2023/09/06
この論文は2020年5月12日に日本計画研究所(JPI)で主催された講演会をベースにしております。 Tweet
令和の時代にカギとなるのは、間違いなくデータです。ユーザーニーズを収集してビッグデータとし、それをAIで解析して提供されたサービスをユーザーが利用し、その状況をデータ収集するというサイクルを確立することで、データは無限の成長エンジンとなりうる可能性を秘めています。
私たちは全ての産業・社会はデータで成長すると捉えており、例えば金融とデータが融合してFinTech に、移動とデータが融合してMaaS になるように、都市とデータが融合することでどのような形態が生じるのか、それを考えていくのが私たちに課せられた課題であると考えています。すなわち、21世紀はデータを利活用した都市間競争の時代であり、まだ目標年が未確定ながら2020年代のいずれかの年には、東京を世界ナンバーワンのデータ利活用都市にしたい、これが東京都職員の目指す目的となります。
すでに世界の各都市では、データによる都市実装が始まっており、それぞれ乗り越えるべき課題を抱えながらも明確な戦略を打ち出している事例もあります。それに比べて東京は、「都市全体のデジタル化」において2018/19の世界各都市のランキングで28位と遅れている のが現状です。そこで東京都では現在、将来的にデータ利活用の都市間競争に打ち勝つため、“Data Ready TOKYO”を掲げて、同構想の実現を図っていく所存です。以下、その詳細をご紹介します。 “Data Ready TOKYO”の実現に向けては、「つながる街」「デジタル人材の街」「スマート東京」という三つのステップを踏んでいく必要があります。
まずは「つながる街」から詳細を見ていきましょう。2019年8月29日、東京都は“TOKYO Data Highway” 構想を打ち出しました。それに先立つ7月、ヤフー株式会社の会長だった宮坂学さんが東京都の参与(その後副知事)に就任され、東京を今後どう変えていくかという議論の中で提示されたのがこの構想です。要諦は、「世界最高のモバイルインターネット網の建設に着手」「5Gネットワークを早期に構築」の2点です。今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響が無ければ、今年7月は東京2020大会と5Gで大いに盛り上がりを見せていたはずですので、実に惜しまれるところです。いずれにしてもモバイルインターネットが繋がらない場所が無い、そして常にアップデートされていく東京をつくり上げていく、その実現に向けていろいろな施策を考えていくことになります。
20世紀の基幹インフラは、車や新幹線、地下鉄など目に見える「ハードの道」でしたが、21世紀は目に見えない「電波の道」が基幹インフラとなります。東京2020大会のレガシーとして閉会後はこの構築に着手する予定でしたので、来年にはぜひ具体化を図っていきたいと思います。
具体的には、「アンテナの基地局設置への都の保有するアセットの開放と利用手続きの簡素化」「5G重点整備エリアの設定」「東京都自らの5G政策の展開」の三つのアクションをスピーディに推進するため、東京都と通信キャリア等が連携する仕組みを構築しているところです。
例えば、開放の対象となるアセットには東京ビッグサイトや東京国際フォーラムなどの都有施設、さらに約2200キロメートルに及ぶ道路、約2000ヘクタールの公園などが含まれております。4月30日現在、都が保有する土地や建物など、約1万5000件のアセットのデータベースを公表しています。既設4Gアンテナ数が71件でしたから、約212倍に可能性がアップしたことになります。現段階では、都営住宅にアンテナを設置したいという要望が比較的多く寄せられています。さらにアセット利用手続きの簡素化により、通信キャリアの基地局設置を強力に後押ししたいと思います。理想を言えば、一つのアンテナにつき四つのキャリアが5Gのアンテナを付けられる、そういう技術開発をしていただければありがたいですね。
これまでこうしたプロジェクトは民間が実施する場合が主でしたが、これからは民間と東京都で最強タッグを組み、共に推進して5Gの取り組みを加速化していくことが不可欠であろうと考えています。こうした方向性のもと、昨年11月8日には、都と通信キャリア各社のトップが一堂に会し意見交換を行う「第一回TOKYO DataHighway サミット」が開催されました。
サミット開催の同日、都庁のICT推進部内に、「5Gアンテナ基地局等設置ワンストップ窓口」を設けました。通信事業者からの問い合わせや現地調査を、この窓口にて一本化します。アンテナ設置に向けた進捗状況を可視化するとともに、事務処理時間の縮減を目指すことで、利用手続きの簡素化を図ります。また、東京2020大会競技会場や西新宿の都庁周辺など、ポテンシャルの高いエリアで5Gアンテナを重点整備することを想定しています。
“Data Ready TOKYO”実現の第2のステップ「デジタル人材の街」についてはどうか。実は、都庁のIT部門の職員は、世界のメガシティと比較して、絶対数・割合共に大幅に少なく、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリではIT部門職員数が職員総数に対しいずれも1%以上であるのに対し、東京都ではわずか0・3%です。従って喫緊の課題としてはICT人材を確保すること、そのため2019年度は専門助言員(DXフェロー)の確保や、デジタルシフトを推進する特定任期付きの課長を採用するなどして対応を図りましたが、まだまだ進めていかねばなりません。
そして3番目のステップ「スマート東京」についてお話したいと思います。
2019年12月27日に、「『未来の東京』戦略ビジョン」を策定し、“TOKYO Data Highway”などを包含した形で「スマート東京実施戦略」を打ち出しました。この戦略ビジョンでは、2030年に向けた20の「戦略」と2040年の姿としての20の「ビジョン」を提示しています。2020年は、東京がDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手する「スマート東京元年」と位置付けています。
2 0 4 0 年のビッグピクチャーとして「スマート東京」の実現を目指すにあたり、“TOKYO Data Highway” を21世紀の基幹インフラ「電波の道」として整備し、「つながる東京」を構築していくこと、Society 5.0の実現を図るためにデータ共有と活用の仕組みをつくり分野横断的なサービスの社会実装を強力に推進すること、等々が政策の基本的な方向性となります。それには、さまざまなデータを
“TOKYO DataHighway” を通じて収集、AIで解析し、具体的なサービスへ活用して、小池百合子都知事が目指す〝3つのシティ〟(セー
フ シティ、ダイバーシティ、スマートシティ)の実現を図る―――これを、われわれは「スマート東京」の全体像として掲げています。「スマート東京」の推進により、全ての人とモノがIoTでつながり、都市全体がスマート化して、防災、まちづくり、交通や教育など都民生活に広く最先端技術を浸透させることで、東京を世界で最も便利で、生活満足度の高い都市へと進化させていくことが求められているのです。
この場合、キーワードとなるのがDXと、都市OSです。DXとは、ICTの浸透が人々の生活のあらゆる面でより良い方向に変化させていくという概念で、例えば老朽化したシステムを更新していくことなどが、DXのステップとなります。デジタルテクノロジーの力を活用して現在の社会課題を解決し、未来に向けた明るいシナリオを描くことが東京、すなわち行政がDXを進める意義だと言えるでしょう。
都市OSとは、他都市との連携を前提に整備した共通のプラットフォームのことで、実現するためには、さまざまなアセットからデータを分野横断的に収集・整理し、さらに他都市OSとの連携を実施するためにデータをオープン化することが重要となります。従って、他の都市の行政機構との連携が重要となるでしょう。