2024/08/01
樽見次官は勇退の可能性 史上初、5代連続旧厚生出身次官か
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、幹部人事には時期を含めて不透明感が漂う。例年通り夏に行う場合、樽見 樹事務次官(58年、旧厚生、東大法)は勇退するとの見方がある。ただ、昨年は次官以外の幹部を7月に、次官を9月に発令する異例の人事だった。感染状況やワクチン接種の進み具合によっては、発令時期が昨年と同様に後ろ倒しされることも考えられる。
樽見氏は、内閣官房コロナ対策推進室長を経て昨年9月に就任したばかりだが、58年入省組からは同氏のほか、鈴木俊彦前次官、木下賢志前内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官と、次官級ポストを3人輩出。鈴木氏と樽見氏を合わせた次官在任期間は3年に上るため、順当であれば樽見氏は後進に道を譲り、若返りを図ると予想される。
樽見氏は、2008年から社会保険庁総務部総務課長として日本年金機構立ち上げに携わり、10年の機構発足時には経営企画部長を務めた経緯があるため、機構幹部はじめ、内外に多くのファンがいる。
仮に次官交替となれば、コロナ対策で樽見氏とタッグを組んだ吉田学内閣官房コロナ対策推進室長(59年、京大法)が有力視される。その場合は同省で初めて、旧厚生省出身の次官が5代続くことになる。後任の室長には濵谷浩樹保険局長(60年、旧厚生、東大法)らの名前が挙がる。
一方、コロナワクチンの接種が夏以降も続く状況を踏まえれば、安定した手腕の樽見氏を続投させる可能性も高い。その場合は吉田室長も留任が考えられ、小幅な人事にとどまりそうだ。
医系技官の次官級ポストである医務技監は福島靖正氏(59年、熊本大医)が続投するとみられる。福島氏が62歳で既に定年延長が認められているのに対し、次をうかがう医系技官の正林督章健康局長(平成3年、鳥取大医)、迫井正深医政局長(平成4年、東大医)はいずれも58歳と年齢が離れるためだ。
旧労働系では、在任2年となる事務方ナンバー2の土屋喜久厚労審議官(60年、東大法)は退官の可能性が濃厚。その場合、土屋氏と同期の坂口卓雇用環境・均等局長(大阪大法)が昇格するのが順当だ。
地方創生総括官はこれまで、旧厚生省と旧自治省の出身者がほぼ交代で務めてきた。現在は総務省の林﨑理氏(58年、旧自治、東大法)が務めており、ここに土生栄二老健局長(61年、旧厚生、東大法)が就くとの見方もある。
本省の女性局長は現在、渡辺由美子子ども家庭局長(63年、旧厚生、東大文)のみ。このほか、今夏で在任2年を迎える山本麻里内閣人事局内閣審議官(62年、旧厚労、東大教養)を局長ポストで処遇することが考えられる。
このほか、ともに平成元年、旧厚生省入省組で、夏で在任2年となる藤原朋子内閣府官房審議官(東大法)、日原知己年金局年金管理審議官(東大経)などが新たな局長候補として挙がる。
枝元次官の去就が最大の争点 後継の人材難も複雑化に拍車?
農林水産省の今夏の人事は、昨年8月に就任した枝元真徹事務次官(59年、東大法)の去就が最大の焦点となる。仮に退任となった場合、横山紳官房長(61年、東大法)らの名が後任候補に挙がっている。
農水次官ポストはかつて1年交代が主流だったが、最近は2年間務める例が増えている。枝元氏も続投濃厚とみられていたが、今年2月、利害関係のある鶏卵業者から過去に接待を受けたとして減給処分が下されたことで様相が一変した。
ただ、この会食は当時の吉川貴盛農水相が誘い、枝元氏も吉川氏が飲食代を負担したと認識していたことなどから、省内外に同情論が根強い。加えて、2代前の奥原正明元次官(54年、東大法)が断行した農政改革で、異を唱える幹部が軒並み退任に追い込まれたとされる。その余波で「幹部育成ができておらず、人材がいない」(農水OB)ことから、実力のある枝元氏続投を望む声が多い。
交代の場合の後任に挙げられる横山氏は、穏やかな関西弁の語り口が特徴の国際派。経営局長といった保守本流のポストも務め、「抜群の安定感」(農水省幹部)と信任が厚い。
将来の有力な次官候補と衆目の一致する横山氏だが、難点は60年入省組を飛ばしてしまうこと。その点から、山口英彰水産庁長官(60年、東大法)の次官就任の線も残る。また、枝元氏が退任となれば、同期の大澤誠農林水産審議官(59年、東大法)と水田正和生産局長(59年、東大法)もともに退官するのが通例だが、大澤農水審が次官に就任する「同期回し」(別の幹部)説を唱える声もある。
本郷浩二林野庁長官(57年、京大農)は就任から2年を迎えることから、勇退する可能性が大きい。水産庁、林野庁の両長官席が空いた場合、ともに次官への待機ポストとされるだけに、後任に注目が集まる。天羽隆政策統括官(61年、東大法)や、すでに二つの局長を経験している新井ゆたか消費・安全局長(62年、東大法)らが有力だ。新井氏が就けば、農水省として初の次官級ポストへの女性就任となる。
一方、7月には組織再編が予定されている。食料産業局の輸出担当部門と国際部が合併して「輸出・国際局」に、生産局の耕種部門と米を司る政策統括官が統合し「農産局」になる。前者は国際交渉と輸出拡大を一手に担い、後者は歴史的に特別扱いされてきた「コメ」を野菜など他の作物と同じ土俵で扱い、シナジーを発揮させる重要部局。初代局長には天羽氏始め、森健国際担当総括審議官(62年、東大法)ら、あらゆる幹部の名が挙がる。
また、再編後はナンバー2である農林水産審議官に求められる役割も変わる。従来はほとんど国際交渉のみ率いていればよかったが、今後は日本産食品を海外に売り込む輸出の顔としても期待される。ただ、大澤氏が交代するとなると、挙がるのが横山氏や新井氏と同じ名前ばかりで、農水省の人材難が浮き彫りになる状況だ。
多田次官誕生が既定路線 崩れつつある次官ライン
経済産業省で7月にも実施される幹部人事で、安藤久佳事務次官(58年、東大法)は就任から2年を迎えることから勇退する公算が大きい。後任は多田明弘官房長(61年、東大法)がほぼ既定路線とみられている。
多田氏は、2012年に官房総務課長、14年に資源エネルギー庁電力・ガス事業部長、16年にエネ庁次長、17年に製造産業局長と、経産省の王道といえる道を着実に歩んできた。18年に内閣府政策統括官(経済財政運営担当)となって、経済財政諮問会議の運営に当たるなどの経験も得た。20年に大臣官房長として経産省に帰任し、満を持しての次官就任となりそうだ。
一方、安倍晋三前首相、今井尚哉元首相補佐官に抜擢される形で経済産業政策局長に就いた新原浩朗氏(59年、東大経)は年次のバランスから勇退となる見通しだ。ただ菅総理が掲げる「働く内閣」の下、新型コロナウイルス後の経済対策を強力に推進していくためには、次官人事も含め、これまでの慣例や年次、期間にとらわれない大胆な人事が求められる。
産政局長は「次官待機ポスト」と長年いわれてきた。しかし近年を振り返るだけでも、13年に立岡恒良氏(55年、東大法)が官房長から、17年に嶋田隆氏(57年、東大工)が通商政策局長から、19年に安藤氏が中小企業庁長官から、それぞれ次官に昇格している。産政局長から次官という慣例が崩れていることが改めて浮き彫りとなりそうだ。
多田氏が次官に昇格すると、安藤氏から年次が三つ若返ることになる。スマートかつ切れ味の鋭さで知られた田中繁広経済産業審議官(60年、東大法)、人柄から省内で次官就任が待望されてきた糟谷敏秀特許庁長官(59年、東大法)は、次官の年次をオーバーすることから、勇退する可能性が高い。
「通商・貿易担当次官」とも称される経産審の後任には、多田氏の同期の広瀬直通商政策局長(61年、東大法)が就くのが順当とみられる。
産政局長の後任には、平井裕秀商務情報政策局長(62年、東大法)や藤木俊光製造産業局長(63年、東大法)が就く可能性が高い。平井氏就任の場合、新たな産政局長の姿を描くことになる。ただ、藤木氏は菅首相が掲げる「脱炭素」を取りまとめ、産業界のけん引役であるエネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官を兼務しているほか、年次の面、さらに製造局長1年とあって留任するとの見方も強い。
官房長の後任は、抜群の安定感で定評のある飯田祐二エネ庁次長(63年、東大経)が有力視されている。
一方、保坂伸資源エネルギー庁長官(62年、東大経)は、「脱炭素」の中核となる東京電力や関西電力の原発再稼働や企業統治をめぐる問題などを抱えていることから、続投が有力視されている。飯田陽一貿易経済協力局長(平成元年、東大工)、山下隆一産業技術環境局長(平成元年、東大法)も重要政策を抱えている関係から現職に留まると観測される。
次官候補に山田、藤井両氏 旧運輸は不確定要素多く、異動は小幅に?
国土交通省は発足以来、次官が1年ごとに代わるのが通例で、現職の栗田卓也氏(59年、旧建設、京大法)が勇退する場合、山田邦博技監(59年、旧建設、東大院工)か藤井直樹国土交通審議官(58年、旧運輸、東大法)が後任候補となりそうだ。
国土強靱化の新たな5カ年対策の取りまとめに尽力してきた山田氏には、河川技官出身者から久々の次官候補として、交通・運輸施策を統括する藤井氏には、新型コロナウイルス禍に苦しむ事業者支援の司令塔役として、それぞれ待望論がある。
近年は「旧建設事務、旧建設技術、旧運輸事務」の順に次官を務めるケースが続いており、この通りなら山田氏の順番だが、過去には慣例が崩れた例もあり、決定的な材料とまでは言えない。
次官級の国交審は、次官が旧建設出身なら「旧運輸2、旧建設1」、旧運輸出身なら「旧建設2、旧運輸1」の配分とする慣習がある。山田氏、藤井氏のどちらが次官になるかによってさまざまなパターンが考えられる。
このうち不確定要素が多いのが旧運輸。鉄道局長や官房長といった主要ポストを歴任した旧運輸系のエース水嶋智氏(61年、東大法)は、今年1月、北陸新幹線の工期遅延問題を受け、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の副理事長として出向したばかり。わずか半年で復帰するのは考えにくいとみる向きが多い。
瓦林康人官房長(東大法)、和田浩一航空局長(東大法)、上原淳鉄道局長(東大経)ら62年組の昇格も視野に入るが、逆に小幅な異動にとどまることも考えられる。
旧建設は、野村正史氏(60年、東大法)が交代する場合、石田優総合政策局長(61年、東大法)や青木由行不動産・建設経済局長(61年、東大法)の起用が予想される。
技術系トップの技監は、山田氏がポストを離れた場合、後任には将来の次官候補と目される吉岡幹夫道路局長(61年、旧建設、東大工)の名前が挙がる。ただ、吉岡氏は局長にとどまるとの見方もあり、その場合は内閣官房国土強靱化推進室次長の五道仁実氏(61年、旧建設、京大院工)が候補になる。
就任1年の蒲生篤実観光庁長官(60年、旧運輸、東大法)は、コロナ禍で観光業が打撃を受ける中、留任して引き続き対応に当たるとの見方が優勢だ。
局長のうち、官房長は次官の出身省庁とすみ分けるのが暗黙のルール。仮に山田次官が誕生した場合、引き続き旧運輸出身者が務めるとみられ、瓦林氏は留任。藤井次官となった場合は逆に旧建設事務からの起用が順当で、和田信貴住宅局長(62年、東大法)らが候補となるが、藤井氏は今年は続投、来夏の次官就任がささやかれている。
総合政策局長も、官房長と出身省庁を分けるのが通例だ。先の62年組を中心に、次官人事に応じて旧建設、旧運輸のいずれかの局長を起用することが見込まれる。
公算高い、中井次官の続投 脱炭素をもとに経産省との人事交流も?
今年度の環境省の重要課題は、4月に政府が決定した、二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を「2030年度までに13年度比46%削減する」との新たな目標について、達成の道筋を描くことだ。これまでの目標だった26%減から大幅な引き上げとなるため、施策の転換が求められる。以前に比べ、経済界も前向きになりつつあるとはいえ、環境省との温度差がある。経済産業省と環境省とで、人事交流が行われるともささやかれており、経済界への働きかけがしやすくなる可能性もある。こうした情勢の中で、政府内での影響力を強めるための布陣が求められる。
今年の人事の最大の注目点は、昨年7月に総合環境政策統括官から就任した、中井徳太郎事務次官(60年、大蔵省、東大法)が続投するか否かだ。昨年は大方の予想に反して、鎌形浩史前事務次官(59年、東大経)が、勇退を決めただけに、中井氏の動向は予断しづらいが、続投の公算が高まっている。環境省内では、炭素税や排出量取引など、カーボンプライシング(炭素の価格付け)の導入についての議論が進んでおり、大蔵省出身で税制に精通した中井氏を変えるメリットはないとの声も聞こえてくる。
次官級ポストでは、就任1年の近藤智洋地球環境審議官(62年、通産省、東大法)は勇退とみられている。後任には、温室効果ガス削減の新目標の決定などで尽力した、小野洋地球環境局長(62年、厚生省、東大院工)との見立てが多い。中井氏が続投で、近藤氏の後任が小野氏となると、正田寛官房長(61年、建設省、東大法)は留任か。ただ、留任すると3年目に入ることになり、局長への就任も見え隠れする。
仮に正田氏が交代ということになると、後任には大森恵子官房審議官(平成2年、京大経)という可能性も。小泉進次郎環境相は、「女性登用」に強いこだわりを見せていて、今回の人事では女性幹部の処遇にも注目が集まっている。官房長に女性が就任することは少なく、目玉にする可能性もある。同じ観点から、瀨川恵子官房審議官(平成元年、東工大工)を局長に就任させ、「環境省初の女性局長」に据えることや、大森氏も局長にすることで、「複数の女性局長」を打ち出し、中央省庁の中で、女性登用に積極的な姿勢をアピールするのかもしれない。
この他、中井氏の後任と目される和田篤也総合環境政策統括官(63年、北大院工)は留任か。山本昌宏水・大気環境局長(60年、厚生省、京大工)は勇退とささやかれている。同じく、鳥居敏男自然環境局長(59年、京大農)も勇退が決定的。地球環境局長、水・大気環境局長、自然環境局長のポストが空くため、女性審議官を充てる可能性は十分にありそうだ。
また、除染や福島復興を担う森山誠二環境再生・資源循環局長(61年、建設省、東大工)は、国土交通省に戻ることが予想され、後任には、4年目に入っている室石泰弘福島地方環境事務所長(61年、厚生省、東大院工)を充てるとみられる。
次官は来夏までの続投が有力 早くも、次期次官候補の目途も
核実験やミサイル発射を繰り返した北朝鮮対応は一時期に比べ落ち着きを取り戻したものの、米中対立激化の狭間で自衛隊の能力向上は焦点の一つであり続けている。さらには、新型コロナウイルスのワクチン接種を加速する大規模接種センターの設置・運営も担い、防衛省・自衛隊の重責は増すばかりだ。
島田和久事務次官(60年、慶大法)は昨年8月、高橋憲一氏(58年、早大法、現官房副長官補)の後任として満を持して防衛省事務方トップに就いた。調査課長、防衛計画課長、防衛政策課長など中枢を歩み、2012年12月から第2次安倍内閣で6年半あまり首相秘書官を務めた逸材だ。温厚な人柄で人望も厚い。1962年4月生まれでまだ59歳でもあり、少なくとも来夏までの次官続投が有力視されている。
島田次官と同期の昭和60年入省組は、中村吉利氏(北大経)が地方協力局長で昨年退職するなど定年時期を迎え、世代交代が進む可能性がある。鈴木敦夫地方協力局長(早大政経)は今年7月に60歳を迎える。武田博史装備庁長官(慶大法)も60歳となり、今夏で就任2年を迎えるため、そろそろ交代との見方がある。
その上で、次期次官候補として有力視されているのが岡真臣防衛政策局長(61年、東大法)だ。90年から2年間、米国のタフツ大学フレッチャースクールに留学。同校は国際政治学の権威で、谷内正太郎初代国家安全保障局長やジョセフ・ダンフォード第19代米軍統合参謀本部議長などが出身者として名を連ねる。
岡氏は「ちょうど湾岸戦争の頃でもあり、日本が国際社会の中でどのような役割を果たすことができるのかといったことについて、真剣に考えさせられました。フレッチャーの卒業生にはその後の仕事の中でも米国の国防省・国務省で折に触れて出会うことがあります」(「毎日フォーラム」2021年4月号の『課長補佐時代』)と述懐している。
1994年の北朝鮮第1次核危機の当時は防衛政策課で、97年の周辺事態への対応を柱とする日米ガイドライン改定では在米大使館員として主に対米交渉に従事。その後、米軍再編にも関わり、日米同盟強化に長年携わってきた。防衛政策局次長や人事教育局長を経て、昨年8月から防衛政策局長を務めている。
同期には芹澤清官房長(東大法)がいる。2007年日米防衛協力課長、12年防衛政策課長、15年内閣審議官(国家安全保障局)と途中までの経歴では岡氏をリードしているように見えたが、国家安全保障局で谷内氏とそりが合わなかったようで、1年で内閣衛星情報センター管理部長へ異動。昨年、官房長でカムバックして日の目を見た。
2代前の豊田硬氏(57年、東大法)から3人連続で官房長から次官に就任しており、政治案件の根回しで力を発揮できれば、番狂わせがあるかもしれない。