2023/10/18
気候変動の影響もあり、激甚化・頻発化する自然災害。特に水災害については毎年のように甚大な被害が発生している。国土交通省ではこうした状況に対し、河川流域の自治体・住民・企業など関係者一体となって防災に取り組む「流域治水」を進めている。しかし降雨災害は河川流域だけではなく都市部でも対応が必要になる。そのため今回は水災害、特に内水氾濫への対応・取り組みについて国土交通省水管理・国土保全局下水道部の吉澤流域管理官に話を聞いた。
国土交通省水管理・国土保全局 下水道部流域管理官
吉澤 正宏氏
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激甚化・頻発化する自然災害 ― 水災害の状況
――気候変動の影響もあり、近年、自然災害、特に水災害が激甚化・頻発化しています。では、ここ数年の水災害(降雨災害)の変化と発生した水災害の状況についてお聞かせください。
吉澤 本年7月、活発な梅雨前線の影響により、九州から中国・北陸・東北・北海道地方などの広い範囲で多くの降雨があり、河川の氾濫や内水氾濫による浸水被害が発生しています。浸水被害は、その土地に降った雨が河川に排水できずに発生する「内水氾濫」と河川から溢れて発生する「外水氾濫」の大きく二つに分類できます。「内水氾濫」という言葉は、近年、ニュースなどでよく耳にされているかもしれません。
内水氾濫は、短時間の集中的な豪雨によって河川に排水する下水道や支川、水路の処理能力が不足したり、河川の水位が高く、排水できない雨が下水道や支川、水路に取り込めなくなったりして発生します。特に都市部の市街地に降った雨を河川まで排出するシステムは下水道が主に担っています。河川の水位を下げる対策と相まって下水道の排水能力の向上がハード面からの主要な内水対策となります。
さて、降雨災害の状況についてですが、国土交通省においては、下水道整備区域での内水氾濫による浸水被害状況を自治体からの報告をもとに集計しています。7月の大雨による被害状況は集計中ですが、6月にも梅雨前線の影響や線状降水帯が各地で発生したことにより、近畿・関東地方12都府県68市区町の約6200戸(速報値)で床上・床下浸水が発生しています。過去5年間でみても、例えば昨年(2022年)7~9月の豪雨では、31都道府県92市町村で約15300戸。21年8月11日からの大雨では、17府県49市町で約3500戸。20年7月豪雨では、九州地方を中心に20府県63市町で約5100戸。19年の東日本台風では、東日本を中心に15都県135市区町村で約30500戸。18年7月豪雨では、西日本を中心に19道府県88市町村で約15200戸――と毎年のように内水氾濫による被害が発生しています。
また下水道の整備区域以外を含めた内水氾濫全体の被害状況などは水害統計で集計されていますが、この10年間(2011~20年)の水害被害額の合計は全国で約4・2兆円、そのうち約3割の1・3兆円が内水氾濫に起因するものになっています。
流域治水における下水道政策
――水災害対策としては、現在、あらゆる関係者によって流域全体で行う「流域治水」への転換が進められています。流域治水における下水道政策についてお聞かせください。
吉澤 気候変動の影響によって21世紀末には全国平均で降雨量が1・1倍、洪水発生頻度は2倍になるといった試算があります。こうした降雨量の増大に対応するためにハード整備の加速化・充実や治水計画の見直しに加え、上流・下流や本川・支川の流域全体を俯瞰し、国、流域自治体、企業・住民などあらゆる関係者が協働して取り組む「流域治水」を推進しています。その実効性を高め流域治水を強力に推進していくため、2021年流域治水関連法(「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」)による法的枠組みが整備されました。
下水道雨水対策については、20年6月(21年4月一部改訂)に「気候変動を踏まえた下水道による都市浸水対策の推進について」の提言がまとめられ、その中で示された、①気候変動を踏まえた中長期的な計画の検討、②下水道施設の耐水化の推進、③早期の安全度の向上、④ソフト施策の更なる推進・強化、⑤多様な主体との連携の強化――を踏まえ、流域治水関連法の中で下水道法などの所要の改正を行いました。
――下水道政策に関係する法改正事項としてはどういったものがあるのでしょうか。
吉澤 まず「計画降雨の事業計画への位置付け」です。近年の内水氾濫による浸水被害を踏まえると、過去の浸水被害のみならず、気候変動の影響も踏まえて地区ごとに浸水リスクを評価し、都市機能の集積状況に応じたメリハリのある整備目標を設定することが重要です。具体的には下水道法を改正し、施設整備の前提となる「計画降雨」(浸水被害の発生を防ぐべき目標となる降雨)を事業実施のための事業計画に位置付けることで、事前防災の考え方に基づく計画的な下水道整備を加速します。
下水道雨水対策の中長期的な計画となる「雨水管理総合計画」の策定を推進していますが、「気候変動の影響を踏まえた雨水管理総合計画の策定等の推進について」を発出し、気候変動による将来の降雨量の増加を踏まえて計画降雨を定めるとともに、既存ストックの効果的な活用や流域治水の考え方に基づく多様な主体との連携による流域対策を組み合わせ、段階的に安全度の向上を図るといった段階的対策計画を検討するよう要請しています。
次に「民間による雨水貯留浸透施設整備に係る計画認定制度の創設」です。都市機能が相当程度集積し、著しい浸水被害が発生するおそれのある地域においては、下水道の整備だけでは浸水被害の防止を図ることが困難なところもあります。そうした地域において、官民一体となった浸水対策を推進していくことが狙いです。
従前より浸水被害対策区域を指定し、民間事業者が主体となってビルなどの地下に雨水貯留施設の設置を進めることができる制度を設けていますが、今回の改正では、一定規模以上の容量や適切な管理方法などの条件を満たした雨水貯留浸透施設整備に係る計画の認定制度を創設するとともに、計画の認定を受けた民間事業者に対して、施設整備費用に係る法定補助などを新たに規定しました。
三つ目は「雨水出水(内水)浸水想定区域の指定対象の拡大」です。これは水防法において、想定最大規模降雨によるハザードマップを作成するエリアとなる浸水想定区域の指定対象を拡大したものです。近年、水災害が激甚化・頻発化しており、浸水想定区域の指定対象ではない地域でも多くの浸水被害が発生しています。このように潜在的に水害リスクがあるにもかかわらず、リスク情報が周知されていないために当該地域は安全だという誤解を招く可能性もあることから、リスク情報の空白地帯を解消して被害を軽減しようとするものです。下水道については周辺に住宅などの防護対象を有するものを指定対象としましたので、原則、下水道により浸水対策を実施する区域はすべて対象となります。