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令和6年度、国土交通省の新たな取り組み/国土交通省 小林太郎氏

令和6年度、国土交通省の進める基本戦略

――次年度、令和6年度に国土交通省の進める基本戦略についてお聞かせください。

小林 基本戦略の考え方は、本年度と大きく変わるものではありません。引き続き、①国民の安全・安心の確保、②持続的な経済成長の実現、③個性をいかした地域づくりと分散型国づくりという三本柱で進めていきたいと思います。

――では、中心となる各柱について伺います。まず①の「国民の安全・安心の確保」とは。

小林 国民の安全・安心を確保する上で、国土交通省の最も重要な取り組みは、防災・減災、国土強靱化です。近年は「数十年に一度」といわれるような大雨が毎年のように降り、全国各地で甚大な洪水被害をもたらしています。これまでの「5か年加速化対策」などに基づく取り組みにより、家屋浸水被害の減少など一定の効果を発揮してきたことに間違いありませんが、まだ必要な事業が全国で多く残されており、さらなる取り組みの強化が必要です。今後も流域関係者が一体となって行う「流域治水プロジェクト」を一層本格的に展開するとともに、線状降水帯の予測精度向上、災害時における物流・人流の確保のための交通ネットワークの整備など、しっかりと対策を進めていきます。加えて、発災直後の初動対応で活躍するTECFORCEなどの体制・機能の拡充・強化に加えて、インフラ老朽化対策や盛土対策などにも力を入れていきます。そして、これまでにも全国の地方自治体から「5か年加速化対策の後も継続的・安定的に取り組んでほしい」という声が多数寄せられておりましたが、昨年6月に「国土強靱化実施中期計画」が法定化されたことにより、中長期的かつ明確な見通しの下で、継続的・安定的に切れ目なく国土強靱化の取り組みを進めることが可能となりました。実施中期計画の策定に向けて、関係省庁とも連携し、施策の実施状況の調査を進めていくなど、インフラ整備の取り組みを着実に進めていきます。

 また、インフラ整備に限らず、事故や不正事案への対応といった点も、国土交通省に求められる重要な使命です。なかでも、2022(令和4)年4月の知床遊覧船事故は大きな関心を集めましたが、そうした痛ましい事故が二度と起こることのないよう、旅客船事業者の安全管理体制の強化や船員の資質向上などを盛り込んだ関係法律の改正などを行いましたので、引き続き、旅客船の安全・安心対策に万全を期していきたいと思います。また、私たちの暮らしに身近な自動車の分野においても、昨年来発覚したビッグモーターやダイハツ工業などによる不正事案を踏まえ、再発防止策の検討はもちろん、不安を感じるユーザーに対して丁寧な説明と対応を行うよう、引き続き指導していきます。そして、航空分野でも、本年1月2日に発生した羽田空港の航空機衝突事故を踏まえた対策をしっかりと検討していきます。

 このほか、一層厳しさを増すわが国周辺海域の情勢に対応するため、海上保安能力の強化にも力を入れていきます。

――なるほど。それでは②の「持続的な経済成長の実現」とはどういった取り組みなのでしょうか。

小林 まず足許では、経済の回復基調を地方へと波及させるため、地域経済を支える観光の需要回復などに向けた取り組みが重要です。先述したように、オーバーツーリズムの未然防止・抑制を図りながら、観光地や宿泊施設などの再生・高付加価値化を進めていくことによって、国内外からの誘客拡大と消費額増加、満足度向上を目指します。

 また、先の将来を見据えるという点では、経済成長の基盤となる道路や港湾、鉄道などの社会インフラ整備を戦略的かつ計画的に進めていくことも重要です。例えば、最近は地方都市などで半導体工場などの大規模な設備投資が活発化していて、そうした企業立地のチャンスを最大限生かすため、道路や下水道などの関連インフラ整備も集中的に行うことで、国内投資をさらに促進させるといった好循環を目指します。

 そして、物流や建設業の「2024年問題」への対応も欠かせません。どちらの業界も、将来の担い手確保に強い危機感を抱いています。物流では、⑴商慣行の見直し、⑵物流の効率化、⑶荷主・消費者の行動変容の三つを柱とした対策に取り組み、また、建設業では、週休2日の導入拡大や工期の適正化、現場の技能労働者への賃金の行き渡りなどにも取り組んでいます。これらに必要な制度改正や施策を盛り込んだ法案を今国会に提出したところです。他産業と比べても遜色ない良好な労働環境を整備し、やりがいと魅力ある業界になることを目指します。

――最後の柱である③「個性をいかした地域づくりと分散型国づくり」とはどういった取り組みになるのでしょうか。

小林 個性ある文化や歴史、豊かな自然環境などのような地域の魅力を高めて、もっと地方への人の流れを創出し、交流拡大を促すといった取り組みです。イメージしやすいのは、コロナ禍において企業の地方移転やテレワーク、ワーケーションなどが進みましたが、そうした新たな働き方や住まい方に対応するため、いわゆる「二地域居住」の促進などを図るための法案を今国会に提出したところです。人々がその地域に誇りと愛着を持って、個々のライフスタイルに合わせて暮らし続けられるような仕組みづくりを目指します。

 そのためにも、それぞれの地域における公共交通の確保・維持が不可欠となりますが、人口減少に伴う需要減に加えて、昨今は運転手の人手不足などにより一層厳しい状況にあります。そうした現状を踏まえ、地域公共交通のリ・デザインの取り組みが一つでも多く進むよう、ローカル鉄道の再構築の仕組みの創設など、地域の関係者の連携・協働を促進する仕組みを盛り込んだ改正地域交通法が昨年10月に施行されましたので、そうした取り組みを軌道に乗せていきたいと思います。また、昨年9月には「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」を立ち上げ、交通事業者だけで移動をカバーするのではなく、地域内の他業種との連携・協働によって、地域全体での移動手段を確保していく取り組みの具体的な方向性について、本年4月頃を目途にとりまとめを行いたいと思います。

 このほか、離島や半島、豪雪地帯といった条件不利地域の振興などの取り組みも、しっかりと進めていきます。

デジタル化やDX・GXの推進に向けて

――令和5年度に掲げた施策を切れ目なく実行していくわけですね。では、それ以外にも注力している施策としてはどういったものがあるのでしょうか。

小林 昨年10月、デジタル技術を最大限に活用して公共サービスなどの維持・強化と地域経済の活性化を目指す「デジタル行財政改革会議」が政府内に設置されました。

 その会議の中で、今最も関心が高まっているのは、いわゆる「ライドシェア」問題だと思います。オーバーツーリズムとも関連しますが、地域交通の担い手不足や移動の足の不足といった深刻な社会問題に対応するため、タクシーの規制緩和とともに、タクシー事業者の管理の下で地域の自家用車や一般ドライバーの活用を図るための新たな仕組みを創設し、本年4月から開始するという方針を昨年末に決定しました。早急に制度の詳細を詰め、実効性のある仕組みづくりを目指します。

 また、自動運転についても、地域交通サービスの面で期待されています。このため、全ての都道府県で1カ所以上の自動運転事業を計画・運行することなどにより、自動運転の速やかな社会実装につなげ、全国展開を目指します。

 そして、無人航空機(ドローン)についても、ドローン配送の事業化に向けて、「レベル3・5飛行」の制度を昨年12月に新設しました。北海道の上士幌町では、早速この新制度を活用して、食品や新聞のドローン配送が実現しています。引き続き、飛行の安全を確保しつつ、ドローンの社会実装を目指します。

「令和6年能登半島地震」に対する国土交通省の取り組み

――本年1月1日に石川県能登半島北東部でマグニチュード7・6の地震「令和6年能登半島地震」が発生しました。国土交通省としての取り組みについてお聞かせください。

小林 まず、今回の地震により、お亡くなりになられた方々およびその御家族に対し、心からお悔やみを申し上げます。また、全ての被災された皆さまに、心からお見舞いを申し上げます。

 国土交通省では、発災直後から、石川県の現地対策本部に職員を派遣し、海上保安庁の巡視船艇・航空機や各地方整備局などから集結したTEC-FORCEなど、陸・海・空すべての力を結集し、総力を挙げて対応にあたっています。

 また、1月25日には、政府として「被災者の生活と生なりわい業支援のためのパッケージ」がとりまとめられました。国交省関係の主な支援策としては、被災した公共土木インフラの迅速な復旧をはじめ、被災された方々の二次避難先や住まいの確保、宅地の液状化対策、観光需要が落ち込んでいる北陸地域を対象とした「北陸応援割」を可及的速やかに開始していきます。また、被災した自治体の復興まちづくりについても、計画策定などの取り組みを支えていきます。

 なかでも、今回特に大きな被害を受けた上下水道については、本年4月に水道行政が厚生労働省から国土交通省へ移管されることも見据えて、両省で連携し、被災状況把握や技術者派遣などを通じて、上下水道一体となった早期復旧を推進していきます。

 そして、観光についても、3月の北陸新幹線(金沢―敦賀間)の開業の機会も捉えて、ゴールデンウィーク前を念頭に旅行需要の喚起を図るとともに、被害の大きい能登地域については、復興状況を見ながら、より手厚い需要喚起策を講じていきます。併せて、中小企業庁と連携し、「なりわい再建支援事業」などを活用することにより、中小・小規模な観光関連事業者の施設復旧などを支援したいと思います。

 引き続き、被災地の声にしっかりと耳を傾けながら、省を挙げて被災地の復旧・復興に全力で取り組んでいきます。

――災害対策から社会インフラの整備、そしてまちづくりと多くの取り組みを進めている国土交通省ですが、最後に政策・施策実現に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。

小林 まずは、令和6年能登半島地震の被災者に対する支援と被災地の復旧・復興に全力を挙げていきます。被災された方にとっては試練の日々が続いていると思います。「先が見えない」という不安が少しでも解消できるよう、しっかりとインフラ復旧や復興まちづくりに取り組んでいきます。

 また、目前に迫った物流や建設業の「2024年問題」に対しても、将来にわたって持続可能な産業とするための施策を強力に進めたいと思います。特に、日本経済は30年余り続いたコストカット型のデフレ経済から脱却し、所得増と成長の好循環による新たな経済へと移行するチャンスを迎えています。このチャンスをつかみ取るため、国土交通省としても、所管業界における賃上げの原資となる価格転嫁を促すとともに、DXなどにより新技術の導入や新たなビジネスが生まれやすい環境を整備し、生産性向上の後押しができればと思っています。
 
 最後に、国土交通省は、国民の命と暮らしを守り、また、経済成長や地方創生に直結する大変重要な分野を任されている省庁です。その分、全国津々浦々どこへ行っても、国土交通省の事務所や出張所の看板を見かけますし、そうした現場力が最大の強みだと思います。今後の政策・施策実現に向けては、地方の現場力と幅広い分野を所管する総合力を最大限発揮して、着実に成果につなげていきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。
                                                (月刊『時評』2024年3月号掲載)