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【トップの決断】ワンダーテーブル/秋元巳智雄氏

業界の声を届けるべく、食団連を設立

末松 秋元社長は同時に、この冬新設された外食事業者から成る新たな団体、食団連こと「日本飲食団体連合会」の専務理事として活動されておられますが、設立の経緯はどのようないきさつだったのでしょう。

秋元 国内には既存のJF(日本フードサービス協会)が存立し、われわれもそのメンバーであるものの、どうもこれまで外食産業と政治は、それほど密になる必要がなかった、つまり業界の声を政府に届けて解決を求めるような深刻な問題がほとんど無かった感があります。しかし今回のコロナ禍による影響は、外食産業にとってまさに深刻な問題です。当初、政府が揃えた各種支援メニューは全方位的に多様な分野を対象としてきましたが、その後の経過をたどる中で、ほぼ飲食店に絞られてきたと言っても過言ではありません。それは同時に、社会の中で飲食店のみが感染源であるかのような捉えられ方をするのと表裏であり、結果必然として業界の中に鬱屈や不満が蓄積していきました。しかしその問題意識を表明するノウハウが当の外食事業者に乏しかったのも確かです。

 そこで、個社や各協会の声を束ね、業界全体からの要望や意見として取りまとめるべきではないか、という機運が生じました。これに先立つコロナ禍初期の2020年3月、当時の安倍政権下で産業別のヒアリングを行うため外食産業から私を含め、ロイヤルHDの菊地唯夫会長など業界の著名な方々数人で閣僚とミーティングする機会がありました。その機に、政治サイドの方々も外食産業の話を聞くなら、大手は菊地さん、中堅なら秋元が適していると思われたのでしょう。私自身その時までそうした意識は全く無かったのですが、どうやら業界と政治をつなぐパイプとしてはちょうどよい、双方にとって便利な存在に位置付けられたようです(笑)。

末松 秋元社長が社業以外にさまざまなチェーンのオーナーさん等と、平素から密な交流を持たれていたことが功を奏したようですね。

秋元 コロナ禍が深刻化する中、われわれ自身はもちろん他の事業者さんもますます厳しくなる一方の21年3月、当時の菅総理に呼ばれて公邸に行き、現在の支援内容で本当に大丈夫か、本音を言ってくれと率直に問われました。その直前にようやく1企業あたりから1店舗へ支援が数万円ほど拡充したところだったのですが、私も正直に、いえいえこれでは全く足りません、このままでは中堅・大手の外食事業者はほとんどつぶれてしまいます、何とか売り上げの減収分の一部を補填してもらえまいか、と申し上げました。菅総理からは翌週に関係省庁連絡会議を開くので、そこで現状をつぶさに話してもらいたいとの要望があり、私は会議でも事業者の窮状と支援の強化を訴えました。

末松 なるほど秋元社長の果断な行動、時宜を得た適切な主張が、結局は外食産業全体に対する施策の充実につながったわけですね。

秋元 こうした一連の経緯が連合会という形で集約され、今年1月19日、食団連として新しく団体設立に至った、という次第です。まずは加盟協会のうち18団体による記者会見を行ったところ、おかげさまで、緊急事態宣言が明けたら酒類の提供を復活させてほしいとの要望を、多くのメディアに取り上げていただきました。それまでお寿司屋さん、居酒屋、イタリアンなど外食の種類ごとにそれぞれ協会や団体があったのですが、ヨコの連携はありませんでした。しかし酒類が提供できないなどコロナ禍による課題は分野を問わずほぼ共通ですから、ヨコ串を通して結集した方が、より大きな声となり政治の理解を得られるものと期待しています。

 1月段階ではまだ加盟団体を集めている途中だったのですが、その後一定の数がまとまったのを受けて、4月20日に設立総会を開催し、設立記念パーティーを開催いたしました。岸田総理も駆け付けてくださいました。同時点で、食に関わる36団体が食団連に加盟しています。JFさんが大手中心であるのに対し、食団連では中堅・中小事業者、そして地方からの声の受け皿となるプラットフォームになれればと考えています。

末松 設立パーティーは盛大なものでしたね。新しい団体であるが故に、これから縦横に活動の幅を広げることができますね。本日はありがとうございました。



インタビューの後で

 対談中、消費者需要の変化から、デリバリーサービスへの対応が不可欠とのご指摘がありました。外食産業はデリバリーの活用を含めて大きな変革の時期であると実感します。

 また短角牛の話がありましたが、秋元社長等の努力により、ひと頃に比べだいぶ上質な赤身の伝統的ブランドとして知名度が上がってきたように感じます。投資をして仔牛を買い上げ、成育を生産者さんに託す以上、その肉はすべて売り切るという覚悟が必要と思われますから、容易ならざる決断ではなかったかと推察されます。

 後半でご解説のあった食団連設立は、まさに日本の外食産業にとって大きなエポックとなる出来事です。日本では外食産業の業界は非常に規模が大きく、産業従事者も膨大な数に上ります。それ故に業界全体を網羅する体制構築が難しい面があったのですが、今回の食団連設立によって、これまで業界活動に加盟してこなかった事業者さんも、団体を通じて意見表明や要望提出できる体制が構築されました。これは非常に意義深いと言えるでしょう。

 コロナ禍を契機にパラダイムシフトが起こるとすれば、それは業界や業種の垣根が取り払われる時代の到来を意味していると思います。ともすれば一社、一店あたりの補償や支援という視点にとどまりがちですが、より大きな視点で新しい団体の設立まで高めていった秋元社長の、今後の活動に大いに期待しています。
                                                 (月刊『時評』2022年6月号掲載)

すえまつ・ひろゆき 昭和34年5月28日生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒業。58年農林水産省入省、平成21年大臣官房政策課長、22年林野庁林政部長、23年筑波大学客員教授、26年関東農政局長、神戸大学客員教授、27年農村振興局長、28年経済産業省産業技術環境局長、30年農林水産事務次官。現在、東京農業大学教授、三井住友海上火災保険株式会社顧問、等。