2024/09/17
災害列島ともいわれるわが国。昨年(2021 年)は、7月に熱海市伊豆山土石流災害、翌8月には大雨による土砂災害が発生するなどもあり、頻発化・激甚化する自然災害への備えはもちろん、その対策には大きな関心が寄せられている。そのため今回、近年発生した土砂災害の概要から、国土交通省(砂防部)としての災害対策、そして今後の対応、備えについて国土交通省水管理・国土保全局砂防部の三上部長に話を聞いた。
国土交通省水管理・国土保全局砂防部長
三上 幸三氏
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――近年、自然災害が頻発化・激甚化しており、昨年も7月に熱海市伊豆山土石流災害、翌8月には大雨による土砂災害が発生しています。改めて昨年発生した自然災害の概要について砂防行政の観点からお聞かせください。
三上 昨年の土砂災害を振り返ると、全国で972件の土砂災害が発生し、死者・行方不明者は33名、うち27名が静岡県熱海市伊豆山の土石流災害によるものでした。近年の土砂災害の発生件数の推移を10年ごとに区切ると、直近10年間(2012年~21年)の年平均発生件数は、その前の10年間(2002年~11年)の1・3倍に達しています。気候変動の影響もありますが、自然災害は多発化の傾向にあると考えています。
さらに災害実態としては、土石流やがけ崩れといった従来型の土砂災害パターンの発生件数が増加していることに加え、河川の中下流部における土砂・洪水氾濫の発生が確認されています。これには2017年(平成29年)の福岡県赤谷川、18年(平成30年)の広島県大屋大川、19年(令和元年)の宮城県五福谷川の災害が該当します。また平成30年7月豪雨災害では、土石流による人的被害のあった渓流の約7割は流域面積5ha以下の比較的小規模の流域で発生したことが報告されています。そうした報告がある一方、整備された砂防堰堤が土石流を受け止めて災害を未然に防いだ事例や早めの避難行動によって人的被害を回避できたという事例も各地から寄せられています。
頻発化・激甚化する土砂災害に対する砂防政策
――頻発化・激甚化する災害を受けて国土交通省(砂防部)としては、どういった施策に取り組まれているのでしょうか。
三上 土砂災害への備えとしては、言うまでもなくハード・ソフト両面からの事前防災対策が重要になります。ハード対策としては保全効果の大きい砂防関連施設を一基でも多く、一年でも早く完成させることで確実に「いのち」と「くらし」を守っていきたいと考えています。ソフト対策としても住民の皆さんには身の周りの土砂災害リスクを知っていただき、豪雨時の行動をあらかじめ考えていただくことで早めの避難行動につなげてもらえるような取り組みを進めているところです。また顕在化したリスクも含め、新たな視点に立った砂防関係事業を強力に推進していきたいと考えています。
では具体的な取り組みについてですが、2022年度予算では、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」関連予算もあわせて、土砂災害対策予算の重点投資による事前防災を進めていくとしています。加速化対策では、①いのちとくらしを守る土砂災害対策の推進、②予防保全型維持管理への転換に向けた老朽化対策、③砂防関係事業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進――を三本柱として取り組んでいます。
三上 また本年度からの新たな取り組みとして、関係者が連携して取り組む「流域治水」の最上流域での施策として「流域流木対策」を開始しました。流木災害が懸念される流域において、森林整備や治山ダムによる流木発生抑制と透過型砂防堰堤や流木止工などによる流木捕捉を調査・計画段階から林野庁と連携して一体的に実施し、流木災害の防止・軽減を目指しています。さらに新規施策「砂防メンテナンス事業」では、予防保全によるLCC(ライフサイクルコスト)の縮減・平準化を図ることで、砂防関係施設における効率的、かつ持続可能なメンテナンスサイクルの実現を目指しています。従来の国庫補助事業は、計画的に老朽化対策を行える事業がありませんでしたので本施策は画期的と言えるのではないでしょうか。
また近年顕在化した土砂災害への新たな取り組みとして、土砂・洪水氾濫が発生した流域と同様の地形的特徴を有する流域に関する調査手法を取りまとめ、全国各地の危険箇所の洗い出しを行い、対応方針が決まった箇所から逐次事業に着手できるようにしています。そして近年、人的被害が集中している比較的小規模な渓流への対策については、常時流水がない(無流水)か極めて少量であることから直下まで宅地開発が進展してる場合も多く、土石流発生時には人的被害に直結するケースが多いものの、そうした場所は予防的防災措置を講じようとしても進入路がない、狭隘(きょうあい)で重機が投入できないといった施工上の課題も指摘されていました。そのため「無流水渓流対策に係る技術的留意事項」を昨年末に取りまとめ、新技術や新工法の導入も含めた対策を推進していく予定になっています。
そして人命を守るソフト対策の推進についてですが、土砂災害防止法が施行されてから20年が経過しました。警戒避難体制の整備、危険地域への建築物の立地抑制といったソフト対策に特化した法律の必要性は論を待たず、衆参両院の全会一致で成立しましたが、当初より実運用の難しさを指摘する声もありました。しかし施行から20年が経過した現在では、全国約67万区域が土砂災害警戒区域に指定され、土砂災害警戒情報が発表されるような豪雨時には市町村長が避難指示を発するようになっています。
一方で、土砂災害による犠牲者が生じるたびに「なぜ避難行動につながらなかったのか」という課題を突き付けられる事例が後を絶ちません。そのため、今後の警戒避難体制強化策としては、まず行政側で進められている土砂災害防止法に基づく基礎調査や土砂災害警戒情報の発表についての精度向上が挙げられます。つまりは「いつ、どこが危ないのか」といった情報の確度を高めていく取り組みです。DEM(数値標高モデル)の活用でリスクを有する可能性の高い箇所の抽出精度が高まり、新たに警戒区域に指定されるケースも報告されていますし、実際の避難行動につながるように土砂災害警戒情報を発表するタイミングの高精度化にも努めているところです。
また、言うまでもなく土砂災害に備えるソフト対策を進める上で関係者間の連携は重要になります。地域の災害リスクを把握する上で建設コンサルタントの役割は極めて大きいものがあり、これに各地の警戒避難体制確立に有益な助言を行う学識経験者との連携を加え、産学官一体となって「知らせる努力」を強化していくことが望まれます。そして国は都道府県や市町村を、都道府県は市町村を積極的に支援し、住民自らが地域の防災を考える地区防災計画作成や災害時要配慮者利用施設の避難確保計画作成を推進することで、住民側の「知る努力」につなげていければ、早めの避難行動が実現できるのではないかと考えています。