2024/09/11
地球温暖化の原因となる温室効果ガスの実質的な排出量ゼロに向けた事業・取り組みが世界的に進められている中、利用時にCO2 を排出せず、水をはじめ、さまざまな物質からの精製が可能、そしてエネルギーを保存できるという特性をもつ“水素エネルギー”への関心が高まっている。では具体的にどう水素を活用していくのか。脱炭素、ネットゼロ(カーボンニュートラル)実現に向けて環境省の進める水素サプライチェーン構築実証事業。その概要から事業を推進していく施策、そして国内外への展開について、環境省地球環境局地球温暖化対策課地球温暖化対策事業室の加藤室長に話を聞いた。
環境省地球環境局地球温暖化対策課
地球温暖化対策事業室長
加藤 聖氏
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――2021年5月に国際エネルギー機関(InternationalEnergy Agency:IEA)が発表した報告書「Net Zero by 2050– A Roadmap for the GlobalEnergy Sector」(NZE)により、脱炭素化に向けた動きが加速しています。まずは脱炭素社会の実現に向けた現状についてお聞かせください。
加藤 まず世界全体のテーマとして2050年ネットゼロがあります。気候変動に関する政府間パネル(IntergovernmentalPanel on Climate Change:IPCC)は、2018年に「1・5℃特別報告書」を発表しました。報告書には世界全体の気温上昇を1・5℃までに抑えるためには、2050年までにCO2をネットゼロにする、2030年には2010年比でCO2を45%削減する必要があるとされています。世界各国がさまざまな方策を検討していますが、現状100%確実といえる方策はありません。
その中でも一つの参考となる、IEAが昨年5月に発表した報告書(Net Zero by 2050)のNZE(2050年までのネットゼロ排出シナリオ)では、排出量が最も急速、かつ大きく削減するのは発電部門であり、航空業や重工業のような運輸・産業部門は2050年でも完全な排出削減は難しい。しかし残余排出量についてはBECCS(Bioenergy with Carbon Captureand Storage)やDAC(DirectAir Capture)とCCS(Carbondioxide Capture and Storage)を組み合わせたDACCSと呼ばれるCO2の回収・貯留によってネットゼロは実現可能だとされています。
ポイントは、省エネ・再エネを実施した上で、電化・電動化など電力にエネルギー消費をシフトさせていく点とされています。現在、世界全体をみると最終エネルギー消費の約2割が電気になりますが、2050年には、その割合を5割ほどにしていくことが見込まれています。つまり、自動車をガソリン車やディーゼル車からEVなどの電動車にする、あるいは暖房や給湯をエアコンやエコキュートのようなヒートポンプを活用したものにしていくというのがトレンドになると考えられます。逆に、そこまでしても5割ほどしか電化できないともいえます。最終エネルギー消費量における電気の割合を増やしていくと最終的には熱と電気の割合はおよそ1対1になりますので、熱への対応も当然、必要になってきます。この熱への対応として、高熱が必要な産業部門をはじめ、水素、あるいは水素由来の合成燃料などが必要になってくると見込まれています。電気では賄えない高温熱など燃料として水素を活用していくというのが世界の潮流になっています。
加藤 また、世界のエネルギーシステムの脱炭素化に向けた主要な緩和策は、エネルギー効率改善、風力・太陽光、電化、行動変容、水素および水素ベースの燃料、バイオエネルギー、CCUS(Carbon dioxide Cap-ture and Storage)になります。2030年までの排出削減は、風力・太陽光が中心的な役割を担い、エネルギー効率改善と電化による削減も一定の割合を占めていますが、2030年以降は電化、水素、CCUSの役割が大きくなると考えられています。風力・太陽光が増えたときに季節をまたぐような長期保管方法としても水素および水素ベースの燃料が着目されています。
ネットゼロ実現に向けた水素の活用
――脱炭素社会、ネットゼロに向けては水素の活用が重要になってくると。
加藤 そうですね。現在、日本における水素の供給には大きく二つの方法があります。一つ目は、オーストラリアや中東など広大な土地に再生可能エネルギー施設を設置したり、化石燃料をCCSしてメタンや褐炭などから水素を抽出し、その水素を輸入する方法。二つ目が国内で再生可能エネルギーを利用して水素をつくるといった方法になります。前者の輸入に対する取り組みについては、経済産業省がグリーンイノベーション基金を中心に行っていますので、環境省としては後者の地域の再生可能エネルギーを活用する方法、つまりは地域資源を活用した自立分散型の脱炭素社会、持続可能な社会ができないかといった実証に取り組んでいます。