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探訪/海上・港湾・航空技術研究所・栗山善昭氏

空から海まで分野横断的に国民生活向上を目指す

くりやま よしあき/東京工業大学工学部土木工学科卒業。昭和58年運輸省 入省、港湾技術研究所水工部漂砂研究室、平成10年運輸省港湾技術研究所海洋環境部漂砂研究室長、22年独立行政法人港湾空港技術研究所海洋・水工部長、27年独立行政法人港湾空港技術研究所研究主監、28年国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所理事、港湾空港技術研究所長、令和2年4月より国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所理事長。平成13年4月博士(工学)、東京工業大学。15年7月技術士、建設部門。
くりやま よしあき/東京工業大学工学部土木工学科卒業。昭和58年運輸省 入省、港湾技術研究所水工部漂砂研究室、平成10年運輸省港湾技術研究所海洋環境部漂砂研究室長、22年独立行政法人港湾空港技術研究所海洋・水工部長、27年独立行政法人港湾空港技術研究所研究主監、28年国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所理事、港湾空港技術研究所長、令和2年4月より国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所理事長。平成13年4月博士(工学)、東京工業大学。15年7月技術士、建設部門。

 通称“うみそら研”こと海上・港湾・航空技術研究所は文字通り、空から港、そして海までを対象として包括するスケールの大きな研究所だ。個別の研究所としてそれぞれ長い歴史を刻んできたものの2016年に“うみそら研”として統合以後、シナジー効果を発揮すべく研究者は日々、新たな領域にチャレンジしている。今般の2050 カーボンニュートラルをはじめ、国民生活向上に向けて新技術の開発に勤しむ同研究所の現在を栗山理事長に聞いた。


海上・港湾・航空技術研究所 理事長
栗山 善昭氏


海と空をつなぐ、位置情報

――まずは簡単に、貴研究所の沿革をご紹介いただけましたら。

栗山 当研究所は2016年4月1日、運輸産業の国際競争力強化、海洋の利活用を技術面から支えることを目的に、当時の海上技術安全研究所、港湾空港技術研究所および電子航法研究所の、計三つの国立研究開発法人を統合して設立されました。統合以前から各研究所はそれぞれ長い歴史を有し、例えば海上技術安全研究所は1916(大正5)年に逓信省舶用品検査所として創立され、既に発足から100年を超えています。以後、各研究所は現代までそれぞれ時代の要請に対応しながら組織変革、統合・分化を繰り返し、最終的に現在の組織体制に至りました。

――海上と港湾は一体的な分野というイメージがありますが、加えて航空分野となると、文字通り空から海まで対象が非常に幅広いですね。

栗山 歴史的にはもともと、現うみそら研の構成につながる旧・船舶技術研究所の中に電子航法部門がありました。船舶でもレーダーを使用しますので、その点ではまさに空も海も共通点があり、下って現在、衛星を介した位置情報の重要性が年々高まりを見せていることから、海上、港湾に電子航法が加わっているのはある意味で非常に大きな強みとなっています。

 特に現在研究を進めている自動運航船や船舶の遠隔操作などにおいては、位置情報が極めて重要です。準天頂衛星「みちびき」の機能を活用すると、GPSなどに比べて格段に高精度の位置情報を得ることが可能となります。もともとこの技術は電子航法分野において開発され、現在も研究されていますが、それを船舶分野にも応用することで新たな技術開発の道が開けてきたと言えるでしょう。

――では、分野横断的な研究以外で、現体制を構成する個々の研究所ではどのような研究を行っているのでしょう。

栗山 海上技術安全研究所では、海上輸送の安全の確保、海洋環境の保全、海洋の開発、海上輸送を支える基盤的な技術開発を。港湾空港技術研究所では、沿岸域における災害の軽減と復旧、産業と国民生活を支えるストックの形成、海洋権益の保全と海洋の利活用、海域環境の形成と活用。そして電子航法研究所では、軌道ベース運用による航空交通管理の高度化、空港運用の高度化、機上情報の活用による航空交通の最適化、関係者間の情報共有および通信の高度化などをそれぞれ研究しています。

自発的な分野横断的研究の気運

――研究者各位もまた、専門分野の知見を供出して共同研究に携わるなど、統合の強みを生かしておられるのでしょうか。

栗山 分野横断は研究所として最も重要な施策の一つです。統合後の〝研発審〟こと国立研究開発法人審議会では、評価項目の筆頭に「分野横断で研究しているか」が位置しています。うみそら研を定義している法律では、「船舶の研究、港湾・空港に関する研究、電子航法に関する研究」が明示され、それぞれの研究状況が評価項目となっているのですが、その上に、「分野横断的な研究」が位置付けられています。

 統合による〝シナジー効果〟を発揮するための仕組みとして、研究者の代表である三人の「研究監」に分野横断的な研究を推進し、進捗状況を検証する役割を担ってもらっています。

 一方、研究者自身の内発的な意欲として分野横断的研究に積極的に取り組む気運が醸成されつつあります。実際に各研究所の枠を超えて研究者同士、密な連携を図り共同研究の構想やガイドライン策定の準備などを進める等の事例があり、研発審の先生方からも、分野横断的研究に関して研究者に無理をさせていないか気遣われるほど成果が挙がってきています。

 ただし、統合当初は、分野横断的な研究は、国土交通省の競争的資金をはじめ、いわゆる外部資金に頼っている面もありました。つまり外部からの資金が交付されてから研究に着手する、という順序が一般的だったのです。しかしこれらの外部資金は基本として競争的資金であるため、交付が得られる〝当たり〟の時もあれば、逆に〝外れる〟場合もあり、必ずしも安定的に研究に着手できる状況ではありませんでした。そこで2020年より、研究所内部の予算も容易に分野横断的研究へ活用できる体制を整えています。

――分野横断的な研究につきましては、栗山理事長の想定を超える手ごたえがあるようですね。

栗山 当研究所の中長期7年計画のうち、私は後半3年間を担当すべく現職に就任したのですが、特に分野横断的な研究に関しては前任の大和裕幸(現・国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長)先生が、統合された各研究所間で協働の勉強会を行うなどシナジー効果の発揮にご尽力されておられました。それが今、実を結び始めていると認識しています。

 私自身、現職就任前には横須賀の港湾空港技術研究所の所長を務めていましたが、確かに分野横断的研究の必要性はその頃から認識しておりましたし、個々の研究者もまた同様の思いを抱いていたため、統合初期の段階から分野横断の指向は自発的気運として現れていました。

――そうした状況下、今般のコロナ禍による研究活動への影響はいかがでしたか。

栗山 コロナの感染拡大から約2年半、拡大状況によって影響の大小はありましたが、トータルとして深刻な支障が生じた、というほどではなかったと捉えています。研究所が離れているため、大和前理事長の時代からとにかくオンライン会議を積極的に活用する旨、指示が為されており、その実績がコロナ禍においては功を奏しました。当初は幹部間会議でオンラインを使っていましたが、コロナ禍以後は一般研究者間もオンラインで結ぶようになりました。若い研究者は新しいシステムに慣れるのが早かったのではないかと思います。データの解析などはむしろ一人でいる方が集中できるといった声もあり、総じてコロナによる研究の停滞は最小限で済んでいます。

 ただ、電子航法の研究については、影響がありました。

――どのような点で、でしょう。

栗山 電子航法研究の要諦は、〝いかに多くの飛行機を、いかに安全に、いかに環境負荷少なく、飛ばすか〟が重要であり、混み合うフライト本数をより効率的に運航することがテーマとなります。しかしコロナ禍により肝心の飛行機そのものが飛ばなくなり、長年にわたり研究現場で収集しているデータの傾向が変わってしまいました。とはいえ、現在では航空需要も回復傾向にあり、数年後には元に戻りデータへの影響は一過性のものになるだろうと考えられています。

 むしろ現場の研究者より、所内外で書類のやり取りが多い管理部門の方が、対応に苦労しました。職員には研究所に来ないよう呼び掛けつつ、管理の人間は来ないわけにはいかない状況などがありました。この2年半の間で管理部門の多くの業務で効率化、テレワークへの対応化を図ってきたところですが、今後もこのような動きを継続していきたいと考えています。