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俵孝太郎「一戦後人の発想」【第97回】

〝桜を見る会〟とリクルート事件
醜態! 見つけてみれば我が社なり

昨秋から野党が政権批判の材料としてきた〝桜を見る会〟は、一部のメディアにとって極めてバツの悪い展開となりった。この問題は約30年前のリクルート事件を彷彿とさせるが、当時いらいマスコミの無責任体質は改善どころか劣化していると言わざるを得ない。

年明けて、風向き変わる
 昨年の秋に狂い咲き式に政界とメディアを賑わせた〝総理と桜を見る会〟(以下〝桜の会〟と略す)をめぐる騒動は、年を越してなお、くすぶり続けている。中国企業が絡む〝IR贈収賄疑惑〟という新顔が登場し、イランの最高宗教指導者直属の革命防衛隊の、さらに在外破壊活動専門の最精鋭部隊の司令官が、新年早々アメリカのドローン攻撃で殺害されて、中東が一時風雲急を告げる、という新しい事態が生じたにもかかわらず、野党やメディアは、昨年のうちにこの春は開催しないと決まった、〝桜の会〟攻撃に固執していた。テレビ向けに単純化しやすいテーマで、一定の視聴率・支持率を取れると思ったからだろうが、ここにきて風向きが変わった。

 ナントカの一つ覚えもさすがに飽きられてきたという観もある。中国発祥の新型ウイルスによる呼吸器感染症が、世界的脅威になった面もある。同時に、〝桜の会〟の火の手が安倍首相や自民党だけでなくメディアに飛び火して、彼らが逃げ腰になったのが大きい。そうした成り行きは過去にもあった。ロッキード事件、なによりもリクルート事件だ。

 ロッキード・リクルートの話は後回しにして、共産党が火をつけた〝桜の会〟をめぐる昨秋からの騒動の推移だが、敗戦後間もない吉田茂内閣の時代から、新宿御苑で八重桜が満開になるころ、別の言い方をすれば、予算審議がヤマ場になる三月末の染井吉野の満開の時期を過ぎ、政官界が一息つく四月中旬になって行われる、公的行事として各界功労者を招いて懇親する〝総理と桜を見る会〟。これが、安倍内閣長期化につれ招待者数と、それに応じて所要予算額も増えただけでなく、本来の趣旨にそぐわない首相の選挙区の後援会関係者をはじめ、自民党議員の親族や後援会員の比重が増えているとして、問題になった。加えて安倍後援会の招待者が地元旅行業者の手でツアー方式で募集されていること。本番前夜に彼らの主な宿泊先である都心の有名ホテルで開かれる一人当たり会費五〇〇〇円ナリの立食パーティが、政治資金規正法に照らして疑問があること。これらも追及のマトになった。税金を使った選挙運動なのではないか、安い会費で高価な食事を提供するのは買収行為ではないか。共産党を筆頭に、野党側がこう安倍首相を責め立て、それをテレビ・新聞が大きく報じたのだ。

はなはだバツの悪い展開に
 ところがSNS全盛の世の中だから、野党やメディアが調子に乗って安倍攻撃をしているうちに、予期しなかった余波が生じ、たちまち広がった。民主党の鳩山由紀夫首相も北海道の選挙区から後援会員を大量に招いたではないか。自民党のライバル議員を攻撃する旧民主党の某々議員らも、自前の鳩山内閣だけでなく自民党政権下でも国会対策レベルの馴れ合いで招待枠を取りつけ、自らの身内を呼んだり選挙区の支持者対策に利用したりしていたではないか。こうした〝疑惑〟が、逃れられぬ証拠のスナップ写真つきで大量にSNSに流れ、テレビ・新聞の大半は目を瞑り口を閉ざしたとしても、一部の週刊誌が活字にした。それがさらにSNSで反復拡大されて、野党や一部のメディアにとって、甚だバツの悪いことになってしまったのだ。

 都心の有名ホテルでの立食つき前夜祭にしても、追及の先頭に立っていた立憲民主党の安住淳国会対策委員長が、企業関係者などを集めて同じホテルで開いていた勉強会の食事代が、政治資金収支報告者の記載を前提に算出すると、なんと出席者一人当たり会場費込みで1700円だったと「産経新聞」に報じられて、笑い話になってしまった。

 朝食と夕食では当然ながらかなりの価格差はあるだろうが、それにしても立食だ。たいした料理が並ぶわけがないし、朝から酒も出ないだろうが、この手の会で人数分の食事量など用意しないのも常識だ。ホテルに出店する超高級寿司店の品書きを根拠に、最低レベルでも握り鮨だけで一人前1万5000円だから、他の料理や酒も考えれば5000円会費でやれるわけがない、とSNSで触れ回っていた立憲民主党の複数議員も〝1700円の迫力〟の前に沈黙せざるをえなくなった。

地雷原となったジャパンライフ
 困った彼らが目先を変えて持ち出してきたのが、マルチ商法で再三大きな被害者を出しているジャパンライフの元会長が、安倍内閣で、しかもどうやら首相推薦枠で〝桜の会〟に招かれ、その招待状を宣伝パンフレットに麗々しく載せて箔づけに使い、多くの新しいカモを集めた、という論点だ。パンフレットという〝物証〟つきでテレビ・新聞も麗々しく扱ったのだが、これがまた、野党だけでなく彼らの後ろ盾、囃し立て役になってきた一部のテレビ・新聞にとって、とんでもない地雷原に足を踏み入れる状況、いまふうにいえばめっちゃヤバい話になってしまった。

 なんと問題のジャパンライフは、政界のキーパーソンを招いた朝食会名目の顧客向けの公開懇談会をしばしば開いていて、そこに世間に顔も名前も知られたテレビ・コメンテーターや大手新聞社の編集幹部が、ジャパンライフ顧問の肩書を持つ元朝日新聞政治部長の仕切りで常連として出席していたという。

 当初はネット情報で広がったようだが、活字では産経系列の「夕刊フジ」が先陣を切って、仕切り役の元朝日政治部長を直撃した。さらに〝桜の会〟に関して堂々の論陣を張っていたのに実はジャパンライフの朝食会に参加していたテレビ朝日〝報道ステーション〟のコメンテータを務める後藤謙次に関して、テレビ朝日広報部にインタビューした。

 今年満90歳になる老兵で、病院通い以外には外出しない筆者は、立ち売り主体の夕刊紙を見る機会がないが、「週刊文春」昨年12月19日号が〝新聞不信〟と題する囲みコラムでこの記事を紹介し、朝日・毎日・日経の社名をあげながら、

 「(これらの新聞が政治家に対して)常々求める〝説明責任〟が(自らの)紙面で果たされていない。驚愕すべき世間との意識の乖離であり、ブーメランの極みではないか」

 と痛論した。

 さらに年末に発売された産経系列の月刊誌「正論」2月号は、巻末の名物企画の匿名座談会(架空座談会の感じがしないでもない)で、一部の氏名・経歴を明示したのに加え、「夕刊フジ」を引用して、

 「テレビ朝日広報部は自局では後藤氏について報じていないと認めつつ、〝今後については、番組制作上のことでありますので、お答えを控えます〟で済ませています。それで安倍政権を批判するつもりなんですかね」、「ジャパンライフが消費者庁から(マルチ商法の疑いがあるとして)行政指導を受けていた2014年当時、(元朝日政治部長の)橘氏は(ジャパンライフから)顧問料を受け取っているんだが、そのことを夕刊フジに質された橘氏は〝新聞を読んでいないのか〟といわれ、〝知らなかった〟と堂々と激白しているんだぜ。オレはもう目眩がしたぞ」(一部省略)と書いている。

厳しく追及するも名指しを避けた門田
 真打ちというべきは、「読売」に全三段、「サンケイ」には全面広告を二度も出して、気合が入った姿勢を窺わせた「月刊Hanada」2月号だ。前記の広告に、〝ジャパンライフ社長との懇親会に後藤謙次テレビ朝日ニュースステーションキャスターらも出席〟とあるから、これは見ずばなるまい、と入手したら、表紙にも目次にも該当する記事が見当たらない。勇ましくぶちあげて見たものの直前になってビビったか、と思いつつ誌面によくよく目を通したら、なんと佐藤優家の飼いネコが連載コラムの〝猫はなんでも知っている〟で「季節外れの〝桜祭り〟にはもううんざりだ」とボヤいているのを含めて、五指に及ぶ筆者がこの問題に触れていた。

 特に三人の論者は、舌鋒鋭く後藤はじめ多くの記者の醜態と関連する新聞社・テレビ局の〝隠蔽〟ぶりを指摘している。なるほど、この広告は特定の記事が対象ではなく、数本の記事が重点的に触れた中身を集約した新機軸だったのか、と腑に落ちたものだ。

 三人の所論のエッセンスを紹介すると、六人の論客が各見開き2ページで連載するコラム、〝フロントページ〟で門田隆将は、

 「〝桜の会〟にジャパンライフの元会長が招待されていたという大騒ぎも滑稽だった」と前置きして、彼は民主党の鳩山由紀夫政権時代も招待されていて、(旧民主党側に対する)ブーメラン効果になった、と指摘した。また、同社は「毎月の政治記者や政治評論家への酒食のもてなし」をしていて、それをセットしたのは、同社顧問となっていた朝日新聞の元政治部長だった」と書いた。さらに「〝桜〟糾弾の急先鋒・テレビ朝日〝報道ステーション〟のレギュラーコメンテータ」もここで酒食のもてなしを受けて〝広告塔〟になっていたのに、そのことに同番組は一切触れなかった、と厳しく追及した。

 門田は、わかる人間には誰のことをいっているのか、当然わかるものの、名指しは避けた。

女性天皇導入問題を併論した小川
 しかし巻頭論文と銘打った小川栄太郎の論稿は、〝桜の会〟を論じた第一部と、〝愛子天皇〟論の第二部の、それぞれ独立した二部構成の第一部で〝桜の会〟に関し、主に立憲民主党議員が国会の質疑やブログ・ツイッターなどで並べ立て、テレビが中継したり新聞が記事化したりした、さまざまな風説について、個別具体的に取り上げ、それぞれ事実無根か、明白なデマだと指摘した後、

 「その後マルチ商法会社、ジャパンライフの元会長が桜を見る会に招待されているとの非難が始まる。だが同社の資料には、故岸井成格氏(毎日新聞特別編集委員)、田崎史郎氏(時事通信社解説委員)、島田敏男氏(NHK解説副委員長)、政治コラムニスト後藤謙次氏、倉重篤郎氏(毎日新聞編集室専門編集委員)、芹川洋一氏(日本経済新聞論説主幹)、橘優氏(元朝日新聞政治部長)ら、リベラルメディア幹部がゲストとしてずらり並び、朝日新聞の橘氏に至っては同社の顧問を務めてさえいた」と、はっきり名指した(肩書は小川論文のまま)。

 さらに小川は、第二部の〝愛子天皇〟をめぐる議論でも、録画したテレビ音声によったと思われるが、〝令和〟初日の昨年5月1日の〝報道ステーション〟の後藤謙次の主張を紹介し批判している。後藤の論旨は、女性・女系天皇に否定的な安倍首相を非難したうえで、一五年前の2005年に小泉内閣が首相官邸に設けた〝有識者会議〟が議論し、結論にしようとしたものの、秋篠宮悠仁親王の誕生で一挙に雲散霧消した、女性・女系天皇導入論を、イギリス王室を引き合いに出し、日本でも実現するように主張した、という。小川は、それを〝異様な議論〟と位置づけ、皇位継承原則を破壊して日本を〝無血革命〟に導くものだ、と論じた。

 そのうえで小川は、一四年前の2006年に、旧民主党の衆院議員が、自民党の武部勤幹事長に対して多額の献金をしたという〝証拠メール〟を国会に持ち出し、それがまったくのニセものと判明したにもかかわらず、議員を辞職して責任を取ることを拒み、野田佳彦国会対策委員長・前原誠司党代表・鳩山由紀夫幹事長(いずれも当時)が相次いで辞任するに至り、ようやく議員を辞職。その後故郷で引きこもり、3年後に自殺した事件を例に、証拠に基づかない国会での疑惑風説の流布は「議会制民主主義を正常に機能させるうえで必須のモラル」に反する、と指摘した。

共産党パンフの「改竄」を指摘した山口
 巻末に置かれた山口敬之の論文は、〝桜の会〟へのジャパンライフ元会長招待は、なんと40年以上も昔の福田赳夫内閣以降、ほとんど例外なく続き、民主党政権の鳩山由紀夫内閣も招いていた、としている。脇道に逸れるが、筆者も佐藤栄作内閣時代からほぼ例外なく、
30年間ほどは、ときの首相名で〝ご夫妻お揃いでの〟招待状が届いていた。大半は欠席したが、2、3回は家内づれで冷やかしに出向いた覚えがある。テレビでアメリカ人の情報番組コメンテーター、デーブ・スペクターが、オレは二八回いった、と公言したようだし、テレビ画面で毎日新聞OBの岸井成格のチョビ髭姿を見た記憶もあるのに、大手メディア出身者で、オレもいった、という人間がいないのが、不可解至極だった。

 山口論文には、他にも重大な記述がある。「(ジャパンライフの)本来のパンフレットには、桜を見る会の招待状に加え、2015年1月27日に、山口会長主催の自民党二階幹事長を囲む朝食懇親会が開かれたことが掲載されていた。そしてそこには、毎日新聞の岸井成格と倉重篤郎、元共同通信でテレビ朝日報道ステーション・キャスターの後藤謙次、元朝日新聞政治部長の橘優、NHK解説副委員長の島田敏男といった、マスコミの重鎮たちの顔写真がずらりと並んでいた」。

 ところが国会で共産党が振りかざしたこのパンフレットのコピーには、下半分の〝マスコミの重鎮たち〟の顔が載った部分は、「共産党関係者の顔が並んでいたわけでもないのに」なぜか「切り取りという改竄」が行われていた、と述べている。テレビの画面や新聞の紙面で報道されたものも、共産党が提供したかどうかは別として、同様に改竄、加工した上半分だけだった、という。

 山口は、TBSの報道特集は11月30日と12月7日に〝桜の会〟を取り上げ、招待状の部分映像を流したが、いずれも「(共産党と同様に)マスコミ重鎮の顔写真を切り取り招待状部分だけをカラーコピーした〝加工物〟だった」と指摘し、話の出所は示さずに「共産党関係者はこの資料について〝デリケートな部分があり全部はお見せできない〟と説明したという」と記述し、共産党が大手メディアの体面を潰さないよう、〝忖度〟していたことを示唆するとともに、〝あるメディアの重鎮〟の〝証言〟として、「ジャパンライフと大手マスコミをつないだのは、朝日新聞で論説主幹を務めた若宮啓文氏(故人)」で、この縁は〝遅くとも1990年代〟にはじまっていたと見られる、としている。

 〝盗っ人を捕らえてみればわが子なり〟という古川柳があるが、こうした多くの指摘・記述が事実ならば、〝ジャパンライフ調べてみればわが社なり〟という話になる。もちろん〝わが社〟は〝わが党〟にも〝わが政権〟にもなりうる。

ロッキードより悪質なリクルート
 ロッキード事件は、いうまでもなく田中角栄元首相がロッキード社から、全日空の旅客機トライスター導入に関して、丸紅を通じて現金五億円の賄賂を受けたとして有罪になった問題だ。そこには、いまやほとんど忘れられた重大なポイントが二点、存在している。

 第一点は、事件発覚当初に決定的証拠とされた、ロッキード社の幹部、コーチャン、クラッターに対するアメリカ人退職判事による嘱託尋問調書が、田中没後の〝丸紅ルート〟最高裁判決で、憲法が保障する被告側による反対尋問が不可能だった理由で、違憲・無効とされたことだ。本来は調書を証拠から排除し破棄・差し戻し裁判にすべきだが、他の証拠で高裁判決は維持できるとしたために、筆者が本誌で林修三元内閣法制局長官の見解を仰ぎ、「田中裁判 もう一つの視点」という単行本(昭和59=1984年 時評社刊)にも収録した違憲論は忘れ去られたままだ。

 第二点は、〝五億円の賄賂〟に前例があったという事実だ。佐藤内閣で防衛庁長官を務めた松野頼三が、自衛隊機導入に関してダグラス・グラマンから日商岩井を通じて貰っていた。松野はロッキード事件発覚当時、事件の徹底解明を叫ぶ三木武夫政権の自民党総務会長で、なに食わぬ顔で田中批判をしていたのだ。この事実は大平正芳内閣になって表面化したが、時効で刑事事件には問われなかった。田中批判で三木・松野に同調したマスコミも、バツが悪いのか、なるべく早く世間が忘れるように、口を噤み続けた。

 リクルート事件はもっと悪質だ。この事件は朝日新聞の〝スクープ〟をきっかけに、リクルート社の江副浩正社長が、発覚当時の竹下登首相をはじめ、中曽根康弘・宮沢喜一・安倍晋太郎・藤波孝生ら有力政治家には主に秘書を通じて、官僚・財界人・マスコミ人に直接に、関連会社の未公開株を公開前に融資つきで安く譲渡し、公開で実質的に利益供与したことになったとして、問題化した。

ハッタリ取材の横行
 リクルートには譲渡先の名簿はあるはずだし、検察も早い時点で入手しただろうが、名簿に手が届かない新聞記者やテレビマンは多い。そこで彼らは、業界の噂話や総会屋筋の情報、せいぜいが下っ端検事や検察事務官から聞きかじった断片情報を掻き集め、〝わが社が入手した極秘リスト〟をでっちあげ、それを片手に消息筋を当たったり、当てずっぽうに記載した相手を直撃したり、〝見込み取材〟と呼ばれるハッタリ取材に走った。

 朝日の記者に直撃された日本経済新聞の森田康社長や毎日新聞の歌川令三編集局長(肩書はいずれも当時)、いずれも経済記者育ちの二人は、前者はたぶん経営責任を持つ立場で大広告主の要望に沿った、後者も記者としての付き合いの延長線上の依頼だ、と軽く受け止めていたのだろう。実際に譲渡を受け、取材に応じて率直に事実を認めたようだ。

 朝日新聞社発行の左翼週刊誌「朝日ジャーナル」の記者二人が筆者のところにも、わが社のリストに名前がある、と取材にきた。しかしそんな株は持っていない。ない株の持ち主として筆者の名前が載っているのなら、彼らのリストが出鱈目なのは明白だ。当然筆者は否定するが、彼らは納得しない。押し問答のあげく名指しは避けたが、筆者が〝クロ〟と察しがつく記事を載せた。これに怒った筆者は「週刊文春」に二回にわたって朝日のインチキ取材の批判記事を書き、彼らが応戦するので光文社の「宝石」、講談社の「現代」などにも寄稿し、光文社から「我、『朝日新聞』と戦えり」と題する、当時人気だった新書シリーズのカッパ・ブックスを、昭和63=1988年10月に出した。

 この〝戦い〟は、検察の事件処理が進む過程で明らかになった譲渡先名簿に、当然のことながら筆者の名前はなく、「週刊朝日」などが事件追及のコメンテータにしばしば起用していた飯島清(故人)が、譲渡を受けていたという事実が判明する。朝日新聞が正しい名簿を持っていたのなら、飯島の起用など、ありえない道理で、勝負はだれの目にも明白だった。朝日新聞社は筆者に一言の謝罪もしなかったが、「週刊朝日」には、飯島の弁解談話と〝バツが悪い〟という編集者のボヤキ記事が、並んで載っていたものだ。

無責任さはむしろ劣化
 当時多くの新聞やテレビが、わが社が独自入手しため株主名簿によると、と勿体ぶっていろいろな人の名前を競って伝えたが、この手のインチキが少なくなかったことは、容易に察しがつく。〝冤罪〟を蒙った向きは、筆者以外にもあったと思われるが、彼らが自らの〝報道〟を検証した話も、間違いを訂正して〝説明責任〟をとった話も、聞かない。

 今回の〝桜の会〟をめぐるいくつもの新聞やテレビのあり方を見ていると、リクルート事件の誤報後の30年間、マスコミはなんの教訓も得ず、反省もせず、その無責任さ、醜態を演じた際の往生際の悪さにおいて、むしろ劣化を進めだ、といわざるをえない。

 リクルート事件で主要政治家としてただ一人、犯罪に問われた藤波孝堂(俳名)は、

 忍辱の 徳積むべしと 花の雨

 言い訳は 一切すまじ 花に佇つ

 という、哀切だが凜然と潔い名句を遺し、早世した。新聞・テレビに事件当時さんざん叩かれた、かつて前途有為とされていた藤波の姿勢・品性に較べて、新聞記者やテレビ・コメンテーターの多くが、如何に下劣・悪質か。いうも愚か、というべきだろう。

(月刊『時評』2020年3月号掲載)