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国土交通省インフラDX 政策最前線/国土交通省 森下 博之氏


――データプラットフォームについてはいかがでしょうか。

森下 データプラットフォームについては2020年4月に公開されましたが、国土交通省が所管する分野は広く、多種多様なデータがあります。
 また国土交通省のデータだけではなく民間などが保有する国土交通に関するデータにも本プラットフォームを経由すれば誰でもアクセスできる環境を構築していきたいと考えています。

 データプラットフォームは本年4月にリニューアルを行い、検索機能を大幅に拡大したことでデータへのアクセスを容易にするといったユーザーインターフェースの改良をしています。
 あわせてデータの拡充として、全国の道路施設点検データベース(xROAD)や全国の鉄道やバスなどの公共交通データ(GTFSデータリポジトリ)とのアクセスも可能にしてデータ連携を図る仕組みも開始するなど一層のコンテンツ拡充と充実、そしてさらなる使いやすさの向上を図っていきたいと思っています。

自動化・遠隔化技術の開発・導入に向けて

――現在、建設・土木の分野では現場における自動化・遠隔化技術の開発・導入への動きが加速しています。具体的な動きについてお聞かせください。

森下 ICT施工「ステージⅡ」について先述しましたが、この自動化・遠隔化はICT施工のさらなる進化に向けた要素の一つだと思っています。われわれは「ステージⅢ」と呼んでいますが、最終的には一人が一台の建設機械を操作するのではなく、一人の建設機械オペレーターが複数の建設機械の作業をマネジメントしていく世界を想定しています。

 そうなると建設機械はある程度自動化・自律化している必要がありますし、遠隔操作のための技術も必要になります。これまでの無人化施工では特別な訓練を受けたオペレーターが操作していましたが、今後は一般のオペレーターでも操作できるような遠隔操作技術の進化が必要となってくると考えています。民間企業も積極的に取り組まれていて、本年5月に開催された建設・測量生産性向上展(CSPIEXPO)では建設機械メーカーによる遠隔操作のコクピットが多く展示されていました。

 そしてもう一つ、建設機械が自動化され、自律的に動くようになると、その安全の確保が大きな課題になってきます。そのため行政としては、建設現場の安全性をどう確保していくかを検討する必要がありますので、現在、建設機械メーカーや現場の安全確保に関する行政機関、そして有識者を含めた「建設機械施工の自動化・自律化協議会」を設置して検討を重ねているところです。

 このように、自動化・自律化技術や遠隔操作技術の開発については民間企業主体で行っていただき、安全のルールづくりは行政が担当する。さらに、技術開発を進めていく際に共通となる部分、例えば建設機械をコントロールするための信号の出し方などは共通化しておくと技術開発が進みやすくなります。そのため、「自律施工技術基盤(OPERA)」という、開発を行う上で必要となる建設機械、実験フィールド、無線通信システム、シミュレータおよびミドルウェアを公開・提供する研究開発用プラットフォームを国立研究開発法人土木研究所が整備しています。産学官がそれぞれの役割を果たすことで、技術革新に向けて取り組んでいるところです。

――なるほど。自動化・遠隔化に向けた技術革新は確実に進んでいると。

森下 そうですね。もう一つ、自動化・自律化技術にイノベーションを起こすべく進めている取り組みに宇宙開発があります。将来、月面での基地建設、建設活動を想定した新しい建設技術を開発することで、地球上での建設技術のイノベーションにもつなげる「宇宙建設革新プロジェクト」が進んでいます。このプロジェクトは内閣府の「宇宙開発利用加速化戦略プログラム(スターダストプログラム)」の一つに位置付けられています。

 例えば、建設機械の自動化・遠隔化技術を月面で活用するにはどうすればいいのか。重力は6分の1になりますし、重い建設資材なども地球から持ち込むことはできないので、建設機械をとりまく環境が地上とはまったく異なります。しかし、厳しい制約はさらなるイノベーションの可能性を有しますので、技術開発の先に宇宙での活用を目指して参加企業・大学が熱心に取り組んでいます。そうした熱意にわれわれをはじめ、多くの方が期待を寄せ、注目していただいているプロジェクトですの
でしっかり進めていきたいと思っています。

――インフラDXの推進に向けてさまざまな取り組みが進められているわけですが、最後に今後の展望、または政策実現に向けた意気込みや想いなどについてお聞かせください。

森下 国土交通省では、第5期国土交通省技術基本計画において、20~30年後の将来の社会イメージを掲載しています。イメージには、①国土、防災・減災や⑤建設現場――など全部で六つの分野がありますが、これがわれわれの目指す社会の姿になります。

 こうした社会を実現していくためにはデジタルとデータ、インフラDXの担う役割が非常に大きいことは言うまでもありません。20~30年後のイメージですが、ものによっては既に実用化されている技術や20年を待たずに実用化しておく必要のある技術もありますので、そのための制度づくりやサポートに努めていきたいと考えています。

 また、描いた将来像を実現させるためには、さまざまな分野で変革=トランスフォーメーションが必要です。インフラDXを担当しているわれわれ参事官グループも常に変革していく、変革し続ける組織である必要があるのではないかと思っています。そして、本年、令和5年はインフラDXの取り組みを一層加速化させる〝躍進の年〟としていますので、現在進めている施策、また組織としても躍進していく、イノベーションを常に追い求めていきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。
                                                 (月刊『時評』2023年9月号掲載)