2024/05/20
中南米の貿易において急激に存在感を増しているのが中国で、中南米諸国の貿易額に占める中国のシェアが2000年には1・7%だったのが今では17・8%を占めています。米国は00年に51・6%と圧倒的トップシェアをとっており、その後も貿易総額自体は伸びているのに21年には38%まで減少しました。それだけ米国と中国の差が狭まってきたということです。日本は00年時点でシェア4%とかろうじて中国より多かったものの、21年には2・4%まで減ってしまいました。
ブラジルは輸出の3割以上、チリも輸出の4割弱が中国向けとなりましたし、ペルーでもかつては輸出の3割程を米国が占めていたところ、逆転現象が起こって今や3割強が中国向けです。
例外的にメキシコは隣国米国に対する経済的結び付きが依然として強く輸出の8割を米国が占めていて、中国のシェアは増加してはいるものの22年時点でも1・9%に留まっています。
私がメキシコに携わっていた10年前には確かにメキシコ経済において中国の存在感はさほどありませんでしたが、その後米中間の摩擦があったため、中国で生産して米国に輸出するビジネスモデルが難しくなり、製造業が中国からメキシコにシフトしてきました。メキシコでつくった商品を隣国であり、かつ自由貿易協定でつながっている米国へ輸出する、というビジネスモデルが盛んになったのです。この拠点の再配置(ニアショアリング)を背景に各国、特に中国の対メキシコ投資が近年大幅に増えています。日本からメキシコに直行便を飛ばしているある航空会社によると、成田発メキシコ行きの直行便は日本人よりも中国人の方が多い由です。まだ中国―メキシコの直行便がないので、日本を経由してメキシコへ往来するビジネスマンが増えている可能性があります。
中国の対中南米投資は全体的に増大中です。製造拠点だけでなく、メキシコでは配車サービスや地下鉄事業、エクアドルでは水力発電所、チリでは海底ケーブルやデータセンター、その他も港湾整備や資源開発などさまざまなインフラ事業を展開しています。
コロナ禍において中国が行ったワクチンやマスクなど医療関係の支援は中南米の国々に強烈なプレゼンスを発揮しました。首脳による現地訪問や電話会談にも力を入れており、中国の中南米に対する影響力が一段と強まった印象です。
中国が対中南米外交を強化する理由の一つは、鉱物資源や食料の確保が考えられます。例えば銅は生産量世界一・二位のチリとペルーからの輸出のうち、今では7割が中国へ渡るようになりました。チリとアルゼンチンはリチウムの主要生産国ですが、両国ともリチウムの輸出先は5割弱が中国です。
近年中国が中南米から輸入する食料や飼料需要のための穀物が急増しています。特にブラジルは中国にとって大豆や豆油、砂糖、鶏肉、牛肉などの輸入元として圧倒的首位になりました。
さらに最近では、中南米で台湾から中国に外交関係を切り替える国が増え、コスタリカ(07年)、パナマ(17年)、エルサルバドル(18年)、ドミニカ共和国(18年)、ホンジュラス(23年)と相次いでいます。今でも台湾との外交関係を結んでいるのは中南米の33カ国のうちの7カ国まで減っています。それでも台湾から見ると現時点で外交関係を保っている12カ国のうち半分以上が中南米に集中している状況であり、中国・台湾いずれの立場からしても中南米が重要な地域であることは間違いありません。
ハイレベルの対話や往来が鍵
中南米にとって米国・中国に次ぐ現在第3位の貿易パートナーはEUです。EUはFTA(自由貿易協定)についてCARICOMとは締結済み、メルコスールとは原則合意済みで、細かい点を詰めている段階と聞いています。加えてブラジルと07 年、メキシコと08年に「戦略的パートナーシップ関係」を結び、主に持続可能な開発や気候変動、生物多様性の保護、人権、貿易の分野で協力を進めてきました。
22年10月にはEUとCELACとで閣僚級の会議を開催しました。23年には、1月にドイツのショルツ首相がチリ・アルゼンチン・ブラジルを訪問し、6月にフォン・デア・ライエン欧州委員長がブラジル・アルゼンチン・チリ・メキシコを訪問。7月には、第3回EU・CELAC首脳会合を開催。明らかに、首脳レベルの対話や往来を強化しているとわかります。
日本もハイレベルの対話に注力しており、林芳正前外務大臣や現在の上川陽子外務大臣が積極的に中南米各国との会談を実施してきました。日本はチリ・メキシコ・ペルーとはそれぞれ個別のEPA(経済連携協定)を締結済みで、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)でもつながっています。メルコスールとも、経済緊密化対話を通じて経済関係強化に努めています。
今年24年はペルーがAPEC(アジア太平洋経済協力)の議長国で、ブラジルがG20(金融・世界経済に関する首脳会合)の議長国です。G20やAPECが中南米で開催される年には、年間を通じて閣僚クラスの会合が多くなるので、そうした機会を利用して日本と中南米の間の要人往来が活発になることを期待しています。
(月刊『時評』2024年4月号掲載)