2024/09/11
パリ協定、実施のフェーズへ移行
〝脱炭素〟のフレーズは、国内でも毎日のように各メディアで目にすると思います。直近では気候変動に関する政府間パネル「IPCC」のレポート等で、さまざまな事象に対する気候変動の影響が明らかになり、地球温暖化の対策を講じることは今や世界の共通認識となっています。すでに多くの日本企業が脱炭素に向けたアクションを起こしていますが、さらにこの流れを海外展開へと発展させていくための環境省の取り組みを、ここ4、5年の新しい動きも含めてご紹介します。
各国において環境インフラのニーズは増しています。途上国、新興国の公害問題は深刻化しています。インド・デリーなどの大都市の大気汚染に加え、アジアやアフリカでの廃棄物処分場の崩落や火災も起きており、ここ数年では死亡事故も起きています。また水質汚濁では、トイレを含む衛生問題とセットで整備しなければなりません。環境改善と脱炭素推進に向けて、これらアジアの新興国では2030年までに30兆ドルの投資が必要という分析も出ています。ESG投資はすでに市場の3分の1を占め、ガバナンス等の要素も含まれるとはいえ、サステナビリティがファイナンスの必要要件となる分野が広がっています。
国際的な動きとしては昨年のCOP26が一つの節目だったと言えるでしょう。1997年のCOP3で採択された京都議定書は先進国のみの排出削減目的を定めただけのものでしたが、2015年COP21のパリ協定では途上国も含めた各国が排出削減数値目標を掲げ、はじめて主体者が先進国から全世界に広がりました。その後2020年はコロナで開催できず、昨年2年ぶりにイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26は、国だけでなくあらゆるステークホルダーズがハイライトされ、いかに早く行動を起こすか、意図を持って発信する場に変わったという印象です。私も参加しましたが、潮目の変わるCOPであり、大きな転換点になったと思います。
特に11月1~2日のワールドリーダーズサミットでは、岸田総理、米国のバイデン大統領、多くの途上国・新興国の首脳級から気候変動分野の対策を進めるというコミットメントとパリ協定の早期実施について表明がありました。3日以降は資金、エネルギー、ユース、自然、適応、ジェンダー等のテーマごとに実施約束(プレッジ)を喚起し、具体的な成果または進捗が求められるなど、パリ協定が実施のフェーズに入ったとみています。
5年ぶりに方針を大幅改定
20年12月に「インフラシステム海外展開戦略2025」が策定され、政府は5年ぶりに方針を大幅改定しました。一番目に「カーボンニュートラルやデジタル変革への対応を通じた経済成長の実現」が掲げられた通り、カーボンニュートラルがはじめて大きな柱の一つに位置付けられたのです。二番目は展開国での社会課題の解決やSDGs 達成への貢献。三番目は自由で開かれたインド太平洋の実現です。インド太平洋地域を中心に環境インフラの海外展開を推進し、受注額目標を新たに34兆円へと設定しました。インフラの輸出により、確実に経済成長へつなげることが政府の方針になっています。
次いで今年の1月、岸田総理は施政方針演説で「アジア・ゼロエミッション共同体」を提唱しました。アジアの脱炭素化に貢献し、国際的なインフラ整備を各国とともに主導していくという構想です。環境省としては上流から下流まで総合的なアプローチで脱炭素移行を支援しています。また、「環境インフラ」とは、廃棄物焼却施設や浄化槽、下水道のようにそれ自体が環境保全・環境改善を目的としているインフラと、環境対策に配慮した質高インフラの両方を意味しています。脱炭素移行においては、より省エネ型、また再生可能エネルギーの最大活用が図られる仕組みのインフラも含めて一体的に推進したいと思います。
その場合、課題となるのはニーズの具体化です。通常、高速道路、橋、発電といったインフラは、どの国でも非常に需要がありますが、環境インフラは本当に必要なのか、環境改善は後からでも出来るのでは、という疑問を呈されがちです。しかし日本の公害の歴史を考えても、後で対策を取るより将来を見据えて質の高いインフラを入れる方がトータルコストは安くなりますし、改善された仕組みの方がESG投資含めてファイナンスが入る可能性も大きい。このような情報を各国と共有することがニーズ作りのポイントですが、その際、重要なステークホルダーの一つが自治体です。日本の公害行政において自治体が大きな役割を果たしたように、その経験やノウハウを都市間連携により海外へ移転し、環境インフラのニーズを作るよう取り組んでいます。
透明性、緩和、適応の3本柱
ASEAN地域の温室効果ガス排出量は現在、世界全体の約7%ですが、2017年から40年の間に34~147%増加すると予測されています。またASEANは気候変動の影響に非常にセンシティブで脆弱な地域であり、適応策が重視されます。日本はこれまで「日ASEAN気候変動アクションアジェンダ」に基づき環境協力を実施していましたが、昨年10月の日ASEAN首脳会議において岸田総理より「アジェンダ2・0」が発表されました。透明性、緩和、適応の3本柱を維持した上で取り組みを強化する内容で、各国から歓迎されています。
透明性とは排出量の把握であり、排出削減への第一歩です。国内では温暖化対策推進法に基づいた算定・報告・公表制度により、各事業者の排出量算定が義務付けられています。ASEAN各国にも民間企業の排出量の把握もしくは公表制度を導入するため「コ・イノベーションのための透明性パートナーシップ(PaSTI)」を立ち上げました。
また日本では、分野別、ガス別に排出量の推移をまとめた温室効果ガス排出インベントリを毎年公表しています。世界でも排出量の精緻な数字を出す能力のある国は限られるので、まず国全体で排出量を把握する取り組みも進めています。緩和は、いわゆる排出削減です。長期戦略策定から各セクターの脱炭素化、後述するJCMを通じた技術普及、ゼロカーボンシティの普及等を脱炭素移行に向けて総合的に推進していきます。適応については、防災をはじめとした気候リスクの具体例を、現在・将来の両方を見て対策を講じることが重要です。気候リスク情報は世界中で求められており、日本では「AP -PLAT」を立ち上げ、洪水等の災害情報、科学的知見やツールを各国に提供しています。
日本と環境協力覚書を締結している国はASEAN各国、中東を中心に10カ国ほどです。昨年はベトナムのCOP26での2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、日本は早速支援を首脳級で合意しました。11月下旬に日ベトナムの環境政策対話を行い、12月に合同作業部会を立ち上げ、各分野での協力に着手することを取り決めました。またフィリピンとはこの3月に環境ウィークを開催し、気候変動と廃棄物分野について次官級で協議しました。ニーズや政策支援についての議論から始め、長期戦略や法制度作り、実際の案件形成では実現可能性調査や実証事業を行い、事業支援を進めます。これ以外にも廃棄物分野や気候変動に特化した協力を他国とも進めているところです。