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国土交通省総合政策最前線  令和4年度の新たな取り組み

――では、中心となる各柱について伺います。まず①の「国民の安心・安全の確保」についてお聞かせください。

岡野 昨年、東日本大震災の発生から10年が経過しました。これだけの歳月を経ても災害の傷跡が完全に癒えたわけではありません。そのため東日本大震災からの復興の加速は引き続き政府の最優先課題の一つです。

 また、近年の自然災害の頻発・激甚化の中で、先述した「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を引き続き着実に進めることが重要です。具体的には流域治水プロジェクトを一層本格的に展開するとともに、総合的な土砂災害対策の加速化・強化、地震・豪雨・豪雪等災害時における人流・物流の確保のための交通ネットワークの整備などを進めます。また、昨年海底火山の爆発によりにわかに問題となった軽石の除去対策、7月の大雨災害を踏まえた盛土対策、線状降水帯などの観測・予測体制の強化、インフラ老朽化対策などによる持続可能なインフラメンテナンスの実現――などに取り組み、災害に強い安全・安心な社会を構築できるようにしたいと考えています。

 海(領海)の安全・安心という観点から、海上保安庁の体制強化も重要だと考えています。尖閣諸島の周辺海域ではほぼ毎日のように中国の海警局所属の船舶や外国漁船による違法操業が行われています。海上保安庁の体制強化は引き続き実施していく必要があります。

 そして昨年は東京オリンピック・パラリンピックが実施されました。新型コロナの影響もあって無観客という点は残念でしたが、大会の開催によってバリアフリーは相当進んだように感じます。こうした大会のレガシーをしっかりと繋いでいき、引き続きハードとソフト面におけるバリアフリー化を進めていくことも重要だと思っています。

――なるほど。それでは②の「社会経済活動の確実な回復と経済好循環の加速・拡大」とはどういった取り組みなのでしょうか。

岡野 まず足元では、新型コロナの影響などにより危機に瀕する地域公共交通の確保・維持や航空会社・空港会社への支援、地域経済を支える観光の存続と需要の回復を見据えた取り組みが必要です。先述したように観光については維持するだけではなく、インバウンドが回復した際のことを見越して、今のうちから観光地域の高付加価値化を図っていくこと、つまりはポストコロナへの備えが重要になると考えています。

 また、今後を見据えるという点では、経済成長の基盤となる道路や港湾、鉄道などの社会資本の戦略的かつ計画的な整備を引き続き推進していきます。加えて、住宅・まちづくりや交通などの国土交通分野における2050年カーボンニュートラルの実現や、国土交通分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)も進めていきます。それ以外にも、新技術の活用などによる地域のくらしや移動ニーズに応じた交通サービスの活性化、そして大阪・関西万博や国際園芸博覧会に向けた対応――など山積する重要な政策課題に取り組んでいきます。

――国土交通省分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)についてお聞かせください。

岡野 新型コロナに対応するため、公共工事の現場では非接触やリモート型の働き方への転換を図るなど、感染症リスクに対応した取り組みが喫緊の課題になっています。そのため、インフラ分野では、3Dハザードリスクマップを活用しリアルに認識できるリスク情報を提供する、あるいは、現場にいなくても現場管理が可能になるリモートでの立会による監督検査やデジタルデータを活用した鉄筋検査の試行など、インフラまわりをスマートに変容させる取り組みを進めています。

岡野 物流分野では、担い手不足の深刻化が懸念されるほか、カーボンニュートラルへの対応も求められており、生産性の向上が喫緊の課題です。こうした課題の解決に向け、物流施設におけるデジタル化・自動化やドローン物流の実用化、物流・商流データ基盤の構築など、物流分野のDXや、その前提となる物流標準化を強力に推進しています。

 そして、国交省保有のデータと民間のデータを連携し、フィジカル空間の事象をサイバー空間に再現するデジタルツインを通じた業務の効率化やスマートシティなどの施策の高度化や産学官連携によるイノベーション創出を目指し、「国土交通データプラットフォーム」というデータ連携基盤の整備も進めています。

――最後の柱である③「豊かで活力ある地方創りと分散型の国づくり」とはどういった取り組みになるのでしょうか。

岡野 政府全体で取り組んでいる「デジタル田園都市国家構想」が重要な政策方針となります。本構想と国交省で見直しを進めている国土形成計画とを整合の取れたものとしていくことが求められます。また新型コロナの影響もあって二拠点居住やワーケーションといった住生活環境の充実にも関心が高まっていますので、そうした取り組みを後押ししていけるような仕組みを考えていく必要もあると思っています。それ以外にも離島や豪雪地帯といった条件不利地域の振興、スマートシティの推進、次世代モビリティやコンパクトでゆとりとにぎわいのあるまちづくりなどについても着実に進めていきます。

ポストコロナ、あるいは〝新たな日常〟に向けて

――ポストコロナをはじめとした〝新たな日常〟に向けて、さまざまな施策に取り組まれているとのことですが、最後に施策実現に向けた想いや意気込みについてお聞かせください。

岡野 新型コロナの感染状況が見通せない現在、多くの方にとって試練の日々が続いていると思います。国交省の所管している事業でいえば、交通と観光分野が非常に大変な状況になっています。いつ終息するか分からない、そんな状況にあって、現状は事業を維持するだけで精一杯というところもあることは承知していますが、非接触や省力化のための新技術導入、貨客混載などの新たなサービス展開など、新型コロナが終息したときにある意味でいい方向にもっていける新しい事業展開が可能となるよう、国交省としても後押しができれば、と思っています。

 新型コロナによってこれまでの日常が大きく変わってきており、公共交通に対する利用者のニーズなども多様化・高度化しています。行政側も頭を柔らかくして、柔軟に社会の変化に対応できるようにしておくことが求められている、そしてそれを試されているのだろうと思っています。

――本日はありがとうございました。                                               
                                                (月刊『時評』2022年3月号掲載)