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新たな国土形成計画について/国土交通省 倉石誠司氏

新時代に地域力をつなぐ国土

くらいし せいじ/昭和51年2月15日生まれ、島根県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。平成11年建設省入省、平成27年国土交通省土地・建設産業局建設市場整備課専門工事業・建設関連業振興室長、平成28年内閣官房内閣総務官室企画官、平成30年国土交通省大臣官房人事課企画官、令和2年不動産・建設経済局参事官、令和3年総合政策局地域交通課長、令和5年7月より現職。
くらいし せいじ/昭和51年2月15日生まれ、島根県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。平成11年建設省入省、平成27年国土交通省土地・建設産業局建設市場整備課専門工事業・建設関連業振興室長、平成28年内閣官房内閣総務官室企画官、平成30年国土交通省大臣官房人事課企画官、令和2年不動産・建設経済局参事官、令和3年総合政策局地域交通課長、令和5年7月より現職。

 1962年に初の全国総合開発計画が策定されて以後8回目、かつ前回から8年ぶりに令和初の第三次国土形成計画が2023年夏に策定された。この、新たな国土形成計画は、特に地方で加速化する人口減に備えて「新時代に地域力をつなぐ国土」をテーマに掲げている。その数ある方策の中、今回は地域生活圏と二地域居住に焦点を当て、倉石課長にその理念と概要を解説してもらった。

国土交通省国土政策局総合計画課長
倉石 誠司氏



全総時代から不変の基本認識

 今回は、第三次そして令和初の国土形成計画のあらましについてお話ししたいと思います。過去の計画と比べ今回の特色を一言で申しますと、〝地域力〟を高々と打ち出した初めての計画、あるいは地域生活に相当フォーカスした計画であると言えるでしょう。

 わが国の国土は面積の7割を森林が覆い、自然災害も多発するという厳しい自然環境下にあり、古くから国土の地形上の制約の下で国土づくりがなされてきました。そして大消費地である都市と生産地である地方との間に円滑な交通ネットワークを張り巡らせ国土を効率的に使う、それによって経済発展を促す、というのが、1962年に〝全総〟こと全国総合開発計画が作成されてから現在まで、一貫した国土計画の基本認識となります。この間、名称が全総から国土形成計画へ、コンセプトも量から質へとシフトしてきましたが、この基本認識は今日まで変わることなく継承されてきました。

 国土形成計画は「国と地方の協働によるビジョンづくり」を目的に、全国計画と、それに基づく広域地方計画とで構成されます。広域地方計画は現在まさに策定に着手しているところで、2024年夏以降に、北海道・沖縄を除く全国8圏域ごとに同計画を策定する予定です。

 今回の新たな国土形成計画では「新時代に地域力をつなぐ国土~列島を支える新たな地域マネジメントの構築」をキーコンセプトに掲げました。この理念が今後10~30年先の将来に向けて、目指す国土づくりの最上位として位置付けられています。

 この場合、「つなぐ」というワードには二つの意味があります。一つは、制約ある国土を地域の力を結集して国土全体でつなぎあわせるという国土構造的な観点、もう一つは将来・未来へと地域力をつないでいくという観点です。

 そして、この「新時代に地域力をつなぐ国土」の形成を通じて、未来を担う若者世代を含めて人々を惹きつける地方の魅力を高め、地方への人の流れを創出・拡大していくことを目指しています。

高まりを見せる地方移住・二地域居住等への関心

 今回の新たな国土形成計画に関し、以下の大きく三つの柱、すなわち①時代の重大な岐路に立つ国土(わが国が直面するリスクと構造的な変化)、②目指す国土の姿と国土構造の基本構想、③国土の刷新に向けた重点テーマについて順にお話ししたいと思います。特に同計画では地域力を大上段に掲げていることから、今回は、③に関して地域生活圏と二地域居住という2点にフォーカスしたいと思います。

 まず、①時代の重大な岐路に立つ国土について。今後の長期ビジョンを立てる上で現在の国土状況が歴史的にどのような位置付けにあるのか、認識を明確化しておく必要があります。基本的課題として、未曽有の人口減少がさらに加速化すると想定されます。特に人口5万人未満の小さい自治体ほど、この20年間で顕著な減少傾向が見られますが、2050年には人の住む地域が今より18・7%減る、つまり、その全国の居住地域の約2割の地域で人が無居住になるというショッキングな将来推計もあります。中規模自治体においても、2040年代には人口減少がより顕在化していきます。また、全総時代から東京圏への転入超過の抑制に取り組んできましたが、今なお東京一極集中の是正へは道半ばです。過密と過疎に関連する人口移動は国土計画を考える上で最重要ファクターの一つですが、2022年段階で依然として東京圏への転入超過が継続している状況です。

 ではなぜ地方から都市部へ人口が転出するのか。アンケートを取ると「仕事・進学先が少ない」「日常生活が不便」が主たる理由として回答の上位を占めました。また近年は地域における高齢者の免許返納が多くある一方、地域公共交通の衰退に対する不安も高まっており、今後は移動手段が確保できず生活が困難になるのでは、という懸念の声が大きくなっています。実際に鉄道やバスなどの地域公共交通はドライバー不足等で非常に厳しい経営環境に置かれ、減便や廃線が相次いでいるという状況です。

 また、気候危機の深刻化や巨大災害のリスクが年々切迫度を増していることも間違いありません。

 さらに2020年初頭から日本を覆ったコロナ禍により、暮らし方、働き方に変化の兆しが生じました。長年の課題とされてきたテレワークの利用が進み、〝転職なき移住〟という新たな働き方も現れるようになりました。実際に東京圏在住者による地方移住への関心はコロナ禍以降高まりを見せ、特に20歳代という若い世代の45%が地方移住に関心を持っているという調査結果が出ています。理由としては「自然豊かな環境への魅力」「テレワークにより地方でも同様に働ける」「仕事重視から生活重視への変更」等、働く環境の整備に伴いQOL(クオリティ・オブ・ライフ)重視へシフトする傾向が見て取れ、実際に地方移住への相談も増えてきている昨今です。

「全国的な回廊ネットワーク」

 こうした国内状況を認識した上で、②目指す国土の姿と国土構造の基本構想についてどう考えるか。それが、新たな国土形成計画(全国計画)のポイントとなります。

 前述の通り、目指す国土の姿として「新時代に地域力をつなぐ国土」、実現するべき国土構造に「シームレスな拠点連結型国土」の構築を掲げています。そして同構造を構成する要素が三つあります。一つ目が東京一極集中の是正を図り、国土全体にわたって広域レベルでは人口や諸機能の分散的な配置を目指す、二つ目が日本海側と太平洋側の二面を効果的に活用しつつ、その連結を図る「全国的な回廊ネットワーク」の形成を図り、活発なヒト・モノの流動や災害時のリダンダンシーを確保すること、三つ目が市町村界にとらわれず、デジタルの徹底活用による「地域生活圏の形成」に重点的に取り組むこと、です。この「地域生活圏」というのは、日常の暮らしに必要な各種サービスが、地域の生活者目線で持続可能な形で形成されていくことを目指しています。

 これらの要素を踏まえると、例えば幹線道路、幹線鉄道だけでなく、近年各地域において導入が進んでいるオンデマンド交通等の地域交通を含めた総合交通体系を高質化し、内陸部を含めて日本海・太平洋の連結を強化していくことが求められます。かつ、そこにデジタルを駆使して検索、決済、予約までをスマートフォンで完結させるMaaS(Mobility as a Service)の活用を向上させるなど、シームレスにつながり合うことが重要です。

 そしてこの構想の中に、「日本中央回廊の形成」というプランが示されています。これはリニア中央新幹線の開業等によって時間距離短縮などの効果を中央部だけでなく地方へも波及させていくことを目指したもので、リニア中央新幹線によって三大都市圏が約1時間で結ばれると、シンプルに移動時間が大幅に短縮されます。また、それだけではなく、リニアの各中間駅が置かれる地方都市間は、わずか10分間隔で移動できるようになり、これら中間駅のある都市あるいはその周辺からの通勤圏や、前述の地方移住への志向を一部具現化した二地域居住への可能性が一層広がることになります。この整備計画はこれからのライフスタイルの在り方に大きな影響を与える観点でも非常に重要だと考えています。

 ほかにも、この日本中央回廊を軸として、新東名高速道路における深夜時間帯での貨物トラックの自動運転サービスの実証を2024年度に開始するなどの取り組みも順次推進を図っているところです。

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