成している。
さらに重要な要因として、健康寿命の延伸が挙げられよう。浜松市は、健康寿命が政令指定都市の中でトップであることが知られているが、その要因を解明していくとともに、良好な健康寿命を保持して、さらに延伸させていくためにはどのような施策を打ち出していくのがよいのかという知見が求められている。
そこで、浜松ウエルネスプロジェクトの一環として、予防・健幸都市の実現に貢献すべく、聖隷福祉事業団が所有する健康ビッグデータの解析を浜松医科大学と聖隷福祉事業団、静岡大学、浜松市との共同研究というスキームで実施することになった。四者の役割分担として、浜松医大は共同研究の進行管理や横断的な分析などを担当し、聖隷福祉事業団は、健診データの整理と基礎的な分析などを担当。静岡大学情報学部は、AIなどを使った高度な分析を行い、浜松市には、この共同研究のプラットフォームを作ってもらう。
従って、本研究は、浜松市民の健康寿命が良好な要因を明らかにしていくことを主要目的とし、さらに、市内地域ごと、属性ごとの特徴や生活習慣の要因の有無による検査異常や疾病発生などのリスクについても明らかにしていきたいと考えている。
なお、聖隷福祉事業団の人間ドックや健康診断のデータを用いているが、強みとしては、非常に規模が大きいということが挙げられよう。現在分析中のものでは、合計約56万人となっており、浜松市民のカバー率が高く、特に働き盛りの年代、若い人たちのデータが比較的多い。また、人間ドックの詳細なデータが網羅されていたり、経年的なデータ蓄積があるため長年の変化なども見ることができるというのも特長と言えよう。
分析の方向性として、現在、実施しているのが、静岡県外、静岡県内の浜松市外、浜松市内の三者の比較というアプローチで、性別や年齢階級別の分析なども進めているところだ。
現在までの分析の結果、浜松市においては、生活習慣の面で、喫煙習慣のある人、飲酒の頻度が多い人、就寝前に夕食を取りがちな人、20歳から体重が10キロ以上増えた人たちが、全国や静岡県内の他市と比較して、少ない傾向にあるということが分かった。また、健診データで見ても、浜松市においては、肥満の人、血圧が高い人、肝臓や糖の一部項目が高い人の割合が、全国や静岡県内他市と比較して少ない傾向にあるということも判明した。
今後の研究の方向性についてだが、例えば、市内の地区別の比較や、将来の健診異常を予測するための因子の検討や、人間ドックの助成を行っている事業所とそうでない事業所を健康状態がどうかという視点で比較していくなど、人間ドックの特殊な項目の分析なども実施していきたいと考えている。
報告③
浜松市健康増進課副参事 鈴木久仁厚
浜松ウエルネス推進協議会 令和2年度活動報告
「浜松ウエルネスプロジェクト」の地域推進組織、「浜松ウエルネス推進協議会」の活動報告をさせていただく。
現在、推進協議会には地域の企業・団体の計117社・団体が参画している。
推進協議会の役割は、①参画企業や団体の皆さんが取り組む独自のヘルスケア事業をサポートしていくこと、②参画企業・団体による新しい枠組み、新しい形でのヘルスケア事業を展開していくこと、である。
現在、予防や健康づくりに関する市民ニーズが大変多様化しているため、こうしたニーズに対応していくためには、行政サービスはもとより、官民連携、民間企業による新たなヘルスケアサービスを提供していくことが大変重要だ。2020年度において推進協議会では、官民連携によるヘルスケア事業の推進、健康経営の推進、ヘルスケアサービスの創出など、大きく六つの柱を立てて事業に取り組んできたが、改めて各事業ついて報告したい。
まず一つ目の事業が、官民連携による「予防・健康事業」で、20年度は、さまざまなコラボプロジェクトを実施した。例えば、高血圧や糖尿病など生活習慣病予防のために浜松市医師会が主催する減塩・低カロリープロジェクトの一環として、市内の調剤薬局「杏林堂薬局」と連携し、自宅で簡単にできる減塩レシピを季節ごとに作成した。また、急激な血糖値の上昇を抑えることに有効なベジファーストのPRおよび実践を促進する集中キャンペーンとして「浜松パワーフードベジファーストキャンペーン」を1カ月間実施し、約1200人の市民の皆さんに参画いただいた。5大がんの検診受診率向上を目的に、聖隷福祉事業団や杏林堂薬局など10社の会員企業の協力を得て、「がん検診受診キャンペーン」も実施した。期間中、がん検診受診でプレゼントが当たる企画やヘルス&ビューティーチェックなどのイベントも開催した。「Go To デンタル」というデンタルケアの大切さを会員企業などに啓発するキャンペーン企画も実施し、市の歯科衛生士によるレクチャーや相談、さらに歯周病検診に関するアンケートなども行い、会員企業約80社に協力いただいた。
二つ目の事業が健康経営で、20年度は、主に啓発を目的としたオンラインセミナーを中心に開催した。
三つ目の事業が「ヘルスケアサービスの創出・展開」だ。浜松市は、全国のスタートアップ企業が市内で実施する実証実験について、補助金交付と事業推進のサポートを行っている。20年度は採択7件中4件がヘルスケア関係だったこともあり、推進協議会としても積極的にサポートをした。また、新たな「ヘルステック」やヘルスケアサービスの創出に向け、協議会の参画団体でもある、はままつ医工連携拠点と「浜松ウエルネス・ヘルスケア現場ニーズ情報交換会」なども開催した。同交換会では、浜松医科大学と聖隷健康診断センターによる医療機関側の現場ニーズを、地域内外の企業やスタートアップ企業に紹介・提供した。
四つ目の事業が官民連携体制の強化だが、今年度は会員間の情報共有や会員情報の収集・発信などを目的に、毎週金曜日にメルマガを配信したり、ホームページも開設した。今年度ホームページは暫定的に開設したが、来年度は、ページをリニューアルし、内外への発信をさらに進めていくことにしている。
五つ目の事業が「ウエルネス・ラボ」が実施する社会実証事業への参加・協力になる。地域企業には、健康経営の一環として、これからも積極的に参加・ご協力をいただきたい。
六つ目の事業が、事業報告・活動成果の共有で、今回のフォーラムの開催などが挙げられる。
われわれとしては、今年度それぞれの事業において、新たな事業が複数立ち上がってきたことが大きな成果だと考えている。「予防・健幸都市」を実現していくためにも、こうした取り組みを息長く発展させながら進めていくことが大変重要だと考えている。