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国土交通省下水道政策最前線/脱炭素社会の実現に向けて

おくはら たかし/昭和47年8月生まれ、大阪府出身。京都大学法学部卒業。平成8年建設省入省。24年(独) 水資源機構総務部総務課長、 25年東京都台東区都市づくり部長、27年国土交通省住宅局建築指導課建築業務監理室長、28年兵庫県県土整備部まちづくり局長、29年県土整備部住宅建築局長、30年県土整備部まちづくり部長、31年国土交通省大臣官房地方課長、令和2年7月不動産・建設経済局建設市場整備課長を経て、令和3年7月より現職。
おくはら たかし/昭和47年8月生まれ、大阪府出身。京都大学法学部卒業。平成8年建設省入省。24年(独) 水資源機構総務部総務課長、 25年東京都台東区都市づくり部長、27年国土交通省住宅局建築指導課建築業務監理室長、28年兵庫県県土整備部まちづくり局長、29年県土整備部住宅建築局長、30年県土整備部まちづくり部長、31年国土交通省大臣官房地方課長、令和2年7月不動産・建設経済局建設市場整備課長を経て、令和3年7月より現職。

われわれが社会生活を営む上で必要不可欠な生活インフラの一つである下水道。気候変動に伴う自然災害の頻発化・激甚化、そしてカーボンニュートラルや脱炭素社会の実現に向けてさまざまな分野で改革が進む中にあって下水道を取り巻く状況はどう変化しているのか。普段目にする機会の少ない下水道ではあるが、脱炭素社会の実現に向けて、あるいはエネルギー活用といった点から秘めているポテンシャルは決して小さなものではないという。改めて新しい時代に向けた下水道事業・政策の現状と課題、そして今後の展望について国土交通省下水道企画課の奥原課長に話を聞いた。

国土交通省水管理・国土保全局
下水道部下水道企画課長
奥原 崇氏

――頻発化・激甚化する自然災害への備え、環境対応やエネルギー政策の変換など社会構造が大きく変化する中にあって、重要な社会インフラの一つである下水道を取り巻く状況も変わってきています。改めて、下水道を取り巻く現状と課題についてお聞かせください。

奥原 下水道事業を取り巻く課題と現状についてですが、まず一つ目に挙げられるのは、気候変動に伴う大規模豪雨や大規模地震への備えになります。近年、時間降雨50mm以上の降雨が増加傾向にあり、また、大規模地震の発生確率も高まっていますので、防災・減災、国土強靱化の取り組み、気候変動を踏まえた都市浸水対策、地震・津波対策が重要になっています。

 二つ目が下水道事業経営の課題です。下水道は、公衆衛生の確保、雨水排除、公共用水域の水質保全といった、国民の暮らしと社会経済に不可欠なインフラですが、適切な整備はもちろん、むしろその後の維持管理が重要です。社会経済情勢の変化に即応しながら長期にわたり適切に事業経営する必要があります。一般に事業経営基盤として重要なものに〝ヒト〟〝モノ〟〝カネ〟があるといわれています。下水道でみると、〝ヒト〟は担い手になりますが、下水道の管理者である地方公共団体における下水道部門の職員数をみると、人口5万人未満の市町村では5人以下(約5割)となるなど、非常に脆弱な体制になっています。また〝モノ〟は、下水道の施設が該当します。例えば下水道管については、現在、総延長約48万kmのうち標準的な耐用年数である50年を経過している割合が約5%にあたる2・2万kmほどありますが、今後耐用年数を過ぎたものが急速に増加していくことになり、老朽化対策は喫緊の課題です。そして〝カネ〟についてです。現在、下水道に係る経費の回収率は平均で82・3%(平成30年度)、回収率100%以上は452団体と全国の1/4程度です。人口減少が進む中にあって回収率は厳しい状況が予想されますので、この点も非常に大きな課題といえます。

 こうした状況に対応するため、下水道事業の広域化・共同化やDX、官民連携(PPP/PFI事業)による経営基盤の強化に向けた取り組みを進めるとともに、下水道を支える技術開発、脱炭素をはじめとした下水汚泥の有効利用、下水道の国際展開にも取り組んでいるところです。

下水道ビジョン2100から新下水道ビジョン、そして脱炭素へ

――下水道事業を取り巻く課題解決に向けた政策として、これまでどういった取り組みを進めてきたのでしょうか。

奥原 2005年9月に策定された「下水道ビジョン2100」、および14年7月に策定された「新下水道ビジョン」を道筋として施策を展開しています。そこでは、下水道システムの集約・自立・供給拠点化とあわせて、下水道のポテンシャルを生かした多様な主体との連携を通じた食料、資源、エネルギー分野などの多様な分野への貢献拡大に向けた提言などが行われてきました。

 まず「下水道ビジョン2100」は、100年間という長期の将来像を見据え、〝循環のみち(地域の持続的な発展を支える21世紀型下水道)〟の実現を基本コンセプトに、「排除・処理」から「活用・再生」への転換、水循環健全化に向けた〝水のみち〟、将来の資源枯渇への対応や地球温暖化防止に貢献する〝資源のみち〟、そして新しい社会ニーズへの対応を支える持続的な施設機能の更新に向けた〝施設再生〟の実現を掲げています。

 そして「下水道ビジョン2100」の策定から約9年が経過し、その間の少子高齢化の進行、東日本大震災の発生や大規模災害発生リスクの増大、エネルギーの逼迫、インフラの老朽化、国・地方公共団体における行財政の逼迫などを踏まえ、14年に取りまとめられたのが「新下水道ビジョン」です。これは、基本コンセプトである〝循環のみち〟という方向性を堅持しつつ、長期ビジョンに循環のみちの「持続」と「進化」を二つの柱として位置付けるとともに、その実現に向けた今後10年程度の目標、および具体的な施策を示しています。これらのビジョンにおいては、既に脱炭素への貢献につながる提言も行われているところです。

――下水道政策として取り組む「脱炭素社会への貢献のあり方検討小委員会」では、どういった議論がなされているのでしょうか。

奥原 2050年カーボンニュートラルや気候危機への対応など、グリーン社会の実現に貢献するため、さまざまな取り組みが進められていますが、国土交通省においても、環境分野でのグリーン技術を含めた施策・プロジェクトとして「国土交通グリーンチャレンジ」が2021年7月に取りまとめられました。こうした動きを踏まえ、下水道施策の分野においてもカーボンニュートラルの実現に貢献し、地域の生活の安定・向上につなげることを目的に設置されたのが「脱炭素社会への貢献のあり方検討小委員会」です。

 委員会では、①人口減少等の下水道を取り巻く環境を踏まえた上で、脱炭素社会に貢献するための下水道の在り方(創エネ、再エネ、省エネ、N2O削減の基本的な考え方)はどのようにあるべきか。②脱炭素社会に貢献するための下水道事業における取り組みは、2030年及び2050年に向かってどのように進めていくべきか。③まちづくりや防災、他分野における取り組みとの連携など、下水道における創エネ・再エネの取り組みをより一層拡大するためにはどのような取り組みを行うべきなのか。④施設の老朽化が進む中、省エネやN2Oの排出削減を効率的に行うためにはどのような取り組みを行うべきなのか。⑤下水道におけるカーボンニュートラルの取り組みについて、本邦技術活用や他国との協力・連携など国際的にどのように貢献していくべきなのか。――といった五つの論点を中心に検討を進めています。メンバーには有識者や地方公共団体の下水道事業関係者に加え、環境省大臣官房環境計画課と農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課の方々にもオブザーバーとしてご協力いただいています。これまで全5回の小委員会のうち4回が開催されており、本年度中に取りまとめをいただきたいと思っています。