2024/06/04
多言なれば数々(しばしば)窮す(老子)
――人は、あまりしゃべり過ぎると、いろいろの行きづまりを生じて、困ったことになる。
安全保障や子育て支援の充実のためとして、実質的な国民負担が増額されようとしている。しかし、「G7で日本以外に国債を償還している国はない」からG7では積んでいない国債償還費が昨年度の予算でも16兆円強も計上されていた。だから、この金を子ども手当に使えばいいのに、国会議員はそれを一人も主張しないという実に不思議な国である。貧困化が少子化の原因なのに国民の負担増などとは、議員は一体何をしているのだろう。この国はこのような基本的な認識を整理しないまま政策議論をする癖がある。少子化対策議論のために日本の基本データを紹介して、その後、ハンガリーの少子化対策に触れてみたい。
最初は少子化対策白書による50歳時点での日本人の未婚割合の上昇である。
1970年 女性 3・3% 男性 1・7%
2020年 女性17・8% 男性28・3%
この50年間に未婚割合は一貫して増加を続けてきた。この原因は要因が絡み合って複雑だと考えるが、非正規雇用が全体の雇用の40%に達するなど、近年急激に伸びてきたこと(これには、人びとの労働観の変化もあるが、消費税の導入による人件費への消費税課税節減のために、企業が正社員を減らして費用化できる非正規社員を増加させてきた背景がある)によって結婚できるだけの稼ぎが出来なくなっていることが大きい。要するに国民の貧困化こそが主因であって、子ども手当のための国民負担など逆噴射そのものなのだ。
そこで雇用形態別の男性の婚姻率を2022年の30歳~34歳の男性で見てみると、正規雇用59・0%、非正規雇用22・3%、パート・アルバイト15・7%となっている。非正規やパートでは厳しい状況となっているのは、彼らが金銭的に結婚できないことや、女性から結婚の対象と見られていないという実態があるからなのだ。
さらに政府が少子化対策と言い始めていたのに、2022年12月の統計では、対前年比で非正規雇用が13万人増、うちパート・アルバイトが10万人も増加して、正規雇用は12万人も減少したのだ。ここにメスを入れた政策がないから、少子化に歯止めがかかるはずもないのである。少子化対策の要は雇用対策なのだ。
ほとんど紹介されることがない衝撃の数字がある。それは年齢層別の女性の数である。(2020年)
1歳~19歳 1007・0万人
20歳~39歳 1296・9万人
40歳~59歳 1426・7万人
60歳~79歳 1678・0万人
出産年齢層を限定する必要はないのだが、多くの女性は20歳から39歳という年齢で出産している。こう見ると、近い将来衝撃的なことが起こるとわかる。なんと20年後の出産年齢層の女性は「現在より300万人も減少する」のである。現在19歳以下の女性は1000万人しかいないからだ。おまけに2023年の出生数は75・8万人だったから、今後この出生数が維持されるとしても、40年後には出産年齢層女性数は、さらに40万人も減って最大で760万人にしかならず、現在からは540万人の減少となる。この事実一つを見ても、現在の少子化対策を「異次元」などと銘打っているが、その程度ではまるで話にならないことは明確なのだ。
このため、今の政府は「共生社会」だとか、外国人労働者の働きやすい環境整備などといった政策を掲げて外国人を移入しようとしている。しかし、それは歴史的にまったく価値観の異なる異民族や一神教の人々とは、共に暮らしてこなかった日本人には極めて困難で不可能に近いと知らなければならない。現政権は国民の支持を完全に失っているが、余計なことはせず、将来の大きな禍根になる日本国の破壊だけは絶対に止めてほしいのだ。
移民・難民の流入を拒否してメルケル首相と対立したハンガリーのオルバーン首相は、「ハンガリー人を増やして、少子化を乗り切る」と決断して、大変大胆な少子化対策を実施している。自民党も在日ハンガリー大使から、このハンガリーの政策をヒアリングしたという。
その少子化対策を2023年に紹介しているハンガリー在住の「かものはし」という人がいるので、それを借りたい。ハンガリーは民族的にも歴史的経験でも西欧諸国とは大きく異なっているし、政治・慣習・家族関係、税や社会保障などの制度なども、われわれとは大きな乖離があることはもちろん前提なのだが、この国がやっていることを何かの参考に紹介したい。
ハンガリーの状況:合計特殊出生率1・52(2022年)、2010年は1・25。初婚年齢・男性32・9歳、女性30・2歳(中央値)。所得税15%(一律)、消費税27%軽減税率あり。少子化対策:30歳前に子供を出産した女性は、平均賃金への税額を上限に個人所得税を免除。4人以上の子供を養育した母親は生涯所得税を免除され、子供の数に応じて課税ベースが減額される。以下、女性に優しい仕組みとなっているのが特徴だ。
さらに、高等教育の在学中、または終了後2年以内に出産した30歳以下の母親は、学生ローンの返済が免除される。出産休暇では母親の休暇前の平均賃金の100%相当額を産後休暇の168日分支給するが、それは所得税の対象となる。また、幼児が2歳になるまで育児手当金が支給され、その金額は申告者の平均賃金の70%。
妻が18歳~41歳の既婚夫婦は上限額360万円のローンを受けることができ、それは申請後5年以内に第一子が生まれると3年間の返済猶予があって利子は免除となる。第二子が生まれるとローンは3割減免、第三子が生まれるとローン返済は全額免除される。
愉快なのは多子家庭は大きい車が必要であるとして、3人以上の子供がいると7人乗り以上の車の購入費用の半額(上限あり)が補助される。その他、子供の数に応じて住宅の購入や建設に補助金が出るし、2人以上の子供がいると低金利ローンが組め、住宅購入の消費税は5%の軽減税率となる。その他、子供の数に応じた子ども手当の支給や、3人以上の子供がいる母親を雇用すると雇用者側の社会貢献税が免除されるという仕組みもある。
こうしたハンガリーの強力な少子化施策を見ると、国家権力が強いことが基本にあることがわかるし、教育や医療が基本的に無料になっているが、高率の税金や重い社会負担の仕組みも受容されている背景もあり、わが国でも、というにはなかなか難しいことも事実だと考える。
(月刊『時評』2024年5月号掲載)