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国土交通省水災害対策政策最前線/国土交通省 吉澤 正宏氏

下水道政策における内水氾濫対策

――では、これらの内水氾濫対策に対する支援にはどういったものがあるのでしょうか。

吉澤 流域治水関連法の施行に併せて国土交通省では、ガイドライン類の改訂や予算制度の創設、拡充を行うなど、今般の法改正に基づく取り組みを支援しています。

 最初に、「雨水管理総合計画策定ガイドライン(案)」の改訂では、気候変動の影響を踏まえた計画降雨の算定や段階的対策計画の検討などに関する解説を充実させ、気候変動の影響を踏まえた計画への見直しを推進しています。

 次に官民連携による浸水対策では、計画認定制度の解説を追加するなど「官民連携した浸水対策の手引き(案)」を改訂するとともに、認定計画に係る雨水貯留浸透施設の整備費用に対して国が補助(1/2)する予算制度「官民連携浸水対策下水道事業」の創設や、雨水貯留浸透施設の固定資産税を減免する特例措置を講じて民間事業者による雨水貯留浸透の取り組みのさらなる促進に努めています。

 そして浸水想定区域図の作成については、「内水浸水想定区域図作成マニュアル(案)」を改訂し、簡易的な浸水想定手法の適用条件や浸水シナリオの設定などに関する解説を充実させたほか、浸水想定区域図作成のための手順を簡潔に示した手順書を用意しています。さらに本年3月には、マニュアルの参考資料である「内水浸水想定区域図の作成・活用等に関する事例集」に先進事例を追加し、浸水想定区域図の速やかな作成を促しているところです。あわせて、浸水シミュレーションなど浸水想定区域図やハザードマップの作成などに必要な費用に対しては、「内水浸水リスクマネジメント推進事業」を創設して支援を行っています。

 また一連の法改正の中で河川管理者や下水道管理者など流域の関係者による総合的な浸水被害対策を推進する特定都市河川浸水被害対策法が改正され、特定都市河川の拡大(指定要件の見直し)が図られました。これに合わせてハード・ソフト両面から総合的な下水道雨水対策を支援する「下水道浸水被害軽減総合事業」を拡充し、本事業の対象エリアに特定都市河川流域を追加するとともに、下水道管理者が整備する雨水貯留浸透施設の規模要件を撤廃し、当該流域における雨水貯留浸透施設整備の推進を図っています。さらに本事業では、行政と住民が連携した効率的な浸水対策の実施も支援対象としており、個人・事業者などによる共助・自助への支援として防水ゲートや止水板の設置、駐車場の透水性舗装や貯留浸透ますの設置などを支援し、下水道事業と連携した流域対策を後押しします。

――内水氾濫については既にさまざまな対策が実現していますが、法改正を受けた代表的な取り組みとその状況についてお聞かせください。

吉澤 国土交通省では、下水道法などの改正に基づく取り組みの進捗状況についてのフォローアップ調査を実施しています。この結果や先ほども少
し触れました各種ガイドラインや予算制度の紹介などを下水道浸水対策ポータルサイト「アメッジ」に掲載し、誰でも確認できるようにしています。

 まず想定最大規模降雨による内水浸水想定区域図の作成については、23年3月末時点で約13%(作成対象団体=約1100団体)の作成率になっています。下水道施設などのデータ整備や浸水シミュレーションの作業中のため、数字が上がっていないところがありますが、未作成の理由には、財政的理由や人材不足に加え「過去に浸水被害がない」「洪水ハザードマップを代用」しているといった回答も上がっています。もちろん財政面や人材面については予算制度やガイドラインなどで支援をしていますが、過去に浸水被害が発生していないからや洪水ハザードマップで代用できるからというのは認識を改める必要があります。内水の浸水想定区域図については、洪水と比べれば、その浸水範囲や浸水の深さは小さい傾向にありますが、内水浸水は洪水浸水想定区域から離れた場所でも発生することや短時間高強度の豪雨が増加傾向にあり、これまで内水浸水が発生していない地区であっても浸水が発生する可能性があることを十分に認識し、速やかに内水浸水に対応した浸水想定区域図やハザードマップの策定を進めていただきたいと考えています。

 次に流域治水の取り組みについて紹介します。2022年7・8月の大雨で甚大な被害を受けた鳴瀬川、荒川、梯川の3水系で「緊急治水対策プロジェクト」に着手しています。これは河川改修や下水道の整備に加え、流域における貯留浸透機能の確保や土地利用規制など流域一体となった取り組みにより浸水被害の軽減が早期に可能になる対策について、地方整備局の旗振りのもと、関係自治体などが連携して具体的な対策を議論、検討し緊急的に対策を進めるものです。下水道雨水対策については、新潟県の村上市(荒川水系)や石川県小松市(梯川水系)の下水道事業が位置付けられており、国土交通省でも簡易シミュレーションの実施などで連携しながら両市において下水道整備の加速化や内水ハザードマップの作成などの対策が進められています。

 これらは、甚大な被害を受けた流域における再度災害防止という観点からの緊急的な取り組みになりますが、現在、全国で流域治水の考え方に基づくハード・ソフト一体となった事前防災対策「流域治水プロジェクト」が行われています。これらをきっかけとして、流域のあらゆる関係者が協働した流域全体での水害軽減対策を拡大、加速化していきたいと思っています。

――年々激甚化している水災害。さまざまな対策が進められていますが、最後に今後の展望、そして水災害対策の実現に向けた意気込みなどについてお聞かせください。

吉澤 産業革命以前と比べて既に1度程度の気温上昇が認められ、地球温暖化による気候変動は、豪雨による水災害の激甚化・頻発化という形で顕在化しています。気候変動へ適応する取り組みは将来の課題ではなく、速やかに着手しなければならない課題だと認識しています。河川や下水道の整備をより一層加速させ、流域のあらゆる関係者が連携して流域治水の取り組みを推進していかなければなりません。

 下水道の雨水対策では、既存ストックの活用を含めて、重点的かつ効率的な施設整備によるハード対策の加速化と、内水ハザードマップの公表などのソフト対策の充実、それから住民による自助の促進などを組み合わせた総合的な雨水対策を推進していきたいと思っていますし、防災部局、河川部局、都市計画部局、民間企業などの多様な主体との連携によって、グリーンインフラの導入や学校・公園・民間の貯留施設など、流域全体での雨水流出抑制の推進、それから土地利用規制や住まい方の工夫なども含めて、あらゆる施策を総動員して、わがまちの安全度を段階的に向上させていくことが重要だと考えています。

 また浸水想定区域図やハザードマップなどは作成・公表して終わりということではなく、災害時に的確で速やかな避難行動などがとれるように実践的な訓練や教育などを平常時から継続的に行っていくことも大切ですし、防災部局や都市計画部局との連携によるリスク低減、事前防災を進めるために、想定最大規模を対象とした浸水想定区域図に加えて、比較的、発生頻度が高い降雨規模も含めた複数の外力による多層的なリスク評価の公表も進めていく必要があります。

 さらに、このような気候変動に対する適応策に加え、気候変動に対する緩和策として地球温暖化の防止に向けたカーボンニュートラル達成の取り組みも非常に重要になりますので、あわせてしっかりと取り組んでいきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。
                                                 (月刊『時評』2023年9月号掲載)

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