2024/06/04
多言なれば数々(しばしば)窮す(老子)
――人は、あまりしゃべり過ぎると、いろいろの行きづまりを生じて、困ったことになる。
少子化によって人口減少が止まらないことから各方面で人手不足となり、経済団体などから外国人労働者を増やすべきだとか、岸田総理からは「外国人と共生する」などと、植民地を持たなかったために外国人についての知識を持たない日本の歴史や、強烈な思想を持つ一神教の世界と仏教の違いがまるで理解できていない発言をしている。
日本の人口減少は簡単に止まることはない上に、今後大幅な減少が続くことは統計的にも明らかだ。かつて本欄で示したように2020年の統計によると、出産適齢期とでもいうべき20歳~39歳という女性層はいま約1300万人いるのだが、20年後にこの年齢層に達する現在1歳~19歳の女性層は約1000万人しかいないのである。
これは今さら何をしようが変えることのできない現実であり、そのため2022年の出産数77万人(日本人)は、大幅な出生率のアップがない限り今後ともハイペースで減り続ける。ということは、この穴を外国人で埋めようとすれば「日本という国を日本人と外国人で共同で運営する」と決断し、日本人国家であることを否定するほどに国の形を変えないと不可能なのだ。それができるような歴史的経験を日本人は経てきたのか、それに耐えられるのか。
アフター・コロナで外国人観光客がこの国にドッサリ来ているが、彼らが一様に驚いているのが日本の物価の安さである。数十年ぶりという物価上昇に、30年間も実質賃金が伸びず、直近でも14カ月連続で減少している日本人には感じられないのだが、経済成長を続ける国々(特に先進国)では物価も高くなっているから日本の物価は非常に安く感じられるのだ。
このことは賃金・給与も低いということであり、経済産業省のデータでも「日本は能力の高い外国人からは選ばれない国になっている」というのだ。高度人材を誘致・維持する魅力度ランキングによると、上位にはオーストラリア、スイス、スウェーデンなどが並んでいるが、日本は何と25位だというのである。多様性を認めようとしない日本社会の在り方が最大の問題なのだが、日本を選ばないのは「家族の居住環境」が整備されていないこと、外国人を社会が受け入れる「包摂性」の欠如が理由として挙げられている。高度人材は日本に魅力を感じていないのだ。従って高いスキルを持つ有能な人材は日本にはやってこない。
では、一般の労働者はどうかというと、これも日本に目を向けていないのだ。日経ビジネスによると、インドネシアからの労働者は約3万人が韓国に行っているのに対し、日本には約1万人のみ(2019年)。10年前と様変わりなのだ。タイからも約5万3千人が韓国に行っているのに、日本へは約1万8千人。韓国に給与で競り負けているのである。
一方、ミャンマー、カンボジアなどからはかなり増加してきている。日本の賃金ではこうした国からでなければやって来ないということなのだ。こうした状況から、今後外国人労働者を増加させると、「自国や韓国などでは採用されない低いスキルしかない人びと」しか日本には来ない可能性がある。彼らは職を失うと犯罪に走らないとも限らないのである。
つまり、少子化が進むから外国人労働者を入国させようというのは、人材確保という点では幻想に過ぎないし、この国の将来に制御不能な危険を持ち込むことになる。難民救済という心優しい政策が、いま西ヨーロッパや北欧の国々などに何をもたらしているかを考えなければならない。スウェーデンでは性犯罪が急増し、パリではフランス人が立ち入ることができないような環境の地区が生まれているではないか。
経営者は日本人労働者が付加価値の高い仕事ができる環境を整えなければならないのである。ギャラップの調査(2021年)を基に経済産業省がまとめた資料によると、「日本企業の従業員エンゲージメント(個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係というのが人事領域における定義)は、世界全体でみて最低水準にある」と示しており、エンゲージメントの世界比較では、世界平均が20%であるのに対して、日本は5%という有様である。アメリカの34%、中国の17%、韓国の12%などと比較して大きく差がついている。日本の経営者は「従業員のやる気」を引き出せていないのである。
また、パーソル総合研究所の成長意識調査(2019年)を経済産業省がまとめたデータによると、「現在の勤務先で継続して働きたい人の割合」は、日本は52%に過ぎず、他国に比してかなり低い数字となっている。この調査によると、転職意向のある人も少ないし、独立・起業志向のある人も世界のなかで際立って少ないのである。これらが示しているのは「イヤイヤ、ダラダラ」と働き続けているという日本人の姿ではないか。
これも経済産業省(2018年)がまとめたものだが、「オンザジョブトレーニング」以外の人材投資費の国際比較をみると、日本企業は全体で0・1%(GDP比)(2014年)しか使っておらず、アメリカ企業の2・1%(2014年)の20分の1という惨状なのだ。おまけに、近年アメリカ企業は人材投資を拡大してきているのに、日本企業は、0・41→0・33→0・15→0・10(GDP比)と年々著しく削減してきているのだ。
つまり、日本企業経営者は本来的な責任を果たしていないのである。こうした努力もせずに、将来この国の大混乱の基となる可能性の著しく高い外国人労働者の移入拡大を主張するのは、責任放棄ここに極まるというレベルなのだ。川口市のクルド人騒動を見ているのか。
2023年5月に島根県の丸山達也知事は「経団連会長の言っていることを聞いていると、日本は亡びる」と言い、「企業負担のない消費税を排除するなと言うくらいなら、なぜ最も利益を上げている大企業の法人税を引き上げると言わないのか」と述べた。
きわめて勇気ある発言で、消費税導入以来の約30年間で、国税地方税あわせて約400兆円を消費税として徴収してきたが、これと同じ期間に法人税(国・地方を含む)を約300兆円も減税してきている事実からみても、真剣に聞くべきまっとうな意見である。
丸山知事の述べたことは、国政の政治家が言わなければならないことなのだ。企業献金に頼ると政治がゆがむとして年間300億円もの政党助成金を導入したのではなかったのか。国政政治家の怠慢、ここに極まれりの様相が、近年この国に充満している。
(月刊『時評』2023年9月号掲載)