2024/09/05
末松 ちとせグループは藻類を核とする企業連携型プロジェクト『MATSURI』を展開されておられますが、藤田社長は藻類にどのような可能性を見出しているのでしょう。
藤田 もともと石油・石炭などの化石資源は、数億年単位で地中に埋蔵している光合成由来の生成物質を掘り返し、資源として使っているわけですが、これは有限で、燃やせば温暖化の主因となるという問題点を抱えています。
他方、計算上では地中から採掘しなくても、光合成をもとに代替物質が得られるのではないか、その観点で捉えると、藻類は単位面積当たりの光合成生産力が他の植物より圧倒的に高く、かつ栄養価が非常に高い。しかも、基本的には水と光さえ確保できればどこでも培養可能なので、化石資源に依拠しなくても食料、燃料、加工品などをつくっていけるのではないかと考えました。つまり藻類に着目したのは、光合成の力を活用したいからだと言えるでしょう。
ここで一つ声を大にして言いたいのは、われわれは藻類を本気で化石資源の代替にしようと考えているため、あくまで光合成の力で生産した藻しか扱っていないということです。実は藻類は光合成ではなく、いわゆる発酵と同じく糖などの食物を与えることでも生産が可能なのですが、この方法で藻を増殖させても地球上に存在する資源の量を増やすことには繋がらないどころか、大気中の二酸化炭素を増加させてしまいます。光合成で増殖させた藻類のみを扱っている点が、われわれの取り組みが他社とは根本的に異なる点だと言えるでしょう。
末松 藻類と一言で言っても、数多くの種類があるのでは。
藤田 はい、世界中に何十万種もあるため、どの種類がどの生産加工に向いているのか、各国で盛んに研究されています。ただ、石油代替であればこの種、たんぱく質生成であればあの種、という有効活用できる目途が付いている種はせいぜい5~10種類ほど。われわれは、全てを一つの種類の藻でまかなうのではなく、目的や環境に合わせて有用性の高いいくつかの藻を大規模培養しています。同じ畑で複数の作物を育てるように、一つのプラントの上で、石油代替用の藻、プラスチック用の藻など、多くの種類を同時に培養していると思っていただければ分かりやすいと思います。またわれわれは遺伝子組み換えせずに品種改良する技術を持っており、既存の種を産業応用しやすい形に品種改良しています。
末松 海外で、御社のような藻類の研究開発に強い国など有るのでしょうか。
藤田 この藻類培養はもともと10年ほど前に米国で盛んになりました。ただ私としては当時から、米国で導入していた培養方法ではいずれ行き詰まると思って注視していたところ、やはり相次いでつまずき、当時のベンチャーが軒並み倒産している状態です。投資関係者の間では、藻類は既に将来性を見込まれておらず米国では下火になりました。逆にマレーシアでは、われわれが地道に取り組んだこともあり、いま藻類ビジネスへの注目度が高まりベンチャーが相次いで立ち上がっています。
末松 なるほど現地では、ちとせさんが藻類ビジネスの中心的存在となっているわけですね。
藤田 米国のベンチャーなどが華々しく大きな資金調達を繰り返していた間も、われわれはただ着実に事業を育成することに注力して技術開発を続けると同時に、マレーシアサラワク州やブルネイ政府との関係を一つ一つ積み上げてきました。それが今になって花開き始めた、そういうタイミングだといえるでしょう。ただ、われわれの取り組みが光合成で増やしていない藻を使ったビジネスと同類のものとして扱われることも多く、そのことは非常に残念ですし、今後は正しい情報が皆さまに届くように情報発信を強化していかねばならないと感じています。
末松 そうした藻類の生産・培養は、日照が多い土地の方が適していると。
藤田 そうです、豊富な太陽光、30度余りの適切な温度、CO2の三つ全てが揃うエリアの方が、藻は良く育ちますね。そうすると必然的に東南アジアやアフリカなどの、赤道近辺が適地ということになります。実際にわれわれは日本でも屈指の日照地域である静岡県掛川市に連携生産拠点を持っているのですが、そこのプラントとブルネイに設けたプラントとを比較すると6~7倍くらい生産力に違いが出るのです。同じ投資をするのであれば、やはり東南アジアに打って出よう、という結論になります。現在マレーシアに建設中のプラントでは、近くの火力発電所から排出されたCO2をプラントの藻が吸収しながら成育しています。
末松 なるほど、つまりCCU(Carbon dioxide Capture, Utilization =CO2の回収・有効利用)であるということですね。太陽光など再生可能エネルギーを使って新たな資源を生成しつつ、排出された化石燃料由来のCO2も吸収するという、両面の機能を有していると。
藤田 はい、有機物を燃焼させるとエネルギーになってCO2を排出しますが、今度はそのCO2を太陽光のエネルギーで有機物に転換する、というサイクルになります。また既存の農業とバッティングしない点も藻類を活用する強みの一つです。
ただ、日本の資金、日本の技術により、この事業をマレーシアで進めているわけですが、CDM(クリーン開発メカニズム)におけるCO2のクレジット(CER)はマレーシアに帰属することになっていて、日本人としてはこのルールをこのまま存置させておいてよいのか、やや疑問を感じています。
末松 国によっては確かに、外国の技術を導入しつつもクレジットを保有しようという傾向がありますね。逆にベトナムなどではCDMのクレジットを、日本をはじめ技術供与した国に帰属させる方針だと聞きますから、まさに国ごとに考え方が異なるようです。
末松 では、『MATSURI』のあらましはどのようなものでしょう。
藤田 一言で申せば、さまざまな業界のプレイヤーが立場や業種を越えて知恵を出し合いながら、「藻を基盤とした社会」を構築するプロジェクトです。企業や地方自治体も交え、昨春9業種20機関と共に始動し、現在では15業種43機関まで拡大しています。参画しているパートナー企業と連携しながら、藻を使ってさまざまなモノづくりの研究開発を図り、事業化を進めています。『MATSURI』という名を冠した通り、人類史上に残る〝お祭り〟とするべく、藻類の活用を通じたサステナブルな社会づくりを志し、共に新産業を創っていくパートナー企業を今後も広く募って参ります。
末松 想定される藻の用途と、それに対してどのような企業が参画されているのでしょう。
藤田 例えば燃料はENEOSさん、石鹸は花王さん、自動車はホンダさんなど各社と議論を進めていますが、一業種一社の取り組みではなく、プラスチック類ですと、三井化学さん、三菱ケミカルさん、旭化成さんなど、食品は日本ハムさん、アサヒさんと、業界横断的に産業構築を目指しております。構図としては、われわれがつくった藻を幹として、その上で日本を代表する各分野の企業各社が縦横に枝を伸ばして新たな産業を広げていくというイメージになります(『MATSURI』プレスリリース画像②よりイメージ図(藻ツリー))。
また外国企業も『MATSURI』に参画しており、これら外国企業の方が現状よりさらに一歩踏み込もうという姿勢が見られます。ぜひ、日本企業各位も続いていただけると大変ありがたいところです(笑)。
末松 例えば、既存の航空燃料をバイオ燃料に置き換えていく、という流れは今後着実に進展すると見込まれますが、藻を使った新たなバイオ燃料の実用化は、それほど遠くない未来に実現可能と捉えてよろしいでしょうか。
藤田 技術的には今すぐにでも実現できます。あと乗り越えるべきは価格ですね。これは規模の経済が働くため、市場で広がるほどに価格は下がっていきます。現在のわれわれの技術力であれば、仮に2000ヘクタールほどの土地で培養させてもらえれば、経済的にペイするだけのバイオ燃料を生産することは十分可能です。ただ、2000ヘクタールのバイオ燃料をつくるのに目下のところ2000億円くらいの初期投資を要する点が悩ましいところです。つまり残る障壁は技術ではなく資金、という段階です。
末松 先ほどのCDMの件に関連付けると、ちとせさんが吸収しているCO2のクレジットを日本のいずれかの企業が買う、という展開が起これば何よりですね。それで得られた資金がさらなる資源の生成やCO2の吸収につながるわけですから。