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【末松広行・トップの決断】久間 和生氏

社会に貢献する新たな農業 技術の開発に向けて  ―活動制約下におけるイノベーション創出とは―

きゅうま かずお 昭和24年東京生まれ。東京工業大学工学部卒業、同大学院博士課程電子物理工学専攻修了(工学博士)。52年三菱電機株式会社入社、光ファイバーセンサー、光ニューロチップ、人工網膜チップ、画像処理などの研究開発と事業化を推進、平成23年代表執行役副社長。25年内閣府総合科学技術会議議員(常勤)、26年内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員(常勤)、30年4月より現職。東京工業大学、東京大学、慶應義塾大学等の客員教授、非常勤講師を歴任。
きゅうま かずお 昭和24年東京生まれ。東京工業大学工学部卒業、同大学院博士課程電子物理工学専攻修了(工学博士)。52年三菱電機株式会社入社、光ファイバーセンサー、光ニューロチップ、人工網膜チップ、画像処理などの研究開発と事業化を推進、平成23年代表執行役副社長。25年内閣府総合科学技術会議議員(常勤)、26年内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員(常勤)、30年4月より現職。東京工業大学、東京大学、慶應義塾大学等の客員教授、非常勤講師を歴任。

 農研機構こと国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(本部・茨城県つくば市)は、消費者に広く普及した品種の開発をはじめ農業と食品に関するさまざまな研究や技術開発を進め、国民生活向上に貢献してきた。2018年4月、産業界出身の久間和生氏が理事長に就任、積極的にICTを導入する一方、組織構造を大きく改め、各種研究成果を創出し、イノベーションを目指している。企業、地域、国際社会へとさらなるつながりを求める久間理事長の未来視点をお届けしたい。

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
理事長
久間 和生氏

コロナ以前より成果の上がった分野も

末松 農研機構は農業、食品開発の関連で多種多様な研究活動を展開し、これまで大きな成果を挙げるなど農業施策の中でも非常に重要な位置を占めておられますが、今般のコロナ禍では中核となる研究活動にも甚大な影響が生じたと想定されます。また、それに対して理事長はどのような対策を講じられたのでしょうか。

久間 直ちに新型コロナウイルス対策本部を農研機構内に設置し、テレワーク・時差出勤・分散型勤務の実施等、国・自治体の基準を満たした感染拡大防止措置を講じました。これにより、農研機構内の感染者は常勤・非常勤含め総職員数約5500人に対し、2021年11月25日段階で30名、発生率0・51%にとどまっています。これは全国平均の1・38%はもちろん、茨城県平均の0・86%を下回ります(2020年1月16日(国内1例目)から2021年10月31日までの累計感染者数と2021年10月1日現在の人口より算出)。

 この間、現場での研究が大きく制約されたのは確かです。特に最初の緊急事態宣言が、多数の人が集まって行う田植えの時期と重なりました。必要な育種研究が途切れることが無いよう、対象を絞り、感染対策を万全に施した上で、継続を図りました。

 一方、職員の在宅勤務が増えたため、この勤務形態を有効活用すべく、業務の効率化や生産性向上の徹底を図りました。その結果、コロナ感染が拡大した2020年度において、いくつかの分野はかえって前年19年度以上の実績を上げました。

末松 どのような分野でしょう。

久間 国内特許出願数は、19年度209件に対し20年度が326件、査読論文数は同851本に対し954本、成果を農業界に技術移管するためのSOP(標準作業手順書)は同8本から43本へ、そしてプレスリリースも同54件から75件へそれぞれ増えた、という状況です。在宅勤務時間を、テレワークでも継続可能な分野に投入したことで、実績を上げられたと認識しています。

(資料:農研機構)
(資料:農研機構)

末松 コロナ禍で在宅を余儀なくされる中、むしろ成果を挙げた分野が複数あるのは驚きです。

久間 この機にしっかり自宅で仕事するよう、多少ハッパをかけたのも事実ですが(笑)。みな、基本的に仕事が好きなので、よく成果を出してくれました。

NMRリモート供用システムの開発

末松 コロナ対応という点では、対外的な支援活動もなされたのでは。

久間 はい、われわれが有する技術や資材を使い、農研機構として各方面の感染拡大防止に多角的な貢献をしてきました。

 感染拡大初期の20年4月、農研機構、リコー、ファスマックの共同研究成果を活用した新型コロナウイルス用DNA標準プレートが、リコーより発売されました。同プレートは、PCR検査装置や試薬の検出限界や感度の検査に用いることで、PCR検出の精度向上に資するものです。

 また、数は少ないながら、政府や自治体の要請に応じて、農研機構でPCR検査を実施しました。そのほか、茨城県をはじめ、岩手、三重、長野の各県医療機関等にマスクやガウン、手袋などの医療物資を提供して、医療従事者を支援しました。

 さらに大きな成果となったのが、NMR(核磁気共鳴)リモート供用システムの開発です。これは物質内部の成分組成を分析する装置なのですが、ポイントは機構外部から装置にアクセスできる点です。民間企業の研究室等からリモートで、農研機構にある高性能NMR装置にアクセスして迅速な物質同定・構造解析を可能にすると共に、それを機構内のスーパーコンピューター「紫峰」と連動させ、NMRデータをリアルタイムでAI解析しユーザーに還元できるという、日本初のシステムを構築しました。コロナ禍発生後、内閣府のファンド・PRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)を利用して開発に着手したのですが、同ファンドを利用した研究機関の中でわれわれが最も早く開発し、21年6月から運用を開始しています。特に、アクセスするだけでなくビッグデータを活用してリアルタイムにAI解析できるところまでこぎ着けたのは、おそらく世界でも類がないと思います。

末松 つまり外部機関が遠隔から農研機構の装置を使って研究できるという仕組みですね。確かに、コロナ禍で現場の研究が滞る時、リモートで外部の設備にアクセスできるのは画期的だと思います。

久間 はい、運用開始後いろいろな民間企業から使わせてほしいという要望が多く寄せられました。コロナ発生以前から企業の研究者が農研機構を訪れ、同装置を使用するなど官民連携を図ってきたため、このような緊急時にも企業ニーズに応えることができたと考えています。

末松 こうした外部からのアクセスについては、往々にして情報セキュリティが課題になりがちですが。

久間 その点、私は……(続きはログイン後)

(聞き手)末松 広行
(聞き手)末松 広行



すえまつ・ひろゆき 昭和34年5月28日生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒業。58年農林水産省入省、平成21年大臣官房政策課長、22年林野庁林政部長、23年筑波大学客員教授、26年関東農政局長、神戸大学客員教授、27年農村振興局長、28年経済産業省産業技術環境局長、30年農林水産事務次官。現在、東京農業大学教授、三井住友海上火災保険株式会社顧問、等。

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