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UAVで被災地、公共施設の点検・調査を実現/中電技術コンサルタント株式会社

被災地での点検・調査におけるUAV活用の利点と可能性

――災害現場の調査・点検にUAVを活用することによる利点としては、どういった点があるのでしょうか。

荒木 2011年の紀伊半島水害において職員が現場に近づけたのは数日後でした。しかしUAV調査により、危険な場所に立ち入ることなく、被害状況の確認が可能になりました。またUAV調査では約15 分(1フライト)で被災地区全体が把握できるなど、迅速かつ効率的といった点が利点として挙げられますし、2機のUAVを組み合わせることで、調査範囲が大幅に広くなり、栗平地区のような大規模な河道閉塞箇所の調査も可能になりました。

 また、実証実験による現地検証を繰り返すことで、最適な飛行ルート・撮影方法などの設定ができたことも大きいと考えています。UAVは予め設定した飛行ルートに沿って繰り返し同じアングルのデータを取得することができますので、今後は複数時期のデータを比較することで異常箇所の検知を迅速かつ正確に把握することができるようになります。そして発災直後、天候不良で航空機を飛ばすことができない場合であっても、その代替え手段の一つとしてUAV調査が有効であるといった可能性が示せたことも重要だと思っています。

 そしてレベル3飛行は、民間企業による物資輸送などを目的とした試行段階の実証事例はありますが、防災(災害調査)や公物管理(砂防堰堤の施設点検)への適用は、全国初の試みとなりました。現在、航空法によるレベル3飛行の許可は、審査が厳しく、高い安全性が求められます。今回の現場は、携帯電話網(LTE回線)が使えない場所であり、1機による調査では、電波が地形で遮断されて安全に飛行できない恐れもありましたので、撮影用と中継用と2機のUAVを組み合わせた同時飛行を行い、電波中継する技術を確立したことで課題を解決できたというのは先進性の高い取り組みになったと考えています。

――自然災害の激甚化・頻発化、そして老朽化するインフラ施設の整備・点検といった点からも今後のUAVの活用への期待が高まります。

上:UAV を活用した大規模災害時の初動調査 (最新技術の紹介)/下:UAV による全自動施設点検 (最新技術の紹介)
上:UAV を活用した大規模災害時の初動調査 (最新技術の紹介)/下:UAV による全自動施設点検 (最新技術の紹介)

荒木 そうですね。近年、気候変動の影響により、大規模な土砂災害が頻発しています。わが国は国土の約7割が山地地形であり、今後発生する恐れのある大規模崩壊地や河道閉塞などの土砂災害現場への対応、あるいはインフラ長寿命化計画に基づいた定期的な施設点検などに対して、地形的制約や電波環境の問題をクリアできる技術というのは全国への普及性は高いと感じています。

 今回の実証成果については、「UAVの自律飛行による天然ダムの緊急調査及び被災状況把握に関する手引き」(国土交通省近畿地方整備局大規模土砂災害対策技術センター:https://www.kkr.mlit.go.jp/kiisankei/center/research3.html)として整理され、だれでも成果を利用できるように情報が公開されています。

 今回の実証に成功したことで、防災分野(災害調査)のUAV活用は大きな広がりをみせることが予想されます。特に出水時の現地調査は危険で、現地へのルートが塞がっているケースも多いため、広い範囲を調査できる目視外飛行は問題解決の切り札にもなり得ます。また全国の山間地に存在する砂防堰堤などの構造物の点検といった公物管理分野にも利用できます。


 そして、国産や海外製のUAVの機能・性能に関する技術開発は日進月歩であり、日々目まぐるしく進化しています。メーカーには、今回のような現場実証を踏まえ、より「安全」「長距離」「長時間」飛ぶことのできる機体の開発を期待していますし、われわれ建設コンサルタントは、今後、UAVをどう活用し、いかに現場の課題解決に結び付けるかなど、デジタルデータとデジタル技術によるDXを進め、従来の調査点検方法を革新し、生産性向上や働き方改革につなげていくことが重要になると考えています。

 山間地には、砂防堰堤などの防災施設だけではなく、鉄塔や送電線などのエネルギー関連施設、情報通信幹線施設など数多くの重要なインフラ構造物があります。現在、有人ヘリコプターや人力による巡視点検が主流になっていますが、今後は、本技術を発展させてUAVを活用したインフラ構造物の自動点検により、これまでの点検手法に代わる飛躍的な効率化を目指しています。具体的にはAIなどを活用した変状箇所の自動検知に関する技術開発、メーカーと協同した点検作業の完全自動化に関する技術開発などを行っていきたいと考えています。

時代に即した新たな取り組み

――災害大国ともいわれるわが国において期待の高まる技術といえますね。今後の展開という点ではカーボンニュートラルの実現やDXの推進など世界が大きな転換期にあるといえますが、貴社の今後の取り組み、あるいは展望についてお聞かせください。

荒木 当社は建設コンサルトとしてさまざまな事業を展開している点については冒頭お話ししました。また2015年度にスタートした「長期経営計画2025」の達成期を迎え、中期経営計画を策定しています。計画では、これまでの強みといえる部分の技術研鑽はもちろん、新たな市場開拓や事業領域の確立を目指し、事業領域拡大の可能性のあるテーマについて技術開発・事業化を推進する「イノベーションプロジェクト」、そして「海外プロジェクト」、「カーボンニュートラルプロジェクト」の三つのプロジェクトを立ち上げました。

 海外プロジェクトでは、これまで電力会社からの受注が主だった海外関連業務を内製化し、民間への提案も積極的に行えるようにしています。電力系の建設コンサルタントとして水力発電施設の設計や維持管理、測量を手掛けた実績を生かして、20年にはインドネシアの水力発電開発会社と提携を結んでいます。これには一定の開発が進んだ国内と比べて、東南アジア、特にインドネシアは水力発電のポテンシャルが高いという点も理由に挙げられます。

 そしてカーボンニュートラルプロジェクトでは、太陽光や小水力、風力など再生可能エネルギー計画立案のコンサルティングに加え、CO2排出削減に貢献する国の認証制度「J‐クレジット」の取組み支援、海藻などの海洋生態系が二酸化炭素を取り込む「ブルーカーボン」の研究・技術開発にも取り組んでいます。

 また今回、災害現場におけるUAVの活用による点検・調査という実証によってi-Construction大賞を受賞しましたが、自然災害が激甚化・頻発化する中で、活用の幅を広げるとともに、新しい可能性の模索も続けていきたいと考えています。

 社会価値と経済価値の両立が求められる社会において、当社の存在意義、企業価値をより高めるため、短期的視点での成果を追い求めるのではなく、サステナブルな長期的視点で、倫理観をより重視し、社会の持続的な発展に寄与していきたいと思います。

――本日はありがとうございました。
                                              (月刊『時評』2022年10月号掲載)