2024/09/05
末松 解約店目標というのは驚きの目標ですね。さて、アルビオン製品は、インバウンド(訪日外国人旅行者)にも大変な人気を博していたと承知しています。
小林 はい、2015年以後はインバウンドによる売り上げが顕著に増加、17年度は日本のお客さまの売り上げに加えて、インバウンドだけで約200億円を売り上げました。
ただ、ツーリストの方は大歓迎ですが、一方で転売業者の方も数多くおり、ネット上には模造品なども売られていました。インバウンドによる売り上げ増は歓迎すべきことですが、こうした転売の拡大や真贋混在は好ましい状況とは言えません。そこで購入にあたりお一人さまあたりの個数制限を導入し、転売が多くみられた中国市場での内外価格差を1・5倍から1・2倍に抑えました。これらの手立てにより転売も減り、その結果インバウンドの売り上げが若干低下しましたが、結果的にコロナ禍が発生したことを思うと、インバウンドが占める比重を下げておいて正解だったと言えるでしょう。
末松 とはいえ、コロナ禍の影響も大きかったのでは。
小林 そうですね、やはり対面式を主体とする販売方式である以上、店舗の閉鎖や対人の制約という影響は大きく、20年度は売上前年比で76%、営業利益で約16億円のマイナスとなりました。ただ、21年度は回復基調をたどり9カ月の変則決算ながら、営業利益は約18億円のプラスに転じました。22年度はさらにもう少し改善していくと思われます。コロナ禍に二割の会員さまが離れていきました。現在はそれを取り戻しつつある状況、と言ってよいでしょう。
末松 業種を問わず、コロナによって対面販売からネット販売に転じた企業も少なくありませんが御社では?
小林 初期段階でテストしてみましたが、反応は芳しくありませんでした。やはり対面でのサービスを基本とする弊社商品はECに馴染まないようです。現在、主要な化粧品会社でECをしてないのはおそらく弊社だけでしょう。
であるならば長短の程度はあれ、感染症は必ず終息するので、その間は不動の態勢を貫こうと考えました。数年間の雌伏に耐えられる企業体力は涵養してきたつもりです。長年培ってきたコンセプトを覆すようなことを右往左往しながら行っても、得られる成果はごく少ないと思われます。
末松 社内的な対応などは。
小林 弊社には約2000人の美容部員がおりますが、仕事の性質上、リモートワークが出来ません。コロナ禍の厳しい中でも、開店可能な店舗においてはリスクを負って店頭に立たれ、日々笑顔でお客さまに寄り添い続けてくださった訳ですから、業績回復の折には何らかの褒賞を行いたいと考えています。
実際に、全営業の目標達成時やインバウンド好調時には、当時の社員約3000人に対し肩書きの別なく三度の機会に計25万円を現金支給したことがありますので、この例に基づくと業績が上向けば相応の処遇を図り、逆に過酷な状況下では苦境を共有するという意識の醸成が求められます。私は以前から社員に対するこうした意識の浸透を心がけ、それがコロナ禍で具現したというわけです。
末松 インバウンドの人気を鑑みると、例えば海外で販路を開拓するという構想はいかがでしょう。
小林 東アジアであれば現在の戦略の延長をもとに、現地で拠点を持つことは可能かと思います。が、欧米については難しいかと。やはり肌の色、気候、習慣が東アジア人とでは大きく異なるため、現在の商品ラインナップをそのまま提供しても通用しないと思います。実際にインバウンドが盛んな頃でも、購入の大多数を占めるのは地場の化粧品会社が強い韓国を除いた東アジアのお客さまで、欧米の方はほとんどいませんでした。欧米進出を図るにはゼロベースから商品開発をする必要があり、ならば弊社が培ったノウハウを、東アジアで提供した方が将来的には現実的だと考えています。むろん、それも実現に向けては各種資源を要する話ですので、まずは国内での位置付けをより確固たるものにしていきたいですね。全店舗で1位、しかも圧倒的1位になるのが私の目標です。
原料の自社栽培と地方との提携
末松 高級品を開発する上で、原料には特にこだわっておられると聞きました。
小林 かつては弊社も、他社メーカーと同様、原料商社等から調達していたのですが、例えば原料の一つ・ヨモギエキスを取り上げても、ヨモギの葉、茎、根のどこを使っているのか、その混成なのか等、われわれ購入サイドには詳細がわからず、自分たちがより納得できるものづくりにはつながりません。であれば少なくとも1アイテムにおける主成分だけでも自分たちで栽培、加工し、自社調達を図るべきだと考えています。
末松 既に、各地方で研究所を構えたり、研究機関と連携されているそうですね。
小林 はい、ハトムギなどは国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物資源研究センターで開発した、国産品種「北のはと」を有機栽培しています。これを、より栄養価が抽出できる爆砕加工という特殊な加工を施し、商品に配合しています。このような形で弊社のために原料を栽培してくれたり、瀬戸田レモンやブルガリアダマスクローズなど植物を育てている委託農家と日本に限らず世界各地で契約しています。
また、秋田県の白神研究所では約12万㎡の畑を保有し、ここでさまざまな植物や薬草など約60種を試験栽培しながら、植物研究と原料開発に取り組んでいます。このうち10種類は大量栽培して商品配合まで進みました。小林 やはり自分たちで栽培すると、一つの植物でも部位によってどのような機能があるのか詳細を把握することが可能になります。一方、畑で栽培しにくい植物などはカルス(無定形の細胞塊)を培養して、そのエキスなどを使用した研究をしています。
このように、化粧品会社で植物の栽培から抽出、バイオテクノロジーまでを一気通貫で行っているのは、おそらく弊社が唯一ではないかと思われます。
末松 研究所のある秋田県とはどのような連携を?
小林 県の高校で二校、および秋田県立大学と包括連携協定を結び、各校から10名ほど、農業を専攻した学生を研究員として採用しています。研究所の現場では、地元出身の若手研究者による陣容が徐々に増えてきました。もともと同研究所は廃園になった保育園の建屋を借りるところからスタートしたのですが、最近新たに抽出研究棟を増設するなど、研究所自体も規模を拡大しています。
末松 小林社長は東京農業大学の客員教授も務めておられますが、同大との関係はどのようなきっかけだったのでしょう。
小林 末松さんとは同僚になりますね。植物の研究を進める上で、われわれだけでは限界があるため2012年に東京農業大学さんとの連携を積極化し、2019年には包括連携協定を結び、それをご縁に東京農大の教壇にも立っています。