2023/09/08
最近では中古マンションが活発に流通するようになってきました。2021年時点でマンションのストックは700万戸を突破し、住人は1500万人と言われています。立地次第では、買った値段よりも高く売れたというような事象もあり、わが国のマンション市場が成熟してきた証左だと思います。
戸建住宅は昔から〝一国一城の主〟というイメージがあるせいか、建築時に独自のカスタマイズをする方が多く、中古住宅としての流通がし難い要因になっていますが、マンションの方は築何年と言えば住宅性能が想像できますし、戸建てに比べると品質のばらつきがありません。標準的な仕様に準じるので、例えば2LDKと聞けば大まかな間取りも想像できますので安心して買え、購入できるわけです。
しかし、マンションも大きな課題をいくつか抱えています。まずは建て替えが非常に難しいという点。実はまだ、建て替えに至った成功例は全国でも300件弱しかありません。建て替えにかかる高額な費用の捻出方法として、幸運にも容積率に余剰があれば建物を以前より高くして、増えた「保留床」の売却によって採算を立てられますが、すでに容積率に余裕がないマンションも多くあります。
それから、修繕積立金が不足しており管理不全になるマンションが増えている点も課題です。大きな建物が廃墟化すると戸建て住宅以上に危険ですし、周囲の景観を大きく阻害します。マンション政策の難しいところは、自治体によって著しく状況が異なるため、火急の要件もそれぞれ違うことでした。昔は都市部からマンションが建てられていったので、例えば都内23区や大阪など都心周辺には古いマンションが多いのですが、地方都市へ行くと新しいマンションばかりです。しかし考えようによっては、まだマンションが若い地方都市では今から管理不全に陥らないようマンション政策に取り組めば将来の不安が無くなりますし、都心で老朽化マンションをどうするのか様子を見ながら進められるのは利点でしょう。
2年前にマンション管理適正化法を改正した際、地方自治体にそれぞれ「マンション管理適正化推進計画」を策定してもらう内容を盛り込みました。さらに新しく「管理計画認定制度」を導入しました。マンション管理組合が申請した管理計画を市や区が認定するもので、きちんと管理がなされているかを可視化します。
現在法務省と一緒に議論を進めているのは、区分所有法でマンション建て替えに必要な同意率を5分の4と定めた条件と、所有者不明の住居が反対にカウントされてしまうルールの見直しです。もっとも、これまでの実績をみますと建て替えに成功したのはいずれも同意率95%以上ですから、条件そのものよりも、条件の見直しによって建て替えに対する心理的ハードルが下がる効果が大きいと期待しています。
複数の政策効果をつなげていく
最近では国交省でも、品質の良い住宅をどう活用していくかという考え方が主軸になってきました。2000年に住宅性能表示制度を取り入れてからは住宅性能が評価・検査できるようになり、かなり流通しやすくなったと思います。
81年に変わった耐震基準はかなり浸透して、築40年の新耐震物件も出てきましたが、古い物件ほど断熱性能が無い住宅が多いのは問題です。また、日本の省エネ基準は有識者の方から「諸外国の基準と比べて低すぎる」と指摘を受けることがありますが、それでも適合住宅はストックベースで1割強しかありません。
22年の4月に国会で成立した建築物省エネ法の改正内容は、新たに断熱性能の義務化と木材利用の促進の2本柱で構成されています。国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、25年には新築の建物全てに一定の断熱基準が義務化され、ロードマップ上では遅くとも30年までにZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の断熱基準を満たさないと新築が建てられなくなる見込みです。
既存の住宅についてはリフォームで性能を向上させていかねばなりません。日本は他国と比較すると家庭でのエネルギー消費が少ないと言えます。こたつの文化があったためか人がいる部屋にしか暖房を使わず、毎日入浴するので暖房のエネルギー消費量よりむしろ給湯のエネルギー消費量の方が多い点も特徴です。
私もお風呂が大好きで省エネのためでも欠かしたくない部分ですが、最近では高断熱の浴槽というのも登場しました。壁を剥がして断熱材を入れ直すような大掛かりな工事が難しい場合も、例えば最新の浴槽に変えたり、内窓をつけたり、アルミサッシを樹脂にしたり、そういった改修だけでも大きな省エネ効果が見込めると同時にヒートショックなどの健康被害も減らせるはずです。
実は、00年頃の住生活基本計画では6兆円規模だった住宅リフォーム市場が12兆円へ、2倍成長すると見込んでいたのですが、現状もほぼ6兆円のまま横ばいです。風呂、トイレ、キッチンなどリフォームの主戦場で「ついでに一部屋断熱もしましょう」や「窓だけでも改修しましょう」という運動を起こすべく、経産省や環境省と連携して方策を練っているところです。
木材利用は建築時のCO2減少や炭素の固定など省エネ対策の一環であると同時に、今ちょうど日本の山にたくさんある適齢期の木を刈り取ってまた木を植えていくサイクルを進めるという、国土保全・防災対策の観点からも重要な政策です。日本の戸建て住宅は木造が多い一方、ビルなど大きな建物ではまだ木材利用がほとんどないため、併せて建築基準法も改正して木材を使いやすいように規制を合理化しました。
確かな品質の住宅ストックも、きちんと管理された山も、貴重な財産として次世代へ継承していくべきものです。人口急減の中で社会のあらゆる事柄やインフラをどのように維持していくのか、今こそ真剣に向き合わねばならない時だと思っています。
(月刊『時評』2023年1月号掲載)