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虎ノ門政策研究会企業研究/フジタ浅川正幸専務インタビュー

ポスト・コロナ時代のまちづくりを担う“フジタブランド”100年支える技術開発

株式会社フジタ 代表取締役 専務執行役員 浅川 正幸氏/あさかわ まさゆき 昭和32年1月2日生まれ、長野県出身。東京国際大学商学部卒業。54年フジタ工業株式会社(現 株式会社フジタ)入社、平成21年東京支店副支店長、23年営業本部営業統括部長、24年執行役員営業本部副本部長、27年取締役常務執行役員営業本部長、30年取締役専務執行役員等を経て、令和2年4月から現職。
株式会社フジタ 代表取締役 専務執行役員 浅川 正幸氏/あさかわ まさゆき 昭和32年1月2日生まれ、長野県出身。東京国際大学商学部卒業。54年フジタ工業株式会社(現 株式会社フジタ)入社、平成21年東京支店副支店長、23年営業本部営業統括部長、24年執行役員営業本部副本部長、27年取締役常務執行役員営業本部長、30年取締役専務執行役員等を経て、令和2年4月から現職。

オープンイノベーションが叫ばれるようになって久しく、協業領域は建築業界でも拡大している。1910年に広島県で創業され、現在は東京に本社を置く準大手ゼネコンのフジタでも、他社や大学との共同研究が盛んだが、それだけでなく同社では技術センターへ外部からの見学を広く受け入れ、実装前のアイデアを披露することすらあるという。同社の浅川専務に、技術開発の公開に対する考えと同社が見据える今後の方向性についても語ってもらった。
(虎ノ門政策研究会事務局:重田瑞穂)

ーー技術センターではどのくらい見学者を受け入れておられますか。

フジタ技術センター(神奈川県厚木市)の外観。
フジタ技術センター(神奈川県厚木市)の外観。(提供:フジタ)

浅川 受け入れを始めてから13年、官民問わず興味がある方に見学先として広く公開し、また、秋の「技術フェア」など公開期間も設けているので、近年は年間通して千人以上、企業数では200社ほどがフジタの技術センターへ見学に来られるようになりました。見学コースを作ったり、あらかじめお客さまに項目を選んでいただいたりと、研究者たちも説明にはすっかり慣れたものです。
 中には特許関連で非公開の研究もありますが、公開している研究や実験設備が1日ですべて見終わることは難しいほど多いので、初めて来られた方は異なる分野の研究が一つ所にぎっしりあると驚かれます。

ーー技術開発の場をオープンにするというのは、勇気がいる戦略に思えます。


浅川 もちろん、オープンにしていれば得意なことのアピールだけにとどまらず、抱えている課題も少なからずさらけ出すことになるでしょう。でも公開を続けるうち、ご覧いただいた皆さんが持っている技術をうちとコラボさせて研究してみたいと逆提案や申し出を頂きスタートした協業事例が、いくつも出てきました。これは有り難いことだと考えています。

 技術センターは、社内に対してさらにオープンです。現場の社員が気付いた不足部分を技術センターに持ち込み、実験して改良する循環をベースとして発展してきたので、「もっと良いものをつくろう」という基本姿勢が根底にあります。例えばお客さまと一緒に設計者や現場の担当者が技術センターへ行って、研究者を交えて「この場合はこうなりますね」って実際に見ながら相談することも気軽にできますしね。ご覧いただくことで、お客さまにフジタの技術力を理解していただき「フジタブランド」を認知していただく点も重視しています。発注者となるお客さまあってこその私たちですから。
 大規模な研究所は他にもっとあると思いますが、うちの良いところは未知の技術にもすぐ挑戦していけるスピード感ですよ。これを保てているのは、常に皆さんに見に来てもらうことを軸とし、内外から寄せられるニーズで研究所を活性化しているからではないかと思います。

ーー「フジタブランド」について詳しくお聞かせください。


浅川 「フジタブランド」の歴史は技術センターの成り立ちでもあります。当社が最初の技術研究所を造ったのは創業50年目の時でした。今からさかのぼれば60年以上前ですが、後に三代目社長になった藤田一暁が副社長の頃、「フジタに任せればこの品質をこの値段で、この期間でできる」という、いわばブランド価値を得たいという方針を掲げました。そこで1960年、品川に持っていた倉庫の一部を165平方メートルほど使い、研究員4名と庶務1名で「フジタブランド」となる技術力を磨き始めたのです。
 当初は社会インフラの基本、「安全、安心」を追求して研究を重ねましたが、これを土台として「快適」の観点も重要になり、独自技術がいくつも生まれました。その後、横浜市へ移転、80年頃には研究員が100名を超えるほど発展し、99年に神奈川県厚木市へ移転・新設したのが現在の技術センターです。

ーー技術研究の必要性が増してきたと言えそうですね。研究所の技術が社の業績に直結することも?

FRASH構法は梁の端部をRC(鉄筋コンクリート)造、中央部をS造としたハイブリッド梁による構造システム。(提供:フジタ)
FRASH構法は梁の端部をRC(鉄筋コンクリート)造、中央部をS造としたハイブリッド梁による構造システム。(提供:フジタ)

浅川 受注アップに貢献した研究実績の中でも、筆頭は「FSRPC構法」という建築技術です。これは柱を工場(PCa、プレキャストコンクリート)で作り、梁(はり)をS(鉄骨)にして両者を組み合わせるハイブリッド構法ですが、すべてをS造で作ると鉄のコストがかさむのに比べて、費用を抑えながら空間を大きく作れることがメリットでした。大きな建物であるほどこのメリットは大きくなるわけです。鉄の価格が高くなったときにもこの技術が力を発揮し、並みいる大手を抑えて当社が物流倉庫の受注で日本一になった年が何度もありました。

 経験値がたまるにつれてハイブリッド構法もさらに「FSRPC-B構法」や「FRASH構法」など変化を遂げています。仕上がりが綺麗なので、病院などにも採用されるようになりました。

ーー技術を活用するノウハウを蓄積しながら新技術の開発も進めていく、と。技術センターに求めている役割についてさらにお伺いします。

奏の杜の全景写真
奏の杜プロジェクト(16年)(提供:フジタ)

浅川 技術センターに期待しているのは、独自の施工技術だけにこだわらず社会のニーズに応えながら柔軟に研究開発してもらうことです。これは面開発のとき一層、重要になります。私たちは技術力を基盤に「まちづくりのフジタ」として大規模な都市再生事業を得意としていますが、プロジェクトに先立ち包括的な企画提案をすることが売りなんです。
 以前、千葉県習志野市で新しい街をまるごと造ったこともありました。「特定土地区画整理事業」としてフジタが施工させてもらった「奏の杜(かなでのもり)」です。タウンセキュリティに重点を置き、耐震性に優れる構法を駆使しましたが、同時に美しい景観を実現させる技術も開発しました。

マツダ大洲雨水貯留池画像データ
広島市球場地下の図。防災と雨水有効利用の機能がある(提供:広島市)
 これも良い事例だなあと僕が思っているのは、広島市の球場移転です。市街地にあった旧球場の老朽化に伴い、2009年に広島駅近くの貨物操車場跡地へ球場を新設した一大プロジェクトでしたが、実はこの地下部分はフジタが施工させてもらいました。
 もともと、雨が降ると床下浸水が生じてしまうほど低くて利用が難しい土地だったので、私たちが地下ダムのような雨水貯留施設を造って土台にしたのです。今や、その上に広島カープの本拠地が来て賑わいの地域になっている…。このように、地域の災害を防ぎつつ、人々が集まって楽しめる場所をつくることこそ、僕らが理想とする「まちづくり」ですよ。

ーー公共性も非常に高い事例ですね。現在進行中の面開発はありますか?


浅川 今ちょうど造成に入っていく段階ですが、千葉県船橋市の市街化調整区域で始まった「ふなばしメディカルタウン構想」に参画しています。長く住めて生きがいを追及できる新しい街を造ろうというコンセプトをもとに進めていますが、健康増進や予防医療の考え方をまちづくりに取り入れていることが要諦で、ここでもフジタは単体の道路や建物の建設だけでなく、テーマに沿った環境の考案や権利調整なども含めた、エリアマネジメントを担っています。

ーーまちづくりにおいても、少子高齢化など社会課題への対応が求められているのですね。ところで、労働人口の減少による人手不足は建設業界でも深刻だと聞きますが。

従来型から進化した斜め往復飛行ドローン。出来高を測量することもできる。
従来型から進化した斜め往復飛行ドローン。出来高測量も可能(提供:フジタ)

浅川 そうですね。すでに日本中が少子高齢化して生産年齢層が減っていますので、これまで建設業界では限られた人間の労働力でも生産性を上げるための技術を研究し、デジタル化を進めてきました。フジタの技術センターでも、省力化や合理化というキーワードが主流になっています。例えば昨年開発した、造成地でドローンを飛ばすと自動で斜め往復飛行をして精密な測量ができる技術では、標定点の設置をも不要にして省力化を図りました。

 次に考えているのは「寝ている間にロボットが仕事をしてくれる」ような、無人化の進展です。誰もいなくなった夜間にロボットが進捗度をチェックして回ってくれるとか、次の日に使う材料を運んでおいてくれる、とかね。

ーー人材の省力化にはうってつけですね。


浅川 しかし、どんなにロボティクスが進化しても、「人財」なくしては会社が成り立ちません。うちでは社内で困ったことや課題を言うと、みんなでよってたかってやってみようっていう風土があって、挑戦しているうちにそれが実績になっていくのがフジタの面白さだし、強みでもあります。もし担当者の間に、頑なな領域意識があったらそういった雰囲気をつくるのは難しいでしょうが、建築と土木でさえ混じり合っているのがフジタの良さです。これはロボットには決して模倣できないことですよね。現在、技術センターに職員が約100名いますが、誰が土木系で誰が建築系なのか、実はわかりません(笑)。

 数年前から、フジタでは新卒、中途ともに採用を積極的に推進しており、人財教育にも力を入れています。社員の年齢構成をグラフで見ると真ん中の世代がへこんで、ひょうたんのような形になってきています。このへこみを補ってうちの強みを維持するには、フジタとして物事をどう捉えるかや、仕事の面白みなどを味わいながら一人前になってくれる社員が必要です。

外部向けにも“築育”と称して地域住民や子供たちへ建築業の魅力を伝える活動を行う(提供:フジタ)
外部向けにも“築育”と称して地域住民や子供たちへ建築業の魅力を伝える活動を行う(提供:フジタ)

 ゼネコンで仕事をする面白さって、社会にどう貢献したかという実感を見える形で得られるところだと僕は思います。昔ながらの、ヘルメットをかぶって汗かいて頑張るっていう精神論だけではなくて、その結果、受注・設計・施工などを通じてつくった「モノ」が残ることが醍醐味なのです。これを味わったらやめられなくなりますよ。
 新入社員にはまずうちの技術を学んでもらう必要がありますので、研究職でなくとも最初に技術センターを見てもらっています。今は、教育にもっと力を入れるために、技術センターに宿舎や研修施設を作っているところです。

ーー建築業界は男性比率が高いイメージがありましたが、女性活躍についてはいかがですか。


浅川 確かに以前は男性が大多数でしたが、状況は変わってきました。例えばゼネコンの一番の肝とされている構造設計でも今では女性の部長クラスがどんどん増えていますし、土木分野でも、トンネルの中で女性が仕事をしている姿はすっかり普通の光景です。工事現場ではトイレや洗面所などで女性専用の設備も置くことが基本になりました。業界全体で言えることですが、もうすでに女性の力は不可欠になっているのです。

ーー時代が変化するスピードの加速を感じます。ポスト・コロナの時代に向けて、事業における新しい兆しはございますか。

浅川専務(取材時撮影)
浅川専務(取材時撮影)

浅川 これから脱炭素を目指す流れは世の中でますます早く進むでしょうから、いかにフジタの持っている技術を活用してSDGs(持続可能な開発目標)や地球環境を考慮したテーマを追っていけるかと知恵を絞っているところです。
 まずは再生可能エネルギー関連事業に着目して、すでに風力発電機を設置する土台の設計施工には対応できるようになりました。加えて、太陽光や水力の発電自体も手掛けられるように準備しています。今後は、うちが建てたオフィスビルでうちが手掛けた自然エネルギーを使う、というしくみを作るつもりです。

ウォークスルー顔認証&サーマルシステムを開発。東大発ベンチャー「株式会社Ollo」「株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス」「株式会社経営共創基盤」と共同開発。(提供:フジタ)
ウォークスルー顔認証&サーマルシステムを開発。東大発ベンチャー「株式会社Ollo」「株式会社IGPIビジネスアナリティクス&インテリジェンス」「株式会社経営共創基盤」と共同開発。(提供:フジタ)


 ここ1~2年は新事業への挑戦に加え、コロナ禍の影響で現場からも次々に相談が寄せられて、技術センターの研究員たちにとっては非常にハードな期間だっただろうと思います。
 例えばいくつかの工事現場では作業員の人数が多数に上るため、毎朝出勤するたびに体温測定という手順が加わるだけでも動線が滞り困っていましたが、これもすぐ技術センターに相談しました。すると10日足らずで対応してくれて、歩きながら通り過ぎると顔認証でぱっと体表面温が測れる機器を各入り口に設置できたので非常に助かりましたよ。

 ここのところ、世間全体で求められる価値観がずいぶん変わったと感じます。企業が地方都市で仕事を展開できる可能性が見直されてきて、どういう生活や働き方が「幸せか」という考え方が比重を増してきました。元来、良いまちづくりとは何かを考え続けて来た私たちにとっては活躍の場が増えるのではと思っています。

ーー最近では政府の方針も、人間中心の豊かな社会を模索する方向へ向かっていますね。官民連携のあり方はどうあるべきだと思われますか。


浅川 公共性の高い施工では、かつて自治体などの発注側が何を建設したいか提示して、われわれ施工側は忠実に見積もりを出すという手順が当たり前でしたが、VE(バリュー・エンジニアリング)の手法が広まり、工法や工期についてもこちらからの提案が可能になりました。
 現代において、社会インフラの基盤をつくるのは他ならぬ私たちゼネコンの仕事。この業界の誰もがそう思っているはずで、良いインフラを残して災害の脅威から長く人を守り、人々の財産を守るんだという自負があるからこそ、ハードな時期があっても力を尽くして、より良いものづくりに挑もうとするのだと思います。

 社会のあらゆる問題がぶつかり合う中でも、一つずつクリアにしていかなければ良いインフラはつくれないので、中央省庁をはじめとした“官”の方々に力を合わせてもらうことが不可欠です。
 ただ、近年では自然災害が激甚化していることに加え、上述の少子高齢化やカーボンニュートラルなどに代表されるように分野横断的な問題も増えてきて、一つの省だけでは解決しないケースが多くなりました。官公庁で横串をどう通していくか、正面からの取り組みが活発になっていくことを期待しています。

フジタがメキシコで設立した子会社で提供する水質分析サービスが同国の公的認証を取得(提供:フジタ)
フジタがメキシコで設立した子会社で提供する水質分析サービスが同国の公的認証を取得(提供:フジタ)

 さらに日本から世界へ向かって行く時も、省庁の所管という枠組みにはまらない課題が山積しています。フジタは海外進出で実績を築いてきたことに自信を持っていますが、これまでも日本が世界でも質の高いインフラをつくることで、国際社会での日本の地位向上にもつながるはずだと考えてきました。
 社会インフラの海外展開は日本の国策でもあるし、私たち民間企業の仕事でもありますが、共通項は「良いニッポン」を海外に持っていきたいという目的ではないでしょうか。ぜひ官民一枚岩でぶつかっていきたいと思います。

ーーオールジャパンで海外展開に向かっていかねばならないところですね。本日は大変幅広くお話いただきありがとうございました。

(本記事は、月刊『時評』2021年8月号掲載の記事をベースにしております)