お問い合わせはこちら

【末松広行・トップの決断】奥和登(農林中央金庫理事長)

金融機関として新たな使命を担い、創立100年のさらに先へ

おく・かずと 昭和34年2月生まれ、大分県出身。58年東京大学農学部卒、農林中央金庫入庫。平成19年JAバンク統括部長、21年総合企画部長。23年常務理事、25年専務理事、29年代表理事専務。30年代表理事理事長、令和3年4月より代表理事理事長兼執行役員。
おく・かずと 昭和34年2月生まれ、大分県出身。58年東京大学農学部卒、農林中央金庫入庫。平成19年JAバンク統括部長、21年総合企画部長。23年常務理事、25年専務理事、29年代表理事専務。30年代表理事理事長、令和3年4月より代表理事理事長兼執行役員。

 農林中金こと農林中央金庫は、2023年12月に創立100周年という大きな節目を迎える。この間、JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森林組合)など多方面の会員を通じて農林水産業に貢献してきた。
 そして現在、ポスト・コロナを見据え、地域社会との紐帯がより求められる中、人材を介した関わりなど、従来にない業務にも乗り出している。中長期的には、2030年にGHG50%削減という高い目標も打ち出した。農林中金の次の100年に向けた方向性を、奥理事長に解説してもらった。

農林中央金庫
代表理事理事長兼執行役員
奥 和登

農林水産業者に海外運用益を還元


末松 創立100年を間近に控えるにあたり、先ずは新型コロナウイルスの影響を踏まえた現在の概況からご解説をお願いします。

 今回のコロナ禍の影響については、農林中金の持つ大きく三つの側面に沿って検証する必要があると思います。

 一つ目は食と農の充実に向けて取り組む側面です。食は人間の生活に不可欠ですので、サービス産業ほどではないにしろ、今般のコロナ禍において、農林水産物は量と価格の両面で少なからず影響を受けました。従来から農林水産業が抱えていた構造的な問題が、このコロナ禍によってより拍車がかかったと受け止めています。

 二つ目は地域の農業生産者を支えるJAの支援という側面です。幸い、政府よりセーフティネット資金をはじめ十分な手当てをしていただいたこともあり、コロナ禍においてもJA自体の信用リスクはまだまだ顕在化していませんが、一方でJAが従来から抱えていた経営基盤やメンバー・地域とのコミュニケーションなどの課題は、引き続き残されています。

 三つ目は、農林中金による運用成果の還元という側面です。これは僥倖にも、米国の中央銀行の金融緩和政策により、金融市場に関わる事業者はむしろ増益の傾向にあり、その流れの中、農林中金の収支も増益となりました。

 以上、これら三つのフェーズに関し、それぞれにコロナ禍の影響が生じていると認識しています。

末松 還元のお話に関連して、農林中金さんは現在、海外運用の成果をきちんと生産者の方々に還元されておられるわけですが、現状に至るまでにはこれまで多くのご苦労があったと推察されます。

 もともと農林中金は、農林水産業のために資金を融通することが主な目的でした。特に昭和の一時期、農村・漁村における資金需要がひっ迫していたころは農林中金からの融通が大きく奏功したと聞き及んでおります。しかし、戦後はそれまでとは逆に農村・漁村で資金が余剰となり、農林中金は貸し手から預り手へ役割を改めてきたという歴史があります。その頃は農村・漁村の資金余剰に対し産業界・工業界は資金不足だったため、農林中金は短期市場等を通じて国内資金需要の充足に寄与しました。

 やがて国内経済が成熟化する一方、企業の海外事業が活発化していくのにつれて、農林中金としても思い切って海外に運用先を求めたという次第です。一般的に、メガバンクなどは海外に支店を置いて貸出する形が多いですが、農林中金は支店を置かずに金融マーケットを通じて運用するスタイルをとっています。農林水産業者に対する国内の貸出に加えて、海外運用益を国内に還元することで、結果的に農林水産業者の所得向上や地域活性化に貢献できれば、と考えています。

(聞き手)末松広行
(聞き手)末松広行

全文は、研究会員になることで読むことができます。

ログインはこちらから